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育児不安を支える保育者の専門性

Ⅰ.保育者への役割期待と子育て支援

本研究では、育児不安と子育て支援に関して、保護者が示す保育者への役割期待(第2 章第1節)、役割期待からみた保護者の特徴(第2章第2節)、及び高い育児不安を抱える 保護者の現状(第2章第3節)という3つの視点から実証的に検討し、保育者の専門性に関 するいくつかの知見を得た。これらの知見は、育児不安と子育て支援に関する研究におい て、保護者が示す保育者への役割期待を力量の要素とした新たな視点である。以下では先 ず、第2章で得られた知見を総括する。

1.保護者が示す保育者への役割期待

第2章第1節では、保護者の育児不安と子育て支援に関わる保育者への役割期待との関 係を探究した。具体的には、園に子どもを預ける保護者を対象に、保護者の育児不安を、

育児状態(就労、趣味の時間等)、園への満足度、子育て支援に関わる保育者への役割期待 等との諸関係において検討した。

分析の結果、就労していない保護者は育児不安が高いこと、趣味の時間が短い保護者は 育児不安が高いこと、及び育児不安の高低にかかわらず、保護者の園への満足度が全般的 に高いことが明らかになった。また、保育者への役割期待の内容は

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項目で捉えること ができ、これらは「連携と個別支援」「家庭への援助・相談」「社会への発信・継承」の 3つの内容で整理し得ることが明らかとなった。さらに、育児不安が高い保護者は、保育 者への役割期待が高く、その内容では、特に「連携と個別支援」「社会への発信・継承」

において高いことも明らかとなった。それらのことを鑑みて、育児不安を抱える保護者は、

育児不安の程度によって保育者への役割期待の内容は異なることが示唆された。

ここで注目すべきは、育児不安が高い保護者が「社会への発信・継承」と言った、社会 へ向けた情報発信や子育て文化の基盤作りに関わる内容を期待していた点である。育児不 安が高い保護者は、保育者へ「社会への発信・継承」を求める程、社会的に孤立した子育

てを行っていることが窺えた。保護者にとって最も身近な専門職である保育者は、保護者 が示す保育者への役割期待を理解した上で、子育て支援を実施することが重要であると言 える。

2.役割期待からみた保護者の特徴

第2章第2節では、保護者の特徴を、保育者への役割期待の内容(「連携と個別支援」

「家庭への援助・相談」「社会への発信・継承」)に着目して、その特徴を解明した。具 体的には、園に子どもを預ける保護者を対象にした質問紙調査から、保育者への役割期待 の内容による保護者の類型化を試みた。また、保護者の育児不安を、園への満足度、子育 て支援に関わる保育者への役割期待との諸関係において検討した。

分析の結果、保育者への役割期待の低さを特徴とする3群(「社会低群」「やや低群」「全 低群」)、及び保育者への役割期待の高さを特徴とする2群(「やや高群」「全高群」)とす る5類型が見出された。5類型と諸要因との関係を検討した結果、全般的に保育者への役 割期待が高い類型の保護者は、育児不安が高い傾向にあった。また、全般的に保育者への 役割期待が高い類型の保護者は、園への満足度が高い傾向が示された。今回、典型的な類 型を同定できたことで、保育者への役割期待を捉え、保護者を理解する1つの手立てを得 たと言える。例えば、保護者の園への満足度が高ければ、保育者は保護者との信頼関係は 築き易い。この良好な関係を基盤に保育者は、優先度の高い子育て支援を進めていくこと が重要であると考えられた。

3.高い育児不安を抱える保護者の現状

第2章第3節では、海外に在住するとともに、子どもに発達障害がある日本人保護者に 焦点を当て、育児不安に関わる実証的な検討を加えた。具体的には、子どもに発達障害が ある米国在住日本人保護者を対象に、育児不安と就労との関係、園への満足度等を質問紙 調査から分析し、育児不安の様相を明示した。また一部、日本国在住日本人保護者との比 較検討も行った。

分析の結果、米国在住日本人保護者の方が日本国在住日本人保護者よりも、明らかに育 児不安が高く、就労していない保護者の方が就労している保護者よりも、育児不安が高く、

米国在住日本人保護者の方が日本国在住日本人保護者よりも、就労していない無職の割合 が高いことが明らかになった。また、米国在住日本人保護者と日本国在住日本人保護者は

1) 厚生労働省:『保育所保育指針〈平成29年告示〉』, 37頁,フレーベル館, 2017年.

2) 内閣府・文部科学省・厚生労働省:『幼保連携型認定こども園教育・保育要領解説』,.362 頁,.フレーベル館,.2018

年.

3) 内閣府:「子ども・子育て支援新制度なるほど BOOK 」,.http://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/event/publicity,.2016 年..(2017423日閲覧)

ともに、園への満足度は高かった。この理由は、米国においては、障害児教育が進んでい るためと考えられる。また日本国においては、待機児童の増加、保育者の不足、第2子出 産に伴う退園等の状況にありながらも園に通うことができている保護者の満足度の現れと 考えられる。さらに、米国在住日本人保護者は、育児不安の解消に心安らぐ居場所を求め、

「ランチの会」等での交流を通して、情報交換を行う等、自発的・相互扶助的な共同体を 形成していた。

米国在住日本人保護者の詳細な検討によって、当事者相互の自発的・積極的で1つの明 確な意図を持った共同体の在り方が示された。日本国の園には、育児不安に関して、保護 者の希望に応じて個別の支援を行うように努めることが明記されている(厚生労働省

,..

2017

1);内閣府・文部科学省・厚生労働省,..2018.2))。また、園には子育て相談や園庭開放 等の親子が集える居場所を積極的に提供すること、保育者には保護者が抱える育児不安を 共有し支援していくことが求められている(内閣府,..2016)3)

。現在の保育者に求められてい

ることは、保護者が何を園やそこで働く保育者に役割期待しているかを明確にすることで あると考えられる。

以上、育児不安と子育て支援に関して、本研究で得られた実証的な知見を総括した。こ れらの役割期待に関する知見は、これまでの育児不安と子育て支援に関する研究に見当た らない。以下では、この育児不安を抱える保護者から得られた役割期待に関する知見を踏 まえ、先行研究の知見を補完しながら、子育て支援に求められる保育者の専門性と力量形 成について検討する。

Ⅱ.保護者が示す保育者への役割期待からみた保育者の専門性

本研究での役割期待とは、保育者に対して、保護者からしかるべき役割の実行が要求さ れる時の期待のことであり、保護者の中に内在し、保護者の特徴の一部分を形成する。ま た、役割期待とは、子育て支援に関わる保育者への期待と、子育て支援実践とを結び付け

4) 関本昌秀:「役割期待のズレの研究―親子間の役割期待のズレについて―」,『慶応義塾大学大学院社会学研究 紀要』第5号, 19-29頁, 1965年.

5) 無藤隆:「家庭と園と地域における子育て支援」,.(無藤隆・安藤智子/編:『子育て支援の心理学』), 1-15頁, 有斐

閣, 2008年.

6) 安藤智子・荒巻美佐子・岩藤裕美・丹羽さがの・砂上史子・堀越紀香:「幼稚園児の母親の育児感情と抑うつ―

子育て支援利用との関係―」,日本保育学会誌『保育学研究』第46巻第2号, 235-244頁, 2008年.

7) 坂爪一幸:「発達障害の増加と懸念される原因についての一考察―診断,.社会受容,.あるいは胎児環境の変化?―」,

『早稲田大学早稲田教育評論』第26巻第1号, 21-32頁, 2012年.

る媒介概念であると考えられる(関本昌秀,..1965)4)。つまり保育者への役割期待は、保育 者がどのような子育て支援を実践するかについての条件を特定することにもなる。そのた め、第2章では、日本国在住日本人保護者

772

名が示す保育者への役割期待、及び米国在 住日本人保護者

58

名と日本国在住日本人保護者

338

名の育児不安の現状を集約している。

保育者への役割期待の内容に整合性がある適切な子育て支援が実践された時、保護者の育 児不安の軽減や園への満足度に繋がる可能性がある。第2章で得られた保育者の専門性を 包括的に整理すると、以下の3点を挙げることができる。

1.関係機関との連携に必要なコーディネーターとしての専門性

第1に、子育て支援に関わる保育者の専門性は、関係機関との連携である。第2章第1 節では、保護者が困難な問題解決に向けて関連機関とともに支援してくれるコーディネー ターのような役割を保育者に期待していることが示唆された。また、第2章第3節では、

海外に在住するとともに、子どもに発達障害がある、いわば二重の子育て困難を抱えた家 庭を対象とした実証的研究を通して、高い育児不安を抱えた保護者への支援について考察 した。この米国在住日本人保護者の希有なデータから、保育者による保護者と地域の共同 体とを結ぶコーディネーターとしての役割の必要性が示唆された。これらは、「保育者が いかなる限界があるかを心得て、支援する側(保育者)ができる範囲で努力し、それを越え たところでは他の専門家の助力を得ること」とする無藤隆(2008)の指摘 5)とも一致する。

さらに、子育て支援に関する保育者の専門性として、第1章第1節で既に示した通り、安 藤智子ら(2008)が心理の専門家と連携することの必要性を報告している6)

我が国では、1996(平成8)年頃から、発達障害がある子どもの数が増加傾向にあるとさ れ、その原因として、連続性(スペクトラム性)という見方に伴う診断基準の変化、発達障 害の知識が普及したことに伴う社会的な受容の変化、及び低出生体重児の増加にみられる 胎児環境の変化が指摘されている(坂爪一幸,..2012)7)。卒園後について、文部科学省(2018)