Ⅰ.子育て支援を促す支援プログラムの開発と実施
第3章では、支援プログラムの開発と試行(第3章第1節)、子育て支援を促す支援プログ ラムの実施とその効果(第3章第2節)、及び支援プログラムの効果と関連要因からみた保育 者の特徴(第3章第3節)という3つの視点から検討し、支援プログラムによる効果とその 改善点を明らかにした。これらの知見は、支援プログラムが子育て支援を担う現職保育者 に力量形成の契機と成り得た点で意義がある。以下では先ず、第3章で得られた知見を総 括する。
1.支援プログラムの開発と試行
第3章第1節では、認知行動論的技法とリフレクションに基づき、子育て支援を担う現 職保育者への支援プログラムを開発した。開発に当たり、子育て支援に関わる目標を設定 することによって、その先に得られるであろう保育者効力感の向上、及び保育者への役割 期待の理解を促すことを目指した。
本支援プログラムは、主に、役割期待の理解とリフレクションによる行動目標の設定か ら成る
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分の研修、及び毎日1分間の自己マネジメント(1か月間)から構成されている。支援プログラムの特徴の1つは、現代の保護者が示す保育者への役割期待を明示したこと にある。これによって、保育者は、役割期待の内容を理解し、保育者への役割期待との適 合性が高い支援を提供できるようになると推察された。
支援プログラムを試行し、その効果を検討した結果、支援プログラムに参加した保育者 は、研修後の方が実施前よりも、保育者への役割期待の理解は確実に高まっていた。支援 プログラムによって、子育て支援に繋がる行動目標を考えることで、保育者への役割期待 の理解が深まったと考えられた。また保育者は、日々の保育から少し距離をおき、リフレ クションによって、これまでの自らの体験の中から、成功経験と呼べるものを想起し、保 育者効力感を高める手立てに気付くことができた。さらに保育者は、取組易いように工夫
1) 西山修:『保育者の効力感と自我同一性の形成―領域「人間関係」について―』, 185-232頁,風間書房, 2009年.
された冊子に記入し、その後の行動目標を考える要点を掴むことができた。これらのこと から、第3章第1節では、支援プログラムにより、保育者効力感を高める有効な手立てを 得たと言える。
一方、熟練保育者であっても、子育て支援の実践に苦慮していることが分かった。また、
実施前から保育者効力感の高い熟練保育者や、保育経験1年目の新任保育者の場合、支援 プログラムの効果があまりみられなかった。これらの結果については、支援プログラムを 扱った先行研究(e.g.,.西山修,..2009)1)が僅少であるため、更なる実証的研究の蓄積が必要 不可欠となった。
2.子育て支援を促す支援プログラムの実施とその効果
第3章第2節では、支援プログラムを実施し、その効果を検討した。具体的には、90 分の研修と毎日1分間の自己マネジメントによって、保育者効力感等に効果がもたらされ るのか、統制群との短期縦断的な比較を行い、多面的に検討した。検討に当たり、6つの 観点(保育者効力感、役割期待の理解、理解度、保育の充実度、遂行への自信、及び自己評 価)から成る調査用紙を作成し、質問紙調査を実施した。
分析の結果、実験群の方が統制群よりも、保育者効力感に明らかな向上がみられ、支援 プログラムが保育者効力感の向上に正の影響を及ぼすことが示された。また、支援プログ ラムによる効果の現れる時期が異なることが示された。その効果の現れる時期は、保育者 効力感が実施後(研修から1か月後)、遂行への自信が追跡(研修から2か月後)であった。
さらに、実験群の方が統制群よりも、有意傾向ながら遂行への自信に向上がみられた。こ れについては、別の分析方法による精査が必要と考えられるが、支援プログラムを通して 保育者は、役割期待の内容を理解し、自他の成功経験を想起し、保育者への役割期待と整 合性のある子育て支援を考え、実行することができたと言える。このことが、保育の見通 しを持って子育て支援の実践を行っていく遂行への自信に繋がったと考えられる。
一方、諸変数の標準偏差を確認したところ、実験群の理解度、保育の充実度、及び遂行 への自信は、実施後の方が実施前よりも、分散が大きくなっていることが確認された。こ のことから、実験群の保育者の中に、変化の様相の異なる保育者がいることが示唆された。
そこで次では、この現状を等閑視するのではなく、支援プログラムの効果の違いを、個人
差から詳細に分析することとした。
3.支援プログラムの効果と関連要因からみた保育者の特徴
第3章第3節では、支援プログラムに対する効果が保育者によって異なる要因を、第3 章第2節とは違う分析方法で、8つの観点(保育者効力感、役割期待の理解、理解度、保育 の充実度、遂行への自信、自己評価、満足度、及び結果の予期)と自由記述から検討した。
具体的には、Ward法による階層的クラスタ分析により、子育て支援に関わる保育者の類 型化を試みた。また、支援プログラム実施による保育者効力感等への効果の違いを、保育 者の個人差要因から詳細に検討した。さらに、文章完成法による力量形成、及び実施後の 感想を活用して保育者の視点も加え、子育て支援に関わる保育者の力量形成に有効な支援 プログラムの在り方について精査し検討した。
その結果、保育者の2つの類型(上昇・維持群、急上昇・下降群)が見出された。2つの 類型と諸変数との関係を検討した結果、急上昇・下降群の方が上昇・維持群よりも、実施 前の保育者効力感が低く、実施前の役割期待の理解も低いという個人差要因が確認された。
ただし、中堅保育者(6~
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年の保育経験者)は、類型にかかわらず、周囲からの役割期 待の重圧や仕事と家庭の調和等の要因により、支援プログラムの効果が分かれた。また、支援プログラムによる「効果の現れる時期」が異なることが分かった。この時期は、保育 者効力感及び理解度が実施後、保育の充実度、遂行への自信、及び自己評価が追跡と考え られた。
子育て支援を担う保育者を類型化できたことは、今後の支援プログラムによる力量形成 のより良い提供の在り方に関係する。これらの結果に注目することは、保育者の類型に応 じ、有効な時期に有効な支援ができることに繋がる。なぜなら支援プログラムは、保育者 の力量形成の契機となり、子育て支援に関わる保育者の専門性の向上が期待できるからで ある。
以上、支援プログラムの開発と適用に関して、第3章で得られた実証的な知見を総括し た。支援プログラムでは、保育者が自他の成功経験から行動目標を設定し、日々の保育を 肯定的にマネジメントし、保育者効力感の向上を目指した。支援プログラムは、行動目標 を設定することが1つの鍵であると言える。保育者による実施後の感想には、「目標を立て て良い保育ができると感じる」「振り返りにより明日への行動目標を考える機会になる」
「今回の支援プログラムのように、少しずつ目標を立てて行っていきたい」等、目標設定
2) Bandura, A..&.Locke, E.A.(2003): Negative self-efficacy and goal effects revisited.Journal of Applied Psychology, 88(1), pp.87-99, American Psychological Association, Washington, D.C.
に関する記述が多数を占めた。A..Bandura.&.E.A..Locke(2003)は、目標を設定するとさら に高い目標を設定して、新たな目標との乖離を克服しようとすることを示している2)。行動 目標を設定することによって、保育者は、「できそうだ」という見通しと自信を持って子育 て支援を担う力量を促進することができたと言える。
Ⅱ.支援プログラムを介した保育者の力量形成
本研究では、子育て支援を促す支援プログラムを検証することにより、保育者の力量形 成のための効果と改善点があることを把握することができた。以下では、子育て支援に求 められる保育者の専門性と支援プログラムの実施における知見を踏まえ、「支援プログラ ムを介した保育者の力量形成の過程」及び「支援プログラムによる保育者効力感向上のメ カニズム」のモデルを提案し、保育者の自由記述から、支援プログラムが保育者の力量形 成の契機になったかどうかを検討する。
1.子育て支援に求められる保育者の専門性の可視化
子育て支援における実証的な研究は十分ではなく、子育て支援に関わる保育者の専門性 については、まだ標準化されていない。このような状況下、本研究では、第1章第2節に おいて、子育て支援に関わる保育者の専門性を、「子育てに関わる保護者理解を踏まえ、保 護者の相談に応答することのできる援助力と、必要に応じて関係機関と連携する力」と暫 定的に定義付けた。
保護者が示す保育者への役割期待に関する検証を整理すると、第2章第1節においては、
困難な課題解決に向けて関連機関とともに支援してくれるコーディネーターとしての役割 が保育者に求められていると捉えることができた。また、第2章第3節においても、保護 者と地域の共同体とを結ぶコーディネーターとしての役割が保育者に求められていると捉 えることができた。ここで明らかになった保育者への役割期待の内容である「連携と個別 支援」「家庭への援助・相談」「社会への発信・継承」の3つは、今後も保育者に求められ る子育て支援の専門性を表す項目でもあり、力量形成の要素であると言える。
これらを受けて第4章第1節においては、育児不安を抱える保護者への保育者の専門性