Ⅰ.個人差に応じた支援プログラムへの検討
本節の目的は、支援プログラムに参加した保育者の特徴を、保育者効力感の変化に基づ いた保育者の類型により明示するとともに、支援プログラムをより個人差に応じた適用範 囲の広いプログラムにするためには、どのように改善することが望ましいか、検討を試み ることである。具体的には、短期縦断的に捉えた保育者効力感の変化を
Ward
法による階 層的クラスタ分析を用い、保育者の類型化を試みる。その上で、統制群との比較により、支援プログラムに参加した保育者の特徴を記述し検証する。保育者の類型を理解すること によって、個人差に応じた支援プログラムの改善や実施の適正化を図ることが可能になる であろう。また、支援プログラムによる保育者効力感等の変化のメカニズムを解明する手 がかりを得ることになろう。
A. ..Bandura(1977)は、ある行動を遂行することができると自分の可能性を確信する自己
効力感が高いほど、実際にその行動を遂行できる傾向があると論じている1)。自己効力感 が高いことは、自己の遂行を高く評価する傾向にあるだけでなく、多くの努力を払い、嫌 悪的な状況にも長く耐えることができる(坂野雄二・東條光彦,..1986)2)。そのため、教育 や臨床心理の現場において、ストレス軽減に繋がるストレスの認知的評価に介入する、自 己効力感の活用が注目されている(坂野雄二,..2002)3)。子育て支援を担う保育者がストレ スを感じている現状が存在する今(諏訪きぬ,..2014)4)、保育者効力感の向上に寄与する支援 プログラムの開発は、子育て支援に関わる保育者のストレス軽減や、保育者として働き続
ける自信に繋がるであろう。
前節では、保育者効力感の向上を目的とする支援プログラムを実施した。その結果、支 援プログラムに参加した保育者の効力感の得点は、実験群の方が統制群よりも、実施前よ り実施後にかけて上昇し、追跡においても維持された。このことから、支援プログラム実 施が保育者効力感の上昇に一定の効果があることが明らかになった。また、支援プログラ ムに関わる諸変数への効果は、現れる時期に違いがあることが示唆された。さらに、保育 の充実度や自己評価においては、実験群の得点に上昇はみられたものの、統制群と比較し て有意差はなかった。加えて、理解度、保育の充実度、及び遂行への自信において、標準 偏差が比較的大きいことが確認された。このことから、実験群の中に変化パターンの異な る群が含まれている可能性が示唆された。支援プログラムがどのような特徴の保育者に効 果があるのか、別の分析により検討することが課題として残った。
そこで本節では、Ward 法による階層的クラスタ分析を用い、子育て支援に関わる保育 者の類型化を試みる。また、支援プログラム実施による保育者効力感等への効果の違いを、
保育者の個人差から詳細に検討する。さらに、文章完成法による力量形成と実施後の感想 を活用して保育者の視点も加え、子育て支援に関わる保育者の力量形成に有効な支援プロ グラムの在り方について精査し検討する。
Ⅱ.方法
1. 対象と時期
対象の実験群は、近畿圏の園(私立幼稚園3園・私立保育所3園)で働く現職保育者
28
名(男性1名、女性27
名;新任保育者16
名、中堅保育者8名、熟練保育者4名)であった。実験群に対して、支援プログラム実施前・研修後・実施後(研修から1か月後)・追跡(研 修から2か月後)の計4回の質問紙調査を実施した。また、匿名性を保持するため、回答 は無記名とした。ただし、短期縦断的なデータとして分析するため、予め調査用紙には整 理番号を付け、回答後に無地の封筒の中に入れるように求め回収した。実施後と追跡にお いては、留置法で回収した。
統制群は、支援プログラムに参加していない近畿圏の園(私立幼稚園2園・私立保育所 4園)で働く現職保育者である。研修の実施時期に合わせ、統制群に対して、支援プログ ラム実施前・実施後・追跡の計3回の質問紙調査を実施した。3回全てに回答のあった
47
5) 三木知子・桜井茂男:「保育専攻短大生の保育者効力感に及ぼす教育実習の影響」,.日本教育心理学会誌『教育心 理学研究』第46巻第2号, 203-211頁, 1998年.
6) 大森弘子:「育児不安を抱える保護者が示す保育者への役割期待」,.日本応用教育心理学会誌『応用教育心理学研 究』第33巻第2号, 15-26頁, 2017年.
名の保育者(男性1名・女性
46
名)の中からマッチングにより、28 名(男性1名、女性27
名;新任保育者16
名、中堅保育者8名、熟練保育者4名)を選出した。実験群及び統制群の調査時期はともに、2017年8月から
2017
年12
月であった。2. 内容
本節では、前節のデータを別の視点から再検討する。したがって調査用紙の内容は、8 変数と自由記述から成る。
[1]保育者効力感:三木知子・桜井茂男(1998)による保育者効力感を測定する尺度5)の
10
項目から成る。回答は「ほとんどそうは思わない」「あまりそうは思わない」「どちら ともいえない」「ややそう思う」「非常にそう思う」の5段階評定(1~5点)で得点化した。[2]役割期待の理解:大森弘子(2017)による「保育者への役割期待の内容」6)の
13
項目 3因子から成る。回答は「全くそうは思わない」「あまりそうは思わない」「どちらとも いえない」「少しそう思う」「非常にそう思う」の5段階評定(1~5点)で得点化した。[3]支援プログラム実施による保育者の変化や心理状態:保育者の変化や心理状態を多 面的な視点で捉え直すため次の4項目を設定した。具体的には、「(子育て支援に関わる 保育者への役割期待の)理解度」「(現在の)保育の充実度」「(見通しを持って子育て支援 の業務を行っていく)遂行への自信」「(子育て支援に関わる保育者としての力量の)自己 評価」の4項目を設定し、0~
100
点で得点化を求めた。[4]支援プログラムの効果を現職保育者の視点から検討するため、「(子育て支援に関 わる保育によい変化が得られると思う)結果の予期」と「(支援プログラムへの)満足度」
の2項目を設定し、0~
100
点で得点化を求めた。[5]文章完成法を援用した自由記述により力量形成に関する回答を求めた。具体的に、
「保育者が子育て支援に関わる力をつけるためには」という短文を保育者に提示し、後に 続く未完成の後半の文章を自由に連想し、回答欄に記入を求めた。神村栄一(1999)による と、文章完成法は、比較的浅い前意識段階を把握できる投影テストとして位置付けられて
7) 神村栄一:「文章完成法」, (中島義明・安藤清志・子安増生・坂野雄二・繁桝算男・立花政夫・箱田裕司/編:『心 理学事典』), 773頁,有斐閣, 1999年.
8) 一般社団法人日本保育学会倫理綱領ガイドブック編集委員会/編:『保育学研究倫理ガイドブック』,.フレーベル館.
1-96頁, 2008年.
9) 西山修:『保育者の効力感と自我同一性の形成―領域「人間関係」について―』, 216-232頁,風間書房, 2009年.
いる7)。
[6]調査用紙の最後に自由記述欄を設け、支援プログラムの感想、意見、及び改善点の 記述を求めた。
対象の保育者には、データは全て統計的に処理し、個人を特定することはないことを伝 え、同意を得た上で調査を実施した。調査実施に関わる配慮等は、日本保育学会(2008)の 倫理基準 8)に準じた。また予め、佛教大学「人を対象とする研究計画等審査」倫理審査委 員会の承認(H29-21)を受けて実施している。分析には、SPSS Statistics 24.0Jを用いた。
Ⅲ.結果と考察
1.保育者効力感による保育者の類型とその特徴
保育者効力感の変化による類型を分析するために、先ず、西山修(2009)による効果に基 づく参加保育者の樹形図9)を参考にし、実施後の保育者効力感の得点と実施前の保育者 効力感の差「実施効果得点」、及び追跡の得点と実施後の保育者効力感の得点の差「持続 効果得点」を算出した。これら2つの得点を用いて、Ward 法による階層的クラスタ分析 を行った。その結果、2つのクラスタが最も解釈可能であると認められた。図1の樹形図 に示した通り、明確な2つのクラスタに分離され、基本的な類型を示すと考えられる。
次に、支援プログラムに参加した保育者の類型によって、保育者効力感に差があるかど うかを確認するため、独立変数を群(第1クラスタ、第2クラスタ、統制群)×時期(実施 前、実施後、追跡)とする混合計画の2要因分散分析を行った。その結果、群×時期の交互 作用が有意であった(F(2.85,75.45)
=19.09,..p<.001)。群要因の主効果は有意ではなく(F
(2,53)=1.42, n.s.)、時期要因の主効果が有意であった(F
(1.42,75.45)=24.72,..p<.001)。時期要因の各水準にお
ける群要因の単純主効果の検定を行った結果、実施前において単純主効果が有意であった(F(2,53)
=6.32,..p<.01)。Bonferroni
法を用いた多重比較を行った結果、実施前の第1クラスタと統制群は、第2クラスタよりも保育者効力感の平均点が有意に高かった(p<.05)。
表1には、群別・時期別にみた保育者効力感等の得点の平均値及び標準偏差を示した(表 1には、後述するクラスタ名、統制群も併記)。以下、各クラスタについて、保育者の特 徴等を述べる。
第1クラスタは、図1左部で示した保育者4から保育者3までの
18
名(新任保育者10
名、中堅保育者4名、熟練保育者4名)である。この群は、保育者の年齢の平均が31.78(標
準偏差
12.58)と比較的高く分散も大きい。また、保育経験年数が 9.50(標準偏差 10.58)と
比較的長く分散も大きい。このことから、幅の広い年齢と保育経験年数の保育者を含むと 考えられる。この群は、実施前の保育者効力感の平均値が第2クラスタよりも高く、実施
前
33.72
→研修後34.44
→実施後34.44
→追跡35.73
と緩やかではあるが確実な上昇を示した。分かり易さのために図2には、第1クラスタの保育者効力感の変化を図示した。例外 はあるが、この群には、支援プログラムによる保育者効力感への確実な効果がみられる。
また、実施前の保育者効力感が高いにもかかわらず、実施後に上昇がみられる。さらにこ の群は、実施前の自己評価の平均値が
50.56(標準偏差 18.62)とかなり高い。この群の保育
図1.保育者効力感の変化による参加保育者の樹形図 注) Ward法による..図中の数字はクラスタ間距離の大きさを示す.
保育者12 保育者26 保育者3 保育者18 保育者25 保育者2 保育者13 保育者7 保育者14 保育者16 保育者23 保育者19 保育者24 保育者22 保育者1 保育者28 保育者6 保育者5 保育者9 保育者20 保育者11 保育者15 保育者10 保育者27
25
保育者4 保育者21 保育者17
15 20
保育者8
0 5 10
従属変数 実施前 研修後 実施後 追跡 保育者効力感
役割期待の理解
理解度
保育の充実度
遂行への自信
自己評価
結果の予期
満足度
34.21(13.85) 24.67(14.85) 33.50(16.25) 41.89(19.33) 35.33(19.53) 40.71(17.37) 53.68(14.99) 47.22(17.52) 49.82(21.28) 64.47(15.98) 48.33(11.73) 60.71(20.85) 51.84(16.35) 40.78(19.44) 44.64(20.81) 47.89(19.32) 39.44(19.11) 44.46(20.61)
- -
-
- -
-
34.58(14.21) 29.67(14.72)
- 41.74(17.13) 40.00(14.87)
- 58.42(15.90) 61.11(16.16)
-
- -
- 56.84(18.87) 49.44(12.86)
- 48.16(17.97) 42.78(13.49)
- 77.89(11.94) 76.11(19.28)
- 79.74(12.53) 76.11(16.97)
-
35.47(14.70) 32.11(14.89) 32.71(16.30) 42.84(17.76) 40.11(16.15) 40.14(17.16) 57.37(17.98) 62.78(18.22) 48.93(19.07) 67.11(18.28) 64.44(20.68) 60.89(18.01) 54.47(19.92) 54.44(17.40) 43.57(19.05) 53.16(19.31) 47.78(18.33) 45.36(20.50) 74.21(11.46) 71.67(17.32)
- 71.58(11.79) 70.56(14.67)
-
35.47(14.90) 32.11(16.05) 33.11(16.62) 43.47(16.87) 39.67(17.58) 39.93(18.93) 59.74(16.71) 56.67(20.00) 50.54(18.92) 68.63(18.56) 66.67(23.98) 60.00(18.51) 59.74(12.85) 52.78(19.22) 48.21(14.92) 52.89(16.89) 51.11(18.50) 46.96(19.21) 77.11(19.18) 71.11(12.69)
- 74.74(14.67) 67.22(13.02)
-
者は、何事にも果敢に挑戦しようと思い、支援プログラムに参加した可能性が高い。加え て追跡においても、保育者
10、保育者 11、保育者 27
の3名以外の保育者には確実な上昇 がみられる。ただし、保育者8、保育者10、保育者 27
の保育者効力感は、実施前と実施 後を比較して緩やかな下降がみられる。この群は、図1左部で示した保育者4から保育者5までの9名(新任保育者4名、中堅 保育者2名、熟練保育者3名)と、保育者9から保育者3までの9名(新任保育者6名、中 堅保育者2名、熟練保育者1名)に二分できる。特に、保育者4から保育者5までの9名 は、追跡においても保育者効力感の上昇がみられ、支援プログラムにより、日々の振り返 りが習慣化された可能性が高い群であると言える。これらのことから、第1クラスタを「上 昇・維持群」と命名した。
注) 上段:上昇・維持群(n=18),中段:急上昇・下降群(n=10),下段:統制群(n=28).
表1.群別・時期別にみた保育者効力等の平均値及び標準偏差