第 2 節 vigiGrade を用いた JADER の質評価
1. 方法
1.1 データソース
本研究では2004年4月から2018年11月までの副作用報告を含むJADER201903デ ータセットを使用した。JADERは前項で述べた通りICH E2B-M2(R3)に基づいた報告 様式となっており、①症例一覧テーブル(demo)(561,122件); ②医薬品情報テーブル
(drug) (3,390,826件); ③副作用情報テーブル(reac)(887,636件); ④原疾患テー ブル(hist)(1,156,673件)の4つのテーブルから構成されている。
1.2 除外基準
本研究において、(1)自発報告ではない報告(例: 試験報告など非自発的な情報源に 基づく報告、その他、不明)、(2)PMDAまたは製薬企業による詳細調査が完了してい ない(報告の状態が「調査中」の)報告、(3)被疑薬が1つも含まれない報告(薬物間 相互作用のみ)は解析対象から除外した。詳細調査が完了していない報告は、医薬品と 有害事象の因果関係評価に必要な項目や副作用好発時期の解析に必要な項目などが今 後追加される可能性があるため、(2)を除外基準に加えた(Figure 10)。
1.3 vigiGrade completeness score
JADER に含まれる副作用報告の質を評価するために、本研究では WHO Uppsala
Monitoring Centreにより提唱されたvigiGrade completeness score18) を使用した。vigiGrade
completeness scoreは副作用報告に含まれる複数の項目の充足度を、後述する計算式に基
づき計算したものであり、評価の対象となる項目は①time-to-onset(被疑薬開始から副 作用発現までの期間)、②被疑薬の使用理由、③副作用の転帰、④患者の性別、⑤患者 の年齢、⑥被疑薬の投与量、⑦報告元の国、⑧第一報告者、⑨報告の種類、⑩報告者意
35
見、の10項目である。これらの項目にTable 4に示すような独自の重みづけとペナルテ ィの設定が行われており、各項目のスコアは情報が欠損していれば0、粒度の高い情報 が存在すれば1として、0~1の間の値を取る。例えば、ある項目の情報が過不足なく存 在すればペナルティは0で、その項目のスコアは1となる。情報が欠損していた場合の ペナルティの設定は、因果関係評価を行うために必要不可欠なtime-to-onsetは最大50%、
因果関係評価を行うために重要な被疑薬の使用理由、副作用の転帰、性別、年齢などの
項目は30%、被疑薬の投与量や報告元の国、報告者、報告の種類、報告者意見などの補
助的な情報を含む項目は 10%とされており、本研究もそれに従った。被疑薬-副作用の 組み合わせのvigiGrade completeness score を算出する計算式は以下の通りであり、0.07 から1.0の間の値をとる。
Completeness score =∏10𝑖=1(1 − 𝑃𝑖) = (1 − 𝑃1) … (1 − 𝑃10) 18),
注:Pi はTable 4に示すように、項目iに対するペナルティの数値である。
vigiGrade completeness scoreの算出に必要な項目は全てJADERに含まれているものを使 用した。Time-to-onsetは、被疑薬の使用開始日と副作用の発症日から算出し、vigiGrade completeness scoreの算出に用いた(Figure 11)。
本 研 究 に お い て は 、 評 価 項 目 や ペ ナ ル テ ィ の 一 部 を オ リ ジ ナ ル の vigiGrade completeness scoreから改変して用いた(Table 5)。JADERでは、個人情報保護の観点か ら患者の年齢は年齢層(10代、20代、30代など)または世代(高齢者、新生児、小児 など)を用いて記載されており、患者年齢の項目の評価にあたっては、年齢が世代を用 いて記載されている場合は10%のペナルティ(0.9を乗算)を、年齢層を用いて記載さ れている場合はペナルティなし(1.0 を乗算)と設定した。また、本研究の解析対象で ある自発報告はすべて日本国内からの報告であり、報告元の国については評価の対象外 とした。また、医療機関から PMDA に副作用報告を行う際のフォーマットには報告者 の意見を自由記載する欄があるが、その内容はJADERには反映されていない。そのた
36
め、報告者意見についても評価の対象外とした。従って、本研究における各副作用報告 の vigiGrade completeness score は最大で 1.0、最小で 1×0.5×0.74×0.93 = 0.088 となる。
WHO Uppsala Monitoring Centreによる先行研究では、vigiGrade completeness score>0.8を
‘well-documented report’と定義している 18)。本研究においては、報告元の国と報告者意
見について評価の対象外としているが、いずれも補助的な情報(10%ペナルティ)とい う扱いであり、先行研究と同様に、‘well-documented report’は vigiGrade completeness score>0.8であると定義した。また、‘well-documented report’の割合の年次推移を、報告 者の職種と報告の種類で分類し、解析を行った。いずれの統計検定も、p<0.05を有意と し、すべての解析にはSAS version 9.4(SAS Institute Inc.,Cary,NC,USA)を用いた。
37
Figure 10. 解析対象
38
Table 4. vigiGrade completeness scoreの評価項目とペナルティ(文献18より作成)
項目 説明 検討事項 ペナルティ[%]
Time-to-onset 被疑薬使用から副作用発現までの期間 被疑薬の使用開始と副作用発現との時間的前後関
係が不明な場合はペナルティ50%
被疑薬の使用開始と副作用発現との間隔が±1ヶ月 以上の場合はペナルティ30%
それ以外は10%(Figure 9 参照)
50
30 10 被疑薬の使用理由 被疑薬を何の治療のために用いていたか 情報が欠損、または標準化された病名(ICDや
MedDRAなど)で記載されていない場合
30
転帰 副作用症状の転帰 30
性別 患者の性別 「不明」は欠損として扱う 30
年齢 副作用発現時の患者の年齢 世代(高齢者、小児など)のみの場合はペナルテ ィ10%
30 10
投与量 医薬品の投与量 10
報告元の国 報告元の国名 診療行為の内容や、副作用報告制度は国によって 異なるため評価対象として設定
10
第一報告者 報告者の職種 副作用報告の内容や解釈は報告者の職種によって 異なるため評価対象として設定
10
報告の種類 報告の種類(自発報告、試験報告、他) 「不明」は欠損として扱うが、「その他」はペナル ティを課さない
10
報告者意見 自由記載による報告者の意見 情報に乏しい断片的なテキストなどは除外する 10
*ICD: International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems
39
Figure 11. Time-to-onsetの算出方法とペナルティ(文献13より作成)
TTO: time-to-onset
40
Table 5. 本研究で用いたvigiGrade completeness scoreの評価項目とペナルティ(文献18より改変)
項目 説明 検討事項 ペナルティ[%]
Time-to-onset 被疑薬使用から副作用発現までの期間 被疑薬の使用開始と副作用発現との時間的前後関
係が不明な場合はペナルティ50%
被疑薬の使用開始と副作用発現との間隔が±1ヶ月 以上の場合はペナルティ30%
それ以外は10%(Figure 9 参照)
50
30 10 被疑薬の使用理由 被疑薬を何の治療のために用いていたか 情報が欠損、または標準化された病名(ICDや
MedDRAなど)で記載されていない場合
30
転帰 副作用症状の転帰 30
性別 患者の性別 「不明」は欠損として扱う 30
年齢 副作用発現時の患者の年齢 世代(高齢者、小児など)による記載の場合はペ ナルティ10%
年齢層(10代、20代、30代など)を用いた記載に はペナルティなし
30 10
投与量 医薬品の投与量 10
報告元の国 報告元の国名 JADERはすべて国内報告であり、除外 0 第一報告者 報告者の職種 副作用報告の内容や解釈は報告者の職種によって
異なるため評価対象として設定
10
報告の種類 報告の種類(自発報告、試験報告、他) 「不明」は欠損として扱うが、「その他」はペナル ティを課さない
10
報告者意見 自由記載による報告者の意見 JADERには自由記載内容は含まれておらず、除外 0
*ICD: International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems
41