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第 2 節 vigiGrade を用いた JADER の質評価

3. 考察

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当局により義務付けられており、このように限られた時間のなかで副作用報告を行うこ とが副作用症例に関する詳細情報の不足や副作用報告の質の低さに関連している可能 性が示唆される。また、JADER における企業報告は、医療現場から企業への直接報告 や市販直後調査などのほか、論文や学会発表、インターネットなど、情報源が非常に多 岐に渡っているという特徴がある。これらの情報源のうち、論文や学会発表、インター ネットなどの情報源をもとにした副作用報告では、症例の詳細情報が必ずしも手に入ら ない場合もあり、不十分な情報のみで報告が構成されていることも、企業報告の質の低 さと関連していることが考えられる。WHOによる先行研究では、‘well-documented report’

の割合が多い国では、副作用報告に含まれる情報が不十分であった場合に、地域または 国の規制当局や医薬品安全性監視に関わる機関が、医療関係者や患者に連絡を取って詳 細情報を得ているとの報告もあり 18)、規制当局などによる詳細調査の実施が副作用報 告の質と強く関連していることが推察される。本邦においても、PMDAに報告された副 作用のうち、重篤または重要なものについては医療機関に対し詳細調査を行うことがあ り、その副作用報告は医療機関報告として JADER に格納されている。このことが、

JADER における医療機関報告の質が企業報告のそれよりも高く維持されている理由の

一つであると考えられる。さらに、米国薬物安全使用協会(Institute for Safe Medication

Practices)の研究者らによる研究では 49)、米国の有害事象自発報告システムである

FAERSに含まれる 2014年の報告について、96.6%が製薬企業からの報告であり、その

うち49.4%が患者の年齢、性別、有害事象の発現日など最低限の情報を含んでいた一方

で、消費者や医療従事者から FDA に直接報告された報告では、85%がこれらの情報を 含んでいた。製薬企業からの報告のうち36%で患者の年齢が含まれておらず、44%で有 害事象の発現日の情報が含まれていないという結果が報告された。副作用報告制度が異 なる米国においても、本研究結果と同様に、企業からの副作用報告と比較し、医療機関 からの直接報告の質が高いことが示唆される。

54 3.2 項目欠損の状況

‘Well-documented report’には、その定義から副作用シグナルの検出や、被疑薬と副作 用の因果関係評価を行う際に必要な情報が過不足なく含まれていると考えられる。被疑 薬の使用開始から副作用発現までの期間(time-to-onset)は、医療機関報告の85.1%、企 業報告の 58.8%で算出可能であった(Table 6)。“Time-to-onset” は副作用シグナル検出 において重要な要素の一つである50) 。JADERにおいて、医療機関報告は企業報告と比 較して被疑薬の使用開始日や終了日、副作用の発現日などに関するより詳細な情報を含 んでおり、医療機関報告は副作用シグナル検出の際に情報源として用いるのに適してい ることが示唆される。一方で、JADER における医療機関報告の件数は少なく、規制当 局は医薬関係者に対し副作用報告の推進を呼びかけている。前節で述べたように、本邦 において、2018年には「医薬関係者の副作用報告ガイダンス骨子」32)が発出され、さら に2019年には「副作用の重篤度・重症度分類基準案」「医薬関係者が報告すべき副作用 情報の基準案」が発出される予定であり、医薬関係者に対し、規制当局への副作用の報 告をこれまで以上に促すものとなっている。

3.3 ‘Well-documented report’ の特徴

‘Well-documented report’と‘not well-documented report’とを比較すると、その基礎属 性に違いがあることが明らかとなった。Table 7に示す通り、 ‘well-documented report’

では試験報告、調査完了の報告の割合が多く、医師・薬剤師以外の職種からの報告が少な かった。試験報告は前述した通り、依頼に基づく非自発的な情報源からの報告であり、使 用成績調査や特定使用成績調査、市販後臨床試験など、副作用報告を系統的に収集すると いうスキームを用いることによって質の高い報告が得られている可能性がある。調査中の 報告では因果関係評価等、安全性情報の創出に必要な情報が不足していることから調査が 完了していないと考えられるため、質が高い報告の割合が低くなったと推測される。医

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師・薬剤師以外の職種からの報告では、副作用の発現日や転帰などの詳細な臨床情報が不 足しており、‘well-documented report’の割合が低かったものと考えられる。

3.4 ‘Well-documented report’の割合の年次推移

Figure 15に示す通り、JADERにおける‘well-documented report’の割合は年々減少傾 向を示した。WHOによる先行研究においても、本研究と同様に‘well-documented

report’の割合は1980年の25%から2012年の13%へと経時的に低下傾向を示しており

18)、副作用報告件数の増加に伴い、副作用報告の質が低下する傾向にあることが示唆 される。

1965年にWHOにより副作用の国内モニター制度の確立が加盟各国に勧告されたの ち、1967年には本邦において国内の副作用モニター制度が開始された。1980年には旧 薬事法に基づき、医薬品製造業者に対し副作用報告が義務化されたのち、2003年には 医薬品・医療機器等安全性情報報告制度が薬事法制化され、医療機関からの副作用報 告が義務化された。その一方で、本制度に基づく医療機関報告は少なく、総務省から

「医療機関に対し,厚生労働大臣への安全性情報報告が励行されるよう報告制度の趣 旨の周知徹底を図ること」などとする勧告が2001年と2013年の二度にわたり発出され

ており30, 31)、医療機関報告の推進とその質の維持は本邦の市販後医薬品安全対策にお

ける課題となっている。これら2度の勧告の影響や、新規医薬品の審査機関の短縮と それに伴う市販後調査の充実などにより、副作用報告の件数は増加傾向であるが51)、 その報告の質についてはこれまで言及されておらず、十分な評価も行われてこなかっ た。

Figure 16は‘well-documented report’の割合の年次推移を報告者の職種別に示したもの である。報告者に医師と薬剤師を含む報告において、‘well-documented report’の割合は 一定の水準を維持しており、医師と薬剤師が協働して副作用報告を行うことで、質の

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高い副作用報告を行うことが可能であることが示唆された。フランスのトゥールーズ 大学ファーマコビジランスセンターにおいて2014年から2017年の間に収集された副 作用報告を解析した研究においては、報告者によって情報が充足する項目が異なるこ とが報告されており、地域薬剤師による報告では副作用の臨床経過や転帰、併用薬に 関する情報が、また医師による報告では既往歴や臨床検査値などがより詳細に記載さ れていた52)。この結果からは職種によって入手しやすい情報が異なることが推察さ れ、多職種、特に医師と薬剤師が協働して副作用報告を行うことによって、より報告 の質を高くすることが可能であると考えられる。

JADER全体における‘well-documented report’の割合は経時的に低下傾向であるのは上

述した通りであるが、Figure 17に示すように、医療機関報告における‘well-documented

report’の割合は低下することなく70-80%程度に維持されていた。JADER

全体の‘well-documented report’の割合は件数に占める割合の多い企業報告に影響を受け、経時的に 低下傾向を示す一方で、医療機関報告は規制当局による詳細調査により一定の質を維 持していることが示唆される。

3.5 本研究の強みと限界

本研究は、WHO Uppsala monitoring centreで開発されたvigiGrade completeness scoreを

用いてJADERの質評価を行い、WHOの副作用データベースであるvigiBase18)やスペイ

ン カタルーニャ地方の副作用データベース 33)と比較することで、本邦の副作用データ ベースの世界における位置づけや特徴について検討したものである。本研究で定義した

‘well-documented report’は、被疑薬と副作用の因果関係の推定や、副作用シグナルの検出 に際して有用であり、市販後医薬品安全対策において非常に重要な情報源となりうる。

一方で、本研究にはいくつかの限界がある。vigiGrade completeness score は副作用報 告の項目ごとに情報の有無や精度を機械的に評価するものであり、含まれる情報の正確

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性や妥当性を必ずしも保障するものではない。また、vigiGradeでの評価の対象となって いる項目における情報の有無は、被疑薬と医薬品の因果関係の強さを反映していない点 にも留意すべきである18, 33)。本研究では、WHOによる研究18)と同様のペナルティの重 みづけ、評価対象項目を用いたが、これらは本邦の副作用報告の収集項目や、市販後医 薬品安全対策の実情に応じて変更する必要があるかもしれない。

医療機関等から報告された副作用報告のオリジナルのデータは PMDA が管理してお り、医薬品安全性情報報告書の様式等から推察すると、このオリジナルの副作用報告に

はJADERに格納されている以上の情報が含まれていると考えられる。例えば、報告者

が患者の正確な年齢を報告したとしても、患者のプライバシー保護等の理由から、年齢 のデータはPMDAにより受理されてJADERに格納されるまでの間に10歳ごとの年齢 区分に分類され、JADERには年齢区分のみが格納される。我々がJADERから得られる 年齢の情報は年齢層(10 歳代、20歳代など)や世代(高齢者、新生児、小児など)の ようにカテゴリ化されたものに限られる。Rosli らの報告によれば、副作用報告の特性 は患者の年齢によって大きく異なることが知られている53)。JADER においても同様で あり、重篤な副作用の潜在的なリスクや、患者に使用されるワクチンの種類などは年齢 によって大きく異なることから、特に小児の副作用報告については、年齢に関する詳細 情報が医薬品安全対策上必要であると考えられる。また、副作用報告の正確な情報源や、

報告者職種に関する情報の詳細はJADERでは明らかになっていないことも本研究の限 界である。例えば自発報告は医療機関から PMDAに定型の様式を用いて直接報告され たもの、医療機関から製薬企業のコールセンター経由で報告されたもの、製薬企業の MRが医療機関に訪問して医師等から情報を収集し報告されたもの、学会発表や論文を 情報源として製薬企業から報告されたものなどが含まれているが、これらはすべて自発 報告としてまとめられており、詳細調査の主体が PMDA か製薬企業かによって医療機 関報告と企業報告に分類されているのみである。第1節で述べた通り、企業からの自発

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