第 4 章 MVP 活用パターンの有効性の評価
4.5 考察
本節では,2章・3章で取り上げたMVPを活用する製造業,およびIT・サービス企業の 事例を交えながら,前節の分析結果の考察を行う.まず,アンケート調査結果のひとつであ る,製造業におけるMVP構築の段階と製品の種別と先行事例の位置づけを以下に示す.
表4-6 製造業におけるMVPが構築される段階(先行事例との比較)
上記のように,B2B メーカーの先行事例においては,大手オフィス家具メーカーが市場 調査段階という開発プロセスにおける最も早い段階から MVP を構築していることがわか る.同様にアンケート回答結果のなかで,市場調査段階でMVPを構築した企業は,4.3節 の事例②で示した通信機器メーカー,および流通機器メーカーの 2 社であり,前者の開発
市場調査段階 商品企画段階 開発段階 テスト・検証段階 商品化直後の段階
B2B 2
33%
1 17%
3 50%
1 20%
2
40% 6
B2C 0
0%
2 67%
0 0%
2 67%
1
33% 3
Others 1
100%
1 100%
1 100%
0 0%
0
0% 1
事例数
製品・
サービス の種別
上段:度数 下段:%
MVPが構築される段階
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期間は1年未満,後者の開発期間は1年以上2年未満である一方で,両社ともに技術集約 的商品であるという共通項があった.
大手オフィス家具メーカーの上記事例では,市場調査段階という開発プロセスにおいて 最も早期な段階でMVPが構築されているが,この理由の一つとして,上記事例が,感覚的 満足が重要視されるマーケティング集約的商品であることが挙げられる.
以上の事項から,マーケティング集約的商品でない,通信機器メーカーや流通機器メーカ ーのような技術集約的商品であっても,ファブレス生産等の取り組み次第では,市場調査段 階からの早期なMVP構築による顧客へのテストが可能であり,長期的ヒット商品を生み出 すことが可能であることが示唆される.加えて,GEの航空機用エンジンのような,いった ん開発が始まるとその改定や設計変更が不可能もしくは高額となる傾向にある,一般にミ サイル型開発のスタイルで開発が行われる技術集約的商品 であっても,3Dプリンタを活 用したアディティブマニュファクチャリングなどの実践次第では,MVP構築によるテスト が可能となることが示唆される.また,中堅食品素材メーカーのように,取り扱う製品が食 品の場合,食品は試作等が比較的容易であることなどから,MVP構築による顧客へのテス トが容易かつ,無意識的に実践しているものと考えられる.
B2C メーカーの先行事例においては,柏レザー株式会社およびベンチャー革製品メーカ
ーが,市場調査段階という開発プロセスにおける最も早期な段階から MVP を構築してお り,大手オフィス文具メーカーはクラウドファンディングによるMVPの活用であるために テスト・検証段階以降,株式会社アイ・オー・データ機器はリファインを前提にローンチを するタイプの MVP の活用をしていることから,開発プロセスにおける最も後期の段階で MVPを構築していた.
アンケート回答結果のなかで,市場調査段階でMVPを構築した企業は,自動車メーカー および光学機器メーカーの2社であるが,開発期間はそれぞれ2年以上3年未満,3年以上 であり,両者ともに技術集約的商品であるという共通項があった.
以上の事項から,ファッション小物などの開発期間が非常に短く,かつ試行錯誤的開発プ ロセスをたどる商品は全開発プロセスを通じて,早期なMVP構築による顧客へのテストが 可能であることが示唆される.また,往々にして開発期間が長期化する技術集約的商品をあ つかう自動車メーカー・光学機器メーカーは,開発プロセスの比較的初期の段階のみでMVP が構築されるものの,その後の構築は行われないと回答していることなどから,その後はミ サイル型開発のような開発プロセスをたどるものと考えられる.
しかしながら,大手オフィス文具メーカーの事例から,技術集約的商品を取り扱う企業で あっても,テストマーケティングとしてクラウドファンディングを活用することで,開発プ ロセスの比較的後期の段階でもMVPの構築による顧客へのテストが可能となり,同時に一 般販売前に顧客の声から製品仕様の一部を変更することが可能となることが示唆される.
加えて,株式会社アイ・オー・データ機器の事例から,技術集約的商品であってもファブレ ス生産等の取り組み次第では,市場投入(ローンチ)後の市場の反応から,迅速な製品仕様
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の変更を加えることを前提に,早期に新製品開発を行うことは可能であることが示唆され る.
また,Othersに該当したのは,ロボットメーカーにおけるB2B2Cのロボットの事例であ
る.開発の詳細はN/Aであるものの,本事例の開発期間は1年未満で,比較的早期であっ た.以下に,IT・サービス企業におけるMVP構築の段階と製品の種別と先行事例の位置づ けを示す.
表4-7 IT・サービス企業におけるMVPが構築される段階(先行事例との比較)
上記のように,B2BのIT・サービス企業の先行事例としては,楽天株式会社が市場調査 段階という開発プロセスの最も初期の段階からMVPを構築しており,その後の全開発プロ セスにおいてMVPが構築されていることがわかる.これは一貫して,アジャイル開発によ る製品・サービス開発が行われたことに起因している.
アンケート回答結果におけるB2BのIT・サービス企業は,どれも開発期間が1年未満で,
最も早いもので3か月未満との回答が得られたものの,開発プロセスの一部のみでMVPを 構築し,かつ後期の段階でのMVPが構築された事例が比較的に多かったことなどから,ウ ォーターフォール型の開発プロセスをたどったものと考えられる.
以上の事項から,B2BのIT・サービス企業においては,アジャイル開発を行う企業は開 発の初期段階でMVPを構築される傾向にあり,かつその開発期間は非常に短くなることが 示唆される.
B2BのIT・サービス企業の先行事例としては,DeNAおよびFood on the Tableが,市 場調査段階・商品企画段階という開発の初期の段階でMVPを構築していることがわかる.
また,アンケート回答結果におけるB2CのIT・サービス企業は,不動産ポータルサイトを 開発したとする情報サービス企業1 社のみが半年未満の開発期間であり,その他 ECサイ トを開発したとする情報サービス企業,テレビゲームソフトを開発したとするソフトウェ ア企業の2社は,それぞれ1年未満,2年以上3年未満の開発期間を経て製品・サービス化
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したものであった.しかしながら,3社ともに開発プロセスの一部のみでMVPを構築した としていることから,ウォーターフォール型の開発プロセスをたどったものであると考え られる.
また,1事例のみの回答であるOthersに該当したのは,犬の飼い主とトリマーをつなぐ プラットフォームサービスを開発したとする情報サービス企業である.また,この事例にお ける開発期間は半年未満と早期であり,かつMVPの構築も非常に早期であった.
以上の事項から,B2CのIT・サービス企業においては,DeNAのようなシングルユース ケースMVPや,Food on the Tableのようなコンシェルジュ型MVPを活用することで,
早期にMVPを構築し顧客へのテストを可能とし,サービスの成功を実現することは可能で あることが示唆される.
また本章におけるアンケート調査およびインタビュー調査から,3.6節にて提示したMVP 活用のタイプに一致したのは,4.2節にて提示した通信機器メーカーの事例のみであったた め,オフィス家具・食品・通信機器を取り扱うB2Bメーカー3社の事例から,B2Bメーカ ーのMVPの活用のタイミングおよびその共通特性を図示すると以下のようになる.
図4-1 製造業におけるMVP活用―Type: B2B(改定後)
【Type: B2B 共通特性】
製品分類:B2B
開発対象:耐久消費財,機能性食材,ファブレス生産による技術集約型の 製品
MVPの種類:シングルユースケースMVP
MVP活用の場:展示会等の社内外の人が集まる場
開発期間:1年程度~2年未満
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このタイプに該当する企業は,B2B製品であることから,MVP構築は開発の比較的初期 の段階,もしくは開発の全フェーズにおいてMVPが構築される.ある程度の企業規模以上 のB2Bメーカーは,往々にして顧客基盤を既に築いているため,MVPを顧客へ見せ,その 反応から再度MVPを構築するということは,比較的容易であるほか,展示会のようなビジ ネスマッチングの場でMVPを活用することで,顧客開拓ができ,開拓した顧客から更にフ ィードバックを受けることで,更にMVPを磨き上げることが可能である.
オフィス家具のような耐久消費財,食品を取り扱う企業はこれに該当し,通信機器メーカ ーのような技術集約的な製品であっても,ファブレス生産である場合は当該タイプに該当 する可能性が示唆される.
アンケート調査から,3.6 節で提示した「B2C」,「B2C-CF」に該当する回答は得られな かったため,これら2つの検証を行うことはできなかった.