第 3 章 MVP を活用する企業の調査・分析
3.4 製造業における MVP 活用事例
3.4.5 柏レザー株式会社
44 いる.
明らかにテストマーケティングのような形でやっているケースは基本的には無い が,実際に製品を世の中に出してみて,手続き的にその製品が徐々にバーションア ップされていく,という形でいえばほぼすべての製品で行われているので,もし該 当するのであればそういったことはほぼすべての製品がこれに該当している.
上述のように,同社は非常に短い開発期間,かつ比較的少額の開発費で製品を実際に世に 出し,マーケットのニーズを汲み込んだ上で,さらに短い開発期間でバージョンアップを行 うという形で,顧客の潜在ニーズを汲み込み,絶え間なく製品のブラッシュアップを行って いる.よって,バージョン1.0の製品(ここではCDレコ)自体がMVPとして機能し,市 場のニーズを汲み込んだ上でバージョン1.1である後継製品(DVDミレル)が生まれてい ると捉えることができる.また,本事例は,一つの課題やタスクのみに焦点を当てた製品で あることから,MVPの種別としてはシングルユースケースMVPに該当すると考えられる.
また本事例から,顧客ニーズを掴むのが容易でないB2Cのデバイス機器のような製品は,
リファイン(バージョンアップ)を前提に,少額かつ短期間で開発・販売をし,実際に製品 を世に出したのちに市場のフィードバックから顧客ニーズを掴み,製品化するというサイ クルが有効であることが示唆される.
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徹底している.新製品を開発するにあたっては,「これが流行っているから」とい うよりかは,日常の生活のなかで,自分が「かっこいいな」「かわいいな」と感性 が動かされたものを作っている.(中略)私は代表という立場なので,社員に「こ ういったものはどうか」と提案されたらそこで製品化するか否かの判断をしてお り,こういったアイデア出しから提案の流れは常日頃から行われている.そこまで 大きい会社ではないので,社員の意見を取り入れやすい.実際に社員の意見から製 品化したものは多いが,同業他社にはなかなかできないことだと思う.
加えて以下で示すように,上述のような過程で生まれたアイデアから試作品を作り,その 試作品をそのまま販売し顧客実証を行っているのも,同社およびファッション小物業界の 特徴であると言える.
一回作ってみて,「あれ,なんか違う」ということは日常茶飯事だが,一応ここで は会社をやっているし実店舗もやっているわけなので,変な話ではあるが,それを 販売することができる.その場合は「サンプル品です」などと言って販売したりで きる.そこで何度か回数を重ねて,製品化していく.というのも1回ではなかなか 完璧なものはできないからである.またサンプル品は一般よりも安めに値段設定 することもあれば,大変だったから一般的な値段を付けることもある.大体うちの 商品は2万円前後のものが殆どなので,大体その辺は足並みをそろえて値段付け・
販売をしている.
また,同社のその後の開発プロセスは以下のようなものであるとされる.
やっぱり今の時代は店頭に並べてテストしてみないと分からないので,そういっ たテストマーケティングのようなところから入るしか方法はなく,ずっと残って しまうものはどうしても出てきてしまう.作って店舗に置き,すぐに売れるような ものは4・5個追加で作ってみようかな,ということをやって定番になるものは定 番化していく,という流れ.
また,以下で示すように,同社は実店舗にて試作品を販売し,顧客の声を取り入れながら 試作品を修正していくとしている.
試作品は「試作品である」とはお客さんには言わず,「一点ものである」として販 売する.そのため,実際に販売しているものはその段階では100%くらいの出来と 言える.販売することでお客さんの意見を素直に聞けるし,そこから修正するパタ ーンも結構ある.また,製造と販売がセットになっているところだからこそ「お客
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さんの声を取り入れながら試作品を(アジャイルに)修正していく」ということが 成り立っているはず.
このように,同社は,試作品を通じて顧客の金銭的コミットを検証しているという点から,
前項の株式会社アイ・オー・データの事例と同じくして,非常に短い開発期間,かつ少額の 開発費で製品を世に出し,実店舗販売により顧客のニーズを汲み込んだ上で,再び製品のバ ージョンアップを行い,顧客の潜在ニーズを汲み込むことに成功している.よって,同社も また,これまでのMVPの種類のどれにも該当しない,新しい種類のMVPであると考えら れる.一方で,同社は,MVP により顧客ニーズを掴む難しさを以下のように語っている.
製造販売が同じ屋根の下でなされているが故に,お客さん側から「ここがもう少し こうだったら買うのに」と逆に指摘してくる(言い訳文句だけを言われる)という デメリットもある.なので,そこのバランスは難しいと思う.
また同社は,製品だけでなく,販売形態に関しても無意識的にリーン・スタートアップを 活用したとしている.以下に同社のリーン・スタートアップ活用の事例を示す.
無駄な接客を無くす仕組みを作りたいと考え,半月ほどの期間で試験的に5000円 以下の商品を全て店頭に置かないようにしたことがある.その結果として,売上は 変わらなかった.まさにターゲットの落とし込みという話にはなるが,言い換えて しまうと,こうした取り組みは,顧客に対し,私どもの店舗は「大体こういった値 段帯の商品を置いている店である」という刷り込みをしていることになる.(中略)
店舗を始めた当初は自分自身,ターゲットをなぜ決めなければいけないのかと考 えていたが,「こういうお店だよ」という売り側のメッセージを顧客に対し送るこ とが必要だからターゲットを決める必要があるのだと理解することができた.
また同社はMVPの有効性に関して,以下のように述べている.
MVPの活用例だと,常連の人に「これかっこいいと思わない?」と単刀直入に聞 いてしまうこともある.まさに常連の人は第三者である上にターゲット顧客であ るので,良い評価をしてくれる.聞けないお客さんの方が圧倒的に多いが,聞ける お客さんにはMVPを見せ,評価をしてもらっており,MVPみたいなことは自ず とやっているかもしれない.
以上のことから同社は,日ごろから,常連のアーリーアダプタ―の顧客に対して,MVP を見せ評価をしてもらうというサイクルを回していることがわかる.また,上述より,MVP
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を活用したアーリーアダプタ―の評価は自ずと良い学習効果を生むと考えられる.
本事例から,顧客ニーズを掴むのが容易でないB2Cのファッション小物のような試行錯 誤的開発プロセスをたどる製品は,リファイン(バージョンアップ)を前提に,少額かつ短 期間で開発・販売をし,実際に製品を世に出したのちに市場のフィードバックから顧客ニー ズを掴み,製品化するというサイクルが有効であることが示唆される.