実験
1‐1
では刺激のパルス幅を変えることにより連続的な筋収縮により生じ る筋の発揮張力低下において0.2-ms
と4-ms
では顕著な差が生じた.刺激パルス 幅が交感神経の活性化に寄与するといった先行研究から(Honig & Frierson 1976;Kjellmer 1964),両群間で生じた差には交感神経性血管収縮による回復期の血流
低下が起因しているという仮説を検証するために,刺激後の末梢循環動態を定 量し,さらに薬理学的なα
アドレナリン受容体阻害の影響を検討した.刺激パラメーターの影響について
下肢の静的または等尺性の筋収縮では運動昇圧反射が生じ,MAPや
HR
は運 動開始直後に増加する(Hill et al 1996).しかしながら,本研究ではMAP
とHR
は刺激負荷による顕著な変化を示さなかった.この相違は,本実験で用いた脊 柱僧帽筋が下肢の筋と比べて小さいことや,刺激が脊柱僧帽筋に限局されてい たことにより生じたと考えられる.したがって,循環カテコールアミン濃度や 求 心 性 神 経 活 動 は 刺 激 に よ り 変 化 し な か っ た こ と を 示 唆 し て い る .Kjellmer(Kjellmer 1964)
は運動神経に沿って走行する交感神経軸索が短いパルス幅(0.1-ms)では活性化されないことを示し,本研究で用いたように,短いパ ルスでは自律神経を活性化せずに運動神経のみを活性化することが広く受け入 れられている.また,
Honig and Frierson (Honig & Frierson 1976)
はイヌの骨格筋 での閉鎖神経刺激において,2-,5-ms のパルス幅では最大張力発揮と動脈の血 管収縮を生じるが,0.2-, 0.5-ms
のパルス幅では最大発揮張力は同程度であるが,持続性の血管拡張を生じることを示した.
生体顕微鏡下における交感神経の活性化に対する動脈の血管応答はよく特徴
51
付けられてきたが(Boegehold & Johnson 1988; Marshall 1982; Ohyanagi et al 1991),
交感神経の活性化に対する細動脈応答が筋収縮に影響されるのかを調べた研究 は少ない(Dodd & Johnson 1991; VanTeeffelen & Segal 2003).麻酔下の動物におけ る機能的交感神経遮断を検討するためには,運動神経と交感神経を同時に刺激 する必要があると考えられる.VanTeeffelen and Segal(VanTeeffelen & Segal 2003) はハムスターの後引筋において両神経を同時に刺激し,近位(FA, 1A)と遠位(2A,
3A)の細動脈における変化を検討している.その結果,筋収縮活性と交感神経
活動の増加に伴いFA
および1A
レベルの細動脈では血管収縮により筋への血液 循環が低下するが,2A および3A
レベルの細動脈では筋収縮により交感神経性 血管収縮が抑制されることを示した.本研究では,0.2-ms の刺激条件では細動 脈径の変化を生じなかったが,4-ms の条件では収縮セット数の増加とともに進 行的な細動脈収縮を生じた(Fig. 4-1~4-3).Rowellら(Rowell et al 1986)およびHarms
ら(Harms et al 2000)は最大運動中での血流低下における交感神経が果たす役割を示した.したがって,本研究において
4-ms
刺激条件は交感神経活動の増 加を引き起こしたことによって筋血流の低下を招き,顕著な筋疲労を生じたと 考えられる.対照的に,0.2-ms の刺激条件では交感神経を賦活化しないため,血管拡張と 収縮誘発の充血応答が生じることが考えられるが,本研究においては明確な細 動脈血管拡張は観察されなかった.これは観察した部位による差が起因するこ とが考えられ(Fig. 4-2),より遠位の細動脈では拡張応答が生じていた可能性も ある.
Jacobs and Segal(Jacobs & Segal 2000)は中強度の収縮での運動性充血が遠位
の細動脈(3A)により調節されることを示唆している.Fig.4-4から,径の大き な細動脈と比べ,より小さな細動脈は疲労感受性であると考えられる.この現 象の根底を成す機序は不明であるが,考えられるものとして,1)α アドレナリ52
ン受容体の分布が不均一であること,2)交感神経支配が不均一であることが挙 げられる.
α
アドレナリン受容体阻害の影響についてラット脊柱僧帽筋の微小循環において,交感神経は供給動脈(FA)と細動脈 を神経支配している(Marshall 1982).交感神経性血管収縮は神経接合部後の
α1-およびα2-アドレナリン受容体の活性化により媒介される(Ohyanagi et al 1991).
近位部(1Aおよび
2A)では α1‐および α2-アドレナリン受容体の両方が分布し,
遠位部(3A)では
α2
受容体が支配的に分布している(Faber 1988).選択的α
ア ゴニストの動脈内注入によるα1,および α2
受容体の応答性は長時間運動中にお いて変化しないことが示されている(DeLorey et al 2006).一方で,筋収縮によるα2
媒介の血管収縮の低下が筋血流を増加することが示されている(Anderson &Faber 1991; Thomas et al 1994).Buckwalter
ら(Buckwalter et al 2001)はイヌの後肢 において,運動がα1
およびα2
媒介の血管収縮を減弱化することを明らかにし たが,その応答は運動強度により各受容体で異なり,α1 媒介の血管収縮は激運 動時でのみ減弱するが,α2 媒介の血管収縮は全ての運動強度で減弱することを 示している.さらに,α2媒介の血管収縮はα1
媒介のものと比べて,PO2(70か ら10 mmHg)や pH(7.4
から7.0)の低下(McGillivray-Anderson & Faber 1990;
Tateishi & Faber 1995),K
ATPチャネルの活性化を通じたNO(Thomas et al 1997)な
どの代謝的な変化に影響を受けやすいことが明らかになっている.本研究では,連続的な刺激により安静時からの相対的な血管収縮応答が進行的 に増大し,この応答は
α1
またはα2
受容体阻害,および同時阻害により大きく 低下した.また,それぞれの阻害剤による刺激後の細動脈内径動態は同程度の ものであった.したがって,両阻害剤の投与量は交感神経性の血管収縮を抑制53
するためには十分なものであり,MAPや
HR
に影響せずに脊柱僧帽筋に限局す るものであった.しかしながら,どちらの阻害剤負荷においても,Cont と比べ て血管収縮は減弱したが10
セットを通して明確な血管拡張応答は観察されなか った.これらのことは,脊柱僧帽筋の1A
および2A
細動脈において,α1およびα2
アドレナリン受容体の分布が同様であったことを示唆している.一方で,細 静脈において収縮刺激後の変化が観察されなかったことは,細静脈が交感神経 支配を受けないことを示した先行研究(Marshall 1982)と一致する結果であった と考えられる.筋疲労時の機能的交感神経遮断について
本研究では筋疲労とともに進行的な血管収縮が生じた.これまで運動中の血 流調節を解明するために機能的な血管拡張と交感神経性血管収縮との間の相互 作用に関する研究が多くなされている.運動中では局所的な血管拡張作用が交 感神経性血管収縮作用をある程度までは打ち消すが,筋疲労の増加により収縮 作用が増大し,
α
受容体阻害によって血管収縮応答と筋疲労の減弱が生じるのか もしれない.Saitoら(Saito et al 1989)はヒトの前腕の随意収縮において,最大収縮の
25%で筋疲労中に交感神経活動が増大することを明らかにしている. Jacobs
and Segal
はラットの供給動脈と1A
細動脈において筋疲労に伴い血管拡張応答が減弱することを報告している(Jacobs & Segal 2000).動物を用いた先行研究は 機能的交感神経遮断が接合部後の
α2
アドレナリン受容体媒介の血管収縮が鈍く なることに起因していることを示した(Anderson & Faber 1991; Buckwalter et al2001; McGillivray-Anderson & Faber 1990; Thomas et al 1994).これらの研究から,
本研究で観察された筋疲労時の血管収縮応答の増大は,筋から放出される
K
+な どの代謝産物が筋の発揮張力の低下に伴ってその放出量が減少することによっ54
て生じたのではないかと考えられる.これらの先行研究と本研究の結果は,局 所的な血管拡張と交感神経性血管収縮との間の競合する平衡が,筋疲労によっ て血管収縮応答が有意になることを示唆している.
5 .要約
研究課題
1
の実験1
を受けて,本研究課題では末梢の循環動態が筋疲労に及ぼ す影響を検討した.4-ms のパルス幅での刺激において,筋収縮に伴った細動脈 血管収縮応答が観察されたが,0.2-ms の刺激では観察されなかった.また4-ms
刺激時に観察された血管収縮応答は,α1-,α2-アドレナリン受容体阻害,および
同時阻害のすべてにおいて減弱した.筋疲労は細動脈径収縮の減弱により軽減 した.これらの結果は,本実験で用いた動物標本において,筋疲労の発生に伴 い機能的交感神経遮断作用の減弱による交感神経性の血管収縮作用の増大が生 じ,血管収縮の抑制によって筋のパフォーマンスを改善することができること を示すものであった.55