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考察2  更なる日本陸上競技界の発展に向けて

ドキュメント内 2007年4月 (ページ 43-51)

本章においては、2004年以降2007年までに日本陸上競技界における「勝利」「普及」「市 場」の3要素の拡大のために日本陸連や民間によって行われてきた取り組みを挙げ、考察す るとともに、今後3要素を更に拡大させていくための施策を考察していく。

5.1  日本陸連による新たな強化策

まず、強化であるが、日本陸連は 2005年から「スポーツ支援制度」として、経済的に厳 しい状況にあるトップ選手のために活動費(年間240万円)を提供することを決め、これま で毎年2〜3人の選手を支援してきている(表5)。

表5  日本陸連スポーツ支援制度適用選手一覧

年度  名前  所属(当時)  種目 2005 年・2006 年・2007 年の主な結果  2005 年度  醍醐  直幸  東京陸協  走高跳  05 年日本選手権優勝(2年ぶり2回目) 

      06 年日本選手権優勝(日本新記録) 

      07 年日本選手権優勝、大阪世界陸上出場 

    中野  真実  三観陸協  棒高跳  05 年日本選手権欠場 

      06 年日本選手権優勝(9年ぶり2度目) 

      07 年日本選手権3位 

    松崎  彰徳  福島陸協  競歩  特になし 

2006 年度  小西  祥子  大阪茗友クラブ  競歩  07 年国体優勝(10000mW 日本新記録) 

    中野  真実  三観陸協  棒高跳  ─ 

    荒川  大輔  大阪陸協  走幅跳  05 年日本選手権7位 

      06 年日本選手権6位 

      07 年日本選手権優勝(初)、大阪世界陸上出場

2007 年度  小西  祥子  大阪茗友クラブ  競歩  ─      荒川  大輔  大阪陸協  走幅跳  ─ 

(注)2007 年度の年度途中で錦織育子(棒高跳)も支援対象となったが、日本選手権後の 追加であったため、この表では省略する。

その結果、2005年に支援制度の対象となっていた醍醐直幸は2006年に走高跳で日本記録 を超えると、2007 年には世界陸上大阪大会に出場した。女子棒高跳の中野真実も日本選手 権において2005年こそ怪我のために棄権したが、2006年には9年ぶり2度目の優勝を果た した。また、2006年度から2年間制度の適用を受けている荒川大輔も男子走幅跳で2007年 に日本選手権を初めて制して世界陸上大阪大会に出場しており、10000mWで日本新記録を 記録した小西祥子と合わせ、効果が現れているものと考えられる。実業団チームの減少傾向 が止まらない昨今の状況を鑑みると今後もこうした選手支援制度の需要は高まるものと思 われ、一層のシステム充実が求められるだろう。

2005 年からは日本陸連によって男子マラソンにおいてマラソン強化プロジェクトが開始 され、2006 年には同プロジェクトの強化対象となっていた沖野剛久が北京国際マラソンで 日本人最上位となる3位、2007 年にも片岡祐介が同マラソンで6位に入るなど、効果も出 始めている。

加えて、箱根駅伝の出場を志し、関東の大学に通う選手の中にも、男子 5000m・10000 mでともに学生記録を更新した竹澤健介(早稲田大)や、男子 5000mで日本歴代7位の記 録を出した佐藤悠基(東海大)、2007年日本選手権における男子10000mで3位に入った伊 達秀晃(東海大)、同男子 5000mで6位に入った松岡佑起(順天堂大)、8位に入った上野 裕一郎(中央大)など有力選手も多くなっていることから、男子のU-23世代(23歳以下)

の長距離・マラソンの強化策も図られ、2007年11月から記録会・研修会などを行っている。

また、2003 年以来、世代を問わず男子長距離・マラソンの有力選手を一同に介して研修会

長距離・マラソン以外にも強化策は施されており、世界陸上大阪大会でメダル獲得が1つ に終わった大会結果を受けて、2007 年9月には強化委員会が主導となって主力選手を集め て合同反省会を行うとともに、同年 11 月には日本陸連が制定している強化指定選手対象の 研修会を行い、各競技カテゴリーが混ざっての意見交換会を開くなど、北京五輪に向けて初 めての試みとしての強化策が採られている。

5.2  現状の普及策と今後の展望

5.2.1  民間クラブと日本陸連による普及策

続いて普及であるが、先に挙げたように、日本の陸上競技界においては普及・育成につい ては学校体育・部活動から企業へと依存されている側面が強い。日本陸連の直接の取り組み ではないが、2007年から日本陸連強化委員長を務めている高野進は2005年からラスポート 株式会社を立ち上げて、末續慎吾らの指導を行っている東海大学を拠点とした地域のランニ ング教室を開始した。この活動は2004年から開始された東海大学のスポーツ教育センター 主催の中学生向けの「かけっこ教室」に端を発したもので、ラスポート株式会社の設立以来、

同じトラックで子どもからお年寄りまで数十人がトップアスリートと一緒に走る機会を造 成した。2007 年からはそのランニング教室を「アスレティクスアカデミー」と名付けて商 標登録を取っている。同時にラスポート株式会社から「アスレティクス・ジャパン株式会社」

と社名変更し、アスレティクスアカデミーを全国3箇所(東海大グラウンド・日産スタジア ム・札幌つどーむ)に広げ、「<走る・跳ぶ・投げる>という運動を柱に、全てのスポーツ の基礎となる運動教育を実施」(高野,2007)している。この活動について高野は「さらに その先には、アスリートの育成と支援、陸上競技の普及というものを主な事業目的として活 動を行っていこうと考えています」としており、育成に留まることなく、老若男女への陸上 競技の普及を狙いとしている。また、運営費については、「必要な少額の参加料を徴収し、

大学の施設利用料やスタッフの人件費に当てるといった程度のもの」(高野,2007)で済ん でいる状況だという。

その他にも、これまでの実業団スタイルとは違ったクラブチームも、未だ少数ではあるが 設立されてきている。トップ選手を有する代表的なクラブには佐倉アスリート倶楽部が挙げ られる。同クラブは2001 年に設立され、積水化学を退社した小出義雄が代表を務めている クラブであるが、同クラブの公式ホームページ(http://www.koidekantoku.com/sac.html)

によれば、運営体制は以下のようになっている。

「佐倉アスリート倶楽部株式会社は、小出義雄代表、コーチ2名、スタッフ2名、そして 2つの企業(豊田自動織機・アルゼ)に所属する選手で活動しています。これまでの『ひと つの実業団チームに全員が所属する』スタイルではなく、各企業からマラソン・長距離の指 導の委託を受けています。『枠にとらわれる事なく、企業間の壁を越えて選手を育成してい く、新しい組織・指導体制』を目指しています」

同クラブは、2007 年の東京マラソンで女子の部を制した新谷仁美、世界陸上大阪大会で

女子10000mに出場した脇田茜(ともに豊田自動織機所属)を現役選手として抱えるととも に、アルゼは2007年の全日本実業団対抗女子駅伝で過去最高の4位に入っている。また、

OGとして、高橋尚子や 2003年の世界陸上パリ大会で銅メダルを獲得した千葉真子らを輩 出している。今後の方針としては「今後は、北京五輪へ向けての選手育成と共に、小出代表 のこれまでの経験を一般ランナーの方々へ活かす活動として、『小出道場』の運営、更には ジュニア選手の新しい育成方法として、海外の学校(高校・大学)への陸上留学システムの 構築などを行っていく予定です」(公式ホームページ)としており、活動の展開が期待され る。

セカンドウインドアスリートクラブは、資生堂で監督を務めていた川越学が有限責任事業 組合(LLP=Limited Liability Partnership)制度を利用して2007年に設立したクラブで あるが、そのコンセプトは以下のようになっている。

「企業の情勢、チームの成績に左右されることなく一貫した選手強化を目指し、独立運営 方式で継続的に活動を推進していく全く新しいクラブチームです。世界舞台で活躍するアス リートの育成はもちろんの事、そのアスリート予備軍であるジュニアから若手トラック選手、

また一般ランナーにも目を向け、各々が自己目標の達成に向けて常にチャレンジし続ける事 が 出 来 る ・ ・ ・ そ ん な ク ラ ブ チ ー ム を 目 指 し ま す 」( 公 式 ホ ー ム ペ ー ジ http://www.sw-ac.com/index.shtmlより)

こうしたコンセプトの下、世界陸上大阪大会の女子マラソンで6位に入賞した嶋原清子、

2007 年の北海道マラソンで優勝した加納由理ら、元は資生堂に所属していた選手が所属す るとともに、川越監督の「クラブではオリンピック、世界陸上、国際マラソン大会で活躍で きる国際級のマラソンランナーを育てると同時に、そのアスリート予備軍であるジュニアや 若手トラックランナーも指導します。また会員として一般ランナー、健康志向者、キッズな どが所属し、それぞれが自己目標を設定し、その達成にトライするピラミッド型組織を目指 します」(公式ホームページ)という方針のもと、毎週2〜3回の一般向けのランニング教 室が行われ、川越監督自身も指導に加わっての活動が行われている。

また、リクルート陸上競技部の監督であった金哲彦は2001 年における同部の廃部後、同 年 12 月にニッポンランナーズを創設した。同クラブは特定非営利活動法人(NPO法人)

として、「アスリート・市民・子どもたちに対し『スポーツの指導・養成』『スポーツ活動の 支援』『スポーツ大会の企画・運営』等の事業を行い、スポーツ振興と人々の豊かな暮らし や 地 域 の 活 性 化 に 寄 与 す る こ と 」 ( 公 式 ホ ー ム ペ ー ジ http://www.nipponrunners.or.jp/index.html)を目的とし、トップ選手が位置する「アスリ ート」、年齢や走力にはこだわらない「ランニング部門」の2つの他、「バレーボール部門」

「土曜スポーツ探検隊」「ステイヤング」「ノンプログラム会員」と、他のスポーツにも広げ た地域型のスポーツクラブとして展開している。

その他にも、伊東浩司が講師を務める甲南学園アスレチッククラブは自身が指導を行って いる甲南大学のグラウンドを拠点として、小中学生を対象に活動を行っている。活動のコン

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