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43 いることが伺える。

なお、義務化によって上昇した約 0.85%ポイントの数値の大きさについて述べると、表 2 の基本統計量から、利用ダミーの平均は約 2%であることが分かる。このことは 100 人 中 2 人利用していた状況が、約 2.85 人利用するようになったことを表している。制度創 設によって利用者が約 1.5 倍に上昇したことからも、約 0.85%ポイントという数値は、一 定程度高い数値であることが言える。

3.育児短時間勤務制度創設の義務化が就業継続者の割合に与えた効果について

仮説 2 および仮説 3 に対する実証分析より、育児短時間勤務制度創設の義務化によっ て、就業を継続することができる確率が約 1.6%ポイント上昇したことが明らかとなった。

このことは、制度創設の義務化により、制度を利用することで仕事と家庭の両立が可能と なったことから就業継続に結びついたと考えられる。

しかし、就業を継続することができる確率について職種別に分析した結果、専門的・技 術的な仕事については、事務に関する仕事と比較して、就業を継続することができる確率 が低いことが明らかとなった。このことは、義務化により制度が創設された場合であって も、専門的・技術的な仕事については、職場が自宅以外の「現場」であり、業務内容上自 宅への仕事の持ち帰りが物理的に困難であるため、「仕事の切り分け」が難しい業務内容 であることや、個人の特殊なスキルを必要とする業務であり、替えがきかない業務内容で あるため、「仕事の引継」が難しい業務内容であることが考えられる。このため、義務化 により制度が創設された場合であっても、制度が利用できないため、就業を継続すること ができる確率が低いことが考えられる。

また、就業を継続することができる確率について職種別に分析した結果、従業員者数が 100 人~299 人の企業については、大企業(1,000 人以上)と比較して、就業を継続する ことができる確率が低いことが明らかとなった。このことは、義務化により制度が創設さ れた場合であっても、小規模な企業については、①代替職員の配置が難しいこと、②制度 の非利用者への業務量のしわ寄せを多くの社員で負担することが難しく、制度を利用し ていない他の社員への負担割合が大企業に比べて大きいこと、③複数担当制、チーム制に よるフォローが難しい(引継が難しい)こと、④グループウエア等のシステム等の活用に よる仕事の情報の共有化が進んでいないこと、⑤自宅での業務の遂行が可能なシステム

(在宅勤務)が確立されていないこと、⑥大企業に比べて仕事と家庭の両立に向けた制度 の創設等への取組について、社会の関心が低い(制度の未創設や社員への差別的な対応に 対する社会的な制裁が大企業に比べて小さい。)ため、制度の活用が推進されにくく、周 囲の社員からの理解を得ることが難しいこと、⑦制度の非利用者への人事評価制度等が 構築されていないことなどが考えられる。このため、義務化により制度が創設された場合 であっても、制度が利用できないため、就業を継続することができる確率が低いことが考 えられる。

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また、就業を継続することができる確率について、制度が利用できることを認識して いる場合による影響について分析した結果、制度が利用できることを認識している場合、

制度が利用できることを認識していない場合と比較して、就業を継続することができる 確率が高いことが明らかとなった。このことは、義務化により実際に制度を利用できる 環境が整っていることで、制度利用が可能となり、制度を利用することによって、仕事 と家庭の両立が可能となったことが就業継続に結びついたためであると考えられる。

また、就業を継続することができる確率について、制度を利用している場合による影 響について分析した結果、制度を利用している場合、制度を利用していない場合と比較 して、就業を継続することができる確率が高いことが明らかとなった。このことは、制 度を利用することによって、仕事と家庭の両立が可能となったことが就業継続に結びつ いたためであると考えられる。

以上の結果から、育児短時間勤務制度創設の義務化によって、就業を継続することが できる確率については、職種や企業規模によって異なり、かつ、特定の職種や企業規模 においては、義務化による効果がほとんどみられないことが明らかとなった。

4.育児短時間勤務制度の創設が出産への意欲に与えた効果について

仮説 4 に対する実証分析より、育児短時間勤務制度創設の義務化によって、出産を希望 する確率(出産への意欲)が約 2.7%ポイント上昇したことが明らかとなった。この結果 から、制度創設の義務化により、制度を利用することで仕事と家庭の両立が可能となった ことから出産を希望する確率の上昇に結びついたと考えられる。

しかし、出産を希望する確率(出産への意欲)について職種別に分析してみると、専門 的・技術的な仕事については、事務に関する仕事と比較して、出産を希望する確率(出産 への意欲)が低いことが明らかとなった。このことは、義務化により制度が創設された場 合であっても、専門的・技術的な仕事については、職場が自宅以外の「現場」であり、業 務内容上自宅への仕事の持ち帰りが物理的に困難であるため、「仕事の切り分け」が難し い業務内容であることや、個人の特殊なスキルを必要とする業務であり、替えがきかない 業務内容であるため、「仕事の引継」が難しい業務内容であることが考えられる。このた め、義務化により制度が創設された場合であっても、制度が利用できないため、出産を希 望する確率(出産への意欲)が低いことが考えられる。また、義務化によって制度が創設 された場合であっても、育児短時間勤務制度を利用することによって、自らのキャリアに 影響を及ぼすことを考慮した結果、出産を諦めてしまい、出産への意欲に結びついていな いことも考えられる。

5.育児短時間勤務制度創設の義務化が女性の採用割合に与えた効果について

仮説 5 に対する実証分析より、育児短時間勤務制度創設の義務化によって、女性の採用 割合(事務系・営業系+技術系)が約 2.1%ポイント減少したことが明らかとなった(事

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務系・営業系においては約 1.5%ポイント減少。)。このことは、労働者が本制度を利用し た場合における企業へのデメリット(代替職員等を配置する際に発生するコスト等)を企 業側が考慮した結果、制度を利用する可能性が高い出産適齢期の女性の採用を控える行 動をとった(企業の防衛行動)ため、採用への負の影響に結びついたと考えられる。

また、育児短時間勤務制度創設の義務化による女性の採用への負の影響について、産業 別に分析してみると、建設業、製造業、電気・ガス・熱供給・水道業、情報通信業、運輸 業および医療・福祉等については、卸売・小売業と比較して、女性の採用割合(事務系・

営業系+技術系)が減少することが明らかとなった(事務系・営業系における女性の採用 についても同様の傾向が明らかとなった。)。このことは、建設業、製造業、電気・ガス・

熱供給・水道業、情報通信業、運輸業および医療・福祉のような産業については、①職場 が工場や建設現場等であり、業務内容上自宅への仕事の持ち帰りが物理的に困難である こと、②一人だけ短時間勤務を取得することが難しい業務であること(シフト勤務が固定 化している仕事)、③夜勤や早朝勤務がある仕事であること、④個人単位で担当地域等が 決まっている営業等の仕事であること(代替が困難である仕事)、⑤製造業における流れ 作業による業務であって、短時間勤務者を組み込むことが困難な仕事であること、または、

交代制勤務による製造業であって短時間勤務の者を勤務体制に組み込むことが困難な仕 事であることなどといった「仕事の切り分け」が難しい業務内容であることや、①個人の 特殊なスキルを必要とする業務であり、替えがきかない業務であること、②属人的な仕事 内容であること、③工場等の技術者は、一人が最初から最後まで一つの仕事を担当してお り、チーム対応していないことや、工場等が 24 時間稼動している場合、短時間勤務での 業務の切り出しが難しい仕事であることなどといった「仕事の引継」が難しい業務内容で あることなどが考えられる。このため、労働者が本制度を利用した場合における企業への デメリット(代替職員等を配置する際に発生するコスト等)を企業側が考慮した結果、制 度を利用する可能性が高い出産適齢期の女性の採用を控える行動をとった(企業の防衛 行動)ため、採用への負の影響に結びついたと考えられる。

また、育児短時間勤務制度創設の義務化による女性の採用への負の影響について、企業 規模別に分析した結果、常用労働者数が 10 人~29 人、300 人~999 人および 1,000 人~

4,999 人の企業については、大企業(5,000 人以上)と比較して女性の採用割合(技術系)

が減少することが明らかとなった。このことは、零細企業(10 人~29 人)については、

①代替職員の配置が難しいこと、②制度の非利用者への業務量のしわ寄せを多くの社員 で負担することが難しく、制度を利用していない他の社員への負担割合が大企業に比べ て大きいことなどといった理由から、大企業に比べて採用への負の影響が強まったと考 えられる。また、中小零細企業よりも規模が大きい 300 人~4,999 人の企業については、

中小零細企業に比べて採用人数が多く、採用を見送る調整が行いやすいことから、大企業 に比べて採用への負の影響が強まったと考えられる。さらには、CSR(企業の社会的責任) の観点から、300 人~4,999 人の企業については、非上場企業も多く、これらの企業につ

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