第 7 章 球面凹ミラーを用いた ATP 検出 36
7.5 考察
シミュレーション計算によるミラーを用いた時と用いなかった時の比と,実測値のミラー を用いた時と用いなかった時の比は,(図7.4)のようになる.シミュレーションと実測値 の比が合致していると言える.
また,この実験ではファイバーの測定間の洗浄を重視するとアライメントが狂ってしま う事が多く,再現性の高い測定が困難であった.これにはファイバーの固定方法の工夫・
改善が必要である.
図 7.3: それぞれのコア径でのミラー有無の検出数比較
図7.4: 実測値とシミュレーション結果のミラーの効果の比較
第 8 章 結論
シミュレーション計算の結果をもとに,SBP-ルシフェラーゼや球面凹ミラーを用いた光 学系を使って,直付けの状態より集光効率の向上をはかった.その結果,今回実験で確認 された最高感度は1.65×10−9[M]であった.一方で直付け検出の場合は5.5×10−11[M]ま で検出可能であったため,固定されたルシフェラーゼによる検出と直付けとを比較して,
2桁低い感度となった.しかしながら他の文献によると,例えばガラス棒にルシフェラー ゼをつけた場合の最高感度は1×10−8[M]であり,これらの結果と比べて遜色のない結果 となった.この実験では,集光効率やAPDの検出感度の向上によりルシフェラーゼの絶 対数の少なさを補っていると考えられる.
また,Michaelis-Mentenの式による解析から,φ1.0[mm]ファイバーでのAPDとのカッ プリング効率が非常に低いことと,ターンオーバーレートが他の文献と比べ2桁低い結果 となった.
カップリング効率の導出には,ルシフェラーゼの個数比が光ファイバーの断面積比にな るという仮定を用いている.この仮定が正しいとすると,φ1.0[mm]のカップリング効率を 向上させればよいということになる.カップリング効率を向上させる方法としては,カップ リングレンズを用いて,φ1.0[mm]の光ファイバーとAPDとのカップリングに最適なファ イバーとの結合をする方法がある.この方法については,これまでの経験から最大50[%]
の効率で結合できることが分かっているため,感度向上が十分期待できる.
また,ルシフェラーゼ個数比が光ファイバー断面積比と一致していないということであ れば,単にバイオセンサー作製法の問題となる.現にφ0.4[mm],φ1.0[mm]での作製につ いては最適化されていない.これらの最適化は,ルシフェラーゼの絶対数を向上させるこ とにつながるため,感度向上に繋がることは自明である.
他の文献の値と比べて,ルシフェラーゼ1分子あたりのターンオーバーレートが2桁低 い値が求まった理由として,次の2つが考えられる.
1つは,導出に用いたルシフェラーゼの単位面積あたりの個数が実際と異なっていた可能 性である.適用した値は,別の実験での実測値であるため,今回は結合するルシフェラー ゼの個数が,この実測値の2桁低い数しか結合できていなかったということになる.これ はバイオセンサー作製の問題となるが,我々の作製法ではpHの値を最適にしていない.
結合する個数を2桁向上させることができれば,感度は2桁向上することになる.
ルシフェラーゼ1分子あたりのターンオーバーレートが本当に低かったということであ れば,ターンオーバーを促進させることが必要ということになる.ターンオーバーを速め る酵素が見出されているので,それを使用すれば感度向上が見込めることになる.
このように,光学系,バイオセンサー作製最適化,測定方法の改善により,大幅な感度 の向上が期待できる.
また,感度を2倍向上させることができたミラーを用いた実験では,ファイバーの洗浄
を重視するとアライメントが狂ってしまう事が多く,再現性の高い測定が困難だった.こ れはファイバーの固定方法の改善が必要である.
現時点では,大腸菌1匹レベルのATP検出まで到達してはいないが,上記のような改 善策により,さらなる検出感度の向上が見込めることが分かった.
謝辞
この研究を進める上でご協力して下さった広島大学大学院先端物質科学研究科量子物質 科学専攻光子物理学研究室 遠藤 一太先生,高橋 徹先生,飯沼 昌隆先生,同研究科分子 生命機能科学専攻細胞工学講座 黒田 章夫先生,野村 和孝氏,同研究科量子物質科学専攻 量子光学物性研究室 角屋 豊先生には大変お世話になりました.ありがとうございました.
広島大学大学院先端物質科学研究科量子物質科学専攻量子光学物性研究室 田口さん,平 間さんには,貴重な実験器具を貸していただきました.ありがとうございました.
また,シミュレーションのプログラムを書くにあたって広島大学大学院理学研究科数学 専攻 松本 眞先生,山形大学 西村 拓士先生が開発されたMersenne Twisterを使用させて いただきました.ありがとうございました.
分子生命機能科学専攻細胞工学講座研究室の学生さんにもご迷惑をおかけしました.量 子物質科学専攻光子物理学研究室の諸先輩方,同級生の皆さんには良く相談に乗っていた だきました.昨年度ATP検出の研究をされていた貞包 浩一朗さんは,沢山の貴重なデー タを残していただきました.ありがとうございました.
三好ユキミさんには毎日美味しいご飯を作っていただきました.ありがとうございました.
特に光子物理学研究室 飯沼 昌隆先生には熱心に指導をしていただきました.あらため てお礼申し上げます.
参考文献
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[7] Amnon Yariv,光エレクトロニクス基礎編 原書5版,多田 邦夫・神谷 武志 監訳,丸善株式
会社(2000)
[8] Amnon Yariv,光エレクトロニクス展開編 原書5版,多田 邦夫・神谷 武志 監訳,丸善株式
会社(2000)
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[17] 貞包 浩一朗,生物発光によるATPの高感度検出,広島大学理学部物理科学科卒業論文(2004)
付録
レイトレース
レイトレースの基本的な行列を下に示す.
オプティクス 行列
光子
à x
∂x∂z
!
x:光源での光子の座標 ∂x∂z:光路の傾き
ドリフトスペース Ã
1 d 0 1
!
d:オプティクス間の距離
レンズ
à 1 0
−f1 1
!
f:レンズの焦点距離
球面ミラー
Ã
1 0
−R2 1
!
R:球面ミラーの曲率半径
シミュレーションのレイトレース計算では,(x,y)を同時に計算出来るように複素数を 用いて,次のような行列計算を行った.長さは[mm]として計算している.
光が光源からコア側に出る場合 Ã
x0+iy0
∂x0
∂z +i∂y∂z0
!
= Ã
1 4.5×10−6
0 1
! Ã
x+iy
∂x∂z +i∂y∂z
!
光が光源からミラー側に出る場合 Ã
x0+iy0
∂x0
∂z +i∂y∂z0
!
= Ã
1 d+ 4.5×10−6
0 1
! Ã
1 0
−R2 1
! Ã 1 d 0 1
! Ã
x+iy
∂x∂z +i∂y∂z
!