50 第4章 Lee-Carterモデルの残差構造解析とモデリング 因が同年齢の死亡率へ及ぼす影響が経時的にどのように承継されて行くかを表すものと考えられる.
Granados (2008)は,日本の死因別死亡率の変動と経済指標の変動の相関について検証し,心疾患,肺
炎,不慮の事故,肝疾患,老衰については順循環(procyclical),自殺,糖尿病,高血圧については反循環 (countercyclical),悪性新生物については反循環(countercyclical)の可能性があると示唆した結論を導い
た.Granados (2008)が経済指標の変動と正又は負の相関があるとした死因別死亡率に着目すると,そ
れらの全死因死亡率に占める割合は,図4.23及び図4.24の通り,現役世代の20-60歳においては30-70
%程度であり(若いほどその割合は大きい),その時代の社会経済の影響を受ける程度が大きいと考えられ る.このことは,上記の効果2のパラメータ(Cj21 )が16歳から漸減し50歳を超えるとほぼゼロとなっ て行くことと整合的である.
LC-VARモデルの適合度については,女の1951-2009年の死亡データを前提とした場合,LC-VARモ
デルがRHモデルと比較し必ずしも良好な結果とはならなかった.一方,女の1971-2009年のデータを 前提とした場合,LC-VARモデルが他のモデルと比較し,良好な結果となった.これは,1951-1970年 のデータに含まれる高齢の死亡数が,対象期間において一貫して低くコーホート効果が見られること,ま
た,1951-1970年と比べ,1971-2009年の方が死亡率の低下傾向が鈍化していること等が理由として考え
られる.
LC-VARモデルのパラメータ推定値は,対象期間が1971-2009年と1951-2009年の場合において,傾 向は変わらず,大きくは異ならないため,比較的頑健であると言える.Cairns et al. (2009)では,英国 と米国の死亡率へRHモデルを適用した場合のパラメータ推定値に頑健性が無いことを指摘しており,ま た,日本の死亡データを前提としたパラメータ推定値についても頑健性の無さが観察される.後述する将 来死亡率の推計においてはパラメータ推定値が頑健であることが望ましく,このような観点からもRHモ
デルよりLC-VARモデルの方が好ましいと言えよう.
4.9 考察 51
Age 20
40
60
80
Year
1970 1980
1990 2000 Ratio1
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
(注)人口動態統計の全死因死亡数のうち,Granados (2008)が経済指標の変動と相関の可能性があるとした心疾患・不慮の事故・
自殺による死亡数の占める割合を計算.
図4.23 経済指標の変動と相関の可能性がある死因別死亡率の占める割合(男: 1970年, 1980年, 1990年, 2000年, 2008年)
52 第4章 Lee-Carterモデルの残差構造解析とモデリング
Age 20
40
60
80
Year
1970 1980
1990 2000 Ratio2
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
(注)人口動態統計の全死因死亡数のうち,Granados (2008)が経済指標の変動と相関の可能性があるとした心疾患・不慮の事故・
自殺による死亡数の占める割合を計算.
図4.24 経済指標の変動と相関の可能性がある死因別死亡率の占める割合(女: 1970年, 1980年, 1990年, 2000年, 2008年)
53
第 5 章
LC-VAR モデルの海外死亡データへの適用
前章では,我が国の死亡データへLCモデルを適用した場合の残差構造を解析し策定したLC-VARモ デルを提案した.LC-VARモデルは,前章で述べた仮説に基づき策定されており,仮説の内容が海外諸 国においてもあてはまる共通なものか,関心があるところである.本章では,LC-VARモデルを英国・米 国・フランスの3ヶ国の死亡データへ適用し,LCモデルや既存の拡張LCモデルと比較する.その結果 を踏まえ,各国の死亡率の特徴について考察し,モデルの構造について再考する.
海外の死亡データは,海外諸国が政府のホームページ等を通じて公開しているものもあるが,HMDに も世界37ヶ国の死亡データが収録されている.本論文では,我が国の死亡データと同様,海外諸国の死 亡データについてもHMDを利用することとする.また,HMDの中で長期の死亡データを利用できる国 は一部であること,LCモデルやコーホート効果に関する先行研究の対象国等も踏まえ,前述の英国・米 国・フランスの3ヶ国を対象としている.