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2.6.6 毒性試験の概要文

2.6.6.9 考察及び結論

カナグリフロジン水和物の安全性評価として,単回経口投与及び腹腔内投与毒性試験,反 復経口投与毒性試験,遺伝毒性試験,がん原性試験,生殖発生毒性試験及び光毒性試験を実 施した.そのほか,反復投与毒性試験及びがん原性試験で認められた所見の発現機序を検討 することを目的として各種の機序検討試験を実施した.

日本人の2型糖尿病患者に対する1日投与量は100 mg/日である.2型糖尿病患者にカナグ リフロジン100 mg/日を14日間反復投与した際のCmaxは1,136 ng/mL,AUC0-24は6,635 ng• h/mLであった[2.7.6.12].以下の考察において安全域を議論する場合には,この数値に基づ

いた[表 2.6.6.9-1].

表 2.6.6.9-1 各種毒性試験の無毒性量における安全域

試験種 無毒性量

mg/kg/日)

AUC0-24ng•h/mL

[雄:雌]

安全域a) マウス一般毒性,13週間 100 mg/kg/日 235,000:354,000 35.4:53.4 ラット一般毒性,6ヶ月 4 mg/kg/日 14,100:21,600 2.1:3.3 イヌ一般毒性,12ヶ月 100 mg/kg/ 529,000503,000 79.775.8 マウスがん原性 100 mg/kg/ 194,000353,000 29.253.2 ラットがん原性,精巣間細胞腫 10 mg/kg/日未満 38,348未満 5.8未満

副腎髄質腫瘍,腎尿管腫瘍 30 mg/kg/日 117,724:188,367 17.7:28.4 ラット受胎能・初期胚発生 100 mg/kg/ 307,000441,000b) 46.366.5

ラット胚・胎児発生 100 mg/kg/ 507,898 c) 76.5 ウサギ胚・胎児発生 160 mg/kg/日 486,556 73.3 ラット出生前後発生・母体機能 10 mg/kg/日 42,585 c) 6.4 幼若ラット毒性 4 mg/kg/ 11,90016,700 1.82.5

in vivo光毒性 5 mg/kg/ 16,12517,125d) 2.42.6 a) 2型糖尿病患者にカナグリフロジン100 mg/日を14日間反復投与した際のAUC0-24(6,635 ng•h/mL)に対 する比率を示した.

b) ラット6ヶ月試験の曝露量(Day 90)を使用した.

c) 妊娠ラットを用いた反復経口投与TK試験の曝露量(妊娠16日)を使用した.

d) ラット6ヶ月試験における4 mg/kg/日群の曝露量(Day 0)のAUCi0-5/4倍を使用した.

単回投与毒性

概略の致死量は,単回経口投与がマウスでは2000 mg/kg超,ラットでは2000 mg/kg,単回 腹腔内投与がマウスでは500 mg/kg超,ラットでは250 mg/kgであった.大動物については,

イヌに5日間反復経口投与して評価した試験の初回投与の成績を基に単回投与における概略 の致死量は800 mg/kg超と推定された.

反復投与毒性

マウス,ラット及びイヌを用いて実施した.TK測定の結果,日本人の1日投与量(100 mg)

の血漿中薬物濃度を考慮すると,いずれの種においても十分な曝露条件下での評価が行われ たと考えられた.マウスの無毒性量は,13週間反復投与試験において300 mg/kg/日で一般状 態の悪化から瀕死期解剖された個体があったことから100 mg/kg/日,ラットの無毒性量は,6

ヶ月間反復投与試験において 20 mg/kg/日以上の群で過骨症が認められたことから 4 mg/kg/

日,イヌの無毒性量は,12ヶ月間反復投与試験において各種パラメータに種々の変化がみら れたものの,得られた所見はいずれも薬理作用に関連した変化,若しくは毒性学的意義の乏 しい変化と判断し,100 mg/kg/日と結論した.日本人の1日投与量(100 mg)との安全域は,

それぞれマウス35.4倍,ラット2.1倍,イヌ75.8倍であった.

ラット及びイヌを用いた反復投与試験において,カナグリフロジン水和物の薬理作用に起 因した尿中グルコース排泄量の高値とそれに伴う尿量の高値がみられた.これに加えて,尿 検査では尿中電解質,たん白,NAG及びGGT排泄量の高値が認められた.また,病理組織 学的には,ラットでは13週間反復投与試験において間質及び腎盂の鉱質沈着が,6ヶ月間反 復投与試験において尿細管の拡張及び移行上皮の過形成が認められた.一方,イヌでは 13 週間反復投与試験において尿細管の変性/再生及び拡張がみられたが,12ヶ月間反復投与試 験では腎臓に組織学的所見は認められなかった.尿中パラメータの変動については,GGT及 びカルシウムを除き,尿中濃度は対照群と同等,若しくは低濃度であったことから,尿量の 増加に伴う二次的変化と判断した.また病理組織学的変化についても,尿量の増加,若しく は尿中へのカルシウムを含む電解質排泄の増加に関連した変化であると判断した.

尿中の NAG 排泄量は,一般的には腎尿細管の傷害時に変動がみられるパラメータである が,エリスリトールの亜急性[38]及び慢性毒性試験[39]では,NAG排泄量の高値が認め られた.腎臓に組織学的所見は認められなかったこと,経時的に増悪しなかったことから,

NAG排泄量の増加は近位尿細管の傷害によるものではなく,尿量増加に伴う二次的な変化で あると考察されている.また,尿量の増加そのものが,尿中への NAG の排出を増加させる という報告がある[40].これらのことからも,投薬後にみられた尿中NAG排泄量の高値は 腎尿細管の傷害を反映したものではなく,尿量の増加に伴う二次的な変化である可能性が高 く毒性学的意義は低いと判断した.一方,尿中GGT排泄量は,ラット及びイヌを用いた13 週間反復投与試験において投薬群で高値であったが,フルクトース含有飼料給餌ラットを用 いた6ヶ月間反復投与試験及びイヌを用いた12ヶ月間反復投与試験では顕著な変動は認めら れず,必ずしも試験間で整合のとれた結果となっていない.尿中 GGT 活性は凍結融解に対 して不安定であるとの報告[41]もあり,尿中 GGT 活性の測定が適切に行われていない可 能性が否定できず,本変化の毒性学的意義の考察は困難である.ただし,測定までに凍結融 解の行われなかったフルクトース含有飼料給餌6ヶ月間反復投与試験では,本薬による尿中 GGT排泄の程度は対照群と比較して1.966倍(1ヶ月時)あるいは1.873倍(3ヶ月時)であ り,エリスリトール投与による浸透圧利尿時の尿中 GGT 排泄の増加(対照群の 1.38~2.71 倍)[38][39]と同程度であった.イヌでは12ヶ月間反復投与試験のデータを解析すると,

投薬群において投与前値に対する明確な増加は確認されなかった.以上の結果を総合的に考 えると,ラットにおける尿中 GGT 排泄量の増加は,尿量の増加に伴って認められた毒性学 的意義の低い変化であり,イヌにおいては尿中 GGT 排泄量に投薬による明確な影響は認め

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なお,イヌでは,13週間反復投与毒性試験の200/100 mg/kg/日群の雌においてのみ腎臓の 組織学的所見がみられ,血中尿素窒素及び尿中たん白排泄量の高値を伴っていたことから,

軽度ながら腎傷害が発現していた可能性が考えられる.同群では200 mg/kg/日投与期間中に 一般状態の悪化が著しく,雌ではDay 8,雄ではDay 9に投薬量を100 mg/kg/日に減じている こと,また,12ヶ月間反復投与試験では100 mg/kg/日群において腎臓に所見は認められなか ったことから,イヌでは最大耐量又はそれに近い用量で本薬が軽度な腎障害を惹起した可能 性が考えられる.

尿パラメータや腎における組織学的所見の他に,カナグリフロジン水和物の薬理作用に起 因すると考えられる変化として,ラット及びイヌでは血中グルコースの低値が認められた.

更に,ラットでは尿中にケトン体が認められ pH も低かったが,尿中グルコース排泄が過多 な状況での絶食により,体脂肪の異化が生じた結果であると推察される.また,ラットを用 いた反復経口投与試験の剖検及び病理組織学的検査において胃のびらんがみられた.この所 見は2週間以上の投薬で認められ,投薬期間が延長しても,腺胃粘膜の線維化やヘモジデリ ン貪食マクロファージの集積などの所見を伴わない急性の変化であり,同様の所見はマウス 及びイヌでは認められなかった.ラットを用いた胃のびらんの機序検討試験[2.6.6.8.2.1]で は,カナグリフロジン水和物を投与しても剖検前の絶食をしない場合は剖検時の血清中グル コースに変動はなく,胃のびらんも認められなかった.以上のことから,カナグリフロジン 水和物をラットに投与することによって誘発される胃のびらんは,投薬による血糖値の低下 と剖検前の絶食が組み合わさることによって誘発されたもので,本薬の胃への直接作用に起 因するものでないと判断した.消化器症状として,主にラットにおいて,軟便及び水様便が 認められた.SGLT1欠損者では,下痢,脱水を伴う重篤な腸管からの糖吸収障害(グルコー ス・ガラクトース吸収不全症)が生じることが知られている[11].カナグリフロジンは,

SGLT2に対する選択的阻害作用を示す薬剤であるが,毒性試験で用いる用量域では消化管局

所で高濃度となり,SGLT1に対して阻害作用を示した可能性が考えられる.

投薬に起因したラットに特徴的な変化として,膝関節及び胸骨の過骨症が挙げられる.こ れは2週間以上の投薬で認められ,投薬期間が延長しても顕著に増悪する傾向はなく,13週 間反復経口投与後に 8 週間休薬すると回復した.ラットを用いた過骨症の機序検討試験

[2.6.6.8.2.2.1]の結果から,投薬初期から骨形成及び骨吸収マーカーのいずれも低値を示し

たこと,病理組織学的に骨芽細胞には変化がなく,破骨細胞のサイズの減少がみられたこと から,過骨症は骨代謝が低下した中で骨吸収が骨形成よりも相対的に低下したために発現し たものと考えられる.また,血清中の活性型ビタミンD[1,25(OH)2D及び25(OH)D]が低値 であったが,尿中カルシウム排泄は顕著に高値であり,血清中カルシウムの変動は軽度であ ったことから消化管からのカルシウム吸収の増加が示唆された.ラットの体内カルシウム動 態に関する機序検討試験[2.6.6.8.2.2.3]を実施したところ,消化管からのカルシウム吸収量 が増大していることが明らかとなった.以上のことから,ラットの生体内ではカルシウムイ

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