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第 4 章 NICAM-LEKTF

4.2 パーフェクトモデル実験

4.2.3 考察

本研究では,低解像度のNICAM Glevel-5にLETKFを適応してNICAM-LETKFに よるデータ同化システムを構築し,その性能をパーフェクトモデル実験を行い調査し た.NICAMは雲解像を目的に開発された全球非静力学モデルであるため,モデル変数 が多く,LETKFが正常に動作する保証はなかったが,本研究により,適切に局所化を 行うことでアンサンブルサイズが20であっても安定して動作し,解析誤差は観測誤差 を大きく下回ることがわかった.さらに,LETKFが見積もる解析誤差であるアンサン ブルスプレッドは,実際の解析誤差であるRMSEに空間的にも一致し,解析誤差を的 確に捉えていると言える.

より高解像度モデルにLETKFを適応した場合は,モデルの自由度が上がるため,よ りアンサンブルサイズを大きくしなければならないと思われる.もしくは,局所化ス ケールを小さくする必要がある.逆に言えば,アンサンブルサイズを大きくして局所化 スケールを大きくすれば,LETKFのパフォーマンスは上がると考えられる.Szunyogh

et al. (2005)は,NCEP GFS T62/L28にLETKFを適応し,アンサンブルサイズ40 の場合によいパフォーマンスを得ることができ, また,局所化を適切に行うことで,ア ンサンブルサイズが40と80の場合の結果には実用上問題とされるほどの差は見られ ない,との結果が得られている.Miyoshi and Yamane (2007)では,比較的高解像度モ デルであるAFES TL159/L48にLETKFを適応し,そのパフォーマンスを調査した.

その結果,アンサンブルサイズを40から160にまで大きくしても,解析誤差に大きな 差はないことが示された.Szunyogh et al. (2005)とMiyoshi and Yamane (2007)を比 較すると,モデル解像度とアンサンブルサイズは比例関係にはないと言える.しかし,

順圧S-model-LETKFで示唆されたように,局所化を行うことでテレコネクションな

どの半球スケールのシグナルを無視してしまうことは十分に考えられる.また,サン プリングエラーを抑えるための強すぎる局所化はモデルの力学的構造を壊してしまう 可能性がある上,日々変化する情報を扱えるEnKFの利点をなくしてしまう.現実問 題としてアンサンブルサイズは計算機資源によって制限されており,局所化とサンプ リングエラーはトレードオフである.

本研究では,局所化スケールを変化させ,最適な局所化スケールを求めた.しかし,

結果でも示したように,局所化スケールの選び方によってLETKFの性能は大きく変 化し,アンサンブルサイズの違いを上回るほど,その変化は大きい.Houtekamer et al.

(2005)では,モデルにNCEP GFS T62/L28を使用し,局所化スケール770 kmの局所化 関数を用いている.またMiyoshi et al. (2007b)では,モデルにJMA-GSM TL159/L48 を使用し,局所化スケール500 kmの局所化関数を用いている.本実験では,NICAM のGlevel-5 (格子間隔224 km)を使用し,500 kmの局所化スケールが最もよいパフォー マンスを得た.これより,局所化スケールはモデル解像度と線形関係にあるわけでは ない.局所化スケールは,モデル解像度よりもモデルの持つ特性によるところが大き く,モデルの誤差相関距離を試行錯誤によって調査する必要があると思われる.

本実験では,局所化関数はガウス関数の近似関数を用いているが,誤差相関距離が 広がる方向は一定ではない可能性は十分にあり,ガウス関数を用いた局所化は適切では ないと考えられる.つまり誤差相関が強い方向には,誤差相関は遠くまで存在し,サン プリングエラーが支配的になる距離はより遠くなる.一方,誤差相関が弱い方向には,

サンプリングエラーが支配的になる距離は短い.Anderson (2007)では,動的に局所化 スケールを見積もる方法を調査している.また,本実験での観測分布は,全球均一に

分布しているため現実的な観測分布であるとは言えない.これが,局所化スケールに いくらか影響する可能性はある.均一な分布であれば,純粋に最適な局所化スケール を決めることができるが,不均一な分布であれば,海洋など観測の少ない場所では遠 くの観測でも同化することで,解析場が修正される可能性はある.そのためにも,日々 変化する誤差相関距離に応じた局所化は必要であると言える.また,気温,風などの 誤差相関スケールは総観規模スケールであると考えられるが,降水現象などは,局地 的なものもあり,誤差相関スケールは気温や風とは異なる.そのような場合,降水を 同化する場合に同一の局所化スケールを用いると,降水と風のどちらに局所化スケー ルを合わせるかが問題となる.降水に合わせた場合,局所化スケールはかなり小さく なり,EnKFのメリットを生かせない.一方,風に合わせた場合,降水を同化する際に はサンプリングエラーが含まれてしまう.そこで,数段階にわたって局所化スケール を変えることで観測を同化する手法が提案されている (三好2008).

本研究では,スプレッド膨張は,ある程度チューニングし,熱帯で3 %,それ以外

で1 %を用いた.しかし,実際には時空間的に一定値がよいという保証はない.擾乱が

存在するような場所では不確実性が大きいため,より観測を取り込みやすくする必要 があり,膨張係数は大きめにする必要があると考えるのは自然であると思われる.逆 に,擾乱が存在しない不確実性の小さい場所では,膨張係数は小さくてもかまわない.

Miyoshi and Kalnay (2005)では,膨張係数を動的に推定する手法を提案しており,尤 もらしい考えと言える.そこで,本研究でもカルマンフィルタを用いた膨張係数の動 的推定法を導入したところ,解析誤差の改善が見られた.これは,場所により異なっ たスプレッド膨張を行うことで,より適切にアンサンブルスプレッドの大きさを保つ ことができ,真の解析誤差を捕らえやすくなったと言える.

Kalnay et al. (2007) では、SPEEDYモデルを用いて、膨張係数の他に観測誤差の 動的推定も同時に行っている。それによると,観測誤差が不確かであっても,カルマ ンフィルタによって観測誤差を動的推定することにより,真の観測誤差に近づくこと が示されているが、より大規模な大循環モデルを用いた場合に適切に動作するのかは、

述べられていない.そこで、本研究でも,Kalnay et al. (2007) と同様にパーフェクト モデル実験のもとで膨張係数および観測誤差の動的推定を行った。その結果,モデル

にNICAMを用いた場合、データ同化サイクル初期に与えた観測誤差が不確かであっ

ても,カルマンフィルタによって観測誤差を動的推定することにより,真の観測誤差

に近づくことが示された.これにより、NICAMのような大規模モデルであっても膨張 係数および観測誤差の動的推定手法が有効であることと考えられる.実際の観測を同 化する際には,観測測器の変更などによって観測誤差も変化する.そのため,観測誤 差の動的推定法は,数値予報にとって有効な手法であると考えられる.

本研究では,地表気圧だけではなく3次元の気圧も観測要素として同化した.気圧 を観測として同化する場合,局所化などによる疎密波が悪影響を及ぼすと言われてい

る (三好 私信)が,NICAMは完全圧縮性の非静力学モデルであるため,観測を同化し

た際に発生する疎密波は,非静力の作用によって自動的に調節されるものと考えられ る.実際,3次元の気圧を同化することによる悪影響は見られなかった.

様々な研究で用いられているように,本研究では,適当な日付のJMA-GSMの解析 値をスピンナップさせたものを,初期値アンサンブルとした.観測を同化する前の初 期のアンサンブル平均は気候学的な場であり,日々の大気を表現しているわけではな い.しかし,観測を同化することで解析値は徐々に日々の大気を表現するようになる と考えられる.実際,本研究でもそのようにして観測にフィットするような解析場が 得られている.初期アンサンブルに必要とされるのは,ある程度のスプレッドを持ち,

バランスがとれており,酷似したメンバーがないことである.バランスがとれている というのは,初期値から積分してもノイズとなるような高周波が発生しないというこ とである.EnKFは,過去の情報を大気の持つメモリの分だけ引き継ぐので,不適切 な初期アンサンブルにより発生した高周波ノイズは,しばらくの間データ同化に悪影 響を及ぼすと考えられる.

ドキュメント内 4 次元データ同化実験 NICAM-LETKF の開発および (ページ 119-123)