5.1 各種勉強術、習得術の解析
(1)スピード・メモ・修得術
何事もそうであるが、身につく技術や技能とは、自ら学んだ内容であって教 育者が与えたものだけではないはずである。このため、自分で学び取る基本、“修 得術”については多くの専門家が解析してきた。特に、技術伝承の場にあって は、習う側の努力と教える側の意気(息)がピタリと合った時に、早期、かつ、
的確な伝承がなされることが判っている。これについて、分野は異なるが、筆 者達の剣道の師、故・佐久間三郎・範士八段に「碎啄(そったつ)の機」と教えて いただいたことがあった。この内容は「弟子が努力し、ちょうど、鳥が卵の殻 を破って出る時、親鳥が殻を外からつついてやる。この姿が弟子の育成には最 も良い。」という意味だそうである。要は、本人の努力があって、教える側の助 けが効く。殻から出たくないヒナに対して無理をして殻を割って出すと死に至 ることもあるし、逆に、殻が破れないで苦労しているヒナを眺めているだけだ と、疲れて殻を破ることを止めた結果、死に至ることもある、ということを示 した内容である。また、反面、教育の難しさも示唆する内容である。
そこで、修得術となるが、修得には一つの技術がある。この種の解析を専門 的に進め、研究されている斎藤孝(慶応大学)教授によると、頭の良さよりも
『段取り力』(この名で、筑摩書房から書も発行)が重要とされている。その要
点は図表 5-1-1-①〜②に示す内容である。そこには、習うということは、情報
をどのように整理し身につけ覚えるか?に左右されるので、「この面の段取りを 十分に行いなさい。」という内容が示されている。斉藤教授によると、「マニュ アルを読んで勉強するより、自分で情報を整理して使い、また、使うために整 理して自分で教えられる位に、情報の整理と引き出し方が整えば、もうその段 階でマニュアルを見なくても習ったことはマスター可能である。また、その具 体的な訓練は、メモをとるという簡単なことである。」とされている。
図表5-1-2にその要点を示すが、NASAアポロ13号の事件は映画にもなった
有名な宇宙危機からの脱出劇である。NASAの記録によるとアポロ13号は宇宙 で予期しない爆発が起きた。また、生還の可能性すら風前の灯火になる状態だ った。状況を正確につかんだNASAの地上スタッフは宇宙にある衛星と全く同 じ衛星シミュレーターを使って帰還対策を開始した。この対策で、帰還すべき 答えは出た。だが正確にその内容を伝えなければ生還はできない状況だった。
このためNASで行った情報伝達は、原始的だが、メモを正確にとらせて復唱し ながらステップをひとつづつ進めるという方法だった。
図表 5-1-1- ① 本人が技能を修得する基本手順
「段取り上手は仕事上手」という概念と修得の基本
【基本1】 特別な天才を除き、社会人生活においては、人には才能や能力の 差はない。「段取りの差」が仕事上手の差になる例が多い。
【基本2】 自分に合った整理と情報活用術の開発が大切である。
【基本3】 マニュアル人間は決めたことしかできないが、マ ニュアルを作成 してゆく人間は手順や段取り を普遍化させて行くわけだから、
能力が高い。 真似するのであれば、 この能力をつけることが 大切である。
社会へ出てから
仕事の成果 努力と経験で得た力
過去の蓄積・知識は 時代と共に役立た なくなる状況 若い 年代 定年
知識 応用力
評価:試験の 得点
図表 5-1- 1 - ② 本人が技能を修得する基本手順
【基本4】 メモ を取る力をつけることが大切!
3分間クッキングを題材に訓練すると良い。
・料理は段取りが悪いとできない。
・決定的となるチェック・ ポイントが整って いないと良い料理には ならない。
・真似て盗む極意は、質問と体験、 メモで記録に残す行為が基本!
一芸に秀でると多芸も理解できる(共通点が多いため)。
【基本5】 本当に自分のものにするには、
自分に合ったアレンジ が基本!
・ 性格、身長、体重、・・・・
肉体条件の差 ・ 納得までの理解の差 ・ 生活信条や歴史、経験の差
共立金属工業 坂口政博社長 文系出身者 たいていの改善は自分で行う方だが、
「鉄を切って簡単な溶接が出来ればたいていの 改善は出来る。」と話される(著書「段取り力」)
図表5-1-2 NASAアポロ13号の事故と対処
事故の概要 : 1970年月面着陸を目的に飛びだった13号は宇宙空間で予想して いなかった事故に遭遇した。電力供給タンクと、電力供給ラインの 故障は飲料水お供給不能にまで及んだ。
対処 : この絶望的とまで見られた内容は、地上の管制官と宇宙船に いた宇宙飛行士の連携で回避されたことは有名な事実である。
酸素ぎりぎりの状況で月の引力を介した帰還と地上でシミュレ ーターを使った対策と地上からの連絡・指示にはメモが大きく 役立てられた。
手順を伝える。
メモをとる。
確認する 次
へ ・
・ ・ 繰 り 返 す
急ぐ、緊張する。
疲労の限界の中で
手順を間違えない よう、押してはならない スイッチにはNO!と書 いた赤いメモもつけた。
複雑な処理をひとつ
づつ遂行 間違えはそのまま死 につながる状況!
NASAで正しい 手順を伝える手法 はフローチャート の活用だった。
何せ、意識までは地上のようには行かない宇宙で飛行士との連絡である。精 神的にも参っている中で危機脱出の手続きを進める状況だった。もし、ひとつ でも手順のミスをすれば、宇宙船は爆発、しかも、時間が切迫するなかで、交 信も十分ではない中で行った対処だったが、この対策は見事に実り、月の遠心 力を利用して帰還を果たしたことは映画にもなる快挙となった。もし、あと数 十秒ほど帰還が遅れれば酸素不足で全員が死亡という状態だった。アポロ13号 のクルーが全員無事に帰還できたことでは有名な事例である。そこで、このよ うな内容を詳細に分析した斉藤教授は、「メモをとり、情報を整理する力を鍛え れば、誰でも成人になれば技術伝承ができる。この手続きを「段取り力」とし て研究を進める。」という内容を紹介している。
筆者は、昨年、テレビで斉藤教授が段取り力の活用を行う放映内容を見る機 会があった。そこでは、女性の方々に料理番組『3分間クッキング』を2倍速で 見せ、メモをとってもらい、料理再現、という演出を行っていた。また、メモ を正確にとった方が料理すると、指導内容の再現率が高い例を紹介されていた が、「この速度でメモを取るのは訓練に尽きる。頭の良さではない。」と話され ていた。また、多くの実験データーから、訓練すればするほどメモ力はあがり、
料理の再現力は増して行く状態を示されていた。この内容を見て判ることだが、
修得術の基本は学生の記憶試験ではなく、メモを取り、整理して使うことであ
る。図表5-1-1-①の下に示す図のように大学受験までは記憶力、だが、実社会で
は、全てを頭の中に覚えるのではなく、情報を集め、整理し、活用可能な状態
にして行く仕事がほとんどである。人は、やがて年齢と共に忘れる率が高まる が、この方法なら歳や頭の良さに関係なく自分がやらなければならないことが 処理できる。従って、成人の世界では、記憶力に頼るより、新たな知識をメモ して集め活用する方式の方が優れた方式となっている。古い情報は捨て、新た な情報へ整理、統合して行く能力の方が学生時代の暗記テスト方式より勝るわ けである。現場で仕事するとき注意書きを見る行為は、学生時代に行ってきた 記憶再生という試験ではカンニング行為となる。だが、企業における作業や仕 事の現場ではカンニングではなく、確実に仕事をするために良い方法とされて きた。このため、製造現場では標準書やチェックリストで確認しながら仕事す る方式が活用されている。その理由はメモや注意書きがある法が注意点を記憶 している積もりでも忘れてトラブルを起こすよりも良いからである。
以上のような意味合いから、斉藤教授が推奨するメモ術は大変に有効な技術 習得術を提唱されていることになる。そこで、筆者は、この話しに悪のりする わけではないが、筆者が今まで新人育成に用いてきた『メモを用い、習った側 がマニュアルづくり』をここに紹介することにする。図表5-1-3が、その『スピ ード・メモ・修得法』だが、この方法はかつて生産管理のコンピュータ化に当 たって、現場関係者に端末などの操作を教える時に関係者と苦労の末に思いつ いた方法である。
特に重要な点をまとめてワンペーパー 標準書にする
図表 5-1-3 スピード・メモ修得法(SN式)
現場・現物で「やって見せ」方式で、教育しながら、習う側にメモを取らせる。
初心者はメモを整理 → 清書する。 これをベテラン(指導者)に見てもらい、修正・確認
清書(修正済み)マニュアルを初心者が見ながら、その前で、ベテランが再度教える内容を実施する。
新たな要素、仕事のコツなど質問事項を入れ、再度、習ったことを清書する。
今度は、ベテランがマニュアルを読みつつ新人に仕事を遂行してもらう 繰り返し
異常処理、特殊処理は 別の標準書にする。
JIT標準(視野の中に入れ 3点程を常にチェックしながら 仕事を進める)
変更時 維持・定着
コピーマシン方式 問題があれば、メッセージ が出る(示しておく)
パネルを開ければ対処 内容がわかる。→対処 関係者で対処できない 時は、指定された専門家 を予備対処願う SN式=Shigehiro
Nakamura 式の略称