2.1 技能とは?体得に必要な条件
(1)技能伝承の歴史
現在、技能伝承のニーズが各社で高まってきたが、今までも技術伝承問題は 古くて新しい問題として、製造現場では各種対策が図られてきた。ここでは、
まず、古来の人類の歴史を追い、技術伝承の要点が何であり、今後に向けて、
どのようなアプローチが必要になるか?といった内容を整理することにする。
では、まず、人類の歴史と技術伝承の関連から解析を進めることにする。図表
2-1-1 は人類創世記という太古〜現在に至るまでの内容を記載したものである。
人類学によると、過去、猿から分岐した類人猿が現在のホモ・サピエンスとい う人類に至るまで多くの苦難があったことが調査されている。一時代、ホモ・
サピエンスと同居していた北京原人が農耕人類園だったのに対して、ホモ・サ ピエンスは肉食を取り入れた類人猿だった。この変化が人類史の中でホモ・サ ピエンスが脳を大きく進化させたそうである。このため、ホモ・サピエンス達 は多くの智恵や知識を活用するようになり、また、これが脳の発達を大きく発 達させていったことが考古学の通説となっている。
図表2-1-1 技能の歴史的背景
類人猿の頃、冬に住居が必要!
貝で穴を掘る 考える
道具の工夫 + 掘る工夫
智恵
腕の錬磨修業の分野
技術
脳みそ駆使分野
+
ものづくり
大脳進化のメカニズムは今も全ては解明されていないそうだが、北京原人を 含めたそれまでの類人猿の脳が 450 グラムだったのに対し、ホモ・サピエンス
は 1,400 グラムまで重量が増加していった事実がある。北京原人とホモ・サピ
エンスが一緒に暮らしていたこともあった事実が残っているそうだが、北京原 人はやがて絶滅していった。今、我々ホモ・サピエンスだけが人として世界に 存在する人類である。この人類は、今のように生き抜いて栄えるまでに多くの 苦労を強いられた。そのひとつに冬の時期に住居が必要、食べ物が必要、とい った切実な内容があった。最初、住居は洞穴であった。この穴も、やはり住み 良いように工夫が必要になる。そこで、原人は貝で穴を掘る。そうしないと手 がたちまちにやられてしまうからだった。そこで貝を道具に使った。ここから が人類進化となった。すなわち、貝も使いやすいように木で固定する。・・・食 料を取るため、木の棒を使う。木の反発力を利用して矢を飛ばす、・・・という ように道具を使い、次々と改良を加え、より効率良く安全、快適にこの種の仕 事を進めたのであった。その結果、人類は「道具を使うことができるのは万物 の霊長である人類だけである。」という状態にまで発展していった。
人類が道具を使うようになると、どうしても、そこには人による道具の使い 方の差が出てくる。また、同じ道具に見えても、使う道具により効率面で差が 出る。即ち、より良い道具の追求がなされていったわけだが、このような内容 を民族に伝えるということは当然、太古の時代からあった。特に、優秀な人材 を選んで伝える。老齢化すると弟子に衣食住の援助を頼まなければならない長 老達は部族間の闘いの技術と共に、生きて民族を繁栄・維持するために大切な 内容と考えたことは、間違えない事実である。このような人類進化と今日に至 る内容を見ると、技術伝承とは①頭脳を駆使する分野と、どのように知識があ ってもそれを駆使できなければならないので、②知識や智恵を錬磨・修行して 身に付け駆使して行く分野、という二つの内容が一体化して発達していったこ とになる。
このように歴史を見直すと、実に自然なことであるが、頭脳を使う科学と技 術、体を使って訓練しつつ物事を実践しモノづくりや仕事を進める技能とは、
自ずとその取り組みの手法を区別し、個々の方法を考えて行かなければならな くなる。だが、逆に、一方だけでは物事が進まないのも事実である。図表2-1-2 をご覧いただきたい。上段は科学/技術/技能の区分だが、ルネッサンスの頃、
世界的に有名な 3 氏が科学+技術+技能の融合性を示している。このことは、
この当時から、この3種の区分と融合が検討されていたことを示す。
『手は第2の頭脳』という言葉がある。手先を駆使することで頭脳が活動し、
経験が蓄積され、工夫を考える。新たな方法や問題解決や創造活動が進む内容 は工芸、芸術の世界で多く見られる内容だが、我々は、この区分と共に、技能
の重要性を頭脳開発の局面からとらえるべきである。そこで、このような両者 のアプローチの差を図表2-1-3にまとめた。
図表2-1-2 技術と技能、その定義
科学:自然がどうなっているか?その原理や原則などを探求して客観的に真理を明らかにすることで あり、それを利用して現実の社会や世界を変化させることを直接の目的としたものではない。
技術:直接に新製品開発や設備化、更には環境を変化させる目的で活動する対策。
ここまでは頭の中の活動を中心とする。
技能:鍛えられた経験と智恵を使って、技術のような論理体系とは別に現実的な行動で問題解決や 製品実現を図る活動。従って、過去、議論や理屈と言った言語的な活動は軽視されることが 職人の世界では多かった。
科学:自然がどうなっているか?その原理や原則などを探求して客観的に真理を明らかにすることで あり、それを利用して現実の社会や世界を変化させることを直接の目的としたものではない。
技術:直接に新製品開発や設備化、更には環境を変化させる目的で活動する対策。
ここまでは頭の中の活動を中心とする。
技能:鍛えられた経験と智恵を使って、技術のような論理体系とは別に現実的な行動で問題解決や 製品実現を図る活動。従って、過去、議論や理屈と言った言語的な活動は軽視されることが 職人の世界では多かった。
【歴史的経緯】
科学と技術が結びつくようになってきたのはルネッサンス(14世紀後半〜15世紀)
されている。学者的伝統と職人的伝統が結びついた事例が多く創出されたからであ った。
例: ガリリオ・ガリレイ「天文学」に伴う各種技術と定理の証明は大工を中心 とした職人の現場から学ぶべきことを伝えている。
レオナルド・ダビンチ「高級職人」とまで言われた。学問に加え、絵画や 飛行機の創出など、多くの学問的な所産を手作りで示していった。
フランシスコ・ベーコン「人間性と科学を融合させる活動を図った。」所産 として、『百科事典』はこの思想でまとめた
定義の参 考:黒田光 太郎他2名「誇り 高い技術 者になろう」名 古屋大 学出版 会
技能とは?
技能とは?
知識として 頭に記憶 する
試験で
知識レベルを 評価する 論文を 出す
卒業!
図表2-1-3 技術と技能向上方法の差
① 苦労して覚える
② 失敗 は体験
③ 考える
④ 良き師やお手本を 研究する(技を盗む)
⑤ 以上の 目標を立て、
自ら体得 し、成果を 得る。
⑥ その道のプロ になる
体得する。
・手につく仕事 ・身につく技、・・・・など 試験通過が
資格の要点
技術とは技術とは
(2)歴史に学ぶ技能習得の要点
再度、第5章では技能を修得側が会得する方法解説をすることにし、第6章 では教育側が効率よく技能を伝承する方法に分け解説することにするが、ここ では、マクロ的に技能修得の要点を示すことにする。
まず、2004年に報告された記事を図表2-1-4 に例に合理化された企業におけ る技術伝承問題を探ってゆくことにする。ここには、第1章で示したトップが 戦略を検討し、系統的な展開を進めることが基本となるが、それを受け、教育 現場で何をすべきかがここに示されている。このデーターの一部に、メンテナ ンス業務を外注化しているという局面がある。だが、保全スキルを保有する人 材の減少、能力の低下が老朽化する設備保全を維持する上で重大な問題になっ ていることが判る。
図表 2-1-4 事故原因に対するアンケート
経済産業省によるアンケート結果:「人材現象63%とし、対策はトップの指導力としいる。」
0 20 40 60 80
保全スキルを保有する人材の減少 現場での保安技術力低下 使用設備の高齢化 設備のブラックボックス化に伴う事故時の対応
力低下
設備管理費用の不足に伴う事故発生リスクの 顕在化
その他 無回答
N=182
事故の発生につながる要因
この内容から判ることは、多くの合理化対策やIT化を始めとした技術革新が 大きく進展しても、やはりその種の技術を管理する上で人から人へ伝承しなけ ればならない暗黙知という領域が残る点である。また、この種の技能、即ち、
技術伝承は図表2-1-5に示すように、単なる知識の習得だけでは解決が難しい局 面がある。では、単に、誰でも良いから人を集めて訓練を繰り返しさえすれば 良いか?というと、それも充分ではない。技術の修得を必要とするからである。
技術修得とは、訓練+知識+体験という要素があって頭脳に蓄積され、いざと