第 6 章 ベクトル場と微分形式 103
6.3 線積分
が成り立つ. すなわち,曲線の長さ LC は曲線のパラメータ表示によらないことがわかる.
明らかに,曲線C 上で定義された連続関数f(x, y, z) (x, y, z)∈C に対して,積分
I
f(Φ(t))· TC(t)dt
の値が曲線C の向きを保つパラメータ表示によらずに決まることがわかる.すなわち,
du
dt >0 (t∈I) ならば
I
f(x(t), y(t), z(t))TC(t)dt=
J
f(˜x(u), y(u),˜ z(u))˜ T˜C(u)du が成り立つのである.この積分を線積分と呼び
C
f(x, y, z)ds と表す,ds=TC(t)dt は 線素である. さらに,I からJ へのC1級同型(全単射)写像 ϕ:I→J が向きを保たないと きには,すなわち, du
dt <0 (t∈I) ならば
I
f(x(t), y(t), z(t))TC(t)dt=−
J
f(˜x(u), y(u),˜ z(u))˜ T˜C(u)du
定義 線積分
C
f(x, y, z)ds=
C
f(x(t), y(t), z(t))· TC(t)dt .
線積分(の値)は曲線の向きを保つパラメータ表示によらない.
例えば,曲線C上のベクトル場 X(x, y, z) = (f(x, y, z), g(x, y, z), h(x, y, z)) ((x, y, z)∈C) に注目するときには,ds=||TC||dtであるから
C
X·tCds = b
a
X·TCdt = b
a
f(x, y, z)x+g(x, y, z)y+h(x, y, z)z
dt は接線方向成分の大きさの積分と考えられる.
例 Ωを R2 の有界閉領域とし,その境界∂Ωは有限個の区分的に滑らかな曲線からなる閉 曲線であるとする.A(x, y) = (f(x, y), g(x, y))をΩ上のC1級ベクトル場とする.曲線∂Ω の正の(領域Ωの内部を左に見て進む)向きのパラメータ表示がx=x(t), y=y(t) (a≤t≤b) であるとき,曲線∂Ωの単位法線ベクトル n= 1
x(t)2+y(t)2,(y(t),−x(t)) を考えると
線積分
∂ΩA·nds =
∂Ω
f(x, y) y
x2+y2 −g(x, y) x x2+y2
ds
= b
a
f(x, y) y
x2+y2 −g(x, y) x x2+y2
·
x2+y2 dt
= b
a
f(x, y)y −g(x, y)x
dt
が成り立つ,ただし 境界∂Ωに沿っての線積分は正の(領域Ωの内部を左に見て進む)向きに積 分する.
D. 一次微分形式の線積分 曲線上沿っての線積分を一次微分形式に関連して表現することは,
曲面上での線積分と面積分の関係を示すStokesの定理を理解するためにも重要である.
空間R3のある領域で定義された関数f(x, y, z), g(x, y, z), h(x, y, z)とこの領域内にある 滑らかな曲線
C : x=x(t), y=y(t), z=z(t) (a≤t≤b)
を考える.ここで 曲線が滑らかとは, 関数x(t), y(t), z(t)がC1級であるという意味である.
定積分 b
a
f(x(t), y(t), z(t))x(t) +g(x(t), y(t), z(t))y(t) +h(x(t), y(t), z(t))z(t)
dt を曲線 Cに沿っての一次微分形式 ω=f(x, y, z)dx+g(x, y, z)dy+h(x, y, z)dz の線積分
といい
C
ω または
C
f(x, y, z)dx+g(x, y, z)dy+h(x, y, z)dz
と表す.曲線C に沿っての一次微分形式ωの線積分について,曲線 C上の(一次微分形式ω に付随する)ベクトル場
X(x, y, z) = (f(x, y, z), g(x, y, z), h(x, y, z)) ((x, y, z)∈C) に注目するときには,
C
X·tCds =
C
f(x, y, z)dx+g(x, y, z)dy+h(x, y, z)dz=
C
ω が成り立っている.
(一次微分形式の)線積分の性質:
一次微分形式 ω=f(x, y, z)dx+g(x, y, z)dy+h(x, y, z)dz を考える.
(1) 曲線Cの向きを変えないパラメータの変換
t=ϕ(τ) (α≤τ≤β) ϕ(τ)>0 (α≤τ≤β), a=ϕ(α), b=ϕ(β) を行っても線積分の値は変わらない.すなわち
C : x(τ) =˜ x(ϕ(τ)), y(τ) =˜ y(ϕ(τ)), z(τ) =˜ z(ϕ(τ)) (α≤τ≤β) に対して,
C
ω =
C
f(x, y, z)dx+g(x, y, z)dy+h(x, y, z)dz
= b
a
f(x(t), y(t), z(t))x(t) +g(x(t), y(t), z(t))y(t) +h(x(t), y(t), z(t))z(t)
dt
= β
α
f(˜x(τ),y(τ˜ ), ˜z(τ))˜x(τ) +g(˜x(τ), y(τ˜ ),z(τ))˜˜ y(τ) +h(˜x(τ),y(τ˜ ),z(τ))˜˜ z(τ)
dτ
(2) 曲線Cの向きを変えるパラメータの変換
t=ϕ(τ) (α≤τ≤β) ϕ(τ)<0 (α≤τ≤β), b=ϕ(α), a=ϕ(β)
を行うと線積分の値は−1倍される.すなわち,曲線C の向きを変えたものを−C と表すと
−C : x(τ) =˜ x(ϕ(τ)), y(τ) =˜ y(ϕ(τ)), z(τ) =˜ z(ϕ(τ)) (α≤τ≤β) に対して, −
C
ω =
−C
ω.
(3) 曲線Cが二つの曲線
C1 : x=x1(t), y=y1(t), z=z1(t) (a≤t≤c) C2 : x=x2(t), y=y2(t), z=z2(t) (c≤t≤b)
に(互いに重ならないように)分割されるとき
C
ω=
C1
ω+
C2
ω.
(4) 一次微分形式についての線形性 二つの一次微分形式
ω1=f1(x, y, z)dx+g1(x, y, z)dy+h1(x, y, z)dz ω2=f2(x, y, z)dx+g2(x, y, z)dy+h2(x, y, z)dz に対して
ω1+α ω2 =
f1(x, y, z) +αf2(x, y, z) dx+
g1(x, y, z) +αg2(x, y, z) dy +
h1(x, y, z) +αh2(x, y, z) dz と定義するとき
C
ω1+α ω2
=
C
ω1+α
C
ω2 (α∈R).
線積分
C
ω は空間 R3 上の座標系の取り方によらない(すなわちC1 級座標変換に対して 不変である).
問 滑らかな平面曲線 C:x=x(t), y=y(t) (a≤t≤b)は自然に空間曲線 C˜ :x=x(t), y= y(t), z= 0 (a≤t≤b) と見なせる.また,平面上で定義された二変数関数f(x, y)も自然に空 間で定義された連続関数 f˜(x, y, z) =f(x, y) と考えることができるので,平面上の二変数連 続関数によって定義される一次微分形式 ω=f(x, y)dx+g(x, y)dy が与えられた場合に, 空 間上の一次微分形式 ω˜ = ˜f(x, y, z)dx+ ˜g(x, y, z)dy+ 0dzが自然に考えられる.
このことから, 平面曲線C と平面上の二変数連続関数によって定義される一次微分形式 ω=f(x, y)dx+g(x, y)dy が与えられた場合に,平面R2 上の線積分をつぎの関係式
C
ω =
C˜
˜ ω を通して定義することができる.
このとき,平面R2 上の線積分
C
ω が座標系の取り方によらないことを示せ.