第 6 章 ベクトル場と微分形式 103
6.6 曲面上での Stokes の定理
6.4 Green の定理では,平面内の有界閉領域とその境界である単純閉曲線上定義された一次 微分形式に付随するベクトル場を使って,平面上のベクトル場の発散(量)定理としてGreenの 定理を示した.ここでは,空間R3のある領域で定義されたベクトル場について,(この領域内の) 曲面S 上の単純閉曲線C に沿う線積分とC を境界とする(S 内の)閉領域(C)での面積分と の関係を与えるStokesの定理を証明する.
D. Stokesの定理 (Greenの定理の一般化) 空間R3 にある曲面S のパラメータ表示を考える:
ϕ(u, v) = (x(u, v), y(u, v), z(u, v))∈S (u, v)∈D ,
ただし x(u, v), y(u, v), z(u, v) ((u, v)∈D) は平面領域 D(⊂R2) で定義されたC1級関数.
曲面S 上の点
ϕ(u, v) = (x(u, v), y(u, v), z(u, v)) (u, v)∈D での法線ベクトル
N =N(u, v) =ϕu(u, v)×ϕv(u, v) =
yu yv zu zv ,
zu zv xu xv ,
xu xv yu yv
の長さ
||N(u, v)||= , --.
yu(u, v) yv(u, v) zu(u, v) zv(u, v)
2
+
zu(u, v) zv(u, v) xu(u, v) xv(u, v)
2
+
xu(u, v) xv(u, v) yu(u, v) yv(u, v)
2
を使って,曲面S 上の任意の連続関数p(x, y, z)に対して面積分
S
p(x, y, z)dS=
D
p(x(u, v), y(u, v), z(u, v))||N(u, v)||dudv が計算される.
さて,曲面S 上の滑らかなベクトル場
X(x, y, z) = (f(x, y, z), g(x, y, z), h(x, y, z)) ((x, y, z)∈S)
(関数f(x, y, z), g(x, y, z), h(x, y, z)は曲面S の近傍で定義されてC1級)と曲面S 上にあ る滑らかな単純閉曲線Cを考える.閉曲線C のパラメータ表示は曲面S のパラメータ表示と 領域D の滑らかな単純閉曲線γのパラメータ表示から
⎧⎪
⎨
⎪⎩
C : x=x(u(t), v(t)), y=y(u(t), v(t)), z=z(u(t), v(t)) γ : [a, b]−→(u(t), v(t))∈D はC1級
(u(a), v(a)) = (u(b), v(b))∈D
によって得られているとし,領域D 内で単純閉曲線γ に囲まれた内部領域を(γ)と現すとき,
単純閉曲線γの向きは正(領域(γ)の内部を左に見て進む)とする.そのとき,線積分
C
X·tCds=
C
ω=
C
f(x, y, z)dx+
C
g(x, y, z)dy+
C
h(x, y, z)dz
が成り立つ,ここで ω=f(x, y, z)dx+g(x, y, z)dy+h(x, y, z)dz はベクトル場X に付随す る一次微分形式である.さて,線積分の各項はつぎのように計算される:
C
f(x, y, z)dx = b
a
f(x(u(t), v(t)), y(u(t), v(t)), z(u(t), v(t)))· d
dtx(u(t), v(t))dt
= b
a
f(x(u(t), v(t)), y(u(t), v(t)), z(u(t), v(t)))
×
xu(u(t), v(t))u(t) +xv(u(t), v(t))v(t)
dt
=
γ
f(x(u, v), y(u, v), z(u, v))xu(u, v)du
+f(x(u, v), y(u, v), z(u, v))xv(u, v)dv
=
(γ)
−∂
∂vf(x(u, v), y(u, v), z(u, v))xu(u, v) + ∂
∂uf(x(u, v), y(u, v), z(u, v))xv(u, v)
dudv (Greenの定理)
=
(γ)
−(fxxvxu+fyyvxu+fzzvxu)−fxuv
dudv +
(γ)
(fxxuxv+fyyuxv+fzzuxv) +fxvu
dudv
=
(γ)
fy(−yvxu+yuxv) +fz(zuxv−zvxu)
dudv . 同様の計算から
C
g(x, y, z)dy=
(γ)
gz(−zvyu+zuyv) +gx(xuyv−xvyu)
dudv ,
C
h(x, y, z)dz=
(γ)
hx(−xvzu+xuzv) +hy(yuzv−yvzu)
dudv . こうして
C
ω =
C
f(x, y, z)dx+g(x, y, z)dy+h(x, y, z)dz
=
(γ)
fy(−yvxu+yuxv) +fz(zuxv−zvxu)
dudv +
(γ)
gz(−zvyu+zuyv) +gx(xuyv−xvyu)
dudv +
(γ)
hx(−xvzu+xuzv) +hy(yuzv−yvzu)
dudv
=
(γ)
(hy−gz)(yuzv−yvzu) + (fz−hx)(zuxv−zvxu) + (gx−fy)(xuyv−xvyu)
dudv
=
(γ)
(hy−gz)
yu yv zu zv
+ (fz−hx)
zu zv xu xv
+ (gx−fy)
xu xv yu yv
dudv · · · · (∗)
今,曲面S 上の滑らかなベクトル場X の回転
rotX= (hy−gz, fz−hx, gx−fy)
(ベクトル場X の回転 rot X はcurl X と書き表されることも多い.)に着目すると,この
重積分(∗)は,ベクトル場rotX の曲面S 内の領域(C)上での法線面積分
(C)
rotX·ndS に等しいから,
C
X·tCds=
C
ω =
(C)
rotX·ndS を得る.
こうして,滑らかな曲面Sの近傍で定義されたC1級ベクトル場X に関して,曲面S 上の単 純閉曲線C に沿ってのベクトル場X の線積分とC で囲まれたS 内の領域(C)でのベクトル 場X の法線面積分を結びつける量的関係が得られる:
Stokesの定理 空間R3にある滑らかな曲面S 上の滑らかな(正の向きの)単純閉曲線C と
曲面S を含む領域で定義されているC1 級ベクトル場X が与えられたとき,
C
X·tCds =
(C)
rot X·ndS .
ここで(C)は単純閉曲線Cで囲まれた曲面S 上の領域で ある.
このStokesの定理はつぎのように表現することもできる:
曲面S の近傍で定義されている滑らかな一次微分形式 ω=f(x, y, z)dx+g(x, y, z)dy+h(x, y, z)dz ((x, y, z)∈S) が与えられたとき,一次微分形式ωに付随するベクトル場
X
S C
X
X(x, y, z) = (f(x, y, z), g(x, y, z), h(x, y, z)) ((x, y, z)∈S)
を考えると
C
X·tCds =
C
ω =
(C)
rotX·ndS .
例1 曲面S 上のベクトル場(例えば,曲面 S 上を流れるある流体の速度ベクトル場)V を 想像してみる.この曲面S 内に閉曲線Cと C で囲まれた内部(C)が在る場合には,
C
V ·tCds=
(C)
rotV ·ndS
が成り立っている.曲線C 上でベクトルV の接線成分を積分した量が,ベクトル rot V の (曲面S に対する)法線成分を内部(C)で積分した量となっているのである.ベクトル場 V か ら得られるたベクトル量 rotV (の法線成分)は,このベクトル場V がある流体の速度ベクト ル場である場合には渦度(Vorticity)と呼ばれている.
今,原点を中心とする半径R >0 の球面S2 でのベクトル場V(x, y, z) = (−y, x,0) とz0 を固 定して得られる球面上の閉曲線C : x2+y2+z20=R2 に対し,Stokesの定理を確かめよう.
空間極座標系でz0=Rcosθ0 0< θ0< π 2
とすると,曲線C のパラメータ表示は C : x=Rsinθ0cosϕ, y=Rsinθ0sinϕ, z=z0 (0≤ϕ <2π) である.
rotV = ∂ 0
∂ y −∂ x
∂z, ∂(−y)
∂z −∂0
∂x, ∂ x
∂x −∂(−y)
∂ y
= (0,0,2) 6.1 D 例 で述べたように,球面S2 の法線ベクトルN は
N(θ, φ)=R2sinθ sinθcosϕ,sinθsinϕ,cosθ であるから,
(C)
rotV ·ndS= 2π
0
θ0
0
2R2sinθcosθ dθdϕ= 2πR2sin2θ0.
曲線C の接線ベクトルT は
T(φ)=Rsinθ0 −sinφ,cosϕ,0 であるから,
C
V ·tcds= 2π
0 V ·Tdϕ= 2π
0
R2sin2θ0dϕ= 2πR2sin2θ0.
例2 空間R3 内の(有限個の)滑らかな曲面S で囲まれた領域V 内の点x= (x, y, z) における電荷の密度分布ρ(x, y, z)とする. 領域V 内の電荷から,領域V 外の任意の点 x=x(x, y, z)にある単位電荷に働く力E(x, y, z)は,クーロン(Coulomb)の法則および力の 和はベクトルの和として計算されることから(領域V 内の電荷ρ(x)から決まる静電場として)
E(x) =
V
ρ(x) x−x
||x−x||3dxdydz
を満たしている.この静電場E(x)の回転rotE を計算しよう.微分と積分の順序変更を行うと rotE(x) =
V
ρ(x) rot x−x
||x−x||3dxdydz = 0 何故ならば, x−x
||x−x||3 =−grad 1
||x−x|| かつ rot grad≡0.
問題6.6
1 空間R3 の領域D で定義されたC2級関数f(x, y, z)の一次微分形式df に付随する ベクトル場 gradf = (fx, fy, fz) に対して,rot gradf = 0 を示せ.(ベクトル場 gradf は スカラー場f の勾配ともいわれる.)
2 空間R3 の領域V で定義されたC2級ベクトル場 A に対して,div rotA = 0 を示せ.
3 定ベクトルω= (a, b, c)∈R3, 位置ベクトルr= (x, y, z)∈R3によって,空間R3 上 のベクトル場 v=ω×r を定義する.rotv = 2ω を示せ.
4 先の 例1 の状況で,y0 を固定して得られる球面上の閉曲線 C : x2+y20+z2=R2 に 対して,
C
V ·tcds と
(C)
rotV ·ndS を計算せよ.
5 先の 例1 の状況で,球面S2上のベクトル場 V(x, y, z) =
xz
x2+y2, yz
x2+y2,− x2+y2
に対してストークスの定理を確かめよ.
6 半径R(>0)の球面 S2 上のベクトル場 V(x, y, z) =−R
xz
x2+y2 + y
x2+y2, yz
x2+y2 − x
x2+y2, −1
に対して, rotV ·n を計算せよ.