DSSD
5.3 線源を用いたデータのコンプトン再構成
作製したコンプトン望遠鏡に57Coからのガンマ線を照射して、コンプトン望遠鏡としての動 作の実証を行った。
DSSD
θ
図5.7: コンプトン運動学によって求めた円錐面とある平面の交線を描いていく様子
3
θ=θ θ=θ
1
2 1
3
θ=θ
2
θ < θ < θ
図5.8: コンプトン再構成の際に描く楕円の線密度。散乱角θが小さく、小さな楕円が描かれ るイベントほど、線密度の大きな楕円を書かなければならない。
5.3. 線源を用いたデータのコンプトン再構成 45 線源を置いた場所は、DSSDの上17 cmで、図5.6で定めた座標系でのx–y平面における線 源位置座標は(40,32)(単位はmm)である。測定温度は20 ◦Cで、CdTeピクセルには500 V、 DSSDには110 Vをそれぞれバイアスとして加えた。CdTeピクセルのTAのディスクリミネー タのスレッショルドレベルは、∼25 keV相当に設定した。
5.3.1 各層でのエネルギーデポジット
図5.9は、コンプトン望遠鏡に57Coからのガンマ線を照射したときの、CdTe検出器でのトリ ガーイベントのエネルギーデポジット(横軸)とDSSDでのエネルギーデポジットの全チャンネ ル中の最大値(縦軸)の関係である。DSSDでのデポジットが小さいイベントが多く見られるが、
これはDSSDで相互作用をせず、CdTeで光電吸収したイベントであると考えられる。
図中の赤色の曲線は、コンプトン散乱の散乱角θ= 90◦を表す曲線である。具体的には、2.1式 にθ= 90◦を代入することで得られる、
E1= E22
mec2−E2 (5.1)
(E1, E2はそれぞれDSSDおよびCdTeでのエネルギーデポジットである。)で表される曲線であ る。したがって、この曲線の上の領域ではθ >90◦であり、下の領域ではθ >90◦ということに なる。一方で、測定における線源の位置と検出器の配置から、DSSDでコンプトン散乱されCdTe で光電吸収されるイベントについて、幾何学的にとりうるθの最大値は90.1◦と求められるので、
実際に1回散乱され吸収されるイベントのほぼ全てが、この曲線より下の領域にあるはずである。
図中の緑色の直線に挟まれた領域はE1+E2が122±5 keVの領域、また青色の直線に挟まれ た領域はE1+E2が136±5 keVの領域を表す。したがって、57Coの122 keVと136 keVのガ ンマ線のうち、DSSDでコンプトン散乱を受けCdTeで光電吸収されたイベントは、赤色の曲線 とこれらの直線にはさまれた領域にあることになる。
このプロットを見ると、CdTeでのエネルギーデポジットによらず、DSSDで20 keV–30 keV のデポジットのあるイベントが多いことがわかる。これは、CdTeで光電吸収が生じた際に、Cd やTeの蛍光X線がCdTe検出器から外に逃げ、それがDSSDで吸収されたイベントによるもの であると考えられる。これらのイベントのうち、赤い曲線より下にあるイベントについては、そ れが、蛍光X線によるイベントなのか、コンプトン散乱によるイベントなのか、このプロットだ けでは区別がつかない。しかし、後で述べるように、コンプトン再構成で求まる到来方向の制限 を課すことで、その区別をつけることができる。
図5.9: 57Coからのガンマ線を照射した時の各層でのエネルギーデポジット。横軸がCdTeピ クセルでのトリガーイベントのエネルギーデポジット(E2)、縦軸がその時のDSSD全チャン ネル中で最も大きかったエネルギーデポジット(E1)である。赤い線より上の領域のイベント は、検出器と線源の位置関係からDSSDでコンプトン散乱し、CdTeで光電吸収したイベン トではないと考えられる。青い直線に挟まれた領域はE1+E2が122±5 keV、緑色の直線 に挟まれた領域はE1+E2が136±5 keVの条件をそれぞれ満たす領域。
5.3. 線源を用いたデータのコンプトン再構成 47
5.3.2 コンプトン再構成の結果
5.2で述べた流れに従って、データを解析し、コンプトン運動学による入射方向からガンマ線の イメージを作るとともに、スペクトルを求めた。その際、次のような条件を満たすイベントを、
解析の対象にした。
1. DSSDでのエネルギーデポジットが10 keVより大きい。
2. CdTeおよびDSSDで、エネルギーデポジットが250 keVより小さい。
3. コンプトン運動学から求まる散乱角が0◦< θ <90◦ である。(図5.9で赤い曲線よりも下に ある。)
2.の条件は、IFC上の増幅器で、300 keV程度よりの高いエネルギーのガンマ線が入ると、出力 が飽和してしまう設定で測定を行ったので、そのようなイベントを除くために課した。
実際の測定で得られたデータを用いて、コンプトン運動学で求まる楕円を線源の位置を含み検 出器と平行な平面に描いていく様子が図5.10である。さらに、全イベントについてこのような弧 を描き、描かれた弧の重なり具合を等高線で表して作ったイメージが図5.11である。線源の位置 付近に多くの弧が交わっている様子がはっきりとわかる。
x [mm]
-300 -200 -100 0 100 200 300
y [mm]
-300 -200 -100 0 100 200 300
図5.10: 実際のデータで描かれた円錐面
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000
x [mm]
-400 -300 -200 -100 0 100 200 300 400
y [mm]
-400 -300 -200 -100 0 100 200 300 400
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000
図5.11: コンプトン再構成による57Co線源のイメージ。その位置をはっきりと確認することができる。
5.3. 線源を用いたデータのコンプトン再構成 49 コンプトン再構成の結果求まった光子の到来方向が、線源の位置と一致したイベント(図5.11 で線源位置を囲む−50 < x <100かつ−50< y < 100の領域と描かれた円弧が交点を持ったイ ベント)について、E1とE2の関係をプロットしたものを図5.12に示す。図5.9と比較すると、
E1が20 keV–30 keV程度のところに見られた蛍光X線によると思われるイベントが少なくなっ ていることがわかる。
このことは図5.13を見ても明らかである。この図はDSSDでのエネルギーデポジットのスペ クトルであり、黒色のスペクトルは、図5.9で赤い曲線より下にある全イベントのDSSDでのス ペクトルを表し、赤色のスペクトルは、その中で、コンプトン運動学から求まる到来方向が線源 方向と一致(コンプトン再構成によって求まった到来方向が、図5.11の−50 < x < 100かつ
−50< y <100の領域と交わった)イベントのDSSDでのスペクトルである。黒色のスペクトル
では、CdTe検出器からの蛍光X線によるピークが20 keV程度のところに顕著に見られるが、コ ンプトン運動学によって求めた到来方向で制限を付けた赤色のスペクトルでは、そのピークがほ とんどなくなっている。このことから、エネルギーだけでは区別がつかなかった蛍光X線がCdTe 検出器から逃げたことによるイベントとコンプトン散乱によるイベントを、コンプトン運動学に よって区別することができたことがわかる。ただし、赤色のスペクトルにもわずかながら、23 keV 付近にピークのような構造が見られる。これは、蛍光X線によるイベントではあるが、計算され た到来方向が線源方向と偶然一致したイベントによるものだと考えられる。
図5.12: コンプトン再構成の結果、求まった到来方向が線源位置と一致したイベントによる
E1とE2の関係
図5.13: コンプトン望遠鏡でのDSSDのスペクトル。黒が図5.9で赤い曲線より下の領域に ある全てのイベント、赤がそのうちコンプトン再構成によって求まる到来方向が線源の方向 と一致するイベントのスペクトル。
5.3. 線源を用いたデータのコンプトン再構成 51 図5.11のイメージで、線源付近に交点を持つイベント、具体的には、線源位置を囲む−50 <
x <100かつ−50< y <100の正方形部分と交点を持つイベントのみを抜き出して、取得した入
射ガンマ線のスペクトルが図5.14である。57Coの122 keVと136 keVのピークをはっきりと確認 することができる。122 keVでのエネルギー分解能は∆E= 5.0 keV (FWHM)であった。20◦Cに おいて、測定時のDSSDのエネルギー分解能が∼3 keV、CdTeピクセル検出器のエネルギー分解 能が∼4 keVで、このコンプトン望遠鏡のエネルギー分解能は∆E =√(∆EDSSD)2+ (∆ECdTe)2 と表されるので、ほぼ予想通りの結果と言える。
図5.14: コンプトン望遠鏡によって取得した57Coのスペクトル。122 keVのラインと136 keV のラインをはっきり区別することができた。
5.3.3 角度分解能
試作したコンプトン望遠鏡の角度分解能を定量化するために、あらかじめわかっている線源の方 向と、コンプトン運動学によって求まるガンマ線光子の到来方向を比較した。ここで、角度θGeom を図5.15のように定義する。この角度は、各検出器における入射ガンマ線の反応位置とあらかじ めわかっている線源の位置だけで求まる。この角度と各層でのエネルギーデポジットからコンプ トン運動学を用いて求まる散乱角θCompとの差の分布を調べることで、実際の角度分解能を見積 もることができる。
得られた分布を図5.16に示す。この分布は入射光子のエネルギーが122 keVのイベントのみを 取り出したものである。これをガウス関数でフィッティングして、∆θ= 9.8◦(FWHM)を得た。以 下に、この値の妥当性を検証する。
γ
DSSD
CdTe pixel Position of the Source
(known)
θGeom
図5.15: θGeomの定義
コンプトン望遠鏡の角度分解能は以下の3つの要素で決まる[40]。 (1) 各検出器のエネルギー分解能
(2) 各検出器の位置分解能
(3) コンプトン散乱におけるドップラーシフトの効果 である。
(1)コンプトン望遠鏡の角度分解能が各検出器のエネルギー分解能に依存するのは、2.1式にあ るように散乱角θが各層でのエネルギーデポジットの関数で表されるためである。 散乱角θ= 60◦ として、各層でのエネルギー分解能とコンプトン望遠鏡の角度分解能の関係を示したものが図5.17 である。
(2)検出器の位置分解能により、コンプトン運動学から決まる円錐面を描く際に、円錐の軸の方 向の決定精度が決まる。2 mmの位置分解能を持つCdTeピクセル検出器と300µmの位置分解 能を持つDSSDを用いた今回の実験の場合、散乱角θ= 60◦を仮定すると、最終的に求まる光子 到来方向の決定精度が2◦程度になる。
(3)ドップラーシフトの効果は、光子がコンプトン散乱をする相手である電子が、原子核の周り を運動しているために生ずる効果である[40][41]。静止している電子とのコンプトン散乱を受け た光子の持つエネルギーは、運動量保存則とエネルギー保存則から、良く知られた式、
E = Ein
1 +mEin
ec2(1−cosθ) (5.2)
で表される。ここでEinは入射光子のエネルギーである。電子が原子核の周りの軌道で運動して