第4章  高温酸化したEB‑PVD遮熱コーティング の残留応力分布解析

4.1  緒言

前章の研究から回転成膜法によるEB‑PVD遮熟コーティングの残留応力分布と柱状組織の特徴 が明らかになった.その結果,回転成膜法によるEB‑PVD遮熟コーティングは,回転速度が速い ほど圧縮の残留応力が少なく,耐熱サイクル性に優れている.また,面外方向の残留応力もなく耐 はく離性も期待できる.しかし,その残留応力が高温長時間の酸化により,どのように変化するか については,まだ明らかになっていない.高温酸化による熟生成酸化物TGO (thermally grown oxide)やコーティング組織の変化については研究が進められているが[1‑5],まだ不明な点も多い.

特に,高温酸化による残留応力の変化挙動は大きな圧縮を報告しているが[1,2,5】,そのような大 きな圧縮に膜が耐えているとは考えにくい.

高エネルギー放射光X線とラボX線を組み合わせた残留応力の評価方法は,プラズマ溶射によ る遮熟コーティングの研究で有効であることがわかっている[6‑8].この手法を高温酸化処理した EB‑PVDの遮熟コーティングに用いれば,高温酸化による残留応力の変化についても明らかにで きることが期待できる.また,配向の強いEB‑PVD過熱コーティングのⅩ線応力測定についても 研究が進んでいる[サ].

本研究では,試料を1273Kの高温に加熱・保持して大気中で200hの酸化を試験片に与え,'そ の残留応力分布の変化を非酸化試験片と比較して,酸化されたEB‑PVD遮熟コーティングの残留 応力分布を明らかにする.また,高温酸化されたコーティング組織の観察を行い,高温酸化によ

る材料挙動を検討する.

4。2 実験方法

4.2.1 コーティングおよび高温酸化

試験片の基材,コーティングなどは前章と同じであり,板厚2.8mmのNi基超耐熱合金(IN738LC) の基材上にCoNiCrAIYを減圧プラズマ溶射してボンドコーティングとした.ボンドコーティング 厚さは,約0.18mmである.その上に,トップコーティングとして4mol%Y203‑Zr02をEB‑PVD

にて成膜した.

電子ビーム出力45kWでジルコニアインゴットからジルコニアを遊離させ,基材を成膜中に毎 分5, 10, 20回転させながらトップコーティングを成膜した. EB‑PVDによる成膜時の基材の予 熱温度を1223K,成膜時間を1500sとした.さらに,試験片を高温酸化させるのた釧こ,電気 炉にて1273Kの大気中で200hの高温保持した(図4.1).本研究では,それらの高温酸化処理した 試験片を基板回転数に対応してそれぞれR5X, RIOX, R20Xと呼ぶ.トップコーティング厚さは, R5X, RIOX, R20Xとも約120/imである.

第4車 高温酸化したEB‑PVD遮熟コーティングの残留応力分布解析

Figure 4.1: Heating the specimen in order to oxidize (1273K, 200h).

4.2.2 ラボX線応力測定

トップコーティング面内方向の応力qlは,前章と同様にラボX線によるsin ‑0法により行った.

EB‑PVDによるZrO2 TBCは配向が強いので,試験片を面内回転ステージに装着して応力測定 を行った.各測定プロファイルはZr02の133回折と331回折に波形分離できるR5およびRIO は,主に各ピークの平均から回折角を決定した.ただし, 331回折が得られず波形分離ができな

Table 4.1: X‑ray conditions for in‑plane stress measurement

Sp ecim en R 5Ⅹ R 10X R 20X

R otation of substrate 5 rpm 10 rpm 20 rpm

O xidization 1273 K ,200 h

R ad iations C ト∬α

T ub e voltage 30 kV

T ub e current 30 m A

F ilter Ⅴ

D i缶action Z rO 2 133 + 331,133 ZrO 2 133 D iffraction angle, 20 154.17 deg (133 + 331)

153.06 deg

153.06 deg

Scanning step 0.1 deg′step

S cannin g angle 2β 150 159 deg

P reset tim e 4 sec

tb angle 35 40, 50 55 deg 36 42,70 75 deg

Stress constant K ‑ 189 M P a/deg (133+ 331)

‑ 198 M P a/deg

ー198 M P a/deg

4.2.実験方法 37

Table 4.2: Conditions for synchrotron X‑ray

Specim en num ber R 5Ⅹ R 10X R 20X

R otation of substrate 5 rpm 10 rpm 20 rpm

O xidization 1273 K ,200 h

W avelength 0.17823 Å(69.54 keV )

S ize of divergent slits H eight = 0.2 m m W idth = 5.0 m m Size of receiving slits H eight = 0.2 m m W idth = 5.0 m m L ength betw een O and R SI 610 m m

L ength betw een R S I and R S2 590 m m

D iffraction Z rO 2 422

D iff raction angle 29q 9.726 deg

Y oung s m odulus E 123 G P a

P oisson s ratio v 0.3

い場合は, 133回折ピークによりsin車を作成し,応力を求めたところもある. R20はZr02の 133回折が支配的だったので, 133回折によりピーク位置を決定した.波形分離にはガウス関数を 用いた.応力定数は, 1章で測定したナノインデンテーション法により測定した機械的ヤング率 E= 123GPaとポアソン比i/=0.3から決定した.測定条件の詳細を表4.1に示す.

面内方向の残留応力の深さ方向の分布は,ダイヤモンドスラリーでパフ研磨により表面除去し ながら逐次Ⅹ線応力測定を繰り返して求めた.コーティング厚さは約100〝m程度と薄いので,表 面除去による応力の再分布はほぼ無視できるので,除去補正は行わなかった.

4.2.3 放射光X線応力測定

トップコーティングの面外方向ひずみE3の測定は,シンクロトロン放射光による高エネルギー

Ⅹ線を用いたひずみスキャニング法により測定した.シンクロトロン放射光施設は,高輝度光科 学研究センター(SPring‑8)のビームラインBL02Blを利用した.このビームラインでは,高エネ ルギーⅩ線を取り出せ,高精度7軸回折装置およびひずみスキャニングに使用できる3軸試料ス テージなどが装備されている.

高エネルギーⅩ線の大きなX線侵入深さを持つ.また,シンクロトロン放射光は指向性の高い, 高輝度Ⅹ線を特徴とする.これらを利用して入射スリットおよび受光側のダブルスリットで作ら れるゲージ体積における面外方向の格子面間隔dを測定する.試料ステージをトップコーティン グ深さ方向Zにスキャンすることで,格子定数dの深さ方向の変化を得ることができる.本方法 は,ひずみスキャニング法といわれ囲,表面から内部の残留応力評価方法として第3世代放射 光施設で広く利用されている.

本研究のひずみスキャニング法におけるX線条件を,表4.2に示す.試験片はスピナーで回転さ せ等2軸応力状態とした.面外方向の回折強度が最も強く内部測定に適している回折格子面を探し た結果 R5X, RIOXおよびR20XでZr02の422回折を利用した.酸化した試験片では,コーティ ングままの試験片で得られる333+511, 600回折が消失し,コーティングままでは現れない422回 折が得られた.高温酸化においては,焼結により組織変化してプロファイルの変化が生じる.な お,詳細は4.3節で後述する.

38 第4章 高温酸化したEB‑PVD遮熟コーティングの残留応力分布解析 ひずみスキャニング法では,ゲージ体積がトップコート表面またはトップコートとボンドコー トとの界面を横切るた桝こ公称ゲージ体積の幾何学的中心と実際のゲージ体積の光学重心が一致 しない.この現象は表面効果と言われ,幾何学的補正方法が提案されている[叫.しかし,本研 究においては配向のあるコーティングであることから,無ひずみ試料の422回折角の変化を用い て測定回折角を補正した1.

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