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実験結果および考察

ドキュメント内 新潟大学学術リポジトリ (ページ 39-45)

第4章  高温酸化したEB‑PVD遮熱コーティング の残留応力分布解析

4.3  実験結果および考察

38 第4章 高温酸化したEB‑PVD遮熟コーティングの残留応力分布解析 ひずみスキャニング法では,ゲージ体積がトップコート表面またはトップコートとボンドコー トとの界面を横切るた桝こ公称ゲージ体積の幾何学的中心と実際のゲージ体積の光学重心が一致 しない.この現象は表面効果と言われ,幾何学的補正方法が提案されている[叫.しかし,本研 究においては配向のあるコーティングであることから,無ひずみ試料の422回折角の変化を用い て測定回折角を補正した1.

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ピナ‑の上で回転させながら133回折と331回折に分離測定し,それぞれの平均による20‑sin ‑0 線図から応力を決定した.スピナーを使わずに133+331の強い回折の現れる特定の方位少につい て何カ所か測定した結果も併せて示した2.互いに直交する¢‑25‑と¢‑ 115Cの方位を比較し ても,残留応力の値はあまり違わないことから,面内残留応力は等2軸応力状態に近く,スピナー

を使用して測定した応力の値は面内残留応力を代表している.

図4.2 (b)は,基板回転数10rpmの酸化されたトップコーティングの面内残留応力である.トッ プコーティング表面部から界面に向かい133回折と331回折に波形分離して応力を測定したが,罪 面付近では331回折が弱くなり, 133回折から26‑sin2ip線図を作成して残留応力を決定した.ま た,一部スピナーを使わずに回折の掛ゝ方位で20‑sin2^線図を作成したが,スピナーの残留応力 分布と大きな差異は見られない.酸化されたRIOXにおいては,酸化しない試料(図3.2 (b))と比 較してやや圧縮の残留応力は緩和されているが,界面付近の大きな圧縮はそのまま残っている.

図4.2 (c)は,基板回転数20rpmの酸化されたトップコーティングの面内残留応力の分布であ る.図3.2 (c)に示す酸化していないトップコーティングの残留応力分布と比較すると,酸化試験 片R20Xのトップコーティングでは残留応力が緩和され,残留応力がほとんどない.ボンドコー トとの界面付近には,圧縮残留応力が生じ 酸化しない試験片と比較するとやや大きな圧縮域が 形成され,焼結の影響と考えられる.

以上のように, 1273Kの大気中で200hの酸化を与えると,トップコーティングの表面から中程 までは,面内の残留応力が解放される傾向がある.また,ボンドコーティングとの界面付近では 圧縮の残留応力が解放されず,大きな圧縮が残る.高温酸化処理により圧縮の残留応力が解放さ れるメカニズムとしては,焼結が進むことによる体積減少が考えられる.

4.3.2 面外残留応力分布

図4.3にコーティングしたままのR5と1273K, 200hの酸化処理したR5Xの高エネルギー放射 光による回折曲線を示す.コーティングしたままの試料R5では333回折が克く, 600回折も測定

Figure 4.3: Comparison between R5 and R5X diffraction profile with hard synchrotron X‑rays.

2コーティング面内で回転軸ADと応力測定方位とのなす角を申した.ただし,コーティング面の上から見て時計 周り方向を正とする.

40 第4章 高温酸化したEB‑PVD過熱コーティングの残留応力分布解析

Figure 4.4: Measurement results of oxidized EB‑PVD TBC by strain scanning method.

されている.しかし,高温酸化処理した試料RIOの回折曲線をみるとR5で得られたピークは全く 測定されず 422回折が測定されている.高温酸化により,柱状組織が大きく変化していることを 示している.後述するように,高温酸化により柱状組織の周囲にある羽毛状の組織が焼結により 失われる.このことから, R5で測定しているのは羽毛状組織に起因するコーティング面内に平行 な333回折であり(図3.7),酸化組織では羽毛状組織が焼結により, (100(に成長したfeather‑arm が凝集し垂れ下がり,仰角が低下するために,柱状組織の周囲にはコーティングに平行に422回 折が現れる.

ひずみスキャニング法を用いて高温酸化されたトップコーティングの面外方向のひずみを測定 した結果を図4.4に示す.スピナーで回転しながらZステージを上げてジルコニアの422の回折 角を測定した.図には,測定した回折角2βの表面硬化を補正した結果も併せて示した.補正した 20角から格子面間隔dを計算した.無ひずみの格子面間隔doおよび面外方向のひずみE3につい ては,第1章で示した式(1.3)および(1.5)を用いて計算した.

以上の結果得られた面外ひずみ分布esMとX線測定により得られた面内応力分布ai{z)から a3(z) ‑ Ee3(z) + 2uai{z)       (4.1) により,面外方向の応力分布(T3(Z)を求めた.その結果を図4.5に示す.図には,比較のた桝こ,

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Figure 4.5: Distributions of residual stresses of oxidized EB‑PVD TBC.

面内残留応力の分布を併せて示した.面外ひずみの深さZの位置に面内応力の値がない場合につ いては,面内応力の値から直線補間した値を用いて計算した.

基板回転数5rpmの面外応力は,表面から内部に向かいほぼ残留応力がない状態であり,界面 に近くなると圧縮残留応力生じている.酸化していない試料R5 (図3.4 (a))と比較すると,高温 酸化の方が残留応力が零に近く,界面付近は同様に圧縮の傾向を示す.

基板回転数10 rpmの試料RIOXの面外応力分布は,バラツキのあるもののR5Ⅹと同様に面外 応力は小さく,ややコーティングの中間で小さな引張を持ち,界面付近では圧縮の面外応力が大

きくなる.面外のバラツキは,面内応力のバラッキの影響による.

基板回転数20 rpmの試料R20Xの面外応力分布は,コーティング表面から界面までほぼ零に 等しく一定を保ち,他の基板回転数の試料と比較しても面外残留応力が少ない特徴を持つ.

.以上のように,面内残留応力は酸化により応力が解放される傾向を持っているが,面外残留応 力については酸化処理前も残留応力が小さいので,大きな応力の変化がない.また,界面付近で の残留応力については,非酸化と酸化による差異はあまり見られなかった.トップコーティング は高温酸化を受けることにより焼結が進むみ,微小な気孔や隙間が減少し,圧縮残留応力が解放 される.面外方向の残留応力については,成膜後の残留応力の大きざは小さいので,酸化による

42 第4章 高温酸化したEB‑PVD遮熟コーティングの残留応力分布解析 残留応力の変化は少ない.しかし,界面付近の面外および面内の残留応力は,非酸化,酸化にか かわらず大きな圧縮を示し,残留応力の緩和がみられない.このことから,界面付近の残留応力 は,基材・ボンドコートとトップコーティングとの熱膨張係数の差異に起因している.これに対

して,表面から中間付近での残留応力はトップコーティング相互の関係から生じている.

以上のことから,酸化による残留応力の変化は圧縮の残留応力が解放される方向に変化するの で,遮熟コーティングとしては耐熱サイクル応力の少ない方にシフトしているので,遮熟コーティ

ングとして優れた特性を持っている.また,圧縮の面内残留応力が界面付近で大きくなり,それ に影響されて面外も圧縮が大きく.なる.このことは,面外方向のひずみが何らかの影響で拘束さ れ,応力・ひずみ関係が界面近傍では平面ひずみ状態に近い.このメカニズムについては今後の 課題である.

4.3.3 酸化したEB‑PVDコーティングの観察

遮熟コーティングの高温酸化による影響を走査電子顕微鏡(SEM)により観察した.酸化処理前 の断面め反射電子像の例として, R5試験片の断面を図4.6 (a)に示す.トップコートボンドコー ティングの界面には,熟生成酸化物TGOがみられない.他の酸化処理前の試験片R5およびR20 についてもTGOの存在はみられなかった.

一方,大気中で1273K, 200hの酸化をさせた試験片R5Xの断面を図4.6 (b)に示す.図からわ かるようにトップコーティングとボンドコーティングとの界面には,厚さ約3f▲mの濃い灰色の層 が形成され, TGOがみられる3. TGOの厚さは,場所により異なるがSEM写真で示すようにほ

ぼ一様となる.他の基板回転数にて製作したR5X, R20Xについても同様のTGOが形成され,基 板回転数による差異は認められなかった.また,図中の写真は切断されたままの断面なので, TGO がボンドコート側に流れている可能性もあるので,正確なTGO厚さを調べるには,断面を仕上

げ研磨して正確に仕上げることが必要である.

図4.7 (a)に酸化処理前の試験片R20のトップコーティング断面の様子を示す.写真のように柱 状寂滅の円周部の羽毛状組織は,細かな結晶で覆われている.一方1273K, 200hの酸化処理後

(a) Non‑oxidized (RIO) (b) Oxidized (RIOX) Figure 4.6: Cross section of EB‑PVD TBC

3反射電子線像ではAlなどの軽元素は濃い色に見えるので,ポンドコーティングのAlの酸化物A1203が形成され ると, TGOの頚城が濃く写る.

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(a) Non‑oxidized (RIO) (b) Oxidized (R20X)

Figure 4.7: Feather‑like columnar structure. Arrow marks indicate the position of necks between feather‑like columns.

(a) Non‑oxidized (RIO) (b) Oxidized (R5X) Figure 4.8: Core of columnar structure.

の試験片R20Xの様子を図4.7 (b)に示す.酸化の特徴は,他の報告[4,5,12]とも一致しており, 羽毛状組鰍ま焼結作用により細かなく100)の結晶組織が凝集して表面積が小さくなり垂れ下がる.

その結果,高温酸化処理された組織は非酸化の羽毛状組織と大きく異なる.このことが影響して 図4.3に酸化処理前後の回折プロファイルの比較を示したように,非酸化前の試験片では強い333 回折とやや弱い600回折が測定できた.しかし酸化後には, 333回折および600回折は消え,非酸 化では現れなかった422回折が現れる. (100)方位が仰角を小さくすると, 333回折よりも420回 折が現れ易い.

また,高温酸化処理後の柱状組織間は,図4.7‑(b)にみられるように隣り合う羽毛状組織が焼結 により癒着しているところ(neck)もみられる.この結果,羽毛状組織が接触し,ネットワークを 形成するので,高温酸化後は,引張と圧縮の作用が起きやすくなり,応力の緩和が抑制されるこ

とも予想される.

酸化処理前後の柱状組織の破断部の様子を図4.8に示す.図4.8 (a)は,酸化処理前の破断部で あり,断面形態は羽毛状組織の微細な空隙に沿った周辺部と破断した芯部から作られる.それに 対し,酸化処理後の破断部の様子を図4.8 (b)に示す.焼結が進んだ結果,非酸化断面にみられた

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