実験結果および考察

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第5章  熟サイクルによるEB‑PVD遮熟コーティ ングの内部応力変化

5.3  実験結果および考察

Diffraction angle 20, deg

Figure 5.2: Change in diffraction pro丘Ie with increase in temperature.

ナノインデンテーションで測定した値でありp].この値を用いて内部応力を計算した.なお,ヤ ング率の温度依存性については5.3.1項で述べる.

5.3 実験結果および考察

5.3.1 高温X線回折

高温熟サイクル下でひずみスキャニング法を行い, EB‑PVD遮熱コーティングの残留応力分布 の解析を行うた糾こは,解決すべき問題として,各温度における無ひずみの格子面間隔doの決定 が問題となる.各温度でのトップコートの測定プロファイル例としてR5のZr02の333回折を図 5.2に示す.図のように熱膨張により格子定数が変化するが,応力によっても変化する.ゆえに, 測定されている各温度での格子面間隔は応力と温度に依存して変化するので,前章までのように 表面残留応力と平面応力状態の仮定で無ひずみの格子定数を決定することはできない.

ざらに, EB‑PVDは3次元配向を持つ複雑形態な組織であり,熱膨張係数の回折面の異方性が 懸念される.また,均質等方材料と羽毛状組織を持つ柱状組織のEB‑PVD過熱コーティングが同 様の熱膨張特性を示すか,不明である.そのため,線膨張係数の温度依存性について以下のよう な問題を明確にしておく必要がある.

1. EB‑PVDジルコニア遮熟コーティングにおいて線膨張係数の回折面依存性があるか否か.

2.一般のジルコニアパウダー(無ひずみ)とEB‑PVDジルコニア遮熟コーティングの線膨張 係数は同じか.

そのために, EB‑PVDジルコニア遮熟コーティングの試験片(RIO)を室温から1273Kまで加熱 して, Zr02の333回折と600回折について表面のプロファイルを測定し,そのピークから格子面 間隔dを決定し,それから格子定数を計算して,各温度での格子定数aoの変化を比較した.その 結果を図5.3に示す.両回折の格子定数ははは同様に変化し, EB‑PVDジルコニア遮熟コ‑ティ

50 第5章 熟サイクルによるEB‑PVD遮熟コーティングの内部応力変化

Figure 5.3: Relationship between temperature and lattice constant.

ングにおいては, 333回折と600回折の線膨張係数には回折面依存性はない.一般に,立方晶は線 膨張係数に方位依存性がなく,それが本実験においても確認された.

また,図5.3にジルコニア粉末3mol%Y203‑Zr02 (3YSZ)の格子定数を測定した結果を併せて 示した.図に示すようにジルコニア粉末の格子定数の温度依存性をみると,ジルコニア粉末とと EB‑PVDコーティング試験片の線膨張には差異がない.

以上の結果から無ひずみの格子定数doの決定方法は次のようにした.

1.室温の無ひずみの格子面間隔do(273K)は,表面の応力qlと面外ひずみE3から平面応力状 態で計算する.

2. 1273Kの高温ではEB‑PVDジルコニア遮熟コーティングは応力緩和により無ひずみ状態に あると仮定し, 1273Kの高温で測定された格子面間隔do(1273K)は, 1273Kで無ひずみの 値とする.

以上の仮定から,線膨張係数αは

α= do(1273) ‑ do(293)

1273 ‑ 293 [/K] 5.2

となり,測定値の結果, 333回折に対してはα ‑ 5.1368× 10‑6/K, 600回折に対してはα ‑ 5.1924× 10‑6/Kを得た.また,この線膨張係数αから,各温度Tの無ひずみの格子面間隔do(T) は以下のように定義した.

do(T) ‑ do(293)[l + α (T ‑ 293)]       (5.3)

以上の結果から求めた各温度での無ひずみの格子面間隔の例を図5.4に示す.このようにして計 算ざれた各温度における無ひずみの格子面間隔do(T)により残留応力を解析する1.

1この間題の解決の他の案として,室温での無ひずみ格子定数の決定法と同様に,各加熱温度Tにて表面の残留応 力cn(T)を侵入深さ‑定法で測定した.その表面の残留応力*i(T)を用いて表面での平面応力の仮定から無ひずみの 格子面間隔do(T)を測定することを試した.しかし,配向の影響が強く,面内回転ができないので,十分な回折強度が 得られず,精度の高いsin車線図を得ることは困難であった.

5.3.実験結果および考察 51

(a) 333 diffraction of ZrO2        (b) 600 diffraction of ZrO2

Figure 5.4: Lattice spacing without strain for RIO.

ヤング率は温度依存性を持つので,高温T (K)でのジルコニアのヤング率Eの計算には次式を 利用した囲.

E‑Eo(l‑Scと★T      5.4

ただし, Eoは絶対零度のヤング率であり,室温での機械的値からEoを計算した. 3α★はヤング 率の温度依存係数であり,本研究では0.4 × 10 4/Kとして計算した.

5.3.2 熟サイクルによる内部応力

前節のようにして得られた各温度における無ひずみの格子面間隔doを用いて面外ひずみE3の 値から,平面応力状態を仮定して面内方向の内部応力glの分布を求めた.ひずみスキャニングに より測定したトップコーティング表面からの深さZは, R5試験片については測定時間の制限から, O/zm, 25/^m, 50//m, 75/xmおよびIOO/nmの5カ所とした.

熟サイクル下の基板回転数5 rpm (R5)の試験片の内部応力の変化を図5.5に示す.ここでは, 代表的な深さとしてトップコーティング表面(z‑ofim),中間(z‑50^m)およびボンドコーティ

ングとの界面付近(z ‑ 100/im)について示した.内部応力の深さ方向の傾向はほぼ一様であり, 図に示していない25/zmおよび75/imの深さにおいても同様の傾向を示している.図5.5 (a)に示

されるように,室温からの昇温に伴い表面の内部応力は,圧縮から引張に変化し, 873K付近で最 大の引張を示した後,より高温では軟化により内部応力は緩和され, 1073K以上では応力がなく なる.さらに,降温過程では, 1073K以下から基材との熱膨張係数の差による熟応力により圧縮 の残留応力を示す.降温過程の方が昇温過程よりも内部応力の変化が小さいのは,高温において トップコーティングに焼結作用が生じ体積が減少したため,圧縮が緩和されていることが考えら れる.

深さ方向Zによる熱サイクル下の内部応力の変化挙動は,トップコーティング表面(z‑O/xm) とほぼ同じ傾向を持つ.ただし,ポンドコートとの界面に近いz‑100/zmの深さの方が,より昇 温過程の圧縮から引張への変化かが急である.これはボンドコーティングに近い方が,ボンドコー

トとの関係に強く支配されているためである.

52 第5章 熟サイクルによるEB‑PVD遮熟コーティングの内部応力変化

Figure 5.5: Internal stress at each depth of R5 specimen under thermal cycle.

一方,いずれの深さ位置においても最大の引張応力はおおよそIOOMPa前後であり,それを越 えると引張応力が減少し始める.このことは,基板回転数R5のEB‑PVDによる遮熟コーティン グはIOOMPa以上では柱状組織の分離が起こり,引張応力が解放されるためと考えられる.そし て,引張応力が生じることは,柱状組織間にある程度の結合がある現れである.

基板回転数IOrpmの熟サイクルによる内部応力の変化を測定した結果を図5.6に示す.図5.6 (a)‑(c)は,それぞれトップコーティング表面(z ‑ O/mi),中間(z ‑ 50/im)およびボンドコー ティングとの界面付近(z‑100/xm)に対応している.図からわかるように,熟サイクルに対する 内部応力の挙動は,表面でもいずれのところでもほぼ同様なパターンを示す.室温から昇温過程 では,トップコーティングの内部応力は,基材の膨張により圧縮の残留応力から徐々に増加する が,その増加は緩やかでR5試験片と異なり引張側には移動しない.これは基板回転数がR5より 速いRIOでは,

1.柱状組織に空隙が多いこと 2.柱状組織間の結合も弱いこと

が影響している.昇温が1073K以上になると,トップコーティングの内部応力は緩和されている.

5.3.実験結果および考察 53

Figure 5.6: Internal stress at each depth of RIO specimen under thermal cycle.

一万, 1273Kから1073Kの降温過程では,トップコートに引張側の内部応力が生じている.こ の挙動は,図5.5のR5でもみられる現象であるり,明確な機構はわからないが,焼結により体積 減少し,内部応力が引張倒に働く可能性も考えられる.さらに,降温すると昇温過程より大きい 応力勾配で内部応力は圧縮に向かう.このことは,降温による焼結により空隙が減少し麟密かし 柱状組織間の結合が強くなっていることを示唆している.また.熟サイクルを経た室温の内部応 力(残留応力)は, 600回折ではほぼ昇温前の初期残留応力に戻るが, 333回折ではより大きな圧 縮残留応力へと変化している.第3章で述べたように, 333回折は羽毛状組織に対応し, 600回は 折柱状組織の芯部に対応する.第4章の高温酸化で観察したように,焼結作用で撤密化し易いの は柱状組織周縁部の羽毛状組織であり, 333回折の方が焼結による撤密化の影響を受け,降温に伴 う圧縮の熟ひずみの緩和が働きにくいいためより大きい圧縮側に戻る.このように,回折面によ る内部応力の熟サイクルに対する差は,高温過程での組織変化と対応している.

以上のことから, EB‑PVD遮熟コーティングのように面内および面外の配向を持つ組織の場合, 回折面依存性を利用して組織構造の特定領域の応力挙動を観察することができる.本手法は,今 後のナノテク材料の評価方法として期待できる.

54 参考文献

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