6.3 熱処理によるスパッターTa 2 O 5 膜、CVD-Ta 2 O 5 膜の構造変化
6.3.2 CVD-Ta 2 O 5 膜の結晶構造の UV-O 3 処理時間依存性
5章図5-15に報告したように、二段階熱処理による20 nmのCVD-Ta2O5膜 の絶縁耐圧はUV-O3処理時間が長くなるにつれ増加する。図6-11は二段階熱処 理のUV-O3処理時間を10,30,100,200分として二段階熱処理を行い、得られ た回折スペクトルを示している。UV-O3処理時間が0分の場合は、ウィークスポ ット酸化結晶化工程のみで、工程②に該当し、二段階の熱処理を行っているもの は工程④に該当する。Ta2O5膜はUV-O3処理を行った後、800 ℃の乾燥酸素熱処
図6-11 CVD-Ta2O5膜のXRDスペクトルの
UV-O3処理時間依存性
130
理により結晶化する。この回折スペクトルより、格子定数の変化を算出するため に、δ-Ta2O5結晶構造を仮定して、得られた格子定数の変化を図6-12に示す。図 6-12内にδ-Ta2O5の単位結晶格子を示している。酸素の配位位置にはO (Ⅰ)、O
(Ⅱ)があり、UV-O3処理時間の増加とともに、格子定数a 軸、c軸は異なる挙動
を示す。a軸はUV-O3処理時間の増加とともに短縮するが、c軸は飽和する。対 応するSiO2換算膜厚の絶縁電界強度 EOXの挙動は a軸の短縮と相関があること から、主な酸素欠陥はO (Ⅰ)に発生すると考えられる。このため、Ta-O結合距 離はUV-O3処理時間が長い程、短くなると考えられる。
6.4 ウィークスポット酸化結晶化熱処理、UV-O3処理による Ta2O5膜組成比、
深さ方向プロファイルの変化
6.4.1 ERDA/RBSによるO / Ta組成比と深さ方向プロファイルの評価
UV-O3処理により CVD 膜の絶縁性は飛躍的に改善することを図 5-19 に示 した。この場合には、非晶質状態が保たれているので、この変化は膜中のO / Ta 組成比の変化として測定できると考えられる。測定は膜厚が70 nmの場合と20 nm以下の領域について行った。
図6-12 CVD-Ta2O5膜の格子定数のUV-O3処理時間依存性
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(a)厚膜領域(70 nm)
表6-1は測定に用いたTaOx膜の形成仕様と得られた化学量論比を示している。
図6-13は試料番号①70の測定結果を示している。
図6-13 ( a )はエネルギー(MeV)対重量(a.m.u)表示である。図6-13 ( b )は図
6-13 ( a )を三次元表示したものである。
表6-1 Ta2O5(70 nm)のERDA/RBS測定試料と測定結果
図6-13 ( a ), ( b ) Ta2O5膜(70 nm)のERDA/RBSスペクトル 試料番号①70
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図6-13 ( c )、( d )、( e )はそれぞれSi,O,Cの反跳粒子に対するエネルギースペ クトルである。図6-13 ( f )はTaから散乱されたClのRBSスペクトルである。
図6-13 ( d )と図6-13 ( f )に示す計数値より、(6-17)式により化学量論比を
求めた。図 6-13 ( d )は TaOx から反跳された 18O のエネルギースペクトルであ る。エネルギーが低くなるにしたがいスペクトルの計数は高くなっている。これ は、TaOx中の阻止能によりエネルギーが深さに比例して減少し、(6-7)式に より散乱断面積が増大するためである。図6-13 ( f )は181Taから散乱された35Cl のRBSスペクトルである。図6-13 ( d )の18Oスペクトルと同じようにエネルギ ーが低くなるにしたがいスペクトルの計数は高くなっている。(6-14)式に より散乱断面積が増大するためである。
図6-13 ( c ), ( d ), ( e ), ( f ) Ta2O5膜(70 nm)のERDA/RBSスペクトル 試料番号①70
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表6-1の結果より、スパッター膜では乾燥酸素熱処理の有無によらず、O / Ta 化学量論比は約2.53と一定である。CVD膜では堆積して乾燥酸素熱処理をしな い場合には、O / Ta化学量論比は2.48と低い。従って、CVD膜はスパッター膜 と比較して酸素欠陥が生成されやすい。スパッター膜形成は高周波スパッター により行われ、成膜時には活性な酸素が存在するが、CVD膜の形成時には活性 な酸素がないためである。一方、活性な酸素を供給する製造方法では良好な被覆 性が得られない。CVD膜を800 ℃の乾燥酸素熱処理によりO / Ta化学量論比が 2.52 まで増加している。70 nm の膜では 800 ℃の乾燥酸素熱処理により結晶化 し、クラックも発生するので、本研究で対象とする薄膜領域のTa2O5膜の物性と は異なる。薄膜領域のTa2O5膜の結果については、表6-2に示す。
(b)薄膜領域(≦20 nm)
薄膜領域では、CVD膜形成後の熱処理を工夫することにより、リーク電流 が低減することが可能であることを5章にて示した[1]。そこで、この膜厚領域 における、熱処理の組成比への効果について測定した。表6-2は測定に用いた試 料の形成プロセスと得られた結果をまとめている。図6-14は熱処理無しの場合
の10 nm膜厚のCVD-Ta2O5膜(試料番号①)の測定結果を示している。図6-14
( a )はエネルギー(MeV)対重量(a.m.u)表示である。図6-14 ( b )は図6-14 ( a ) を三次元表示したものである。図6-14 ( c )、( d )、( e )はそれぞれSi、O、Cの反 跳粒子に対するエネルギースペクトルである。図6-14 ( f )はTaから散乱された ClのRBSスペクトルである。図6-14 ( d )と図6-14 ( f )に示す計数値より、(6
-17)式により化学量論比を求めた。図6-15 は表 6-2 に示す各試料の各試料 のTaから散乱されたClのRBSスペクトルとOの反跳粒子に対するエネルギー スペクトルをまとめたものであり、これらの測定結果から同様に表6-2に示す化 学量論比が得られている。膜厚が薄いためにTaOxから反跳された18Oのエネル ギースペクトルはガウス分布となっている。181Taから散乱された35ClのRBSス
表6-2 Ta2O5極薄膜のERDA/RBS測定試料と測定結果
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ペクトルも18Oスペクトルのようにガウス分布している。CVD-Ta2O5膜では、ウ ィークスポット酸化結晶化処理を行う工程②により、O / Ta比は 2.45 から2.47
と約0.8%、UV-O3処理を行う工程③ではO / Ta比は2.52と約2.8 %増加する。
二段階の処理を行う工程④により、O / Ta比は 2.54と約3.7 %の増加が得られ た。従って、UV-O3処理を行う工程③によるリーク電流の顕著な減少は膜中のO / Ta比の増加によってもたらされると考えられる。一方、スパッター膜に熱処理 を行わない場合( 工程⑤ )でもO / Ta比は2.52となり、CVD膜をUV-O3処理 を行った場合( 工程③ )のO / Ta比2.52と同等である。更に、スパッター膜 にウィークスポット酸化結晶化熱処理を行う( 工程⑥ )のO / Ta比は2.53と なり、CVD膜に二段階熱処理を行った場合( 工程④ )のO / Ta比2.54と同等 な組成比となる。スパッター膜では、スパッター膜成膜時に十分に酸素が膜中に 取り込まれており、CVD膜で必要とされるUV-O3処理をすることなく良好な絶 縁性が得られたと考えられる。
図6-14 ( a ), ( b ) CVD-Ta2O5膜10 nmの熱処理無し(試料番号①)の ERDA/RBS スペクトル
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図6-14 ( c ), ( d ), ( e ), ( f ), CVD-Ta2O5膜10 nmの熱処理無し(試料番号①)
のERDA/RBS スペクトル
136
図6-15 Ta2O5極薄膜のERDA/RBSスペクトルの熱処理依存性 試料番号②~⑥
137
6.4.2 XPSによるO / Ta組成比の評価
XPS (X-ray Photoelectron Spectroscopy) の測定では、同時に2個の試料を測 定室に導入できる。同時に導入した試料については同一条件にて測定ができ、O
/ Ta /原子比の大小を正確に評価可能である。しかしながら、実験方法において
述べた様に、絶対値については信頼のある測定は難しい。そこで、順次、2試料 の比較をしながら測定することにより O / Ta 組成比の膜厚依存性、UV-O3時間 依存性を評価した。図6-16はO / Ta原子比のUV-O3処理時間依存性を示したも のである。10 nmのCVD-Ta2O5膜を熱処理しない場合(工程①)はO / Ta比は 2.45であるが、30分のUV-O3処理(工程③)により、短時間でO / Ta原子比は 2.56まで増加することがわかる。また、膜厚が厚いと O / Ta 原子比を増加させ るには長時間の UV-O3処理時間が必要であることがわかる。これは、図 6-3 に 示す絶縁性の UV-O3処理時間依存性と一致しており、絶縁性の改善が酸素濃度 の増加によることが XPS の測定からも確かめられた。また、表 6-2 に示す
ERDA/RBSの測定によるO / Ta比の測定結果とも概ね一致する。
図6-16 O / Ta比のUV-O3処理時間依存性( XPS )