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第 5章 実船馬力計算法

5.1 緒言

二重反転プロペラを設計し、単独性能、自航性能を確認した後で、最後に残 るのは、いかに実船の馬力を推定するかという問題である。第1章で述べたよ うに二重反転プロペラ装備船建造数はシングルプロペラ装備船に比べ圧倒的に 少なく、種々推定法が提案されているもののその妥当性の検証はほとんど行わ れていない。著者は幸運にも二重反転プロペラ装備船の建造に携わり試運転結 果と比較する機会に恵まれ、シングルプロペラと同程度の精度で馬力を推定で きることを確認したため、ここにその結果をまとめる。

本章では、従来の推定法および第 3章で示した自航試験解析法に基づく新し い推定法の特徴をまとめ、おのおのの推定馬力の違いについて述べる。次に、

建造船の試運転結果との比較により新しい推定法の妥当性を確認する。最後に、

前後プロペラの回転数比を変更した実船試運転結果との比較から第 2章で示し た単独性能推定法により精度良く馬力分担比を推定できることを示す。

実船馬力推定法 5.2

伴流修正法 5.2.1

3.2 節に示した各種自航試験解析法に対応した実船馬力推定法が提案されて いる。本章でも各推定法の呼称は第 3章に倣うことにする。各推定法の主要な 違いとして以下の 2点が挙げられる。

① 模型試験で得られる自航要素

② 実船伴流修正法

①については第 3章に述べた通りで、ここでは②について各推定法の違いを 述べる。船体表面上に発達する境界層のため船速よりも遅い流れがプロペラ面 に流入することになるが、境界層の発達はレイノルズ数の影響を受けるため、

模型船と実船では異なった伴流が流入することになる。通常、シングルプロペ ラでは文献[30]に示されるように模型試験で得られた有効伴流率 wmを粘性成 分 wvとポテンシャル成分 wpに分離して、粘性成分 wvにのみ修正係数を乗ず るという手順により実船の有効伴流率を推定する。

二重反転プロペラではシングルプロペラと比べて大幅に有効伴流係数 1-w が小さくなるが、それが実際にプロペラ面に流入する船体伴流が遅くなるため であることは第 4章で述べた通りである。したがって、二重反転プロペラの有 効伴流率の性質はシングルプロペラと類似するものと考えられ、シングルプロ ペラと同じ手順に従って実船の有効伴流率を推定しても問題ないと思われる。

これまでに提案されている二重反転プロペラ装備船の実船馬力推定法も全て本 手順に倣ったものである。

一方、各推定法で異なるのは、粘性伴流率wvとポテンシャル伴流率wpの分 離方法である。粘性伴流率 wvとポテンシャル伴流率wpの割合が異なると、結 果として実船の有効伴流率 wsが変化し、想定する前後プロペラの作動状態に違 いが生じることになる。

ポテンシャル伴流率w はさらに船体ポテンシャル伴流率w 、舵伴流率w 、

p vm

s Cw w

w  

I R H

vm w w w

w

C   

 ここで、

wvm : 模型船相当粘性伴流率 (=wm-wp) wm : 模型船相当有効伴流率

(5. 1)

以下に各推定法の成分分離法について示す。なおシングルプロペラの実船馬 力推定法は第3章と同様に“ITTC法”と呼ぶ。

(1) 船体ポテンシャル伴流率wH

船体ポテンシャル伴流 wHについては各推定法とも推力減少率 t の値を 用いている。これは ITTC 法と同じであり、本研究において提案する新推 定法でも従来法と同様に船体ポテンシャル伴流 wH=推力減少率 t とみな して解析する。

ただし、本来、二重反転プロペラ装備船の推力減少率 t はシングルプロ ペラに対して舵抵抗が大きくなる分も含まれるため、シングルプロペラの 考え方をそのまま用いることはできない。前後プロペラおのおのに流入す る船体ポテンシャル伴流 wH は船体との距離が各プロペラで異なり、プロ ペラ直径も異なることから、各プロペラに対応した船体ポテンシャル伴流 wHを用いるべきである。これらを考慮するために、例えば計算により船体 ポテンシャル伴流率wHを求めたり、もしくは舵非装備時の自航試験を行っ てその時の推力減少率 t を船体ポテンシャル伴流 wHとみなす、などの方 法が考えられる。しかし、汎用性の高い実船馬力推定法にするためにはな るべく不確かな仮定は取り除くことが望ましく、また後述するように船体 ポテンシャル伴流 wH=推力減少率 t とみなしても十分な精度で馬力推定 可能であるため、本研究においては従来法に倣うことにした。船体ポテン シャル伴流 w の正確な取り扱いについては今後の課題である。

あろう。佐々木法では舵伴流率 wRを(3.17)式のような簡易式で表している が、舵を吹出しで表現して理論的に導いたものであり合理的なものである と考えられる。したがって、新推定法でも佐々木法による舵伴流率算出式 を用いることとした。

(3) 前後プロペラ相互干渉伴流率wI

ITTC法以外の推定法では前後プロペラの作動状態を分けて考えるが、お のおののプロペラ流入速度には他方プロペラからの誘起速度が含まれるこ とになる。石田法と新推定法では他方のプロペラ荷重度の関数として、そ れぞれ(3.16)式、(3.30)式を用いて相互干渉伴流率 wIを計算する。佐々木

法では 3.3.2 項に述べたように、前後プロペラに流入する舵伴流の違いによ

り二重反転プロペラ単独作動時から相互干渉が変化する分を相互干渉伴流 率とみなして(3.9)式を用いて算出する。Oh法および Oh法(SP)では相互 干渉について一切考慮しない。

(4) 模型船相当粘性伴流率wvm

模型船相当粘性伴流wvmは上述のようにして求められたポテンシャル伴 流率wpを模型船相当有効伴流率wmから差し引くことで求められる。

ポテンシャル伴流率wpの分離方法について Table 5.1にまとめる。また各推 定法の実船相当有効伴流率 wsの算出式を以下に示す。添字 s は実船、m は模 型、i は前後プロペラの区別(1:前プロペラ、2:後プロペラ)を表す。粘性伴流 尺度修正係数Cは ITTC法と同様に(5.5)式を用いる。

ITTC法:

 0.04

 0.04

C w t t

ws m (5. 2)

Oh 法、Oh(SP)法:

 0.04

 0.04

C w t t

wis im (5. 3)

佐々木法、石田法、新推定法:

im Rim Iim

Ris Iis

is C w t w w t w w

w        (5. 4)

粘性伴流尺度修正係数 C:

 

kFs

CFm F C C

C k

  1 1

ここで、

(5. 5)

CFm : 模型船相当平板摩擦抵抗係数 CFs : 実船相当平板摩擦抵抗係数 k : 形状影響係数

CF

 : 粗度修正係数

Table 5.1 Potential component of effective wake fraction

POC system in self propulsion

analysis

Method wH wR wI

CRP unit ITTC t 0.04 -

SP in CRP setup

Oh t 0.04 -

Sasaki t equation(3.8) F(CT,d,tmax)

CT 荷重度

d 舵プロペラ

間距離 tmax : 舵最大厚

equation (3.9) wI1=-0.25dwR

wI2=-0.6dwR dwR=wR2-wR1

SP Oh (SP) t -

Ishida t equation (3.16)

wI1= F(CT2)×(1-w) wI2=F(CT1)×(1-w) 1-w: ITTC 法で解析 された伴流係数 present t equation (3.8)

F(CT,d,tmax)

CT 荷重度

equation (3.30) wI1=F(CT2)×(1-w2) wI2=F(CT1)×(1-w1)

従来の実船馬力推定法の流れ 5.2.2

(1) 二重反転プロペラ単独性能を用いる推定法(ITTC法)

ITTC法の実船馬力推定の流れを Fig. 5.1に示す。この推定法の手順は 3.2 節に示したシングルプロペラの推定手順(ITTC 法)の中で、自航解 析に用いる模型船プロペラ単独性能および実船プロペラ単独性能として 二重反転プロペラの単独性能を用いること以外は同一である。

(2) 二重反転プロペラ作動状態における前後プロペラ単独性能を用いる推定 法(佐々木法、Oh法)

佐々木法および Oh 法の実船馬力推定の流れを Fig. 5.2 に示す。ITTC 法と異なり、前後プロペラ各々の作動状態を考慮するため、前プロペラ が全体の有効馬力 EHP を分担する比率を荷重分担比 として、前後プ ロペラが分担する有効馬力 EHPiを求める。荷重分担比は未知数であ るため、前後プロペラの回転数比 n1/n2 が一定値となるまで収束計算が 必要になる。

(3) 前後プロペラの単独性能を用いる推定法(石田法、Oh(SP)法)

Oh(SP)法の実船馬力推定の流れを Fig. 5.3に、石田法の流れを Fig. 5.4

に示す。基本的な流れは(2)の推定法と同一であるが、自航試験に用い る模型船プロペラ単独性能および実船プロペラ単独性能は、二重反転プ ロペラ作動状態における前後プロペラの値ではなく、前後プロペラが単 独で作動する時の値を用いる。石田法の場合、さらに他方プロペラの単 独性能から相互干渉伴流率 wIを求める手順(3.3.3 項の手順と同一)が 追加される。

Fig. 5.1 Flow chart of powering of ITTC method

i

wake correction ws

POC of CRP unit

i

wake correction wsi

POC of each propeller in CRP setup

NO

i

wake correction wsi

POC of each propeller

NO

wake correction wsi

NO

POC of each propeller

i

Relationship of CT1-wo2, CT1-wo1

新しい実船馬力推定法 5.2.3

本研究において提案する新推定法は、舵伴流に関しては佐々木法、前後プロ ペラの相互干渉については石田法の考え方を取り入れたものである。そして、

第 3章で考察したように自航要素を適切に求めるために、前プロペラから後プ ロペラへの誘起速度を軸流成分と回転流成分に分離する点、船後プロペラ効率 比Rについても干渉係数を考慮する点を特徴とする。馬力推定の流れを以下に 示す。またフローチャートをFig. 5.5に示す。

(1) 前プロペラが全体の有効馬力 EHP を分担する比率を荷重分担比 とし、

前後プロペラが分担する有効馬力をEHPiを求める。荷重分担比 は収束 計算により求めるが、初期値として0.5と仮定する。

 

f w f

S k C C C

SV

EHP  1   2

1 3

EHP EHP1 

 

EHP

EHP2  1 ここで、

 : 海水密度 S : 浸水面積 Cw : 造波抵抗係数 VS : 船速

(5. 6)

(2) 推力減少率tを用いて前後プロペラの発生推力 Tiを求める。

t

V T EHP

S i

i  

1 (5. 7)

(3) 実船有効伴流率 wisを(5.4)式から求める。収束計算の初期値として舵伴流 率wRsおよび相互干渉伴流率wIsは模型試験時の値を用いる。

(4) 前後プロペラの荷重度 CTisを求め、それに対応する前進係数 JOis、トルク 係数K 、効率 を単独性能から求める。

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