5.1. 本研究のまとめ
固体中のイオン伝導を説明するモデルの一つである結合揺らぎモデルの予測に 基づき,イオン伝導と非線形光学定数の相関についての研究を行い,本論文では 以下のことを明らかにした.
① 非線形光学定数を見積もる際に用いられる理論に基づき,イオン導電体の非 線形光学定数についての議論を行い,イオン伝導しやすい状況と非線形光学 定数を上昇させる状況に多くの類似点があることを示した.また,イオン伝 導と非線形光学定数の相関に関する性質が結合揺らぎモデルの予測と矛盾し ないことを示した.
② 外場に依存する感受率から導出される非線形電気分極を用いて,イオン伝導 と非線形光学定数の相関を議論した.具体的には,このモデルから導出され る非線形電気感受率と結合軌道論から算出される非線形光学定数に相関があ ることを示した.また,モデルにおいて二重井戸ポテンシャルを考えること で,イオン伝導に必要な活性化エネルギーEaと非線形電気感受率が相関を持 ち,イオンが熱活性化し易い状況と物質が大きな非線形光学定数をもち得る 状況が相関を持つことを示した.
③ ガラス形成液体を形成する構造単位間の揺らぎ比とガラスが持つ三次の感受 率の相関について議論を行った.平均電気陰性度を用いた議論を行うことで,
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高い周波数領域で短距離構造に大きな影響を受ける非線形光学定数と低い周 波数領域で中距離構造に影響を受ける構造緩和パラメータが相関を持つこと は矛盾しないことを明らかにした.
5.2. 今後の課題
① 三次の感受率とイオン伝導に関する研究の継続
これまでの研究からイオン伝導と三次の感受率の間には明らかな相関がある ことが分かった.それを基に,イオン導電体とその他の物質との違いを考察 し,イオン導電体の何が非線形光学定数を高め,どのような理論的枠組みを 考えれば特異な物性を示す超イオン導電体の非線形光学定数を正確に算出で きるのかを明らかにする.
② イオン導電体における非線形光学定数と熱的,力学的な物性との相関に関す る研究
イオン導電体内の電子雲の歪みやすさは結合の不安定性を誘起すると共に,
イオン拡散や非線形光学効果を高める環境を提供し,拡散するイオンが感じ る変位ポテンシャルにも影響を与える.本研究で得られた結果を活かしつつ,
イオン導電体のもつ非線形光学定数と熱膨張や融解現象,弾性的性質との関 係を明らかにする.
③ カルコゲナイドガラスの非線形光学定数についての研究
光によって誘起される光ドープ現象や光構造変化には,イオン伝導と非線形 光学の両方が関与している.従って,非線形光学定数と様々な光誘起現象と の関係を明らかにすることで,研究の展開が期待できる.
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以上のように,今後の課題は,イオン伝導と非線形光学定数の繋がりを明らかに すると共に,イオン導電体の新たな応用の可能性を考察し,フォトイオニクスと いう研究分野の構築に貢献することである.