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:カルコゲナイドガラスの構造緩和と非線形光学定数の相関

ドキュメント内 非線形光学定数の相関に関する研究 (ページ 70-85)

4.1. はじめに

カルコゲナイドガラスとは,組成の中にS,Se,Teといったカルコゲン元素を 含むガラスの総称である.これらの物質群が光誘起構造変化を起こし,高い非線 形光学定数を示すことはよく知られている [1-2].この章では,それらの特性間 の相関関係を明らかにするために行われた研究について紹介する.そのため,光 誘起構造変化と関わりが深いと考えられるガラスの構造緩和現象である粘性挙 動に着目し,非線形光学現象との関係について議論を行う.

安 仁 屋 に よ っ て 提 案 さ れ た 粘 性 の Bond Strength – Coordination Number

Fluctuation Model (BSCNFモデル) [3]によれば,粘性挙動はガラス形成液体を構成

する構造単位間の結合強度,配位数,及びそれらの揺らぎによって記述される.

非線形光学定数とBSCNF モデルによって定義される構造緩和パラメータの間の 相関をカルコゲナイドガラスで調べたところ,三次の感受率が構造緩和パラメー タの揺らぎと共に増加することが明らかになった.見いだされた相関は BSCNF モデルと平均電気陰性度に基づいて議論することで理解できる.加えて,ホウ酸 ガラスやケイ酸ガラスについても,三次の感受率と構造緩和パラメータの相関が 見受けられるかを確認する.

70

Fig. 4.1. Angell’s plot [5]

4.2. ガラスの粘性挙動

ガラス形成液体が示す粘性の温度依存性は,Angellによって導入されたフラジ リティーの概念で特徴づけられる[4].Fig. 4.1はAngellプロットとよばれ,ガラ ス形成液体の粘性挙動を表す[5].縦軸は粘性率ηの対数表示,横軸Tg/Tは温度T の逆数をガラス転移温度Tgで規格化したものである.Fig. 4.1で示すように,温 度が上昇すると融体の粘性率は減少する.しかしながら粘性の減少の仕方は物質 ごとに異なり,SiO2のように粘性の温度依存性がアレニウス型に近い振る舞いを 示すものを『ストロングな系』と呼ぶ.一方,ポリマー系の様なアレニウス型の 挙動から逸脱を示すものを『フラジャイルな系』と呼ぶ.ガラス形成液体の粘性 挙動がアレニウス型からどのくらい逸脱しているかを表す量としてフラジリテ ィーmが定義される.

Tg

g T T

m T

 

) (

log

. (4.1)

71

Eq. (4.1)からストロングな系のmは小さな値をとり,フラジャイルな系は大きな

mを持つことが示される.

ガラスはガラス形成液体が凍結したものである.そのため,ガラス形成液体 の性質がガラスにも大きな影響を与える.そこでフラジリティーとガラスが示す 様々な物性との相関について多くの研究が行なわれた.代表的なものに,ポアソ ン比等の力学的性質とフラジリティーの相関についての研究がある [6].これら の相関は,物質の力学的性質を記述する物理量間の相関であるため理解し易い.

しかしながら,ガラスの粘性挙動と光学的性質との相関についての研究は行なわ れていない.そこで,この章ではカルコゲナイドガラスの光学的性質とフラジリ ティーの相関について議論を行う.

カルコゲナイドガラスは多くの光誘起現象を示す.ガラスの粘性と関係がある 特性として光誘起構造変化,光誘起物質移動,光誘起流動化などがある [1,7,

8]. 光ドーピングのような光誘起物質移動に関しては,超イオン伝導とフラジ リティーとの相関が示唆された [9].これは光照射による原子の動きやすさと熱 誘起による原子の動きやすさが相関を持つことを表す.一方,第 3 章において,

固体中のイオン拡散と非線形光学定数が相関を示すことが明らかにされた.これ らの事実は粘性挙動と光学特性の間に相関,特に非線形光学定数との相関につい ての研究を行う必要性を促した.

4.3. 結合強度 配位数揺らぎ (BSCNF) モデル

融体が示す粘性の温度依存性を記述するモデルはこれまでに多数提案されて いる.その中でも VFT モデル[10-12]と自由体積理論[13]はよく知られているが,

本章では,安仁屋によって提案された結合強度―配位数揺らぎモデル(BSCNFモ デル) [3]を使い粘性の議論を行う.このモデルは多くの物質の粘性挙動を明らか にするために使われ成功している.BSCNF モデルによれば,融体を形成する構 造単位同士を連結している結合が切断,あるいはねじれることによって,構造単

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位がある位置から別の位置に移動することで粘性流動が生じる.BSCNF モデル では,構造単位間の結合強度EE=E0+ΔEと記述される.ここでE0は平均結 合強度,ΔE はその揺らぎを表す.また,ある構造単位と結合している構造単位 の配位数Zも平均配位数Z0とその揺らぎΔZを用いてZ=Z0+ΔZと書く.これら の量を使うことによって,粘性率ηの温度依存性は次のように書けることが示さ れた.

   

















  









  



 

 

0 2

2

2 0

1

1 1 1

2ln ln 1

exp

1 Bx

C B B Cx

Cx Bx

Tg

, (4.2)

   

T x T RT

Z C E

T R

Z

B E g

g g

 

  2 2 , 0 0 ,

2 2

, (4.3) ここでTgはガラス転移温度,Rは気体定数を表す.η0 = 10-5 Pa·sとηTg =1012 Pa·s はそれぞれ,高温極限での粘性とガラス転移温度での粘性を表す.Eq. (4.3)で定 義されたBCは直観的な意味を持つ.Cは構造単位毎の平均結合エネルギーを 与え,BTgにおける熱擾乱による構造単位間の結合エネルギーの揺らぎを与え る. 本研究で,BとCはフィッテイングパラメータとして使用される.

BSCNFモデルでは,SiO2のようなストロングの系は大きなCと小さなBによ

って特徴づけられ,ポリマー系の様なフラジャイルな系は小さな C と大きな B で特徴づけられる [14].これらの結果は BSCNFモデルが物質の粘性挙動の本質 を構造単位間の結合性によって捕えていることを示す.本研究では,カルコゲナ イドガラスの粘性挙動を分析するために新しいパラメータYを定義する[15].

0 0Z E

Z E C

YB   

, (4.4) Yは構造単位間に存在する揺らぎの比率を表しており,Yの変化による粘性率の 温度依存性の振舞いはFig. 4.2に示されている.この図から,大きなYの値はよ りフラジャイルな系に対応していることが理解できる.

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Fig. 4.2. Temperature dependence of the viscosity described by the BSCNF model.

4.4. カルコゲナイドガラスの構造緩和パラメータと非線形光学定数

の相関 [15]

Eq. (4.4)で定義された構造単位間の揺らぎ比Yは,熱によって誘起される原子

の動きを支配するパラメータである.そこで,熱的性質と光学的性質の関係を見 るため,Y と非線形光学定数との相関について調べてみた.Fig. 4.3 はカルコゲ ナイドガラスの三次の感受率 χ(3)Y との関係を示す.カルコゲナイドガラスに 対するYの値は,ガラス形成融体の粘性挙動の実験データをEq. (4.2)でフィッテ イングすることで求めた[16-18].また,(Sb2S3)x-(GeS2)1-xの三次の感受率 χ(3)は実 験値[19]から,その他のカルコゲナイドガラスの χ(3)は Wemple の式[20]と Miller

rule[21]と[22, 23]から見積もられた.ここで用いたχ(3)を見積もる手法は,カルコ

ゲナイドガラスでχ(3)の実験値と良い一致を示す[23].

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0.1

2 4 6 8

1

2 4 6 8

10



 (10

-12

esu)

0.10 0.08

0.06 0.04

0.02 0.00

Y

As

2

Se

3

As

2

S

3

Se GeS

2

(Sb

2

S

3

)

x

-(GeS

2

)

1-x

x=0.1

x=0.2 x=0.4

Fig. 4.3. Correlation between the third order susceptibility χ(3) and the structural relaxation parameter Y. The representative magnitude of the error bar is indicated for the case of As2S3.

Fig. 4.3から,Yの増加と共にχ (3)が増加していることが分かる.ガラスの熱的

挙動から見積もられるYは,その定義からもわかるように,構造単位間の揺らぎ の割合を表す.従って,Yは遅い原子のダイナミクスに支配された物理量である.

一方,χ(3)は光学的性質を表すため,電子のダイナミクスによって支配された速い プロセスの物理量である.この相関は結合揺らぎモデルとBSCNF モデルによっ て示唆されたが,異なった周波数帯と異なる空間スケールをもつ2つの物理量を 結び付けるため,Fig. 4.3に示された結果はとても興味深い.

AB 化合物において,構造安定性や熱的性質である融解現象が,原子間の結合 という短距離構造に大きな影響を受けることが示されている[24].同様に,χ(3)も 原子間結合に大きな影響を受けることから,短距離構造の情報を持つことが分か る.一方,ガラスの粘性流動を支配する構造単位は数個~数十個の原子によって

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形成されている.このことは,構造緩和パラメータが中距離構造の情報を持つこ とを示している.つまり,Yχ(3)の相関は熱的性質と光学特性の相関を示すだけ でなく,中距離構造と短距離構造の相関についても示唆を与えている.

4. 5. カルコゲナイドガラスの構造緩和パラメータと平均電気陰性度

の相関[15]

第2章2節では,AgX-Ag2O-B2O3 (X=Cl, Br, I)ガラスのような酸化物ガラスのイ オン伝導性が三次の感受率と関連付けられた[25].また,このような相関の起源 は,超イオン導電体の結合揺らぎモデル[26]の視点から理解できることを示した.

このことは,イオン伝導と光学特性という異なった周波数帯の現象が相関を持つ ことを示している.

イオン伝導と非線形光学定数の相関は,Fig. 4.3 に示された結果を理解するた めのヒントを与える.構造単位間の結合が強ければ,揺らぎの度合いYは小さい.

逆に構造単位間の結合が弱ければYは大きくなる.構造単位は複数の原子の集ま りであるため,構造単位間の結合においても原子間の結合は無視できない.故に,

強固な構造単位間の結合は,強固な原子間結合に引き継がれる.原子同士が強固 に結びついている場合,電子雲の揺らぎも小さくなる.言い換えると,物質のχ(3) の大きさは結合の三次の感受率を反映しているため,Yχ(3)の相関は結合論の観 点から議論できる.以上の議論を確認するために,以下で平均的電気陰性度 χm [27]に基づいた解析を行う.

Fig. 4.4は平均電気陰性度と全結合強度Cの関係を示す.それぞれの系でχm

の増加によってCは増加していることがわかる.χmは化合物中の元素がもつ電子 の引き付けやすさを表す.そのため χm は系の結合強度の大きさを評価するパラ メータとなる.Fig. 4.4から,χmCの値は化学組成によって変化することが分 かる.例えば,(Sb2S3)x-(GeS2)1-xの場合,Sb2S3の増加によって,χmCは共に減 少していく.この知見は物性予測の観点から有用である.例えば,この系におい

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C=25のガラスが必要な場合,(Sb2S3)0.17-(GeS2)0.83を合成すればよい.またFig.

4.4の傾向から,Sb2S3ガラスはC=8.4付近の値を持つことが予測できる.

Fig. 4.5は平均電気陰性度χmと構造単位間の揺らぎBの関係を示す.この場合,

χmの減少によってBは増加する.この振る舞いの起源は明らかで,弱い原子間の 結合強度(小さい χm)が構造単位間の大きな揺らぎ(大きい B)をもたらすことに起 因する.Cの場合と同様に,Eq. (2.3)で定義されたχmの見積もりを通して,化学 組成からB の値を予測できる.ここで重要な点は B の増加によってC は減少し ていくことである.この振る舞いはガラス形成物質のストロング-フラジャイル の分類に反映される[14].

30

20

10

0

C

3.4 3.2

3.0 2.8

2.6

2.4

m

(Sb2S3)x-(GeS2)1-x (Sb2Se3)x-(GeSe2)1-x As2S3

As2Se3 GexS1-x

(Cu)x-(As2Se3)1-x

x=0.1

x=0.2 x=0.4

x=0.6

x=0.8 x=0.9 x=0.2

x=0.3

x=0.4 x=0.8

x=0.01

x=0.33

x=0.38

x=0.40

x=0.42

x=0.44 x=0.05

x=0.1 x=0.2

x=0.3

Fig. 4.4. The relation between the average electronegativity χm and the structural relaxation parameter C. The representative magnitude of the error bar is indicated for the case of As2Se3.

ドキュメント内 非線形光学定数の相関に関する研究 (ページ 70-85)

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