本研究では,妊娠期から小学校入学後までの7年間に わたる母親へのインタビューを通して,母親が語る子ど もの安全への不安について検討した。分析1では,エピ ソードの概要を捉えるべく,子どもの安全についての心
Table 7 小学校入学後の主なエピソード
エピソード番号 (ID:発達時期) 具体的なエピソード エピソード13 (ID33:小学校)
今まで(幼稚園の時は)バスで,バス停まで迎えに(行ってた)。ずっとバス乗るだけだったから,先生もいるし安心 でしたけど。今は,結構な距離を,(この近くに住んでいるのが)二人なんです,1年生が。その子がいないと,ひと りで帰って来なきゃいけなくって,手前まで何人かいるんですけど…。最近,不審者もすごい問題になってて,ひとり で帰らないって言っても,いないし。かといって,…(通学路をはずれれば他の子どもがいるが)通学路を通りましょ うって言われるし。…それが心配ですね。かといって,迎えに行くのも(できない)。一応,パトロールみたいなのがあっ て交代でやってるんですけど,…この子(幼稚園の弟)のお迎えもあるし(時間が重なる)。
エピソード14 (ID60:小学校)
春先から,このあたりに,通称黒づくめの男っていうのが,全身黒なんですよ。黒いロングコートで,黒い革パンでっ て。別に何もしないんですけど,じっと見てるんですね。声をかけるとか触るとかしなくって。じーっと見てる。一目 見れば分かるんですけど,で,そんな人がいたときに,学校の人に連絡すると,教頭先生とかが出てきて,その男と話 してくれる。
エピソード15 (ID43:小学校)
もっと楽になると思ってたんですよ。ちっとも楽にならない。小学校で送り迎えすることになるとは思わなかったんで。
はさみ持った人が出るってことで,その影響だと思うんですけど,できるだけ迎えに来れる人は来てくださいって。
エピソード16 (ID34:小学校)
けっこう最近,怖い事件とか多いですよね。それと,ここら辺けっこう不審者とか出るみたいなんで,心配です。…連 絡網で,2週間に1回くらい,どこどこで不審者が出ましたっていうのが回ってくるんですよ。それで,一応,子ども たちには防犯ベルが配られて,ランドセルにつけて持ってるんですけど,集団登下校じゃないんで,一人では歩かない ように,とかっていうのは,学校で,そのたびごとに,指導はあるらしいんですね。
エピソード17 (ID44:小学校)
(学校に)こんなにも親が関与できないっていうか。…やっぱり心配じゃないですか。何やってるか知りたいし,本当 に安全なのかとか,なんか心配ごとはあるけど,そういうのを気軽に聞くこともできないし,めったに(先生と)顔,
合わせないですからね。…昼間,丸1日子どもを預けてるのに,なんか,こんなに学校を信頼していいのかって。
362 発 達 心 理 学 研 究 第 21 巻 第 4 号 親が抱く子どもの安全への心配 363
配として,どのようなテーマが語られたかを整理し,子 どもの被害―加害状況および心配の現実度の点から,カ テゴリを準備し時間軸上で検討した。
その結果,母親は,子どもの安全への心配について,
事件,いじめ,事故,学級崩壊,友だちとのいざこざ,
虐待不安,および,きょうだいげんかという7つのテー マで捉えており,おおまかに,妊娠期から0歳代には事 件,1〜2歳代さらに3〜5歳のころには,事故やいざこ ざ,後半期にはきょうだいげんか,さらに,小学校に入 学すると,ふたたび事件へと焦点化されていることがわ かった。しかも,すべての母親が事件についての心配を 語ったことは,この時期の母親の関心を顕著に表してい るといえる。
分析2では,それぞれの時期ごとに,母親が子どもの 安全についてどのような加害―被害関係で捉え,どのよ うに心配していたかという視点から,個々のエピソード を質的に検討した。
その結果,妊娠期から0歳代には,テレビや新聞で報 道されるような大きな事件について,自分の子育てと照 らし合わせるようなかたちで語り,子どもを加害者に育 てないという子育ての責任を感じていた。その一方で,
心配としては現在のものではなく未来のものとして語ら れ,いったん保留されたかたちで捉えられていた。1〜
2歳代,および,3〜5歳においては,大きな事件につい て語られることはなくなり,日常的な事故やいざこざ,
さらに,きょうだいげんかに焦点化されるようになる。
とくに,いざこざにおける,我が子の被害―加害の位置 づけは,「取られる」「やられる」立場が語られる一方で,
加害的な兆候(人を傷つけることばなど)には予防的な 関わりが語られていた。きょうだいげんかといった家庭 内での加害的行動については,友だち間でのそれよりも 寛容な態度がみられた。最後に,小学校入学後であるが,
この時期,母親の関心のほとんどすべてが事件に向けら れると言っていいだろう。地域の不審者という具体的な 存在として語られ,大きな事件が日常の通学でのできご とと結びつき,現在の心配として語られた。
ところで,妊娠期から5歳までの期間には,できごと の抽象度と心配の緊急性が対応しており,ゆるやかな連 続性が感じられるが,小学校入学後には,母親の安全に 対する語りががらりと変化したように感じられた。それ まで,地域の不審者について語られたことは一度もなく,
パトロールや教頭先生への連絡など,家庭外の他者とと もに子どもを守るという視点もなかった。
亀井・岡本(2007,2008)は,子育てが子育て世代に 閉じたものとなって,社会のなかで「異文化化」してい るのではないか,つまり,子育て世代と非子育て世代の 非連続性を指摘した。しかし,ここで見えてきた問題は,
子育て世代内ですら,多層化しており,幼稚園・保育所
から小学校への非連続性がうかがえた。とくに,今回の 調査は,すべて第1子を対象としており,第1子ととも に「未知の」小学校世代へと移行する母親の姿がうきぼ りになったといえる。
また,安全について考える際,子どもの自律や好奇心 の問題とのせめぎ合いが問題となる(たとえば,岡本,
2006)。本研究においても,とくに,事故にまつわる語 りにおいては,子どもの発達的側面(できるようになる こと)や好奇心を受け入れつつ,危険を回避するという 親の姿勢が色濃くみられた。きょうだいげんかなどで語 られる加害的行動についても,母親は子どもの視点から の解釈を試み,子どもの安全について譲歩できる範囲を 模索しているといえるだろう。
安易な安全教育はともすると「人を疑うこと」を教え ることにつながりかねない。これは,子どもの健やかな 成長を願う親にとっては,相反するものといえるだろう。
本研究では,子どもの被害的側面だけでなく,加害的側 面も並列に扱ってきた。そこからみえてきたことは,母 親が我が子の重大でない被害的側面に寛容であったが,
その一方,きょうだいげんかなど家庭内で目が届き,大 事につながらないという前提がない限り,加害的側面に は敏感であった。つまり,母親が子どもに求めているこ とは,自分の安全だけでなく,他児の安全をも含んだも のであったといえるだろう。その意味でも,安全教育は,
本質的に命や心身の健康が,自分のものだけでなく,他 者のものも,どのように大切かということを学ぶことに あるのだろう。
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付記
本研究にあたって,高崎健康福祉大学短期大学部教授・
岡本拡子先生と関西国際大学教授・桐生正幸先生にご助 言いただきました。ありがとうございます。また,調査 にご協力いただきましたご家庭のみなさまに感謝申し上 げますとともに,子どもたちがこの社会で健やかに成長 されることを祈念いたします。
なお,本論文は,岡本拡子・桐生正幸(編)「幼い子 どもを犯罪から守る!̶̶命をつなぐ防犯教育」(北大路 書房)第1章2節の「親が語る不安」において取り上げ たインタビュー・データのうち,その後分析が進んだデー タを追加し,一方,入学後データのないものは削除した 上で,再分析したものである。
Okamoto, Yoriko (Shohoku College), Sugano, Yukie (Aoyama Gakuin Womenʼs Junior College), Shoji, Reika (University of Yamanashi), Yagishita, Akiko (Graduate School of Cultural Studies and Human Science, Kobe University), Aoki, Yayoi (Matsuyama Shinonome Junior College), Ishikawa, Ayuchi (Aichi Prefecture Child Guidance Center), Kamei, Miyako (Research and Education Center for Life Span Development, Shirayuri College), Kawata, Manabu (Faculty of Education, Kagawa University) & Takahashi, Chie (Faculty of Regional Science, Tottori University). Parents’ Concerns for the Safety of Their Children: A Longitudinal Study from the Prenatal Period through Early Elementary School. The Japanese Journal of Devel opmental Psychol ogy 2010, Vol.21, No.4, 353364.
How do parentsʼ concerns about the safety of their children change as children grow up? Ten mothers were interviewed longitudinally from their period of pregnancy through their childrenʼs early elementary school years. Narratives from the interview were analyzed. In Analysis 1, narrative themes were first identified. We then explored how mothers think about their children as victims or offenders, and how the mothers bring reality to their concerns over time. In Analysis 2, each narrative was analyzed qualitatively. The results showed that mothers focused on criminal incidents from their period of pregnancy through the child s first year of life, as well as on accidents, peer conflicts, and sibling conflicts from ages 1-5 years, and on criminal incidents again in the early elementary school years. These results also showed that narratives about incidents for school age children were different from those for the prenatal period. Finally, the discussion focused on the hardness of children in their transition to elementary school.
【Key Words】 Child safety, Child-rearing, Transition to elementary school, Longitudinal study
2010. 2. 2 受稿,2010. 10. 1 受理