子どもを対象にした目撃証言研究は,従来から,子ど もの目撃記憶に及ぼす誘導情報の影響(e.g., Leichtman
& Ceci, 1995; Principe, Tinguely, & Dobkowski, 2007;
Sutherland & Hayne, 2001)や,子どもに対する有効な インタビュー方法(e.g., Goodman, Sharma, Thomas, &
Considine, 1995; Holliday & Albon, 2004; Walker, 1993)な どを中心に多くの検討を行ってきた。これらの研究は,
誘導的な事後情報を与えることや不適切な質問の方法 が,子どもの出来事に関する記憶や言語供述をゆがめる ことを明らかにしてきた。逆に,誘導的な事後情報が与 えられず,かつ子どもの認知的特性が考慮された適切な 質問の仕方をすれば,低年齢の子どもからであっても,
正確な情報を引き出せることも指摘している。
また,目撃した出来事の内容についての記憶や言語供 述だけではなく,登場人物の顔の再認記憶や人物の特徴 の再認・再生記憶績が,成人と比較してどの程度のもの かについても検討がなされている。例えば,Pozzulo &
Lindsay (1998)の,人物同定を扱った研究のメタ分析
では,再認テストで用いるラインナップの中にターゲッ ト人物が含まれている場合は,子どもであっても成人と 同等の再認成績を示すが,ターゲット人物が含まれない ラインナップを用いた場合には,ターゲットがいないに もかかわらずどれかの写真を選択してしまう誤りが子ど もには多くみられることを明らかにしている。また,子 どもの言語供述は,成人と比較すると,再生量が非常に 少なくかつ人物の特徴や容貌等に言及する再生内容が非
常に少ないことも指摘されている(e.g. Marin, Holmes, Guth, & Kovac, 1979; Pozzulo & Warren, 2003)。
しかし,成人を対象とした目撃証言研究と比較すると,
子どもを対象としたものは研究例が少なく,未検討の課 題が多くのこされている。中でも,以下にあげる2つの 課題は,子どもから出来事や人物に関する正確な情報を 得ようとするためには特に重要であると考えられるだろ う。
1つめの課題は,出来事に関する言語供述とともに登 場人物の顔の再認を行う場合に問題となる,人物の容 貌の言語化が顔の再認成績を低下させる現象,すなわ ち,言語隠蔽効果(Schooler & Engstler-Schooler, 1990)
に関する発達的検討が行われていないことである。言 語隠蔽効果を検討した先駆的な研究であるSchooler &
Engstler-Schooler (1990)では,銀行強盗のビデオをみ せたあと,犯人の顔の特徴について詳細な記述をしてか ら8枚の写真から犯人を選択する言語化群と無関連な課 題を行ってから同様に写真選択をする統制群を比較した ところ,言語化群の再認成績が悪かった。この研究以降,
成人の言語隠蔽効果が生じるまたは生じない条件につい て多くの研究がなされてきたが(e.g., Dodson, Johnson,
& Schooler, 1997; Itoh, 2005; Kitagami, Sato, & Yoshikawa, 2002; Meissner, 2002; Meissner, Brigham, & Kelley, 2001),
調査対象者の年齢を考慮した研究例はほとんどない。
Meissner, Sporer, & Susa (2008)は,それまでの言語 隠蔽効果の研究を網羅し,メタ分析を行っているが,そ の中の研究で,唯一子どもを検討対象としているもの に, Memon & Rose (2002)がある。この研究では,8 9 発 達 心 理 学 研 究
2010,第21巻,第4号,342−352 特別論文(原著論文)
343 幼児の目撃記憶の発達
歳児を対象とし,見知らぬ女性が教室に来て迷子になっ た犬について写真を見せながら話をする,という約8分 間の出来事を目撃させ,24時間後に,女性の特徴につ いて言語報告をしてから6枚の写真から犯人を選択する 言語化群と,無関連な課題を行ってから同様に写真選択 をする統制群を比較した。その結果,言語化群12名の うち正再認を行った者は8名(66.6%)で,統制群17 名のうち正再認を行った者は14名(82.3%)であった が,統計的には差がみられなかった。この結果について,
Memon & Rose (2002)は,子どもについては言語隠蔽 効果はみられないと結論づけながらも,様々な条件での さらなる検討の必要性を強調している。
2つめの課題は,複数の人物が登場するようなより複 雑な出来事を目撃した際の,子どもの言語供述や顔再 認についての実験的検討がほとんどなされていないこ とである。子どもの目撃証言を扱った実験的研究(e.g., Goodman & Reed, 1986; Leichtman & Ceci, 1995)は,伝 統的に,ビデオや実演で目撃させる出来事に登場する人 物は1名であり,1名の人物のみが登場する出来事の内 容に関する記憶テストや,その1名に対しての顔再認課 題を行うのが通常であった。Leichtman & Ceci,(1995)
の研究では,年少児であっても,誘導情報が与えられな ければ,長期にわたって良好な記憶を保つことが示され ている。また,ある一人の人物と1対1で直接会話を したり身体接触があるような,自己の関与度が高いよう な出来事であれば,年少の子どもであってもかなり正確 に出来事等を記憶していることも指摘されている(Qin, Quas, Redlich, & Goodman, 1997)。しかし,登場人物が 複数である場合に, 誰が何をしていたか や ○○を したのはこの人物である などの,行為者と行為の内容 が正確である言語供述や顔再認の正確性については,研 究がなされておらず,不明な部分が多い。
最近の研究の実験結果から,幼児期の子どもは,複数 の人物が登場するような出来事を目撃した際は,出来事 の中で主要な役割をもたない周辺人物の認識やすべての 登場人物の把握が十分でないことが示唆されている。ま ず,Ross et al. (2006)は,子どもに複数の人物が登場 する犯罪場面のビデオをみせ,犯人の顔写真を選択させ る際に,そのビデオにでてきた他の人物(周辺人物)を 誤って選択するかどうかを検討した。その結果,11歳 から12歳の子どもは周辺人物を犯人と誤って選択する 傾向がみられたが,5,6歳児にはその傾向はなかった。
この結果は,5,6歳児は,出来事の中で明確な役割を もたない周辺人物については認識が曖昧であることを示 唆している。また,幼児は登場人物の人数を過小評価し ている可能性 (Sugimura, 2008)や,複数人物がいる中 で主要な役割をもたない人物の再認に関しては存在した のにいなかったとするエラーを犯しやすい (Sugimura,
in press)ことも指摘されている。
以上述べた2つの課題をふまえて,本研究では,幼児 が主要な役割をもつ人物ともたない人物が登場するよう な出来事を目撃した場合の出来事の記憶や顔の再認につ いて,人物の容貌を言語化することの影響を検討する。
それにあたって,次の3点の事項に留意した。
まず,本研究では,子どもに目撃させる出来事とし て,主要人物の女性が紙芝居を2つ読み,周辺人物の男 性が紙芝居を手渡す等の手伝いを無言で行うというライ ブイベントを設定した。目撃証言研究では,ビデオの出 来事を目撃させる場合も多いが,なるべく現実場面に近 い状況で言語隠蔽効果等の検討を行うこととした。現実 場面ということを考慮した場合に,紙芝居を見るといっ た楽しい状況の目撃記憶の特徴が,実際の事件の目撃記 憶に般化できるかという問題点はあるが,犯罪場面や子 どもを不安にするような場面はあえて設定しなかった。
Davies, Smith, & Blincoe (2008)も指摘しているように,
例えば,犯罪場面で銃やナイフが出てくるようなビデオ が実験刺激となることが多い武器注意効果の研究では,
倫理的問題があるため,子どもを対象としてはほとんど 行われていないのが現状である。
次に,本研究では,出来事や人物について子どもに 尋ねる際に,子どもの司法面接に関するガイドライン
(Home Office in Conjunction with Department of Health, 1992)に留意した方法で行った。調査者は「自分は出来 事について知らないので教えてほしい」という態度で接 するとともに,できる限りオープン質問を用い,子ども の発したことばをうけて補足質問等を行った。例えば,
子どもが「紙芝居よみよった」と反応した場合は,「紙 芝居よみよった時のことを,もう少しお話してくれる?」
といったように,子どもの反応に応じて教示に用いるこ とばを変化させた。このため,言語隠蔽効果を検討した 従来の実験では,出来事全体についてではなく,人物の 顔のみについて言語化を行うが,本研究では,自由再生 により出来事の供述をもとめる中で,子どもの反応をう けて,人物の特徴や顔の言語化を行わせていく手続きを とった。また,「はい」か「いいえ」に限定されてしま うクローズド質問は,上述したガイドラインにもあるよ うに,オープン質問では情報が得られない場合,最後に 行った。その際,「わからない」と言ってもよいことを あわせて教示した。
最後は,本研究における人物の写真再認の方法である が,子どもを対象とし言語隠蔽効果を検討している唯一 の研究であるMemon & Rose (2002)に準じた形で行っ た。すなわち,約8分間のイベントを目撃して24時間後 に,ターゲット1枚とディストラクタ5枚の計6枚の刺 激を同時提示して写真選択を行わせた。また,Memon &
Rose (2002)と同様に,調査者は,提示された写真の中