出来事の再生/再認
自由再生を求める最初の質問に対して,35名 (94.6%)
の幼児が「紙芝居を見た」,「お話を聞いた」等出来事を 再生し,残りの2名は再生はできなかったが,再認テス トにおいて紙芝居が描かれたカードを選択することがで きた。また,紙芝居等の出来事を再生できた幼児のうち,
人物を含めた再生を行った者は2名であり,その内容は,
「紙芝居をお姉さんとお兄さんが読んでくれた」,と,「誰 かがね,絵本がね,読んでくれた」であった。
追加質問に対しては,紙芝居の内容を述べた者が16 名(43.2%),「面白かった」等,紙芝居の感想を述べた 者が4名(10.8%),「わからない,忘れた」と述べた者 が14名(37.8%),無言であった者が3名(8.1%)であっ
た。追加質問の段階で,人物について言及した者はいな かった。Table 1に,出来事の自由再生例を示す。
主要人物の顔再認
Table 2は,主要人物の顔再認テストの反応と正再認
率等を群ごとに示したものである。ラインナップの中に 主要人物がいるかいないかの判断について,いると答え た者といない・わからないと答えた者の人数に言語群と 統制群で差はみられるかどうかχ2検定を行ったところ,
有意差はみられなかった。また,ラインナップの中に主 要人物がいると答えた者では,Fisherの直接法の結果,
言語群の方が正再認をした者の割合が少ない傾向にあっ
た( p< .070)。誤再認をした者は両群あわせて12名い
たが,12名のうち,ターゲットとの類似度順位1位のディ ストラクタを選択した者は1名,2位を選択した者は3 名,3位を選択した者は7名であった。4,5位のディス
Table 1 出来事についての自由再生例
事例1(男児:4歳7ヶ月)
E:「お兄さんは昨日,この部屋でどんなことがあったのか知らないんだけど。Aくん,昨日,この 部屋でどんなことがあったかお兄さんに教えてくれる? 」
C:「絵本読んだ。」
E:「絵本読んだの。じゃあね,その絵本を読んだ時のことを,もう少しお話ししてくれる? 」 C:「えーっと,楽しかった。」
E:「楽しかった。他に何か覚えていることあるかな?」
C:「えーっと,見るのが楽しかった。」
事例2(女児:6歳7ヶ月)
E:「お兄さんはね,昨日ここの部屋でどんなことがあったか,知らないのね。だからね,Aちゃんに,
昨日この部屋でどんなことがあったか,お兄さんに教えてほしいんだけど,いいかな? 」 C:「紙芝居があった。」
E:「紙芝居があったんだ。じゃあね,その紙芝居があった時のことをもう少しお話ししてくれる?」
C:「あのね,ちっちゃいね,お山にね,ちっさいクマさんがね,おってね。ちゅうくらいのね,お 山にね,ちゅうくらいのクマさんがいる。おっきいお山にはね,おっきいクマさんがおると。」
注.Eは検査者,Cは調査対象者の幼児を示す。
Table 2 主要人物の顔再認テストにおける群ごとの反応パターン
反応
小計 合計
顔再認1 いない わからない いる
顔再認2 誤再認 正再認
言語群
人数(%) 2(10.5) 9(47.4) 11(57.9)
19(100)
人数(%) 7(36.8) 1(5.3) 8(42.1)
統制群
人数(%) 0(0.0) 6(33.3) 6(33.3)
18(100)
人数(%) 5(27.8) 7(38.9) 12(66.7)
トラクタを選択した者はいなかった。
周辺人物の存在認識,顔再認
Table 3は,周辺人物の存在認識と顔の再認テストに
おける群ごとの反応パターンを示したものである。まず,
周辺人物の存在の認識について,周辺人物が「いた」と 答えた者と,「いなかった・わからない」と答えた者に
分類してFisherの直接法を行ったところ,言語群の方
が,周辺人物がいたと判断していた者が多かった(p<
.029)。なお,言語群については,主要人物の特徴の言 語供述を求めた質問(「紙芝居をしてくれた人はどんな 人だったか教えてくれる?」)の際に,周辺人物につい て言及した11名についても,「いた」反応をしたとみな した。
ラインナップの中に周辺人物がいるかいないかの判断 について,いると答えた者といない・わからないと答え
た者の人数に言語群と統制群で差はみられるかどうか
Fisherの直接法を行ったところ,有意差はみられなかっ
た。また,ラインナップの中に周辺人物がいると答えた 者では,Fisherの直接法の結果,言語群と統制群で誤再 認をした者の割合に有意な差はみられなかった。誤再認 をした者は言語群の4名であったが,4名のうち,ター ゲットとの類似度順位1位のディストラクタを選択した 者は3名,4位を選択した者は1名,2,5位のディスト ラクタを選択した者はいなかった。
主要人物と周辺人物についての言語供述
Table 4は言語群の人物供述の内容を,Table 5は,人
物供述の事例を示している。まず,紙芝居をしてくれた 人どんな人物かという問で得られた情報は,ほとんど が「女の人」等の性別に関する情報であり,2名の者の みが,「女の先生は髪が長かった」,「名前はみのりさん
Table 3 周辺人物の存在認識と顔の再認テストにおける群ごとの反応パターン
反応
小計 合計
存在認識 いなかった わからない いた
顔再認1 いない わからない いる
顔再認2 誤再認 正再認
言語群
人数(%) 1 (5.3) 1 (5.3) 2 (10.5)
人数(%) 1 (5.3) 7(36.8) 8 (42.1) 19 (100.0)
人数(%) 4 (21.1) 5 (26.3) 9 (47.4)
統制群
人数(%) 3 (16.7) 5 (27.8) 8 (44.5)
人数(%) 1 (5.6) 3(16.7) 4 (22.2) 18 (100.0)
人数(%) 0 (0.0) 6 (33.3) 6 (33.3)
Table 4 言語群の人物供述の内容
項目 反応内容 人数(%)
主要人物
(n=19)
周辺人物
(n=17)
性別 自由再生で性別に正しく言及 9(47.4) 12(70.6)
再認質問で正反応 10(52.6) 5(29.4)
眼鏡 再認質問で正反応 15(78.9) 11(64.7)
再認質問で誤反応 1 (5.3) 2(11.8)
わからない,忘れた 3(15.8) 4(23.5)
顔特徴 主観的回答(かわいい顔,こんな顔,等) 8(42.1) 9(52.9)
わからない,忘れた 11(57.9) 8(47.1)
髪特徴 妥当な回答(黒い,長い,等) 4(21.1) 4(23.5)
誤答(髪がくるくる,髪が立ってる,等) 8(42.1) 6(35.3)
わからない,忘れた 7(36.8) 7(41.2)
346 発 達 心 理 学 研 究 第 21 巻 第 4 号 幼児の目撃記憶の発達 347
Table 5 人物供述の事例
事例1(男児:4歳7ヶ月)
E:「紙芝居をしてくれた人はどんな人だったかな? 」 C:「お兄ちゃんとか,お姉ちゃんとか。」
E:「お兄ちゃんとかお姉ちゃんとかだったんだ。じゃあ,紙芝居をしてくれた人はお兄さん…」
C:「違う。お姉さん。」
E:「お姉さんがしてくれたんだ。お姉さんはどんな人だったかな?」
C:「わからん。」
E:「わからない。じゃあ,そのお姉さんはどんなお顔をしてたかな?」
C:「わからん。」
E:「うん。いいよ。じゃあ,お姉さんは,どんな髪の毛をしてたかな?」
C:「なんかさ。こうやってしてた。こうやってしてさ。(髪の毛を下にのばす仕草をしながら)」
E:「こうやってしてた。じゃあ,そのお姉さんは眼鏡はかけてなかったかな,かけてたかな…」
C:「かけてなかった。」
事例2(女児:5歳0ヶ月)
E:「紙芝居をしてくれた人はどんな人だったか…」
C:「女の人。」
E:「女の人。その女の人はどんな人だったか教えてくれる?」
C:「わからん。」
E:「わからん。大丈夫だよ。じゃあね,その女の人はどんなお顔だったか教えてくれる?」
C:「かわいい。」
E:「かわいい。じゃあ,その女の人はどんな髪の毛をしていたか教えてくれる?」
C:「忘れた。」
E:「うん。いいよ。じゃあ,眼鏡はかけてなかったかな,かけてたかな…」
C:「かけてなかった。」
事例3(女児:5歳9ヶ月)
E:「その紙芝居をしてくれた人お姉さんはどんな人だったか教えてくれる? 」 C:「えっとね,なんかね,かわいかった。」
E:「かわいかった。かわいいお姉さんに紙芝居してもらったんだ。」
C:「あ,2個読んでくれた。」
E:「2個読んでくれたの。じゃあ他にどんな人だったか教えてくれる? そのお姉さんはどんな人だったかな?」
C:「名前はね,みのりさんっていう人だった。」
E:「みのりさんっていう人だったんだ。他には?」
C:「でも男のお兄さん先生聞いてない。」
E:「男の先生のお名前聞いてないんだ。じゃあ,紙芝居を読んでくれたお姉さんはどんなお顔だったかなあ?」
C:「かわいかった。」
E:「かわいかった。他には?」
C:「……(無言)」
E:「わからない? いいよ。じゃあ,そのお姉さんはどんな髪の毛してた?」
C:「茶色と黒。」
E:「茶色と黒。」
C:「茶色が薄かった。」
E:「じゃあね,そのお姉さんは眼鏡をかけてたかなあ,それともかけてなかったかな,もしわからなかったら,
わからないって教えてね。」
C:「忘れた。」
注.Eは検査者,Cは調査対象者の幼児を示す。
(実際はのぞみ)」という性別以外の情報を述べた。また,
性別に関する情報は,再認質問での正反応も含め,全員 が正しく答えることができた。眼鏡の有無については,
多くの者が正しく「かけてなかった」と判断したが,全 員ではなかった。顔の特徴に関する質問では,「かわいい」
等の,人物特定の手がかりとはならない主観的情報しか 得られず,約半数は,「わからない」と反応した。また,
髪の特徴に関しても誤った情報を述べる者が多かった。