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総括

ドキュメント内 木村, 尚貴 (ページ 122-127)

地球温暖化防止のため、電気自動車 (EV) の普及が望まれている。EVを普及させる ためには航続距離の延伸が鍵となっており、リチウムイオン二次電池 (LIB) は電池パッ クエネルギー密度250 Wh/kg、電池パック出力密度1900 Wh/kg、寿命15年を目標に 開発が行われている。これら初期特性目標を設計上達成できる仕様として、

LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2 (NCM622) 正極とSi合金混合黒鉛負極を組み合わせたセルと、

LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2 (NCM811) 正極とSi合金混合黒鉛負極を組み合わせたセルが挙 げられる。しかしながら、これらNCM622やNCM811は高容量であるが、サイクル特性 に課題がある。本研究はNCM622正極と黒鉛負極を組み合わせたセル (NCM622/黒

鉛) やNCM811正極と黒鉛負極を組み合わせたセル (NCM811/黒鉛) で、充放電サイ

クルにおける電池の容量維持率と電池の出力の低下に相関する直流抵抗 (DCR) 上昇 率を調査し、充放電サイクルにおける電池劣化要因を検討した。検討結果に基づいた劣 化抑制策として、Mo置換NCM622正極と黒鉛負極を組み合わせたセル (Mo置換 NCM622/黒鉛) と、Al2O3被覆NCM811正極と黒鉛負極を組み合わせたセル (Al2O3

被覆NCM811/黒鉛) による充放電サイクルにおける劣化抑制効果を検証した。さらに、

今後の更なる長寿命化に向けた材料開発へのフィードバックのために、これら充放電サ イクルにおける劣化抑制メカニズムを検討した。以下に本研究論文の内容を要約する。

第1章では背景と課題を述べた。第2章では、NCM622/黒鉛およびNCM811/黒鉛 のサイクル特性とその劣化メカニズムを検討し、課題の詳細を議論するとともに、第3章

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と第4章のサイクル劣化抑制アイテムと研究の位置づけを議論した。NCM622/黒鉛お

よびNCM811/黒鉛のサイクル試験の結果、1500回の充放電サイクル後、容量維持率

は目標の70%以上に対し、NCM622/黒鉛で90%程度、NCM811/黒鉛で85%程度とい

ずれも容量維持率の目標を達成できる見込みであった。一方、DCR上昇率は目標の 130%以下に対して、NCM622/黒鉛で145%程度、NCM811/黒鉛で260%程度とは目 標のDCR上昇率は未達成の見込みであることが分かった。正極活物質のNi比率を増 やすことで、容量維持率が低くなり、DCR上昇率が大幅に高くなることが分かった。サイ クル劣化メカニズムを検討した結果、NCM622/黒鉛のサイクルにおける容量低下の主 要因は、正極のMn溶出による結晶性低下がもたらす正極の容量低下、DCR上昇およ び負極のSEI成長がもたらす電位ずれが原因であると推定した。一方、NCM811/黒鉛 のサイクルにおける容量低下の主要因は、正極のNiO-like層成長がもたらす正極の容 量低下、DCR上昇の主要因は正極のNiO-like層と正極の固体電解質界面 (SEI) 層成 長による影響であると推定した。

第3章では結晶構造を安定化させることが報告されているMo置換に着目し、Mo置

換NCM622/黒鉛で、正極のMn溶出を抑えつつ、負極のSEI層の生成成長の抑制を

検討した。結果、1500回の充放電サイクル後、容量維持率は目標の70%以上に対し、

Mo置換NCM622/黒鉛で94%程度、NCM622/黒鉛で82%程度といずれも容量維持率

の目標を達成できる見込みであり、DCR上昇率は目標の130%以下に対し、Mo置換

NCM622/黒鉛で100%程度、NCM622/黒鉛で101%程度とほとんど変化がなく、目標

のDCR上昇率も達成の見込みであることが分かった。このように、Moを置換すること

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でサイクルにおける容量低下を抑制することが分かった。また、セルを解体調査した結 果、正極と負極の単極容量やレート特性の変化は見られなかったが、正負極の作動電 位のずれが確認された。なお、解体したNCM622とMo置換NCM622の両方でサイク ル前後における容量とレート特性に変化が見られなかったことから、いずれも正極の結 晶構造の変化はないと推定した。また、サイクル劣化抑制メカニズムとしては正極のMo

成分4 at%中の約0.03 at%が溶出し、負極に析出することで、このMo成分が負極の

SEI成長を阻害し、すなわち、負極中に吸蔵されたLiと電解液との還元反応を抑制し、

正極と負極の作動電位のずれを抑制したと推定した。

第4章では、Al2O3被覆NCM811/黒鉛で、被覆量とセル特性の相関を検討し、充放 電サイクルにおけるSEI層とNiO-like層成長抑制の効果を検討した。1500回の充放 電サイクル後、容量維持率は目標の70%以上に対し、被覆無のNCM811/黒鉛は0%

であり、0.5 wt%、1 wt%、2 wt%、3 wt% Al2O3被覆NCM811/黒鉛はいずれも40%程 度であり、Al2O3被覆NCM811/黒鉛は容量維持率の目標が未達成の見込みであること が分かった。一方、DCR上昇率は目標の130%以下に対して、被覆無のNCM811/黒 鉛は290%、0.5 wt%および1 wt% Al2O3被覆NCM811/黒鉛は130%、2 wt%および 3 wt% Al2O3被覆NCM811/黒鉛は160%であり、0.5 wt%および1 wt% Al2O3被覆

NCM811/黒鉛であれば、目標のDCR上昇率を達成の見込みであることが分かった。

NCM811にAl2O3を被覆することで、容量低下とDCR上昇を大幅に抑制できることが 分かった。サイクル試験後の正極の走査型透過電子顕微鏡 (STEM) と電子エネルギー 損失分光法 (EELS) を組み合わせたSTEM-EELS分析の結果、3 wt% Al2O3 被覆

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NCM811 はバルク表面で傾斜的に存在するAlを含む活物質層を確認し、かつ界面に

は被覆されたAl2O3とAlF3を確認した。さらに、3 wt% Al2O3被覆NCM811 は被覆無 に比べ、SEI層とNiO-like層の生成が少ないことが分かった。また、Al2O3混合正極は サイクル特性が向上しなかったことから、Al2O3のHFトラップの効果は少なく、バルク表 面で傾斜的に存在するAlを含む活物質層の効果により、正極中のLiと電解液との反 応を阻害することで、SEI層の成長やNiO-like層の成長を抑制し、サイクル特性が向上 することが判明した。目標未達であったサイクルにおける容量維持率については、バル ク表面で傾斜的に存在するAlを含む活物質層を形成した正極活物質の構造最適化に より、改善が可能であることが分かった。

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報文

1. Naoki Kimura, Eiji Seki, Hiroaki Konishi, Tatsumi Hirano, Shin Takahashi, Atsushi Ueda and Tatsuo Horiba, Cycle deterioration analysis of 0.6 Ah-class lithium-ion cells with cell chemistry of LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2-based/graphite, Journal of Power Sources, 332, 187 (2016).

2. Naoki Kimura, Eiji Seki, Tatsuya Tooyama and Shin Nishimura, Enhanced cell performance with Al2O3-coated LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2 as cathode materials for lithium-ion batteries, Journal of Power Sources, (Submitted).

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