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本論文は,乾燥地において、付加価値の高い地盤環境改善システムの提案を目的として,

乾燥地に自生する貴重な薬用植物である「カンゾウ」と「緑化土質材料」を用いた土地劣 化防止・地盤環境改善技術の開発と提案及び、その妥当性の検証を,モンゴルにおける乾 燥地・カンゾウ自生地,非自生地の調査や日本国内におけるカンゾウ生育実験を通して行 った内容を記している.以下に本論文の各章ごとの要約と総括し、今後の課題を記す.

第一章では,本論文および本研究の背景と目的及び本研究の位置づけを明確化し、各章 の内容と構成を記した.

第二章では,本研究を遂行する上で必要な土地劣化の原因や分類を明確化し,本論文で 対象としている土地劣化問題の詳細を記し,それに対する砂漠化防止対策や緑化手法の事 例を挙げ,工学・農学的視点から問題点を整理することで,自立支援的な対策技術の必要 性を明らかにした.また,カンゾウの生育特性,枯渇問題やそれに伴う供給難の現状を述 べ,土地劣化対策にカンゾウを用いる利点とこれまでの生育技術の課題をまとめることで,

乾燥地の生態資源を活かし,地盤工学的観点を取り入れた改善技術を検討することの重要 性を述べた.

第三章では,カンゾウ生育に適切な地盤環境を把握するため、またカンゾウの後退の原 因およびカンゾウ生育に重大な影響を及ぼしている地盤環境因子を特定するため、カンゾ ウ自生地・非自生地の地盤内の物理的・化学的環境を把握するため,モンゴル南部

Bayanhongor県において原位置気象・地盤環境調査を行い,現地地盤の物理・化学特性を原

位置及び室内試験によって明らかにした.得られた成果を要約すると以下の通りである.

1) 調査地は過去18年間を通して平均気温は4.5 ℃,降雨量は平均76.5 mm/年である.この 気象状態は、様々な気象学的気候区分において「沙漠」及び「砂漠地帯」に区分される. Bogd 村付近のS3-7(H)の2011年~2013年の気象データから,調査地は昼夜・夏冬の寒暖の差が最

大で70~80℃程度の地域であることがわかった.

2) 4地点のカンゾウ自生地と非自生地の地盤環境調査を行った結果,いずれの調査地も地下

1~2 m 程度の浅い域では不均質な砂質-シルト質の地盤であることがわかった.さらに,4

地点に共通して50~100 cmの間にシルト分を多く含む層が存在することがわかった.

3) 自生地と非自生地の1~2 m程度の深さの含水比分布を調査したところ,水分状態の違い と室内実験の結果から,自生できる境界の水分状態が体積含水率5%程度であることが示唆 された.また自生地S3-7(H)において,シルト分を多く含む層は砂分を多く含む層と比較す

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ると有効水分量が高く,保水性を有する層が存在することがわかった.さらに,表層の原 位置飽和透水係数は自生地・非自生地共に概ね10-2~10-3 cm/sであり,砂質土の透水性を示 した.

4) 調査地のpH はどの層でも概ね 7~10 程度であり,アルカリ性地盤であった.また,地 盤内栄養環境は特にカルシウム分が多く,土壌中の 10%程度が炭酸カルシウムである層も 存在した.また,自生地はシルト分を多く含む層に炭酸カルシウムや交換性陽イオンが蓄 積され,その結果同じ層の pH,EC は他の層と比べると高くなることがわかった.しかし

非自生地 S3-3(NH)はシルト分を多く含む層を有するにも関わらずカルシウム分や交換性陽

イオンは他の地と比較して低いこともわかり,降雨も少なく地下水位の低い地では塩分の 動きもなく,カンゾウの生育に不適切な環境になることが示唆された.

5) 自生地・非自生地共に栄養(交換性陽イオン)を吸着できる能力を表すCECが低く,一般 的な植物栽培に用いる培養土の1/10程度の保肥力であることがわかった.また,アンモニ ア態窒素・硝酸態窒素・リン酸といった有機分が圧倒的に低いことがわかった.

6) 自生するカンゾウ根のカルシウム分は日本で生育した栽培品と比較して平均で約3倍高 く,日本において様々な土壌条件で生育させた2年生の苗よりも全体的にGC含有率が高く,

平均値は 3 倍以上であり,地盤内のカルシウム分はカンゾウ生育に重大な影響を及ぼすこ とが示唆された.

7) S3-7(H)は他の地点を比較すると,地下水位が高く,それにより地下250cmまでの含水比 も平均で5~10倍高く,シルト分と粘土分を含む層にカルシウム分が滞留し,地下水が比較 的高く,養分としての塩類が滞留されている環境でカンゾウは健全に生育することが示唆 された.

第四章では,地盤内の水分・栄養環境がカンゾウの成長に及ぼす影響を定量的に把握す るため,また乾燥地においてカンゾウの生育および成長に影響を及ぼしている地盤環境要 因を特定するために,様々な地盤環境において生育実験を行い,カンゾウの成長に影響を 及ぼす地盤環境要因の特定とその関連性の定量化を行った.これらの結果から,カンゾウ 生育実験を通して乾燥地のような栄養分が少ない地盤にカンゾウを定植させる技術の提案 と,その技術の妥当性の確認及び良好な条件の検討を行った.得られた成果を要約すると 以下の通りである.

1) 筒栽培における 3 種の土質を用いた生育実験では,1 年目は培養土のみで栽培した個体 の成長が全体的に高かったが,2年目の平均値は,生根重にバラつきはあるが硅砂と培養土 の混合砂が高くなった.これは硅砂に培養土を混合したことにより保水性と,土壌の適度 な養分含有量,さらには陽イオン交換容量が付与されたことが原因となったと考えられる.

さらに,乾燥地の粒度に近い硅砂 7 号で育てた個体は成長度も良好とはいえなかった.こ れは,陽イオン交換容量が低く,かつ土壌そのものに含まれる栄養分が少なかったためで あると考えられる.これより,カンゾウを幼苗から育てる場合適度な栄養と水分が必要で

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2) 二年間生育した個体に関しては,特に硅砂と培養土(a)を含む土質で栽培した個体は,GC 含有率が高まることがわかった.これは硅砂と培養土を混合したことによる適度な保水・

排水性,栄養保持特性によりカンゾウの成長を促したのではないかと考えられる.一方で,

硅砂 7 号のみで生育させた場合は,モンゴルの群生地と同じように硝酸態窒素・その他の 交換性陽イオンが少ないにも関わらず,生育が良好ではないことがわかった.

3) 筒栽培を応用して乾燥地を模擬した地盤に健全に伸長するかの確認を行った生育実験で は,筒直径が5cm,筒高さが10cmの場合では下地盤に30cm根が伸長し,さらにGC含有 率も根重も高い個体を生育させることができ,筒栽培による初期の成長促進の有益性が示 唆された.また,少ない培養土で栽培した個体の方が生育が良好であったことから,作業 効率を上げることができる可能性がある.さらに,筒直径に関しては直径5cm で生育した 個体のほうが根重の高い個体を生育させることができることがわかった.

4) 乾燥地を模擬した地盤に緑化土質材料を埋め込んで生育実験を行った結果,生育期間 7 か月では,水分量が多い方がカンゾウの成長度,特に根重が高くなり,成長初期には地表 面に水分を確保しなければならないことが示唆された.

第五章では,第四章で述べた緑化土質材料を応用し,現地で調達した砂質土,動物性肥 料としての家畜の糞,及び培養土を混合した材料用いた生育実験を実地盤において行い,

その妥当性を簡易的に確認した結果を示した.さらにその結果を踏まえ,カンゾウ非自生 地において植生実験サイトを設け,緑化材料の変えた様々な条件で植生実験を行い,特に 緑化土質材料内の水分状態とカンゾウ生存率の関係を明らかにした.

1) 緑化土質材料の設置方法に関しては,元来伸長していた根の方向である,水平方向に設 置した条件での生存率が高い傾向を示した.

2) 緑化土質材料の混合比に関しては,カンゾウ生育にとって境界の含水比3%以上を保ち,

かつナトリウム含有量の少ない条件での生存率が高い傾向を示した.すなわち,現地で調 達できる材料であるUB, LCをS3-7(H)の砂質土に,乾燥重量比で10%程度混合した条件で の生育が良好であった.

3) 表層処理としてのマルチングの有無に関しては,生育期間4か月では,マルチングを施 した条件において,施さない条件と比較して約1.5倍含水量を保持できることが示され,そ の結果生存率も非マルチングの条件と比較して約3倍となった.

4) 1)~3)より,S3SandとUB, LCを10%の割合で混合した緑化土質材料を水平方向に,深さ 10cm程度に設置し,マルチングを施した条件がカンゾウ生存に効果的な地盤内の環境・栄 養環境を創り出す可能性があることが示された.

本論文では,乾燥地における地盤環境改善技術の開発を目的として,希少種である薬用 植物を乾燥地地盤に定植させることによって付加価値の高い砂漠化防止技術を提案するこ