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調査地の化学的環境

ドキュメント内 平成 26 年 2 月 (ページ 69-73)

第三章 モンゴル南部乾燥地地盤の物理・化学的環境特性

3.6. 調査地の化学的環境

前述したように,植物の生育に影響を及ぼす地盤内の化学的環境として土壌の pH, 電気 伝導率(Electric Conductivity, EC),水溶性・交換性陽イオン,陽イオン交換容量(Cation

Exchange Capacity, CEC),炭酸塩及び窒素,リン酸含有量等が挙げられる.pHは地盤の酸度

を表す指標であり,ECは地盤内の塩類濃度を表す指標である.炭酸塩,特に炭酸カルシウ ムは,降雨が少なく化学的風化の進みやすい乾燥地では,水に溶けにくいので表層 1~2m 以内の浅い層に卓越して含有される 4)ので,カンゾウの生長初期段階,すなわち根が地下深 くまで到達していない状態の生育において重要である.さらに、乾燥地においては交換性 カルシウムよりも炭酸カルシウムのほうが支配的である.

そこで3.6節では,上記に挙げた土壌の化学的パラメータの自生地と非自生地の差異と,

それに加えて土壌の化学性と物理性の関連性に関する考察を示す.

3.6.1 pH と EC

図3-26に調査地の深さ方向のpH,図3-27にEC分布を示す.pHとECはそれぞれ,地 盤工学会の試験基準JGS-0211, 0212に従い測定した13)

図3-26より1~2 m程度の浅層域では,どの調査地,どの深さにおいてもpHは概ね7~

10程度であり,アルカリ性地盤であることがわかる.図3-27に示すECの深さ方向の分布

では概ね0.1~0.8mS/cmの値をとり,他の塩類集積地や乾燥地のデータと比較すると決して

高い値とは言えない22).しかし図3-26と図3-27に共通しているのは,カンゾウ自生地,非 自生地に関わらず深さ50~100cmの間で共通してpHとECが高いことである.これは,3.5.1 節で述べたような土層構成が影響していると考えられる.すなわち,保肥性が S 層よりも 比較的高いSL,L,SiL層に塩類が保持されたと考えられる.

図3-26. 各調査地の深さ方向のpH 図3-27. 各調査地の深さ方向のEC 0

50

100

150

200

250

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8EC (mS/cm)

S1-2(NH) S1-3(H) S3-3(NH) S3-7(H)

Depth (cm)

0

50

100

150

200

250

6 7 8 9 10 11

pH

S1-2(NH) S1-3(H) S3-3(NH) S3-7(H)

Depth (cm)

65 3.6.2 炭酸カルシウムと各種交換性陽イオン

図3-28 に深さごとの炭酸カルシウムをカルシウム分に換算した値,図 3-29 から図 3-31 に深さごとの各調査地の交換性陽イオン3種(Mg2+, K+, Na+)を示している.交換性陽イオン に関しては,0.05 M酢酸アンモニウムと0.0114 M塩化ストロンチウムの混合溶液で処理し,

0.4m ポアフィルターでろ過した土の濾液を原子吸光光度計 ANA-182 (東京光電株式会社

製) にて測定した23).また,交換性カルシウムに関しては,酢酸アンモニウムで処理すると 炭酸塩(CaCO3)も含んだ値も測定してしまうという問題点がある.また,一般的に乾燥地で は塩類集積により炭酸カルシウムを多量に含む層が存在することも知られている4).石灰質 の試料の強熱減量に関しては,540℃~700℃の間の減量が炭酸カルシウムの熱融解によっ て二酸化炭素(気体)になる際の減量であることがわかっている24).そこで,JIS A 1226に従 った強熱減量試験13)にて炭酸カルシウム含有量を求めた.

図3-28は,炭酸カルシウムを測定した後,炭酸カルシウムに含まれるカルシウムの重さ に換算した値(CaCO3-Ca)の深さ方向の分布を示している.カルシウムは他の交換性陽イオン に比較して10~100倍高い値を示し,S3-7(H)の最も多く含まれる深さでは土壌の質量の10%

近くを炭酸カルシウムが占めている箇所も存在する.3.7節に示す表 3-11 においても,モ ンゴルに自生するカンゾウ根の成分もカルシウムが高くなっていることから,炭酸カルシ ウムがカンゾウの生長や成分に多大な影響を及ぼしていることが推測できる.従って,カ ンゾウ生育にカルシウム分は不可欠であると予想できる.

また,図3-29と図3-31より,交換性Mg2+,Na+に関してS3-3(NH)以外で50~100cm程度 の深さで陽イオン量が高いことがわかる.これは,3.5.1節でも説明したとおり地盤の土層 構成が影響しているのではないかと考えられる.

一方でS3-3(NH)は60~80 cmにSL層が卓越し,pHやECも60~80cm程度で高いにもか かわらず炭酸カルシウムと 3 種の交換性陽イオンの値が全体的に低いことがわかる.しか

し,pHとECは60~80cm程度で高いことから,水溶性陽イオンはpHとECを高める程度

には存在していると考えられる.

さらに,3.5.1節にも記したが,L層を含む保肥性が中程度の層に塩類が堆積していると考 えられる.加えて,降雨や蒸発,地下水位等の外部からの塩類を含んだ水分の流入・流出 もこのような地盤環境になった要因として挙げられる.実際,現場で体積含水率やECを簡 易に測定できるWETセンサー(Delta-T社製)でS3-7(H)の地下水のECを測定したところ,約

1.0 mS/cmであり,塩分を含んでいることがわかっている.

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図3-28. 各調査地の深さ方向のCaCO3-Ca 図3-29. 各調査地の深さ方向の交換性Mg2+

図3-30. 各調査地の深さ方向の交換性K+ 図3-31. 各調査地の深さ方向の交換性Na+

0

50

100

150

200

250

0 20000 40000 60000 80000 100000

S1-2(NH) S1-3(H) S3-3(NH) S3-7(H)

Depth (cm)

CaCO3-Ca (mg/kgdry)

0

50

100

150

200

250

0 200 400 600 800 1000

S1-2(NH) S1-3(H) S3-3(NH) S3-7(H) Exchangeable cation (Mg2+) (mg/kgdry)

Depth (cm)

0

50

100

150

200

250

0 50 100 150 200 250 300 350 400

S1-2(NH) S1-3(H) S3-3(NH) S3-7(H) Exchangeable cation (K+) (mg/kgdry)

Depth (cm)

0

50

100

150

200

250

0 200 400 600 800 1000

S1-2(NH) S1-3(H) S3-3(NH) S3-7(H)

Depth (cm)

Exchangeable cation (Na+) (mg/kgdry)

67 3.6.3 陽イオン交換容量

表3-10に自生地・非自生地の表層付近のpH,EC及びCECと,図3-28で示した方法で 測定した炭酸カルシウム中のカルシウム分(CaCO3-Ca),図3-29~図3-31で示した各種交換 性陽イオンをまとめたものである.CECはSemi-micro shollenberger 法にて測定した25).ま た,比較のために第四章で取り扱う培養土のデータも示す.表中の培養土(a)はタキイ種苗 株式会社の育苗培土,培養土(b)はアイリスオーヤマ株式会社の粒状培養土である.表 3-10 よりどの地盤もCECは培養土(a),(b)と比較すると低く,1/20~1/10程度である.従って調 査地は保肥性の低い地盤であることがわかる.

3.6.4 硝酸態窒素,アンモニア態窒素,リン酸

表3-10には硝酸態窒素(NO3-N),アンモニア態窒素(NH4-N),リン酸(P2O5)も示している.

NO3-Nはフェノール硫酸法,NH4-NはHarper法にて処理した土壌を蒸留滴定法にて測定し た25).これも比較のために上記の培養土2種のデータも示している.表3-10より,どの地 盤も硝酸態・アンモニア態窒素,リン酸 は培養土(a),(b)と比較すると低く,どの成分も培 養土の 1/10以下の有機分含有量であることがわかる.これより,調査地が一般的な植物に とって過酷な地盤環境にあることが改めて推察される.カンゾウはマメ科の多年草であり,

一般的なマメ科の植物は土中の窒素を他の植物と比べて必要とせず,根に根粒菌という空 気中の窒素を固定する微生物と共生して必要な窒素分を補うことが知られており,実際に 根粒菌が付着している個体の存在も確認している 26).根粒菌が付着した自生カンゾウ根を 写真3-6に示す.

表3-10. 調査地の交換性陽イオンと有機分の比較

pH EC CEC CaCO3-Ca ex-c Mg2+ ex-c K+ ex-c Na+ NO3-N NH4-N P2O5 site depth (cm)

/unit mS/cm cmolc/kgdry

S1-2(NH) 0-10 8.98 0.152 2.1 - 310 70 240 34.1 50 11

S1-3(H) 140 8.98 0.051 2.1 6489 70 30 60 0.4 50 4

S3-3 (NH) 20 - - 1.9 - 40 40 50 0.6 50 11

0 10.26 0.24 5.2 - 190 310 810 5.8 50 6

50 1.08 0.62 5.6 - 500 1100 1430 3.3 40 10

240 9.49 0.08 2.1 3841 90 100 770 0.8 60 15

(a) 6.35 1.57 21.3 - 870 1700 304 391 708 400

(b) 7.37 0.23 49.9 - 1300 160 750 38.7 590 90

Potting compost

S3-7(H)

mg/kgdry mg/kgdry

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