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4.1 インタビュイーとインタビュアーの関係性

 Aさん,Bさん,Cさん共に,快くインタビューに協力してもら ったが,その関係性によりインタビューに差異が見られた。

 Aさんと筆者とのインタビューでは,Aさんが以前から筆者の知 人ということで,ラポールの形成は築けていた。しかし,インタビ

ュー

?C話が関係ない事に及ぶことが多々あった。その際,筆者は,

なるべくインタビュイーの語りを邪魔しないように努めていたため,

元の語りに戻るのに困難な場面も見られた。その一方で,Bさんと Cさんのインタビューでは,筆者は二人とも初対面であり,インタ ビューに入る前に,簡単な自己紹介や研究について少し話をした。

しかし,BさんとCさんのインタビューからは,事実については色々 とうかがうことはできたが,その当時の気持ち等についてはなかな か深く取り上げることができなかった。これは,筆者のインタビュ ーの進め方にも問題があったためだと考えられる。

 また,Aさんは,筆者が留学経験をしていたことを以前から知っ ており,さらにインタビューの前にも,お互い自分の留学体験につ いて話をすることがあった。したがってAさんの語りでは,自然に 当時の気持ちが語られたのではないだろうか。その上,Aさんは,

筆者よりも年齢が高く,年下の筆者に話しやすかった可能性も考え られる。他方Bさんとのインタビューでは,出来事が中心となり,

Bさんの気持ちについてあまり深く聞くことができなかった。これ は,筆者の研究の意図を適切に伝えることや,ラポール形成がうま くできていなかったためだと推察される。Cさんとのインタビュー では,全体的にCさんのポジティヴな気持ちや出来事が多く語られ,

あまりネガティヴな側面は語られなかった。しかし,インタビュー の後半で少しずつネガティヴな気持ちが語られるようになっていっ た。これは,筆者の質問の仕方や,インタビューの進め方に問題が あったため,Cさんのネガティヴな気持ちが,インタビュー初期で はあまり語られなかったと示唆される。加えて,BさんとCさんは,

筆者と年齢が近く,両者とも筆者より年下であることが語りを阻む

一因であったと考えられる。桜井他(2005)は,聞き手のアイデン

ティティが語り手にとって語る物語を方向づけ,また聞き手がどの

ような人であるか語り手に伝えることは,語り手がどのように話す

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かを導くとしている。さらに桜井他は, どのようなアイデンティテ ィであれ聞き手のアイデンティティの呈示が語りの促進に作用す る と述べている。よって,筆者が,どのようにインタビュイーに 映り,印象を持たれるかが,インタビューを左右することになると 考えられる。

 しかしここで忘れてはいけないのが,帰国後の年月の違いである。

Aさんは,帰国後およそ20年の年月が経っているが,Cさんは7 年,Bさんにいたっては2年という短い年月である。そしてAさん

は,帰国後何年もアメリカと日本の間で揺れ動く気持ちを経験して おり,Cさんは,留学経験は,帰国後そして今後の人生にも影響を すると述べている。よってこれらを考慮すると,帰国後の年数が経 つにつれ,留学経験者は当時の気持ちについて整理でき,語りやす

くなってくることが推察される。

 当事者について宮内・今尾(2007)は, 「当事者同士」という関 係は,自身の経験や立場を共有できる希少な場となり,相互の関係

を深められる と述べている。このように,筆者が研究協力者と同 じ経験をしていたことが,二者間の関係を深め,より多く物語を共 同生成することにつながったと考えられる。

4.2 留学直後の語りに見られる共通点

 今回のインタビュイーの共通点として,出国時から留学直後では,

それぞれ気持ちの変容と共に,様々な身体化の症状があったことが あげられる。Aさんは,出国時から色々考えると不安になるので考 えないようにしていた,さらに現地でもよく寝ていたと語っている。

Bさんは,出国時からかなりの緊張感があり,飛行機の中では寝る ことができなかったと語り,入国の際に トラウマ となる出来事 を経験し,2,3日家に閉じこもっていたと振り返っている。Cさん は,留学動機は一番高かったと思われるが,勉強をしようとすると,

偏頭痛が起きると語った。このように彼らは,ストレスに耐えるた め,無意識的に様々な身体化が生じ,劇的に異なる異国の地での生 活に適応しようとしていたのではないだろうか。

 また、Aさんは,現地で彼氏ができそして結婚し,Bさんは,同 じ日本人留学生の彼女ができ,Cさんは,気持ちを共有できる日本 人の友人ができ,それぞれが現地での人問関係に影響を受けている。

このように,人は環境が変わるとソーシャルサポート源である親密

な人や,友人の大切さを痛切に感じることが多いであろう。しかし,

外国に行った場合は,現地ですぐに親密な人や友人はできにくく,

日本の友人に連絡をしようとすると,料金や時間帯の違いにより疎 遠になりがちになることが考えられる。また八代・町恵・小池・吉

田(2009)は,日本の友人に 海外の愚痴をこぼしても自慢してい るようにとられたりして,ますます孤独になりがちである と留学 した者の心境を述べている。よって,インタビュイー連が,親密な 人間関係を築けたことは,大きなソーシャルサポート源だったと考

えられる。

 3名の研究協力者の語りから,留学体験は,帰国してから受ける 復帰ショック ,つまり異文化で滞在目的を果たして,白文化に復 帰した時に襲われるもの(星野,2010)を含むことが明らかになっ た。また協力者の語りより,留学体験は,協力者達のその後の人生 にも影響を及ぼし続けることが推察される。

4.3 アイデンティティの変容

 以下の逐語は,それぞれの研究協力者と筆者との本文の逐語から 抜きだしたものであり,なお,下線部を引いた箇所は,当時の気持 ちがありありと表現されている部分である。Bさん,Cさんも同様

である。

i)Aさんのアイデンティティ変容

(アメリカでの生活について)

^ 何がしんどかったってねくうん>,何がってその勉強じゃなくてねくうん>ふわ  ふわしてたって感じくう〜ん>時間が.だから自分じゃないねん。くう〜ん>あた  しは何をしてるんやろうって感じくう〜ん>ずっとおっても,日本人の子としゃべ  ってでも、アメリカ人の子としゃぺってても自分じゃないのよ      (P,16)

(アメリカでの生活で)

^ 部分部分は楽しいのよ、<うん>分かる?くうん>今日はプールに行こうそれは  楽しいねん<うんうん>。でも1日今日考えたら何かが違うっていうくうん>,分  かる?

1=うん,常にある。

^=常にどっか1二何かがあって,このままでいいねんやろかくうん>、このままあた  しはずっとこの国1こ住む.でもこの国嫌いか言うたら好きや,くうん>でだからあ  たし日本1こ帰って来た時ねくうん>,今はでこそ思えへんけど、30過ぎ位までまだ  戻りたかってん。       (P,21)

(帰国後.働きながら)

^ 何かが走れへんのよとりあえず自分の中でくう一ん>、だからぽっかりなんかが 足りへんのよねくうん>,でもそれを四十考えてるわけじゃないのよくうんうん>

24時間も.私が何かがないとかじゃないよ<うん>。でも才一バーオール(全体的 に)で。       (P,26)

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 Aさんの下線部の語りに見られるような揺れ動く気持ちは,何か 大きな出来事があり,このようになったわけではなく,毎日の生活 の中で,ふつふつと湧き起こるような感情だったと考えられる。そ してこのようなAさんの気持ちの揺らぎは,アイデンティティが保 持されておらず,不安定な状態であったためだと推察される。鐘

(1990)は, 現在自分の生き方について模索の状態にあること。

したがって,まだ積極的に関与すべきものが定まっていない 状態 を モラトリアム と述べている。Aさんの当時の状態はまさにこ の モラトリアム の状態であったと考えられる。そして,この状 態は,アイデンティティの形成,自己確立前の段階であるので,試 行錯誤する(鐘,1990),とされている。Aさんは,自己を確立す るために自分自身と向き合い,何かが違うと感じながらも,自己を 模索していたのではないだろうか。

i)Bさんのアイデンティティ変容

(入国の際の .トラウマ 体験)

B 税関通るんすけど.くうん>そこで,ま今思ったらすごい簡単な,くうん>}‡

 }話やったんですけど.何し1こ来たのって聞かれて,くうんうんうん>答えれなか  ったんですよね〜うまく.〈う〜ん>そこでもうがっくしきて.くう〜ん>もうす  ごい帰りたくなりましたね。くう〜ん>なんか,やっぱり日本はまだそこまでいか  ないと思いますけどくうん>,他の国の税関て結構,〈厳しいですよね>なんか高  圧的と言うか.くうん>不親切と言うか、くうん>なんかもう冷たい感じで.くう ん>なんかそこでもう,帰りたい帰りたい(B笑う)くふふ、S、>ってなって,でも

う人と接するのが怖くなったんですよ。 (P,33〕

B:なんかもう税関でそういうことがあって.くあ〜>ほんっと帰りたい気持ちでく  ん〜>とんでもない所に来てしまったみたいな<ん〜>感じで。んで.でそのOO

○空港ってとこの降りたったんですけど,くうん>そっからまあ電車.電車はねも う切符は自動販売機だったんでくあ〜>全然良かったんですけど,ねああの〜やっ ばりそこでも切符見1こ車掌さんが来るんですけど、〈うん>もうほんっと人と接す るのが嫌で<あ〜>そん時は、で,ホテル着いてくうん>ホテル、ユースホステル に泊まるんですけど.くうん>もうそん時も.ほんっと人と接するのが嫌だったん で<う〜ん>もう1もう一人に任せて(1微笑む),<うん>もう。

もう明日からどうしようみたいな。       (P.33)

B:確か学校始まるまでは.2.3日はあったんで,くうん>ほんと部屋閉じこもって  たと思います。      (P.34)

(留学中に旅行した時)

B なんかもっとフランスとか.オランダとか.行きたかったんすけど(B苦笑い)く  う〜ん>なんかやっばりあったんすよね,<う〜ん>また言葉が通じないんでそこ 行〈どくう〜ん〉やっばりそういうのが、やっばりあったんですよトラウマという か最初の、それが自分を止めてしまったのが、今思えばあったかなってのが<うん う〜ん、なるほど>すごいあったかなあって思います。         (P,41)

 Bさんは,入国の際,税関の人に自分の言葉が通じず,さらに

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