• 検索結果がありません。

これまでの章では,高分子の一次構造の解析に有用な手法の1つであるNMR分光 法に対して,複雑かつ大量の情報や差異が判別できないデータ群から,いくつかの有 用な情報へと変換する強力な手法である多変量解析を適用することで,NMR スペク トルの帰属を行うことなく,工業的に広く利用されている高分子材料のモデル共重合 体の一次構造に関する定量的な情報が得られることを示してきた。本章では,本論文 の結論として,本研究で対象とした種々の共重合体と,その一次構造,および,推定 された一次構造情報の結果を以下にまとめ,これまでの到達点と今後の展望について 述べる。

6-1 本研究の結論

まず,第3章で述べたメタクリル酸メチル(MMA)-メタクリル酸 t-ブチル(TBMA) 二元共重合体の組成および 2 連子モノマー連鎖分布の推定では,単独重合体 2 種と,

それらの混合試料9種の合計11種の13C NMRスペクトルから構築した部分最小二乗 回帰(PLSR)モデルを用いて,二元共重合体の組成を精度良く推定できることを示した。

また,単独重合体2種と,それらの混合試料9種,および,初期共重合体9種の合計

20種の13C NMRスペクトルから構築したPLSRモデルを用いて,理論式から外れた

モノマー連鎖分布を持つ共重合体の混合試料や,通常では推定が難しい後期共重合体 の 2 連子モノマー連鎖分布も,精度良く推定できることを示した。さらに,合計 27 種の試料の13C NMRスペクトルを主成分分析(PCA)することで,各主成分が捉えた一 次構造の情報も明らかにできた。ここでは,NMR スペクトルの多変量解析が,共重 合体の一次構造情報の定量的な把握に利用できることを実証した。

次に,第4章で述べた MMA-TBMA-メタクリル酸 2-ヒドロキシエチル(HEMA) 三元共重合体の組成および2連子モノマー連鎖分布の推定では,単独重合体3種とそ れらの混合試料34種の13C NMRスペクトルから構築したPLSRモデルを用いて,三 元共重合体の組成を精度良く推定できることを示した。また,単独重合体3種と,そ れらの混合試料34種,および,3系列の二元初期共重合体9種ずつ,合計64種の13C NMR スペクトルから構築した PLSR モデルを用いて,三元共重合体の 2連子モノマ ー連鎖分布や,同種および異種2連子モノマー連鎖分率を,実用的な精度で推定でき

ることを示した。さらに,合計 80種の試料の13C NMRスペクトルのPCA から,各 主成分が捉えた一次構造の情報も明らかにできた。ここでは,第3章で述べた MMA

-TBMA二元共重合体での解析手法が,三元共重合体へ拡張可能であることを証明し た。

さらに,第5章で述べたMMA-TBMA二元共重合体の立体規則性の推定では,モ デルとなる二元共重合体10種の13C NMRスペクトルから構築したPLSRモデルを用 いて,任意の二元共重合体の3連子立体規則性分率を精度良く推定できることが明ら かになった。また,二元共重合体 12種の13C NMRスペクトルのPCA と,統計的二 次元NMR法(stat-2D NMR)を併用することで,共重合体の複雑なNMRスペクトルか ら,5連子立体規則性と3連子モノマー連鎖とを反映する共鳴信号を抽出することが できた。さらに,二元共重合体12種に,立体規則性が異なるPMMAおよびPTBMA 各4種を加えた合計 20種の試料の13C NMRスペクトルのPCAから,各主成分が捉 えた一次構造の情報も明らかにできた。ここでは,NMR 法では難しいとされる二元 共重合体の立体規則性の解析に対して,多変量解析とstat-2D NMRの有用性を実証し た。

5-2 今後の展望

本研究では,モデル的二元および三元共重合体の 13C NMR スペクトルの多変量解 析が,共重合体の一次構造の解析や,その定量的な把握に対して有用であることが確 認された。本研究で扱った共重合体は,線状高分子である。本手法がさらに実用性の あるものへ飛躍するには,モノマー単位がさらに増えた四元あるいは五元共重合体に ついての検討が必須である。また,くし型,星形などの分岐高分子や,溶媒に不溶な 網目高分子や架橋高分子などの線状ではない共重合体に対しても,本手法が有用であ ることを実証する必要がある。高分岐共重合体の分岐度に関する検討も始まっている が,末端基構造や架橋点構造についても,今後取り組むべき問題である。

別の観点では,NMRと,他の分析手法を併用することが期待される。NMRスペク トルから得られる一次構造の情報は,平均値である。工業的な高分子材料の機能発現 には,一次構造の平均値とともに,その分布が大きな影響を及ぼすことがしばしばあ る。例えば,マトリックス支援レーザー脱離イオン化時間飛行型質量分析法

(MALDI-TOF-MS)は,比較的分子量の大きい高分子の解析が可能であることと,質量数の情報

が得られることから,質量数で判別できる一次構造の分布(例えば,組成分布)が解 析できる。NMRスペクトルとMALDI-TOF-MSスペクトルを組み合わせた多変量解析 により,一次構造の平均値とその分布が,互いに関係性のある情報として得られるで あろう。また,一次構造の情報だけでなく,例えば,光散乱,X線散乱,中性子散乱 などの高次構造を反映したスペクトルとを組み合わせて多変量解析することで,一次 構造と高次構造との関係も明確になり得るであろう。さらに,構造情報だけでなく,

材料物性や機能性を表す数値データやスペクトルとを組み合わせることで,一次構造

~高次構造~材料物性の関係が明らかになり,本手法で得られた情報が材料開発に携 わる研究者や技術者への指針となることが期待される。

今後,本章で述べた課題を順次解決していくことで,本研究で実証した手法が高分 子工業だけでなく,高分子科学の分野においても,大きな貢献をするものと期待され る。

本論文に関わる発表論文

(本論文中の所在)

1. “Multivariate Analysis of 13C NMR Spectra of Methacrylate Copolymers and Homopolymer Blends”

Hikaru MOMOSE, Kosuke HATTORI, Tomohiro HIRANO, and Koichi UTE,

Polymer, 2009, 50, 3819–3821. (第3章)

2. “Statistical Determination of Chemical Composition and Monomer Sequence Distribution of Poly(methyl methacrylate-co-tert-butyl methacrylate)s by Multivariate Analysis of 13C NMR Spectra”

Hikaru MOMOSE, Tomoya MAEDA, Kosuke HATTORI, Tomohiro HIRANO, and Koichi UTE,

to be submitted to Polym. J. (第3章)

3. “Statistical Determination of Chemical Composition and Monomer Sequence Distribution of Methacrylate Terpolymers by Multivariate Analysis of 13C NMR Spectra”

Hikaru MOMOSE, Tatsuya NAONO, Tomoya MAEDA, Tomohiro HIRANO, and Koichi UTE,

to be submitted to Int. J. Polym. Anal. Charact. (第4章)

4. “Statistical Determination of Tacticity of Poly(methyl methacrylate-co-tert-butyl methacrylate)s by Multivariate Analysis of 13C NMR Spectra”

Hikaru MOMOSE, Tomoya MAEDA, Tatsuya NAONO, Seiko ASAKAWA, Ryuichi SAKAO, Tomohiro HIRANO, and Koichi UTE,

to be submitted to Polym. J. (第5章)

参考論文

5. “Characterization of Methacrylate Copolymers by Means of Multivariate Analysis of

13C NMR Spectra”

Hikaru MOMOSE, Tomoya MAEDA, Tatsuya NAONO, Kosuke HATTORI, Tomohiro HIRANO, and Koichi UTE,

11th Pacific Polymer Conference (PPC11), 2009, p.309–310.

6. “Determination of Comonomer Sequence Distribution of MMA−TBMA Copolymers by Means of Multivariate Analysis of 13C NMR Spectra”

Hikaru MOMOSE, Tomoya MAEDA, Tatsuya NAONO, Kosuke HATTORI, Tomohiro HIRANO, and Koichi UTE,

23rd International Symposium on Polymer Analysis and Characterization (ISPAC-2010), 2010, p.32–33.

7. “Analysis of Monomer Sequence Distribution and Stereoregularity of Poly(MMA-co- TBMA)s by Multivariate Analysis of 13C NMR Spectra”

Hikaru MOMOSE, Tomoya MAEDA, Tatsuya NAONO, Seiko ASAKAWA, Tomohiro HIRANO, and Koichi UTE,

International Conference on Polymer Analysis and Characterization & 15th Symposium on Polymer Analysis in Japan (ICPAC), 2010, p.71–72.

8. “13C NMRスペクトルの多変量解析によるアクリル系共重合体の一次構造解析”

百瀬 陽,平野 朋広,右手 浩一,

総合論文として 分析化学 へ投稿準備中

共同研究者一覧 (五十音順)

浅川 聖子 (徳島大学大学院先端技術科学教育部)

右手 浩一 (徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部)

上池 亮太 (徳島大学大学院先端技術科学教育部)

坂尾 竜一 (徳島大学工学部)

直野 辰哉 (徳島大学大学院先端技術科学教育部)

服部 康祐 (徳島大学大学院先端技術科学教育部)

平野 朋広 (徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部)

前田 智也 (徳島大学大学院先端技術科学教育部)