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地球環境問題への対策が世界的に重要な課題となっている今日,環境負荷を低減した新 しい加工技術が必要とされている.切削工程における切削液の使用は,生産性を高める重 要な役割がある一方,地球環境,作業者の健康環境,及び作業環境に与える影響が非常に 大きい.従って,切削液をできるだけ使用しない切削技術の開発が極めて重要な環境問題 への対応策といえる.そのため,自動車や航空機分野,その他多くの分野で利用され,需 要の高まりをみせるアルミニウム合金に対して,切削液の使用量を削減した環境対応型切 削を適用することが,地球環境問題の解決のために必要である.このような背景の下,ア ルミニウム合金切削においては,DLC膜を被覆した切削工具による環境対応型切削の研究 がなされてきた.しかしながら,成膜方法によって幅広い性質を持つDLC膜においては,

膜種毎のアルミニウム合金切削時の特性がまだ十分には解明されていない.特に,アルミ ニウム合金切削時の耐凝着性能改善に重要な切削中の工具すくい面の摩擦係数について,

実験的に解明した研究は見当たらない.

そこで本研究では,DLC膜種,アルミニウム合金材種,切削形態を区別して,切削中の 工具すくい面の摩擦係数を評価し,ドライ切削におけるDLC膜の耐凝着性能を明らかにし た.また,ドライでは切削中の摩擦係数が高く良好な切削が困難な領域に対して,摩擦係 数を低減させて耐凝着性能を改善した新たなニアドライ切削の手法について検討を行った.

本章では,本研究で得られた成果を総括する.

第1章では,切削加工における環境問題対応の必要性を述べ,DLC被覆工具を用いたア ルミニウム合金の環境対応型切削に関する従来研究の問題点について言及した.アルミニ ウム合金切削におけるDLC被覆工具の耐凝着性能を明らかにし,アルミニウム合金の環境 対応型切削に適したDLC被覆工具の活用手法を提案することを本研究の目的とした.

第2章では,成膜方法の異なる2種類のDLC膜について,アルミニウム合金のドライ切 削における耐凝着性能を明らかにすることを目的とした.比較したDLC膜は,T字状フィ ルタードアーク蒸着法による水素フリーの DLC(ta-C)膜とプラズマ CVD 法による水素

含有の DLC(a-C:H)膜である.旋盤を用いた二次元切削実験では,アルミニウム合金の

展伸材(A5052,A7075)と鋳物(AC2A,AC8A)を対象とし,切削形態をエンドミル切 削などに代表される断続切削と旋削などに代表される連続切削に分類して切削実験を行っ

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た.その結果,ta-C被覆工具では,展伸材の断続切削の場合のみ,切削中の摩擦係数が低 下して安定し,工具へアルミニウムがほとんど凝着せずに切削が可能であった.一方で展 伸材の連続切削や鋳物の切削ではta-C被覆工具でも摩擦係数が高く,超硬工具と同程度に 工具すくい面にアルミニウムが凝着した.a-C:H 被覆工具では,展伸材の断続切削の場合 に超硬工具に比べて若干凝着量が減少したが,ta-C被覆工具ほどの耐凝着性はなかった.

展伸材の連続切削や鋳物の切削では,超硬工具と同程度に工具すくい面にアルミニウムが 凝着した.エンドミルによる溝切削実験を行った結果,a-C:H 膜ではエンドミルの溝部へ の切りくず詰りにより切削が不可能であったが,ta-C膜ではほとんど工具に凝着すること なく良好な長時間の切削が可能であった.以上から,アルミニウム合金のドライ切削時に 工具すくい面の摩擦係数が低く優れた耐凝着性を発揮するのは,ta-C被覆工具による展伸 材の断続切削の場合のみであることが明らかになった.航空機部品やスマートフォンケー スなど展伸材の断続切削を行う分野は多く,本章の成果が環境負荷低減に貢献するところ は大きいと考える.

第3 章では,A5052 のドライ断続切削における水素フリーDLC(ta-C)被覆工具の摩擦 係数変化の要因を解明することを目的として,二次元断続切削実験により切削長さ(L1)・

非切削長さ(L2)の影響及び切削雰囲気の影響を検証した.A5052 を断続切削したとき,

ta-C被覆工具のすくい面の刃先には凝着物のない領域が存在し,この領域が切削の進行に 伴って拡大することが分かった.従って,工具すくい面の凝着物のない領域が摩擦係数の 低下に関与していると考えられた.摩擦係数が低下する断続切削の条件として,L1に上限 値が,L2に下限値があることが分かった.また,摩擦係数低下は切削しない時間を除く実 際に切削した距離(実切削距離)に依存することが明らかになった.従って,工具すくい 面と切りくずとの接触が摩擦係数を低下させる直接の要因であると考えられた.工具すく い面に酸素を供給した場合,工具へ著しくアルミニウムが凝着し摩擦係数は上昇したが,

窒素と空気を供給した場合,摩擦係数は低下した.窒素と空気を供給した場合の工具すく い面の凝着物のない領域では,ドライの場合と同様にDLC膜の表面のsp2の増加が認めら れた.一方でドライの場合と異なり,切削前に比べてこの領域の酸素量が増加した.従っ て,切削雰囲気中の酸素は工具への凝着に影響するが,摩擦係数低下には直接影響しない と考えられた.以上の成果は,今後のより優れた耐凝着性能を発揮するDLC被覆工具の開 発に貢献するものと考える.

第4章では,工具への凝着によりドライでは良好な切削が困難であったアルミニウム鋳

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物(AC2A)に対して,アルコール(IPA)を切削液として用い,それをミスト状に工具す くい面に供給しながら切削する IPA ミスト切削について検討した.摩擦実験により,IPA 潤滑下におけるDLC膜とアルミニウム合金との摩擦係数を評価したところ,水溶性切削液 の潤滑による摩擦係数と同程度の低い値となった.二次元切削実験により,IPA をミスト 供給したときの効果をドライの場合と比較した.IPAミストにより,ドライに比べてAC2A 切削時の切削抵抗が減少した.これは,IPA ミストにより切削中の工具すくい面の摩擦係 数が低下し,切りくずのカールが小さくなって,切りくずと工具すくい面との接触面積が 減少したためである.外周旋削実験により,IPA ミスト切削と切削液を大量供給するウェ ット切削との比較を行った.切削速度が低い(50 m/min)場合においては,IPA のミスト 供給時の切削抵抗が,ウェット切削と同程度に低かった.切削速度50 m/minでIPAミスト を供給しながら行った切削後の工具すくい面には,凝着物が剥がれ落ちた跡が認められた.

これは,IPA が切りくずの表面に吸着することで潤滑膜が形成され,切りくずが工具へ凝 着しても剥がれやすい状態になっていたためと考えられた.工具の凝着物の減少により,

ドライよりも良好な加工面を得られた.以上の成果から,IPA のミスト供給により,アル ミニウム鋳物の切削性能が向上する効果を確認することができた.この効果は,切削速度 の低い領域で特に強く認められた.従ってアルコールミスト切削は切削速度の低い条件で の加工になる穴あけ加工などにおいて,特に有効であると考えられた.この新たなニアド ライ切削の手法により,切削液の供給量を600分の1に削減することができた.さらに,

用いた切削液はアルコールであることから,被削材や工作機械の汚れは無く,洗浄工程を 大幅に削減する効果もあると考えられる.そのため,アルコールミスト切削によるCO2排 出量の削減効果は極めて高いと考える.

第5章では,アルコールミスト切削において,水を混合することによる切削性能への効 果を検討することを目的とし,IPAと水を体積比1対1で混合したIPA水溶液の切削液と しての性能を検証した.アルミニウム合金同士の摩擦実験から,IPA にはアルミニウム合 金の凝着を抑制する働きがあり,水にはその働きがないことを見出した.またIPA水溶液 では,IPA の凝着を抑制する働きがほとんど損なわれることなく発揮されることがわかっ た.IPA 水溶液ミストによるアルミニウム合金の切削では,この凝着を抑制する働きによ り工具へ大きな凝着物が堆積せず,良好な加工面を得られた.加熱した試験片の冷却実験 から,IPA水溶液の冷却能力が IPA より高いことを明らかにした.AC2A の外周旋削実験 では,IPA水溶液ミストの冷却能力が IPAミストより高いために,IPA ミストの場合より