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第 2 章 DLC被覆工具のドライ切削性能

2.3 エンドミル切削時のドライ切削性能

2.3.3 実験結果及び考察

(1) 切削後のエンドミルの状態

図2.28 (a) に,低速条件で長さ100 mmの溝1本を切削した後の各エンドミルの状態を,

図2.28 (b) に,高速条件で長さ100 mmの溝1本を切削した後の各エンドミルの状態を示

す.また,図2.29に,高速条件で切削した後のa-C:H被覆エンドミルすくい面のSEM像 を示す.ta-C被覆エンドミルについては,低速条件,高速条件のいずれにおいてもすくい

ta-C a-C:H Uncoated carbide Workpiece

End mill

Dynamometer

- 56 -

図2.28 溝切削後のエンドミルの状態

図2.29 高速条件で切削した後のa-C:H被覆エンドミルすくい面のSEM像

面に凝着物はほとんど付着しなかった.a-C:H 被覆エンドミルについては,低速条件では エンドミル溝部へ切りくず詰りが発生した.高速条件では,溝部への著しい切りくずの付 着はなかったが,すくい面の刃先近傍に凝着が認められた(図 2.29).超硬エンドミルに ついては,いずれの条件においてもエンドミル溝部への切りくず詰りが発生した.

(2) 加工面の状態

図 2.30に低速条件での溝切削後の加工面の状態を,図 2.31 に高速条件での溝切削後の 加工面の状態を示す.いずれの図でも (a) が加工面全体であり,(b),(c),(d) が溝底部を

ta-C a-C:H Uncoated carbide

(a) Low cutting speed condition

(b) High cutting speed condition Adhered aluminum

Adhered aluminum

1mm

Adhered aluminum

100μm

- 57 -

図2.30 低速条件で切削した後の加工面の状態

図2.31 高速条件で切削した後の加工面の状態

拡大した観察像である.ta-C被覆エンドミルによる加工面には,低速条件,高速条件のい ずれにおいても溝底部に光沢があり,切削条痕(ツールマーク)が規則正しくみられた.

a-C:H 被覆エンドミルによる加工面では,低速条件では溝底部が荒れており,著しいバリ

が発生していた.高速条件では,バリの発生量は少ないものの,溝底部の性状は荒れてい た.超硬エンドミルによる加工面では,いずれの条件でも著しいバリの発生と溝底部の性 状不良が認められた.

20mm Uncoated

carbide a-C:H

ta-C

(a) Workpiece condition

(b) ta-C coated end mill (c) a-C:H coated end mill (d) Uncoated end mill Cutting direction

20mm Uncoated

carbide a-C:H

ta-C

(a) Workpiece condition

(b) ta-C coated end mill (c) a-C:H coated end mill (d) Uncoated end mill Cutting direction

1mm

1mm

- 58 - 0

50 100 150 200

0 0.5 1 1.5 2

Cutting force N

Time s

0 50 100 150 200

0 0.5 1 1.5 2

Cutting force N

Time s

0 50 100 150 200

0 0.5 1 1.5 2

Cutting force N

Time s (a) Low cutting speed condition

0 50 100 150 200

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

Cutting force N

Time s

0 50 100 150 200

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

Cutting force N

Time s

0 50 100 150 200

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

Cutting force N

Time s (b) High cutting speed condition

図2.32 溝切削時の切削抵抗

(3) 切削抵抗

図2.32に,各エンドミルで溝切削を行ったときの切削抵抗(三成分の合力)を示す.図

2.32 (a) には低速条件による切削時の切削開始から2 sまでを,図2.32 (b) には高速条件に

よる切削時の切削開始から0.5 sまでを示した.ta-C被覆エンドミルの場合,いずれの条件 でも切削初期にやや高い値を示したが,その後すぐに低い値で一定となった.a-C:H 被覆 エンドミルの場合,低速条件では切削初期は低い値であるもののすぐに値が大きく変動し 増加した.これは,図2.28 (a) に示したエンドミルの溝部への切りくず詰りが生じ始めた ためと考えられる.高速条件ではta-C被覆エンドミルと同程度の低い値であったが,若干 値の変動がみられた.超硬エンドミルの場合,いずれの条件でも値が大きく変動しながら 増加する傾向を示した.従って,超硬エンドミルの場合も図2.28に示したエンドミル溝部 の切りくず詰りが早い時間に生じたと考えられる.

以上ここまでの実験結果をまとめると,ドライ環境下でのA5052のエンドミル切削につ いて,次のことが明らかになった.超硬エンドミルでは溝部への切りくず詰りにより良好 な切削は困難であった.切削速度を増した高速条件においても切りくず詰りは解消しない

ta-C coated end mill a-C:H coated end mill uncoated carbide end mill

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図2.33 低速条件で溝切削した後のa-C:H被覆工具の断面

ため,超硬エンドミルではA5052のドライ切削は不可能であると考えられる.また,a-C:H 膜を被覆しても低速条件では切りくず詰りが発生し,良好な切削ができなかった.高速条 件では凝着量が減少したが,加工面性状は良好ではなく,実際の生産に適用できるとは言 い難い.一方,ta-C膜を被覆した場合,低速条件でも高速条件でも工具への凝着はほとん どなく,光沢のある良好な加工面を得ることができた.従って,エンドミル切削において もta-C膜のドライ切削時の耐凝着性の効果があることを確認することができた.

図2.33に,低速条件で切削した後のa-C:H被覆エンドミル刃先の断面SEM像を示す.

図より,基材の超硬の表面にDLC膜が完全に残っている状態で,その上にアルミニウムが 凝着していることが分かる.このことから,エンドミル切削中のa-C:H膜の摩擦係数が高 いために,DLC膜の上にアルミニウムが凝着したと考えられる.以上のta-C被覆エンドミ

ルとa-C:H被覆エンドミルの凝着状況の違いは,二次元切削実験で明らかにした切削中の

摩擦係数の違いが表れていると考えられる.

(4) ta-C被覆エンドミルによる長距離の切削

前項までに,ta-C膜の効果によりエンドミル切削においてもドライで凝着がほとんどな く良好な加工面を得られることを確認できた.そこで次に,ta-C被覆エンドミルで長距離 の切削を行った場合の工具への凝着状況と加工面性状を検証した.実験では,低速条件及 び高速条件でA5052に対してドライで長さ100 mmの溝80本(8 m)の切削を行った.そ の結果,低速条件,高速条件ともエンドミル溝部に切りくず詰りが発生することなく,80 本の溝切削を行うことができた.

図2.34に,低速条件及び高速条件で溝 80本の切削を行った後のエンドミルの状態を示 す.低速条件ではすくい面にほとんど凝着は認められない.一方,高速条件ではすくい面

DLC coating Adhered aluminum

Carbide

10μm

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図2.34 100 mmの溝80本(8 m)切削後のエンドミルの状態

図2.35 高速条件で溝80本切削後のエンドミルすくい面のSEM像

図2.36 高速条件で溝80本切削したときの加工面性状

に若干凝着物が付着していることが分かる.図2.35に,図2.34 (b) に示した高速条件での 切削時のエンドミルすくい面の SEM 像を示す.刃先に僅かに凝着物が認められるが,図

2.29に示したa-C:H被覆エンドミルの場合と比べて凝着量は少ないと考えられる.

図2.36に,高速条件で溝 80本を切削したときの溝底部の性状を示す.加工面には光沢 があり,1本目の溝切削時の加工面(図2.31)と比較しても遜色ない良好な加工面である.

(a) tting spped condition (b) High cutting speed condition 500μm

1mm 100μm

Adhered aluminum

- 61 - 0

50 100 150 200

0 0.5 1 1.5 2

Cutting force N

Time s

0 50 100 150 200

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

Cutting force N

Time s

(a) Low cutting speed condition (b) High cutting speed condition

図2.37 溝80本目を切削しているときの切削抵抗

図2.37に,溝80本目を切削しているときの切削抵抗を示す.いずれの条件においても 切削抵抗は図2.32に示した1本目の溝切削時の値とほとんど変わらない.

以上から,ta-C被覆エンドミルにおいては,本研究で実施した切削距離8 mの範囲では 低速条件,高速条件とも問題なくドライで良好な切削が可能であることが分かった.また 切削距離はさらに延長することが可能であると考えられる.