6.2 今後の展望
6.1 各章の総括
本章では、各章における結論から住宅の長寿命化を促す方法と今後の研究の方向性について展 望を示し、本研究の総括とする。
近年の地球環境の深刻な状況を受け、建築分野においても様々な取り組みが行われているが、
建築物が社会に与える影響を考慮すると、その長寿命化の推進が社会的要請であり、持続的な使 用手法を考察することは避けては通れない重要な課題である。建築物の中でも大多数を占めてい る住宅においては長寿命化を目的とした研究が数多く行われており、持続的な使用に不可欠な構 造部材の耐久性を向上させる技術の発展は著しい。しかし、耐久性の問題から取り壊されている 住宅は全体の一部でしかなく、既存もしくは今後建設される住宅の長寿命化のためには、機能的 な側面から住宅の寿命を考察する必要がある。
本論文ではこの点に着目し、住宅の寿命の現状を適切に把握する必要性と、建て替えを住宅の 寿命を途絶えさせるものとして捉え、その要因を解明する必要性を指摘している。しかし、住宅 の寿命や建て替えに関する研究の多くはその実態の把握に留まり、時間経過による寿命の変化あ るいは住宅と居住者の関係の変化等については未だ明らかにされていない状況を指摘している。
本論文では、固定資産家屋台帳の調査から木造専用住宅の建設年次による平均寿命の変化を明ら かにするとともに、戸建住宅団地における住宅と居住者の実態調査から住宅の建て替えの要因を 解明し、改修や増改築による持続的な使用の可能性と今後の住宅の長寿命化に向けて考慮すべき 住宅の属性について論じている。
本論文は6章で構成されている。以下に各章の概要を示す。
第1章では序論として、本論文における研究の背景、目的、方法を示すとともに、本論文に関 連した既存の研究の方向とその範囲から本論文の位置付けを示している。
第2章では木造専用住宅の寿命に関する研究として、固定資産家屋台帳及び固定資産家屋除却 台帳の調査に基づき大阪府内3地域における木造専用住宅の平均寿命の算出を行い、1951年以 降に建設された木造専用住宅の寿命の実態とその背景を明らかにしている。
木造専用住宅の寿命の推計については、建築物に関する適切な統計資料が存在せず、住宅の寿 命を把握することが困難な現状を指摘している。そこで、固定資産税の徴収を目的とした固定資 産家屋台帳を寿命推計の対象とすることを検討し、建築物(固定資産家屋台帳では家屋)に関す るそれらの比較分析から各々の特徴と寿命の推計の際に留意すべき項目を示している。
次に固定資産家屋除却台帳調査に基づいて、家屋のうちで大阪府内3地域において1951年以 降に建設された木造専用住宅を対象に、当初建設された棟数が経年とともに次第に減少していく 推移を2種の手法により求め、寿命の推計を行っている。さらに、その結果から平均寿命の算出 を行い、今日の木造専用住宅の平均寿命はその立地条件にかかわらず50年程度であることを指 摘している。また、建設年次から見た木造専用住宅の平均寿命については、1950年代後半頃か ら1970年代前半にかけて次第に短くなる傾向にあったが、その後近年になるほど延びているこ
-188-とを示し、今日の平均寿命に至るまでの変化の状況を明らかにしている。
第3章では取り壊された家屋の実態に関する研究として、第2章で用いた固定資産家屋除却台
帳の資料を基に、2000年までに取り壊された家屋の寿命について用途や構造との関係と地域差 の実態を明らかにしている。
調査を行った大阪府内3地域においては、家屋の建設時期に地域差があるにもかかわらず、そ の寿命は20年から30年程度となるものが大多数を占めること、比較的延床面積が狭い住宅の 占める比率が高いこと、木造家屋に比較して鉄骨造家屋の寿命は短く、RC造の家屋の寿命は長 くなる傾向が見られることを指摘している。また、家屋全体、専用住宅、木造専用住宅について 家屋の寿命の比較分析を行い、第2章で算出した木造専用住宅の平均寿命は一般的な住宅の寿命 と見なすことが出来ることを明らかにしている。
なお地域別に見た場合に、取り壊された住宅の延床面積や寿命と建設時期の関係に地域差が見 られる状況を指摘し、市街地の形成時期が住宅の取り壊しに大きな影響を与えていることを明ら かにしている。
第4章では戸建住宅の現状と居住者の意識に関する研究として、大都市の近郊に位置する3つ
の戸建住宅団地における住宅の改修、増改築、建て替えの実態調査を行い、戸建住宅の現状と建 て替えの背景となる住宅と居住者の関係性を明らかにしている。
調査対象地域の住宅や居住者については入居当時と2000年から2001年の調査時点での状況 を比較し、経年による大きな変化が見られることを指摘している。特に、1970年以降に建設さ れた住宅が8割程度を占めているにもかかわらず全体の約4割の住宅で増改築が行われているこ と、約2割の住宅では既に建て替えが行われていることを示している。さらに、建て替えを行う 理由として構造上の不安を指摘する居住者の比率が高い一方で、実際に取り壊されるまでの年数 は構造材の耐久年数に比べるとかなり短いことを指摘している。また、改修については外観に関 係する個所を除いてあまり実施されていない現状を明らかにするとともに、改修に対する居住者 の意識が低い現状を指摘している。次に住宅と居住者の関係についての分析から、住宅に対する 満足度は延床面積の影響を強く受けていることを指摘している。さらに、高齢化や家族人数の減 少など時間経過による変化に伴ない、住宅の属性の違いが住宅に対する満足度に及ぼす影響が強 くなる傾向を示し、居住者と住宅の関係が変化する状況を明らかにしている。
第5章では住宅の建て替えが行われる要因に関する研究として、住宅の寿命に影響を与えてい る要因を示すとともに、第4章で調査を行った戸建住宅の改修、増改築、建て替えの実態調査か ら建て替えの要因となる可能性が高い住宅の属性を指摘している。
増改築が行われた住宅と建て替えが行われた住宅の比較分析により、延床面積が比較的狭い住 宅では建て替えが行われる傾向が強いが、増改築については延床面積よりも敷地面積の影響が強 い状況を明らかにしている。さらに、入居当時の住宅の属性にかかわらず、購入時点で新築住宅
であった場合に比べて中古住宅であった場合の建て替えが多いことを指摘し、構造躯体の経年劣 化による建て替えは少ないことを示している。また、改修を積極的に実施している住宅では、建 て替えよりも増改築に向かう傾向が見られることを指摘し、改修の実施の有無が住宅の寿命に大 きな影響を与えていることを明らかにするとともに、改修を行った住宅の属性には増改築を行っ た住宅と同様の傾向が見られることを指摘し、増改築の選択と改修の実施には高い関連性がある としている。
最後に、現在の住宅で建て替えの要因や理由となっている項目は、増改築や改修を適切に行う ことで十分対応することが可能であり、そうすることが住宅の長寿命化にもつながることを指摘 し、長寿命化を実現するための住宅の設計上の留意点等を示している。
第6章では結論として、各章の研究結果を総括するとともに、今後の研究の展望として住み替 えや中古住宅の流通促進を視野に入れた社会基盤の構築が必要であるとしている。
以上、本論文では各種の実態調査を行った結果と分析を通して、戸建住宅の建設年次による寿 命の推移と建て替え要因を解明し、持続的な使用を考慮した住宅のあり方と長期的な使用に求め られる建築的な特性を示した。
-190-6.2 今後の展望
今後の住宅の長寿命化を実現するためには、構造躯体の耐久性の追及ばかりでなく、不満や不 都合を建て替えではなく増改築で解決していく手法を居住者とともに追求する必要がある。特に、
子供の成長や空調設備の更新、延床面積の増加といった現在建て替えを行う理由として挙げられ ている項目は、住宅は増改築を行っている住宅では改修も積極的に行っていること、改善行為で 問題になっている項目は構造躯体の問題ではなく設備関係の問題の場合が多いことを考慮すると、
増改築によって解決する余地は十分にあると思われる。
本研究では住宅の寿命や建替え要因から設計もしくは入居時に考慮すべき点が明らかになった が、改善行為の費用の問題や中古住宅や2世帯で同居する場合の具体的な改善方法など、まだ解 明すべき多くの問題が残っている。特に、住宅の建て替えや増改築は景気や資金などの金銭面が 強く影響していると考えられるため、現状の住宅の寿命を考察するには経済的な問題を分析する 必要があると考えられる。しかし、今後は長寿命化に対する認識が向上すること、環境問題など も含め金銭的な余裕があっても新築や建て替えが出来ない環境になりつつあること、住宅の長寿 命化は本来周期が短い景気の影響を受けにくいことから、今後の住宅では経済的な理由から建替 えを行う住宅は減少していくと考えられるため、本研究では分析対象としていない。
なお、経年変化による家族の属性の変化に対応するには、住み替えも考慮に入れる必要がある。
今日の日本では、自分の土地を購入するとそこから離れない傾向が見られるが、今後家族の属性 に対応して住み替えが活発に行われるようになれば、中古住宅の流通が増えて建て替えが行われ る住宅は減少することが期待できる。また、改修や増改築の重要性は増し、改修や増改築が経済 的な視点からも評価されることになると考えられる。そのためには中古住宅に対しても新築住宅 と同じ評価で判断され価値を持つ社会基盤を構築する必要があり、中古住宅の市場を開拓や中古 住宅の流通を活性化させる手法を考察していく必要があると考えられる。
最後に、住宅の長寿命化に対する関心が高まり、建設される住宅も設備が充実している住宅が 多いことから、今後改修や増改築を行っていく社会的な整備や居住者の意識が高まれば、住宅は 既存の住宅よりも長寿命化になる可能性は十分にあると考えられる。そのため、今後の研究にお いても改修や増改築の実態からその要因や背景を探り、住宅の長寿命化を実現する具体的な手法 を考察して行きたいと考えている。