4.1.1 本章の背景と目的 4.1.2 研究方法
4.2 調査の概要
4.2.1 調査の目的と対象地域の概要 4.2.2 調査方法
4.3 調査結果による現状把握 4.3.1 住宅と居住者の属性の状況 4.3.2 改修の実態
4.3.3 増改築の実態 4.3.4 建て替えの実態
4.3.5 住宅に対する意識の状況 4.4 住宅と居住者の関係 4.4.1 調査対象地域の比較 4.4.2 調査項目の関係性 4.5 まとめ
4.1 本章の概要 4.1.1 本章の背景と目的
今日までの耐久性に関する研究や法的制度の充実した状況を考慮すると、適当な設計や施工が 行われていれば、既存の大多数の住宅は建築物としての条件を十分に備えていると考えられる。
そのため、日頃から適切な手入れを行っていれば、平均寿命の50年程度は使用することができ ると考えられる。しかし、実際に住宅が取り壊されている現場や前章の結果を見ると、構造的に は健全でも建設後20年から30年程度で取り壊されている住宅が多い。つまり現状では、居住者 が住宅に不満もしくは不都合を感じた場合、たとえ構造的に問題が無い住宅であっても一度住宅 を取り壊し、その後建て替えを行う傾向が強いと考えられる。(図4.1-1)
しかし、今日の住宅事情や地球環境の危機的状況では、今後は建て替えや新築される住宅の棟 数は減少すると考えられる。そのため、住宅に限らず今日のような安易な建て替えは困難になり、
今後建設される住宅ばかりでなく既存の住宅についても長寿命化に向けた対策が必要になる。建 て替えをできる限り行わずに居住者の不満もしくは不都合を解決していく方法の1つとして、増 改築が挙げることができる。
また、近年の住宅の長寿命化に対する関心の高まりとともに、住宅に対する改修(維持管理)の 重要性が再認識されつつある。しかし、土地に対して建物の資産価値の低さや中古住宅市場の未 成熟な状況から、欧米諸国に比べて日本では住宅の改修がそれほど活発に行われていないのが現 状であり、日本の住宅の寿命が欧米諸国に比べ短いと考えられる原因の1つであると考えられる。
近年ではオフィスビルを中心にファシリティマネジメント(Facility Management : FM)が注目 されるなど、住宅に限らず建築物における維持保全に対する認識が高まり、建築物に対する定期 的な改修の重要性が幅広く一般に認識されるようになった。
そこで本章では、改修、増改築、建て替えが行われている実態に着目し、それらの関係から建 て替えが行われる要因とその背景を明らかにする。また、住宅に対する機能的な不満や不都合が
0 5 10 15 20 25 30
〜5 〜10 〜15 〜20 〜25 〜30 〜35 〜40 〜45 〜50
中央区 東淀川区 枚方市
図4.1-1 住宅が取り壊されるまでの年数の分布
寿命(単位:年数) 棟数比率(%)
地域分類
-106-改修、増改築、建て替えを行う際に大きな影響を与えていると考えられるため、その背景となる 住宅の属性や居住者の属性、住宅に対する意識の関係を明らかにする必要がある。そこで、住宅 の属性、居住者の属性、住宅に対する意識の関係について分析を行い、その関係性から住宅の改 修、増改築、建て替えが行われる背景とその特徴を考察する。
本章の目的は、戸建住宅における改修、増改築、建て替えの実態を把握し、戸建住宅の現状と 建て替えの背景となる住宅と居住者の関係性を明らかにすることである。
ここで、本章で用いる用語を定義する。
改修 :内外装の塗り替えや設備の補修交換など、既存の内壁や外壁の撤去もしくは新設 工事を伴わない改良工事(メンテナンス:維持管理)のこと
増改築 :延床面積の増加や間取りの変更など、既存の内壁や外壁の撤去もしくは新設工事 を伴った改良工事のこと(浴室ユニットの交換や延床面積の減少を伴う工事を含む) 建て替え :既存の住宅を全て取り壊し、同じ敷地に新たな住宅を建設すること
改善行為 :住宅に対する増改築及び建て替え行為の総称 新築住宅 :新築の注文住宅及び建売住宅の総称
中古住宅 :現在の場所に入居する以前に他の居住者が住んでいた住宅 不満個所 :回答者が改善行為を行う以前に不満を感じていた個所 改善個所 :回答者が改善行為の際に意識して改善を加えた個所 きっかけ :改善行為を決断させる誘導的な要因
当時 :他の場所から移転して現在の場所に住み始めた時期 現在 :2000年もしくは2001年の実態調査を行った時期 建設年 :当時の住宅が建設された年
入居年 :居住者が現在の敷地に入居した年
4.1.2 研究方法
本章では、戸建住宅の現状と居住者の意識を把握するため、調査対象地域の全戸建住宅を対象 に改修、増改築、建て替えに関する実態についてアンケート調査を行った。その後、実態調査で 得られた改修、増改築、建て替えに関する結果の集計を行い、増改築や建て替えが行われた住宅 の特徴やその背景を把握している。また、住宅や居住者の属性や実態と居住者の属性、及び住宅 の属性や実態と居住者の意識との関係性の有無について分析を行う。なお、改修や増改築と建て 替えの関係性については次章で詳しく分析を行う。
分析の際には、χ2検定による関係性の有無、またカテゴリカルデータに関してはカテゴリカ ル主成分分析を用いてその関係性の有無を判断している。以下に本章で用いた分析手法の概要に ついて以下に記す。
(1)2項目間の関係性について
2項目間の関係性の有無については、χ2検定を用いた分散の差の検定を行っている。χ2検定 では、まず2項目間に分散の差は見られないという仮説をたて、その後有意水準αに対して棄却 率(有意確率)Rを求め、α>Rであればその仮説は破棄されると判断している。なお本章では有 意水準を0.05と設定しているので、χ2検定による有意確率Rが0.05未満であればその2項目 間に分散の差は見られないという仮説が破棄され、その2項目間には相関があると見なして分析 を行っている。
(2)カテゴリカル主成分分析について
本章では3項目以上の項目間の関係についても関係性を把握し、その影響の程度について分析 を行う必要があるため、χ2検定だけでは分析できない。そこで、カテゴリカル主成分分析を用 いて解析を行っている。
主成分分析の目的は、複数のカテゴリ変数を数量化すると同時に、データの次元数を減らし、
基の変数が持つ情報のほとんどを占めている無相関の成分グループにまとめることである。この 手法は、変数が大量にあるために調べたい項目(オブジェクト)間の関係を効果的に解釈すること ができない場合に有効である。通常の主成分分析は、数値型変数間に線形関係があるものと仮定 している。一方、カテゴリカル主成分分析では、変数を異なる水準で尺度化するため、指摘され た次元で最適に数量化し、変数間の非線形関係をモデリングすることができる。以上の性質から、
カテゴリカル回帰分析はカテゴリ変数である複数のデータの類似性や相互関係、データに潜んで いる共通性を客観的に説明や解析する際に有用である。
なお、これら2項目間の関係性やカテゴリカルデータの影響の分析には、統計処理ソフトウェ ア「SPSS 11.0 for Windows」を使用している。
-108-4.2 調査の概要
4.2.1 調査の目的と対象地域の概要
住宅の改修や増改築と建て替えの要因を把握するには、住宅や居住者の属性を把握し、改修や 増改築、建て替えが行われる実態とその背景を把握する必要がある。今日までに住宅の改修、増 改築、建て替えの実態調査は数多く行われているが、その大多数は個々の実態の把握に留まって いる。そのため、住宅の建て替えを総合的な視点から分析し、その関係性について明確にしてい る調査研究についてはごく少数であり、建て替えの要因が把握できているとは言い難い。そこで、
本調査では戸建住宅の改修、増改築、建て替えの実態を総合的に把握するため、住宅の属性や改 修、増改築、建て替えの実態、及び居住者の属性や住宅に対する意識などに関するアンケート調 査を行った。
調査対象としては、日本の一般的な住宅の改修や増改築と建て替えの関係を把握したいと考え たため、調査対象地域の選定には以下の点を考慮して選定した。
a)地域差による偏りを排除するため、近接していない複数地域を対象にすること
b)居住者の住宅に対する意識と住宅の状況を中心に分析するため、住宅の建て替えに大きな影響 を与えると考えられる通勤通学の便などの立地条件をできる限り揃えること
c)再開発や用途変更などの影響が少なく、住宅の建設時期や時代背景などがある程度同じであり、
かつそれらを把握できる地域であること
d)一般的な住宅の特性を把握したいため、敷地や住宅の規模が全国平均とほぼ同じであり、かつ ばらつきがあまり見られないこと
なお、分譲時期や開発規模、通勤通学の便などの条件はできる限り揃える一方で、住人の意識 などに地域差がある場合を考慮し、関東地域と関西地域でそれぞれ選定を行った。最終的に、本 調査の調査対象地域として、東京都、大阪府、神奈川県といった大都市の近郊にある私鉄不動産 事業部が造成した戸建住宅団地を3つ選定し、それらの住宅団地及びその近隣住宅に対して調査 を行うことになった。本調査の調査対象地域となった東京都八王子市の A 団地、東京都多摩市の B団地、大阪府枚方市のC団地はともに1960年代前後に分譲を開始し、ほぼ全域が第1種低層 住居専用地域となっている。以下に調査対象地域となった3つの団地の概要と、各団地が位置す る市の変遷を述べる。(図4.2-1)
(1)A団地(東京都多摩市)
A団地は高度経済成長の初期である1962年に分譲が始まり、開発面積約76ha、計画戸数約 1400戸という大規模かつ比較的高価格で分譲された敷地分譲団地である。
東京都多摩市については、前身である多摩町は現在の多摩ニュータウンの入居が始まるまで農 村の面影を残す人口3万人あまりの静かな田園地帯だった。しかし、戦後首都圏中心部への人口 集中と深刻な住宅難、戦前から鉄道で結ばれていたという好条件が重なり、都心への通勤者の居