5.1.1 研究の背景と目的 5.1.2 研究の方法
5.2 住宅の改善行為の背景 5.2.1 住宅と改善行為の関係 5.2.2 居住者と改善行為の関係 5.3 改修と改善行為の関係 5.4 住宅の改修の背景 5.4.1 住宅と改修の関係 5.4.2 居住者と改修の関係 5.5 まとめ
-147-5.1 本章の概要
5.1.1 研究の背景と目的
一般的に住宅の増改築もしくは建て替えは、道路の拡張や用途変更など強制的な要因による場 合を除くと、居住者が住宅に不満もしくは不都合を感じた場合に行なわれていると考えられる。
つまり、増改築と建て替えのきっかけはほぼ同じ理由で行われていると考えられる。しかし、住 宅の寿命の点から見ると、増改築は住宅の寿命の延ばす居住者の改善行為であり、建て替えは住 宅の寿命を断ち切る改善行為であると見なすことが出来る。そのため、増改築と建て替えでは住 宅の寿命から見ると大きく異なる選択であると考えられる。今後の住宅の長寿命化のためには、
居住者が住宅に感じた不満や不都合に対して増改築による解決を目指す社会的な環境が必要であ り、居住者の意識と努力が重要である。
また、日頃の適切な改修は、経年による住宅の老朽化や陳腐化ばかりでなく、居住者の属性の 変化にもある程度対応し、解決することが可能であると考えられる。特に定期的な改修は、居住 者の小さな不満や不都合の改善を容易にし、放置しておくと住宅にとって致命的かつ大規模な改 善が必要となる故障や破損、劣化状況に対して点検や防止の役割を果たすと考えられる。そのた め、改修は住宅の寿命に大きな影響を与えていると考えられる。
そのため、住宅の長寿命化のためには、住宅の増改築や建て替えの関係、及び改修と建て替え の関係を分析し、その要因を明確にする必要がある。これまでに住宅の改修、増改築、建て替え の現状や内容に関する調査や研究は数多く行われてきた。しかし、改修や増改築と住宅の寿命と の関連性に着目し分析を行った研究は少なく、現状では改修や増改築が住宅の寿命に与える影響 については明らかではない。そこで本章では、改修や改善行為が住宅の寿命に与えている影響を 分析し、既存もしくは今後の住宅の長寿命化に向けた増改築や改修のあり方を考察する。
本章の目的は、住宅や居住者の属性と住宅の改修や改善行為の関係から住宅の寿命に影響を与 えている要因とその背景を把握し、建て替えの要因となる可能性が高い住宅の属性明らかにする ことである。今日の住宅の建て替えが行われていた要因が明確になれば、新築される住宅ばかり でなく既存の住宅の長寿命化を実現するための基礎資料として活用できると考えられる。
なお、本章では前章で定義した用語についてはそのまま使用しているが、調査対象である戸建 住宅については改善行為の有無によって4種類に分類を行っている。以下にその4種類の分類方 法を示す。( 図5.1-1)
「原型」 :入居当初の住宅に対して建て替えも増改築も行っていない住宅(N=346)
「増改」 :入居当初の住宅に対して増改築のみ行った住宅(N=256)
「建替」 :入居当初の住宅に対して建て替えのみ行った住宅(N=94)
「複合」 :入居当初の住宅に対して増改築と建て替えを行った住宅(N=47)
5.1.2 研究の方法
本章では、戸建住宅の改修、増改築、建て替えの関係性を把握するため、前章と同じアンケー ト調査の結果から住宅の属性や改修、増改築、建て替えの実態、及び居住者の属性や住宅に対す る意識について分析を行っている。なお、調査の詳細については前章で既に述べているため割愛 する。
なお、調査対象地域として、東京都八王子市の A 団地、東京都多摩市のB団地、大阪府枚方市 のC団地を最終的に選定しているが、3団地はともに1960年代前後に分譲を開始し、ほぼ全域 が第1種低層住居専用地域となっている。また、前章の結果から3団地の条件を比べてもあまり 差が見られないため、本章では3 団地をまとめて分析を行う。
研究方法としては、まず建て替えの要因に影響を与えると考えられる項目を大きく住宅の属性 と居住者の属性の2 種類に分類し、それぞれの項目について改善行為との関係を分析している。
次に改修と建て替えの関係性を明らかにするため、改善行為と改修の関係について分析を行って いる。その後、改善行為と同様に住宅の属性と居住者の属性の2種類に分類し、それぞれの項目 について改修との関係から建て替えの要因を分析している。分析の際には、特に関係性が強いと 考えられる住宅の建設年や入居年と入居時の住宅の状態や住宅に対する満足度の関係、住宅に対 する満足度と住宅の延床面積の関係、及び居住者の属性は時間が経つにつれて住宅の属性に与え る影響は強くなることを踏まえて、居住者の属性と改善行為のきっかけとの関係を考慮して建て 替えの要因を分析している。
なお、分析の際には、χ2検定による関係性の有無、またカテゴリカルデータに関しては最適 尺度法を用いたカテゴリカル回帰分析を用いてその関係性の有無を判断している。以下に本章で 用いた分析手法の概要について以下に記す。
(1)2項目間の関係性について
2項目間の関係性の有無については、χ2検定を用いた分散の差の検定を行っている。χ2検定 では、まず2項目間に分散の差は見られないという仮説をたて、その後有意水準αに対して棄却
47%
34%
13%
6%
原型 増改築 建替 複合
図5.1-1 改善行為の有無
改善行為
-149-率(有意確率)Rを求め、α>Rであればその仮説は破棄されると判断している。なお本章では 有意水準を0.05と設定しているので、χ2検定による有意確率Rが0.05未満であればその2項 目間に分散の差は見られないという仮説が破棄され、その2項目間には相関があると見なして分 析を行っている。
(2) 最適尺度法を用いたカテゴリカル回帰分析
カテゴリカルデータを回帰式に当てはめるため、交互最小2乗法(現在の数量化を使用して解 を求めた後に、 その解を使用して数量化を更新し、更新された数量化を使用して新しい解を求め るといった手順を何らかの停止基準になるまで繰り返す手法)を用いて数量化を行い、1組の独 立(予測)変数から従属(応答)変数を予測する分析手法。全ての変数の各カテゴリーに尺度値 を割り当て、 それらの値が回帰に関して最適となるように解析を行う。なお、カテゴリカル回帰 分析の概略式は以下の式で表されるため、独立変数に対する従属変数の影響度は標準化係数の絶 対値の大小で判断している。
独立変数の数量化
= 従属変数Aの標準化係数×従属変数Aの数量化 + 従属変数Bの標準化係数×従属変数Bの数量化
+ 従属変数Cの標準化係数×従属変数Cの数量化・・・
なお、これら2項目間の関係性やカテゴリカルデータの影響の分析には、統計処理ソフトウェ ア「SPSS 11.0 for Windows」を使用している。
5.2 住宅の改善行為の背景 5.2.1 住宅と改善行為の関係 (1) 経過年数と改善行為
住宅の建設時期と改善行為の関係については相関が見られ、住宅を長期間使用するほど経年に よる変化が問題になると考えられる。全体的に住宅が建設された時期が近年になるほど「増改」
「建替」「複合」が占める比率が低くなり、改善行為を行っていない「原型」が占める比率が高く なっているる。なお本調査においては、1990年以後に建設された住宅では「原型」しか確認で きない。( 図5.2-1)
一方、改善行為を行った時期については、増改築は1980年から1990年の間に行っている住 宅が多く、建て替えは近年になるほど行う住宅が増加する傾向が見られる。( 図5.2-2)
また、居住者の入居時期と改善行為にも相関が見られ、入居時期が近年になるほど「原型」「建 替」 が占める比率が高く、「増改」が占める比率は低くなっている。建設年が近年になるほど「原 型」 が占める高くなる傾向が見られる。そのため、同じ時期に建設された住宅でも入居年が近年 になるほど取り壊されていると考えられる。( 図5.2-3)
改善行為が行われるまでの時期については、増改築と建て替えではその傾向が異なっている。
最初の増改築は建設後15年以内に行った住宅が多いが、その後は年数が経つほど減少する傾向 が見られる。一方、建て替えが行われるまでの期間については、建設後15年から25年経過した 頃に行う住宅の比率が高いが、その後建て替えが増加する傾向は見られない。なお、建設後20 年程度経過すると増改築よりも建て替えが行われる住宅の比率が高くなる。( 図5.2-4)
建設年から入居年までの期間と改善行為の関係には相関が見られ、その期間が長いほど「 建替」
「複合」 が占める比率が高く、建て替えが行われる住宅の比率が高くなっている。なお、建設年か ら入居年までの期間と当時の住宅に対する満足度の関係には相関が見られ、期間が長いほど満足 度が低くなる傾向が見られる。そのため、建設年と入居年が離れている住宅では住宅に対する満 足度が低いために建て替えが行われている場合が多いと考えられる。( 図5.2-5、図5.2-6) 以上の結果から、住宅の建設時期にかかわらず入居する時期が近年になるほど建て替えが多く 行われ、長く住んでいる居住者ほど増改築を行いながら当時の住宅に住みつづけている状況が伺 える。また、構造躯体の劣化が建て替えの主な要因であれば建設後年数が経過するほど建替が行 われる住宅の比率が高くなると考えられるが、実際には建て替えられる住宅の比率は建設後20 年を過ぎても高くなる傾向は見られない。そのため、経年に伴う構造躯体の劣化は建て替えを行 う1つの要因に過ぎず、一方で増改築は住宅を長期間使用するために有用な行為であると考えら れる。なお、建設年から入居年までの期間が長い場合は住宅に対する不満は高く、建て替えが行 われる住宅が多くなる傾向が見られることから、住宅の建て替えは住宅そのものの経年変化より も、居住者の経年変化の認識に大きく影響されていると考えられる。