技術科においては,過去に科学的論理性を欠く物作り主義の傾向 があるとの批判を受けた時代があった。その反省から工学をはじめ 各専門分野の論理的な体系を背景に指導内容を構築する試みがされ るようになった。物作り主義の製作課題の操作結果のみを重視した 授業方針への批判は的を得ているが,生徒の実践的な活動をなくし
て座学に徹することを意図したものではない。むしろ技能の習得を 含む実践的な課題が体系化され,効果的に配置されることが望まし いと考えられる。また,このことは人間の全的発達の観点からも必 要な課題であるといえる。しかし,技能学習について,その意義と 枠組みは必ずしも明確にされているとはいえず,またその内容も体 系的な配置が考慮されているとは思えない。そこで,技術科教育に おける技能学習の位置づけの為の資料が必要であると考えられる。
しかし,従来の技能の研究は外的条件と結果から明らかにされたも のが多く,このような資料にはなり難い。そこで,技能習得の過程
を認知的な側面から個々の生徒の内的な過程を調査することにより,
これらの基礎的な資料の一つとして提供することを目的として本研 究を行った。
本研究では,情報処理論的立場をとり,認知モデルに基づいた独
自の技能におけるパフォーマンスの判定を試みその結果を検討した。
本研究で明らかになったことは以下のようである。
第1章は,従来の研究から問題点を明らかにし,本研究の目的を 考えた。また,情報処理論的立:場から技能の発揮される:場面の認知 モデルを仮定した。技能遂行に関するスキーマを「技能の図式」と
し, 「技能の図式」とは「言語的な形式で伝えられた技能に関する 情報を,独自の非言語的な水準で個々の運動に融合すること」と考
えた 。技能の図式が形成されると,協応化,自動化,及び運動感 覚フィードバックに関係した特徴が表われ,変化のレベルを技能の
図式の形成度とした。
第2章は,生徒が未経験である「たがねによる板金の切断」場面 を取り上げ,技能の図式の形成度の判定を試みた。スキーマ形成に よる内的な変化はプロトコル法により,また外的な変化にはVTR録 画の観察により判定をおこなった。また,従来の遂行結果の判定と 比較し,独自の分析方法により検討し,以下のようなことを明らか
にした。
1.遂行成績と技能の図式の形成度は試行回数とともに向上した。
2.生徒の技能習得の過程の違いからバランス型,認知型,及び パフォーマンス型の3つのタイプに分けることができた。
3.中学校技術科の技能の習得に関する課題に対して遂行成績及
び技能の図式の形成の,両面から指導と評価を行うことが必要であ ることが明確になった。
第3章は, 「のこぎりびき」場面を取り上げ,技能の図式の形成 度と遂行成績を調査した。さらに各々の被験者に応じた個別の指導
をおこない,その成果を技能の図式の形成及び,遂行成績の両面か ら分析した。その結果,以下のようなことが明らかになった。
1.のこぎり引きの技能においても,生徒の技能習得の状態を認 二型の状態とパフォーマンス型の状態に区分することができた。
2.その判断要素は,遂行の結果生じた対象作品の評価と遂行時 の行動分析,および生徒の内観から得ることができる。
3.認知型を示した生徒に対して,運動制御を支援:する指導をお こなうと技能の図式の形成度が向上した。
4.パフォーマンス型を示した生徒に宣言的,および手続き的な,
すなわち主として知識による指導をおこなうと,技能の図式の 形成度は後退するが,遂行成績は向上し,認知型に移行した。
5.技能的な課題における指導を受けると技能の図式および遂行 成績が一時後退することがある。
6.指導後の一時後退現象は生徒の内部における技能の図式の再 構築が原因であると推測される。
7.これらの結果を踏まえて,技能的な課題は,生徒の技能の図
式の形成の状況に応じた指導をおこなうのが有効であると思わ
れる。
以上の結果より,技能の習得レベルは,技能の図式の形成度の 判定により規定できることが明らかになった。また,技能のパフ
ォーマンスは認知的な操作と運動的な操作の比重により,認知型,
パフォーマンス型及び,バランス型に類型化できることが明らか
になった。
謝 辞
本研究の遂行ならびに本論文をまとめるにあたり,終始懇切丁寧 なご指導を賜わりました兵庫教育大学学校教育学部生活・健康系技 術分野教授松浦正史先生に深甚なる謝意を表し,厚くお礼申し上げ
ます。
本論文作成にあたり有益なご助言を賜わりました兵庫教育大学学 校教育学部生活・健康系技術分野の率先生方に心から感謝いたしま
す。
また,公務お忙しい中を実験にご協力いただきました兵庫教育大 学学校教育学部附属中学校の校長先生,久保忠先生,ならびに生徒 の皆様には積極的にご協力をいただき厚くお礼申し上げます。
さらに兵庫教育大学に長期派遣にご同意くださいました滋賀県教 育委員会,八日市市教育委員会の諸先生方,ならびに,八日市市立 聖徳中学校の川口繁(元)校長先生をはじめ,教職員の皆様に深く 感謝いたします。
最後に,院生の皆様にはご協力,ならびにお力づけをいただいた ことをここに記して感謝の意を表します。
平成5年(1993年)12.月20日
大道正樹
文 献
1)鈴木寿雄・:技術・家庭科の研究と実践,東京書籍,pp8〜38,
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2)山内光哉:学習と教授の心理学第2版,九州大学出版会,
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10)前掲3),P56.
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12)前掲5), p483, Fig。13.3Gradual improvement in the performance of an industrial task over several years of
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24)前掲6),P483, Fig.13.3 Gradual improvement in the performance of an industrial task over several years of
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25)前掲3),PP.19〜53.
26)安西祐一郎ほか4コ口認知科学ハンドブック,p.147,共立出