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第6章 結論

6−1 本研究の成果

 本研究では、指向性音場計測の1つとして、空気の屈折率変調を光学干渉計によって音 場分布を検出することを考えた。開口面に光を用いることで、開口面は容易に広げること ができ、指向性は限りなく鋭くすることが可能となる。この原理を利用し、半値全幅10度 以下の鋭い指向性を有するマイクロホンを実現することを目的とした。以下に本研究で得 られた成果を列挙する。

レーザ光の配置方法による指向性の違い

 2本のレーザ光を平行に配置し、その長さや間隔を変化させることで、レーザ光の配置 による指向性の違いを調べた。その結果、レーザ光路に垂直な方向に鋭い指向性を有する こと、光路に垂直な面内ではレーザ光路間隔により指向性が変化することなどが分かった。

円弧状にレーザ光路を配置したマイクロホン

 複数のミラーを用いて多角形状にレーザ光を配置し、各辺の中線の交点上に音響焦点を 生じさせ、奥行き方向の分解能を有するマイクロホンを提案した。円弧を3辺と2辺の2 通りに近似したが、3辺近似の方が音響焦点の出力だけを高めることが出来るため、音響 焦点の位置が比較的検出しやすかった。

ペンシルビームの実現

 2次元的にレーザ光を分布させて開口面を形成することによって、水平方向、垂直方向 において半値全幅10度以下の指向性を有するマイクロホンの実現を目指した。

  28.2 kHzの超音波領域において、150mm×122mm (12.5

λ ×

10

λ

)の開口面を形成して 指向特性測定を行ったところ、水平方向に7度、垂直方向に 8度の半値全幅のペンシルビ ームが得られた。

  2 kHzの可聴領域において、超音波領域の実験時の10倍の開口面(1530 mm×1.23m ;

λ λ

7.2

9 × )を形成し、同様の測定を行ったところ、半値全幅で水平方向に8度、垂直方向 に10度の指向性を有することが分かった。

ノイズフロアの改善

 試作した光マイクロホンのノイズフロアは、2 kHzにおける音圧換算値で17.7 dBであ り、用いた光学干渉計自体のノイズレベルよりも33.4 dB 高い値であった。そこで、ノイ ズの生じている要因をいくつか推測し、この中から確実にノイズに影響しているものを探

第6章 結論

し出し、ノイズレベルの改善を行った。その結果、床からの固体伝播音や振動騒音が光マ イクロホンユニット全体を振動させていることによって、ノイズレベルが増加しているこ とが明らかになった。防振材をユニットの足場に装着させることによってノイズフロアを 約15 dB低下させることができた。

実際の音源を用いた測定

 試作した光マイクロホンの鋭い指向性を利用して、複数の音源を分離して検出すること が可能であることを、オートバイなど実際の音源による実験によって示した。

6−2 今後の課題

 本論文中において、開口面に光を用いることで半値全幅10度以下のペンシルビームを実 現することができた。しかし、この試作したマイクロホンを実用化していくためには、い くつか検討すべき事項がある。以下に検討すべき課題を挙げる。

1. S/N比の更なる向上

第5章において、試作したマイクロホンに対して防振を行ったところ、15 dBノイズ レベルを低減することができたが、用いた光学干渉計自体のノイズレベルはこれよりも

さらに約18 dB 低い。よってまだノイズフロアを改善する余地はある。今後、S/N 比

を更に向上していく必要がある。

2. 一方向のみに指向性を有するマイクロホン

 試作したマイクロホンでは、開口面の正面の方向において鋭い指向性を実現できた。

しかしこの方式では、検出のターゲットとしている方向の正反対側の音場も検出してし まう。そこで、完全に1つの方向のみに指向性を有するマイクロホンを構成することが 必要である。

3. コンピュータ・トモグラフィ(CT)法への応用

本研究において、音場分布を2次元的に可視化することはできた。現在、医療など様々 な分野において、物体を様々な角度から X線によってスキャンして 3 次元の全体像を 再現するコンピュータ・トモグラフィ法が利用されているが、音場計測においてもこの 技術を応用する。

謝辞

謝辞

本研究を行うに際し、上羽貞行教授には数々の貴重な御指導、御鞭撻を賜りました。研 究面以外においても、生活に対して必要な心構えなど、数々のことを学ばせていただきま した。心より感謝申し上げます。並びに本研究の遂行にあたり、中村健太郎助教授には非 常に多くの適切な御助言を頂きました。何も分からない私に、大変親切で熱心な御指導を して頂きました。厚く御礼申し上げたいと思います。

研究において適切な御助言を頂きましたジェームズ・フレンド助手、実験場所の確保な どに際して大変御世話になりました高橋久徳技官、工作や生活などの面においてお世話に なりました山梨大学・石井孝明氏、機会あるごとに御助言、御助力を頂きました芝浦工業 大学講師・小池義和氏、尹喆鎬特別研究員、博士課程 2 年兼(財)小林理学研究所・平尾 善裕氏、李希勝準客員研究員に深く御礼申し上げます。また加藤孝子、加藤須美両事務補 佐員には生活面において大変御世話になりました。

ほかにも、諸先輩方、並びに同期・後輩の皆様には公私を通じて多くのご支援を頂きま した。どうもありがとうございました。

参考文献

参考文献

(1) 高野靖, 静粛工学−快適空間をめざして− ,東京工業大学精密工学研究所,開発社 (1995)

(2) 川村正恭, 電気音響工学概論 ,昭晃堂 (1971)

(3) 西山靜男,池谷和夫,山口善司,奥島基良, 音響振動工学 ,コロナ社 (1979) (4) 実吉純一,菊池喜充,能本乙彦, 超音波便覧 ,日刊工業新聞社,pp.496〜506 (1960) (5) 白髭隆晴,渡辺好章, 光学的手法による集束超音波焦点近傍音圧時間波形の観測 ,

電子情報通信学会技術研究報告,US2002-103 (2003.1)

(6) 中村健太郎, 空気の音響光学効果を利用した音響測定 ,第27回光波センシング技術 研究会講演論文集,pp.137-142 (2001.5)

(7) O. Nomoto,K. Negishi,DIFFRACTION OF LIGHT BY ULTRASONIC WAVES OF FINITE AMPLITUDE ,ACUSTICA Vol. 15,pp.223-235(1965)

(8) 平成14年版「理科年表」,丸善(2001)

(9) 岡原勝,中島平太郎,朝倉昭, オーディオハンドブック ,オーム社(1978)

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