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第4章 ペンシルビームの実現

前章で、図3-1のように2本のレーザ光路を配置し、その間隔、長さを変えることによっ て、水平方向、垂直方向の指向性が変わることを確かめた。本章ではレーザ光路配置を2 次元的に広げることで開口面を形成し、水平、垂直両方向において半値全幅10 以下の鋭い 指向性、つまりペンシルビームを実現することを目指す。初めに予備として超音波領域に おいて指向性測定を行い、続いて可聴領域で同様の測定を行う。

°

4−1 超音波領域における平面型マイクロホンの指向特性

本研究は、可聴領域でペンシルビームを実現することを最終的な目標としている。一方、

式(2-7)と式(2-8)より、周波数を高くした倍率分だけ開口面の面積を小さくしても、もとの 音源周波数を用いた場合と同様の指向特性が得られるはずである。そこで実験系を簡素化 するために、まず超音波領域において平面型マイクロホンの指向特性の予備的な測定を行 う。

4−1−1 測定系の説明

図4-1に示すようにLDVの出射光を両端に配置した細長いミラーで反射させ、前述のジ グザグ方式でレーザ光による受音開口面を形成する。この測定系において、2つのミラー とLDVヘッドは、定盤上で固定してある。音源は前実験と同じ、共振周波数28.2 kHzの ボルト締めランジュバン振動子の端面を用い、発振器において連続正弦波で励振させてい る。よって放射音の波長は12 mmである。

開口面の大きさは150mm×122mm (12.5

λ ×

10

λ

)である。レーザ光はミラーで12往復 反射し、レーザ光間隔は1λに設定する。ここで、片側のミラーに間隔dで1.5往復ジグザ グ反射することを、図4-2に示すように3本のレーザ光を間隔d/2で平行に配置することと 近似すると、図4-1は24本の122 mm(10

λ

)のレーザ光が間隔1/2

λ

で平行に配置されて いると見なすことができる。これは第2章で述べた、開口面の最適な寸法条件に当てはま る。

 また式(2-10)と開口面の寸法より、平面波音波を開口面で得るための最適な音源−開口面

間の距離はおよそ1.5 m以上と求まるが、実験するスペースの関係上、この距離は1 m(83 λ) に設定する。

LDVは前実験と同じく、NLV-1232を用いる。

開口面の中心を原点として、θ軸は水平右方向、ϕ軸は垂直上方向をそれぞれ正とする。水 平方向角度θ、垂直方向角度ϕから音波を放射する。

第4章 ペンシルビームの実現

LDV

Langevin Transducer (28.2kHz 、φ 19mm)

Mirror

ϕ θ

10 λ (122 mm) 1 λ

12.5 λ (150 mm)

LDV

Langevin Transducer (28.2kHz 、φ 19mm)

Mirror

ϕ θ

10 λ (122 mm) 1 λ

12.5 λ (150 mm)

d d

図4-1 超音波領域における2次元開口面の指向特性測定

d/2

Approximation d/2

Approximation

図4-2 ジグザグ配置した場合のレーザ光本数の近似

第4章 ペンシルビームの実現

λ

−16.7≤

θ

≤16.7

8

. 6 8

.

6 ≤ ≤

− ϕ

=0

ϕ =0

°

7 °

°

°

s m/ µ

4−1−2 指向特性の測定結果

レ ー ザ 光 平 面 か ら 約 80 離 れ た 場 所 に お い て 、 [deg]、

[deg]の範囲で、1.1°毎に振動子をレーザ光平面に平行に動かした時の指向

特性を図4-3に示す。この結果より、開口面の中心においてのみ出力が大きく出ていること が分かる。

また図4-3を 、θ 平面で切断した断面図、すなわち水平方向と垂直方向の指向特 性をそれぞれ図4-4、図4-5に示す。ここで、各軸の最大の測定値で全測定値を規格化して いる。図中で破線は前章で説明した式(2-15)による理論値である。図4-1の寸法における指 向特性の半値全幅の理論値は、水平方向で 、垂直方向で6 である。水平方向の半値全幅 の実験値は図 4-4 より7 と求められ、理論値とよく一致している。一方、垂直方向の実験 値は図 4-5 より8 と求められ、これも理論値とほぼ一致していることが分かる。なお、図 4-1の構成で、レーザ光路の全長l=2880mmであり、使用したLDV(PI Polytech(株)、

NLV-1232)の最小検出振動速度が 0.5 であることを考えると、式(2-6)より最小検出

音圧は28dBと見積もられる。

LDV Out put [arb. ]

ϕ [deg.]

0 θ [deg.]

0

-5 5 -10

10

0 50 100 150 200 250

図4-3 超音波領域における光マイクロホンの指向特性

第4章 ペンシルビームの実現

-20 0 -10 0 10 20

0.2 0.4 0.6 0.8 1

N o rm al iz ed L D V O u tp u t

θ [deg.]

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

N o rm al ized L D V O u tp u t

図4-4 水平方向の指向特性

-20 -10 0 10 20

[deg.]

ϕ

図4-5 垂直方向の指向特性

第4章 ペンシルビームの実現

4−2 可聴領域における平面型マイクロホンの指向特性

 超音波領域において、開口面を2次元的に広げればペンシルビームが実現できることが 確認できたので、本来の目標である可聴領域において、指向特性の測定を行う。

4−2−1 測定系の説明

 前実験は、28.2 kHzの高周波領域で指向特性の測定を行った。ここでは、可聴音場にお ける測定として、周波数2 kHz(波長170 mm)の音源を用いる。これは、図4-1の実験系で 用いた音源周波数の約10分の1である。よって式(2-7)と式(2-8)より、図4-1の光マイクロ

1530mm (9λ)

LDV

Laser beam Mirror

1230mm (7.2λ) 100 mm

(0.6λ)

Reflector 1530mm

(9λ)

LDV

Laser beam Mirror

1230mm (7.2λ) 100 mm

(0.6λ)

Reflector 1530mm

(9λ)

LDV

Laser beam Mirror

1230mm (7.2λ) 100 mm

(0.6λ)

Reflector

図4-6 可聴音域をターゲットにした光マイクロホン

第4章 ペンシルビームの実現

Microphone

L

3200mm (18.8λ) 14560mm

(85.6λ)

Head

Microphone

L

3200mm (18.8λ) 14560mm

(85.6λ)

Head

°

= 0 θ

Speaker

θ 3300mm (19.4λ)

LDV

°

= 0 θ

Speaker 3300mm

(19.4λ)

θ

LDV

図4-7 可聴音場における光マイクロホンの指向特性測定

ホンと同様の指向特性を得るためには、受音開口面をおよそ10倍にする必要がある。

作成した光マイクロホンを図 4-6 に示す。レーザ光の分布している領域が水平方向 1.53m(9 λ)、垂直方向1.23m(7.2 λ)のスケールになるように設計する。独立した多数の誘電 体多層膜ミラーを両側に配置し、ユニット上部のLDVヘッドからジグザグ状にレーザ光

を100 mm(0.6 λ)の間隔で12往復反射させる。ユニットのフレームはスチール製のアング

ルで構成されており、開口面の4隅はフレームで補強してある。また足場には4つのキャ スターを設けることで、移動しやすい構造になっている。4つのキャスターは4本のアン グルで結び付けられている。レーザ光は、最下部に設置したリフレクタまで到達したら、

再び同じ経路を辿り、最上部のLDVヘッドに戻ってくる。ここでリフレクタを用いるこ とによって、リフレクタに入射するレーザ光の角度が正確でなくても、多少の誤差範囲で あれば、反射したレーザ光は同じ経路を辿ることが可能となる。

図4-2で説明した近似方法より、図4-6は、長さ1530 mm(9 λ)のレーザ光24本を0.3 λ 間隔で平行に配置したものと等価と見なすことができる。式(2−7)、式(2−8)より、この開口 面の寸法は、半値全幅10°以下の指向性を有するための条件に当てはまる。

LDVは、PI-Polytec(株)のCLV-1000(出力モジュール: CLV-M002、デコーダモジュ ール: CLV-M060、センサヘッド: CLV-700)を用いた。センサヘッドは前実験のNLV-1232 と同じものを用いている。計測レンジは2 mm/s/Vに設定する。このレンジにおいて、フル スケールは20 mm/sであり、速度分解能は0.2 µm/sである。計測可能な周波数の最大値は 250 kHzである。図4-6の構成において、レーザ光路の全長l=36720 mmであり、使用し たLDV の最小検出振動速度が 0.2µm/sであることを考えると、式(2-6)より最小検出音圧 は約21dBと見積もられる。

第4章 ペンシルビームの実現

上部から見た実験系を図4-7に示す。発振器によって壁面に固定された音源のスピーカか ら音波を発し、光マイクロホンの開口面で受音し、その出力信号に500 Hzのハイパスフィ ルタと5 kHzのローパスフィルタを通し、FFTアナライザ((株)小野測器、CF-5220)で 観測された値を出力値とする。水平方向の指向特性は光マイクロホンを回転させることで、

垂直方向はスピーカを上下に移動させることで測定を行った。回転角は

θ

とする。開口面正 面が音源に向いているときが

θ

=0°で、実験室上部から見て反時計回り方向を正とする。

0 0.5 1 1.5

-20 -10 0 10 20

θ[deg]

N o rm al iz ed s ound pr es su re

L = 0 m L = 1 m L = 2 m L = 4 m L = 6 m L = 8 m L = 10 m L = 12 m L = 14 m

(a)

0 0.5 1 1.5

-20 -10 0 10 20

θ[deg]

N o rm al iz ed  s o und  p res su re

L = 0 m L = 1 m L = 2 m L = 4 m L = 6 m L = 8 m L = 10 m L = 12 m L = 14 m

(b)

0 0.5 1 1.5

-20 -10 0 10 20

θ[deg]

N o rm al iz ed s ound pr es su re

L = 0 m L = 1 m L = 2 m L = 4 m L = 6 m L = 8 m L = 10 m L = 12 m L = 14 m

(a)

0 0.5 1 1.5

-20 -10 0 10 20

θ[deg]

N o rm al iz ed s ound pr es su re

L = 0 m L = 1 m L = 2 m L = 4 m L = 6 m L = 8 m L = 10 m L = 12 m L = 14 m

(a)

0 0.5 1 1.5

-20 -10 0 10 20

θ[deg]

N o rm al iz ed  s o und  p res su re

L = 0 m L = 1 m L = 2 m L = 4 m L = 6 m L = 8 m L = 10 m L = 12 m L = 14 m

(b)

0 0.5 1 1.5

-20 -10 0 10 20

θ[deg]

N o rm al iz ed  s o und  p res su re

L = 0 m L = 1 m L = 2 m L = 4 m L = 6 m L = 8 m L = 10 m L = 12 m L = 14 m

(b)

図4-8 スピーカ−光マイクロホン間の距離を変えたときの マイクロホンの理論指向特性

((a)は水平方向、(b)は垂直方向の指向特性をそれぞれ示す。)

第4章 ペンシルビームの実現

式(2-10)と開口面の寸法より、平面波音波を開口面で得るための最適な音源−開口面間の 距離はおよそ11 m以上と求まる。

また、式(2-15)を用いて、Lを変化させた時の光マイクロホンの水平方向、垂直方向の理 論指向特性を図 4-8 に示す。

L ≤ 4

[m]の範囲において、

θ

=0軸においてグラフが線対称 になっていないことが分かる。この範囲では平面波音波を得るのに十分な距離でないと言 える。

測定は閉じた室内で行った。壁面からの反射波が光マイクロホンの出力に影響すると考 え、その影響を少なくするために、音源として10波の正弦バースト波を断続的に一定間隔 で発することによって、入射波と反射波を時間軸上で分離する。2kHz の正弦バースト波 10波は、時間にして5 msに相当する。スピーカと光マイクロホンの距離をL [mm]、音速 を340 mm/msとすると、スピーカから音を発してから、10波のバースト波のうち10個目 の正弦波が光マイクロホンの開口面を完全に抜け出るまでの時間 は次式のように表され る。

t1

340 5

1

= L +

t

[ms] (4-1)

 開口面を抜けたバースト波10波は、その後、後方の壁に反射する。スピーカから音を発 してから、反射した1個目の正弦波が再び開口面に到達するまでの時間t2は、

( )

340 14560 14560

2

t = + − L

[ms] (4-2)

となる。入射波と反射波が重ならないための条件は

(4-3)

2

1 t

t

である。式(4-1)〜式(4-3)より、

[mm]=13.71[m] (4-4) 13710

L

の範囲で、入射波と反射波が重ならないことが分かる。

  式(4-4)の条件と、先述した平面波を得るための条件である [m]より、L = 12[m]が この室内における最適の条件であると言える。また、平面波が得られていない位置におい ても、図4-9で示した波形と同様の指向性が得られるか確かめる必要がある。そこで、本実 験では、最適条件であるL = 12[m]と、平面波が得られない位置であるL = 4[m]の2つの位 置において指向特性を測定する。

≥ 11 L

次に、バースト波10波を発する周期Tを求める。スピーカで音を発してから、光マイク ロホンの後方の壁で反射した10個目のバースト波が完全に開口面を通り抜けるまでの時間

[ms]を、次のバースト波の1個目が開口面に到達する時間

2 +5

t T +t1 −5 [ms]よりも短く

設定すれば、反射波と次に発せられる入射波とは重ならない。つまり、次式のような関係 が成り立つ。

5

5 1

2 + ≤T +t

t [ms] (4-5)

式(4-1)、式(4-2)、式(4-5)より、L = 12[m]のとき、

第4章 ペンシルビームの実現

[ms] (4-6)

06 .

≥20 T

に、L = 4[m]のとき、

[ms] (4-7)

11 .

≥67 T

にする必要がある。式(4-6)、式(4-7)より、L = 12[m]のとき周期Tを50msに、L = 4 [m]

のとき周期Tを200msに、それぞれ設定した。

バースト波を発するタイミングは、発振器のトリガ信号で制御している。トリガ信号が 立ち上がると同時に、図4-7中のスピーカよりバースト波が発せられる。図4-9は、デジタ ルオシロスコープ(岩崎通信機(株)、DS8812)で観測した、L = 12 mの時のLDV出力 波形の一例を示している。(a)は発振器トリガ信号とLDV出力を同時に表示した図である。

(a)において、破線の四角で囲んでいる強い出力が光マイクロホンの開口面で受波したバー スト波である。(b)は(a)中の破線で囲んだ部分を拡大した図である。(a)において、トリガ信 号、バースト波ともに周期T = 50 msの間隔で発せられていることが分かる。(b)より全長 5 msのバースト波10波が確認できる。また、音を発してからおよそ35ms後にLDVが受 波していることを図4-9より読み取ることが出来るが、この時間は音源とマイクロホンとの 距離に対応しており、t1 −5=35.29[ms]に等しい。

また、バースト波を受波したとき以外、つまり無音時においても出力が出ていることが 図4-9の波形より分かる。試作したマイクロホンを実用化していくためにはこのノイズフロ アを改善する必要があるが、これについては次章で詳しく検討する。

4−2−2 遠距離場の指向特性

 平面波が得られる条件内であるL = 12 mにおいて、光マイクロホンの指向特性を測定し た。バースト波を発するタイミングを制御するトリガ信号の周期は、先述したように50 ms である。出力波形の中から同振幅の連続した10波を見つけ、その振幅値を測定値とした。

受音開口面の中心より、水平方向、垂直方向の指向特性をそれぞれ図4-10に示す。水平 方向では−11≤

θ

≤9[deg]の範囲で 1°毎に、垂直方向では

− 5 . 5 ≤ ϕ ≤ 5 . 2

[deg]の範囲で

約0.5°毎に測定し、実測値は各軸の最高実測値で規格化している。図中の点線は理論値で

あり、式(2-15)によって求められたものである。図4-6の寸法における指向特性の半値全幅 の計算値は、水平方向で8 、垂直方向で10 である。多少のずれはあるものの、両方向とも 実測値と計算値はほぼ一致している。

° °

4−2−3 近距離場の指向特性

 平面波が得られない位置であるL = 4 mにおいて指向特性を測定した。トリガ信号の周 期は200 msに設定した。

受音開口面の中心より、水平、垂直両方向の指向特性の測定結果を図4-11に示す。水平 方向では−10≤

θ

≤10[deg]の範囲で1°毎に、垂直方向では

− 16 . 2 ≤ ϕ ≤ 15 . 4

[deg]の範囲

で約1.4°毎に測定し、前実験と同様、この図も規格化を行っている。水平方向において実

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