第6章 炭素粉末を添加したモルタルの電磁波遮蔽性の予測手法
6.2 複素比誘電率による試験方法の評価
6.2.1 透過試験による複素比誘電率の算出
電磁波の伝播に関する電気的定数として,誘電率 と透磁率 があり,一般的にこれらの値は,
式(6.2.1)および(6.2.2)に示すように真空の値に対する比誘電率 ,比透磁率 で表現され る。
(6.2.1)
(6.2.2) ここに, :比誘電率 :誘電率 :真空中の誘電率( 8.854 10 F/m)
:比透磁率 :透磁率 :真空中の透磁率( 1.257 10 H/m)
誘電体であるモルタルは,電界が印加されると電気分極現象が起こる物質である。これを電気 的材料定数からみると,透磁率は次式で表される。
, 1
また,誘電率は損失が無い場合には実数として扱われるが,電波的に損失を持つ材料では,比 誘電率は複素数になり,複素比誘電率と呼ばれ,式(6.2.3)で表わされる。
’ ” (6.2.3) ここに, :複素比誘電率 ’:実数部 :虚数単位 ”:虚数部
透過試験における透過係数の算出方法を以下に示す1)。
透過試験は図-6.2.1に示すように,境界面
b
および境界面c
で接する3
つの領域1,2,3
が存 在しており,境界面b
およびc
の各面において,式(6.2.4),(6.2.5)で与えられる値の反射と透 過が起こり,図中の矢印で示した各方向への進行波は,これら2つの境界面からの反射波および 透過波の合成として式(6.2.6)~(6.2.9)のように表される1)。(6.2.4)
2
(6.2.5)
ここに, :反射係数 :透過係数
:空気層の複素比誘電率 :モルタルの複素比誘電率
1 (6.2.6) :透過波 C の電界
(6.2.7) :反射波 D の電界
(6.2.8) :反射波 B の電界
(6.2.9) :透過波Eの電界
ここで,伝搬定数は,以下で与えられる。
図-6.2.1 透過試験の概念図1) 領域1
領域2
領域3 入射波A(=1)
透過波C
透過波E 反射波B
反射波D 供試体 L
境界面c 境界面b 空気層
(ε1,μ1)
モルタル層 (ε2,μ2)
空気層 (ε1,μ1)
2
:モルタルの伝搬定数 :波長
これより反射波 と入射波 の比は,
1
とすると
1 (6.2.10) :境界面bでの透過係数
,
:境界面b,cでの反射係数,
:境界面 b での透過係数 :虚数単位
L
:モルタル厚さとなる。一方,透過波 と入射波 の比である透過係数 は,
1 (6.2.11) :境界面cでの透過係数
ここで, 1とすると, および は,
2
2
と表すことができ,透過試験の両アンテナ間に供試体を挿入した場合の透過係数は式(6.2.11)
により求めることができる。複素比誘電率の算出方法は,各周波数について,複素比誘電率の初 期値(任意)を入力し,式(6.2.11)から透過係数 を算出する。この透過係数 を用いて,
透過率 TSおよび位相差 θを式(6.2.12)および式(6.2.13)から算出する。計算値と
t=10mm
の 供試体で測定した透過率 TSおよび位相差 θの残差が設定した値以下になるように2次元のニュ ートン法を用いて複素比誘電率を導出した。図-6.2.2~4に各周波数で推定した気乾状態の複素 比誘電率を示す。炭素粉末添加率が大きいほど,また,周波数が高くなるほど,複素比誘電率を 求める解が収束せず,実数部および虚数部の推定が不可能となった。この傾向は含水状態が変化 しても同じ傾向を示した。そこで解が求まる周波数の範囲において,実数部と虚数部をそれぞれ 導出し,その平均値を各配合の複素比誘電率とした。20 (6.2.12)
180
(6.2.13)
図-6.2.2 各周波数から推定した複素比誘電率(W/C=50% 気乾状態)
図-6.2.3 各周波数から推定した複素比誘電率(W/C=60% 気乾状態)
0 20 40 60 80 100
1 2 3
実数部(εsre)
周波数(GHz)
0%-Re 5%-Re 10%-Re 15%-Re 20%-Re W/C=50% 気乾
0 20 40 60
1 2 3
虚数部(εsim)
周波数(GHz)
0%-Im 5%-Im 10%-Im 15%-Im 20%-Im W/C=50% 気乾
0 20 40 60 80 100
1 2 3
実数部(εsre)
周波数(GHz)
0%-Re 5%-Re 10%-Re 15%-Re 20%-Re W/C=60% 気乾
0 20 40 60
1 2 3
虚数部(εsim)
周波数(GHz)
0%-Im 5%-Im 10%-Im 15%-Im 20%-Im W/C=60% 気乾
図-6.2.4 各周波数から推定した複素比誘電率(W/C=70% 気乾状態)
表-6.2.1に複素比誘電率の実数部 ,虚数部 ,誘電損失 の算出結果を示す。実数 部が誘電率,虚数部が損失に対応し,誘電損失は変位電流の大きさに対する導電電流の大きさを 表している。
表-6.2.1 透過試験による複素比誘電率の算出結果(供試体厚さ t=10mm)
含水状態
炭素粉末 添加率
(%)
実数部 虚数部 誘電損失
W/C
(%)W/C
(%)W/C
(%)50 60 70 50 60 70 50 60 70
湿潤状態
0 13.07 12.81 12.00 2.68 2.05 2.30 0.21 0.16 0.19 5 20.62 23.18 22.37 5.20 4.24 5.87 0.25 0.18 0.26 10 38.87 42.59 40.35 13.24 13.56 11.87 0.34 0.32 0.29 15 55.31 65.53 78.94 24.61 32.56 32.13 0.44 0.50 0.41 20 83.29
- -51.57
- -0.62
- -気乾状態