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VI. 結 論
ここでは,本論の結論を提示していく.第一一に結論を導いていくための本論の立場を確 認しておく.第:にAIDに関するわが国の先行研究調査から得た結論を示し,第三に本論 で行なったDI者等へのインタビュー調査を中心とした研究から得た結論をふり返る.そし て第四に5つの調査結果の考察から得た結論を述べる.そのうえで第五に,本論で実施し た研究の結果から導いた,本論の結論を提示する.
本論で得た結論は,今後の研究の方向性を示唆するものであるとともに,ソーシャルワ ークによるDI者の権利擁護を推進するための理路並びに指針でもあると考える.
最後に本論の限界と今後の課題を提示していくことにする.
1.結論を導くためのパースペクティブ
本論の結論を提示する前提として,①本論がソーシャルワーク研究であること,②理論 的前提としてナラティブ・アプローチを用い,その視座からDI者を取り巻く社会状況と課 題の構造を解釈してきたこと,③DI者の発話から得られたオルターナティブ・ストーリー が,わが国で固定化されてきたAIDにかかるドミナント・ストーリーに影響を与え,④オ ルターナティブ・ストーリーの内容とその変化に,DI者のストレングスを見出すことによ
り,Dl者と他者との関係を服従と支配などの人権侵害から解放し,対話ができる関係へと 変化させられる可能性があること,そして⑤本論で展開した筆者らとDI者との一連の研究
Eの関わりが,実はソーシャルワーク実践そのものであるといえる可能性がある,という 視座のもとで,本論の結論の構築を図った.
2.先行研究調査から得た結論
先行研究調査の結果,わが国における人工生殖と子の福祉に関する歴史的な考察におい て,1949〜1978年という時期における生殖補助医療が,生まれてくる子どもを生殖補助医 療の当 1渚とはせず,出生後においても社会的存在として認知してこず,「子の福祉」とい
う考え方が極めて希薄であったことが否定しがたい事実であることが明らかになった.
また1979年以降,諸外国における「出自を知る権利」が法定化される中,わが国におい ても「出自を知る権利」が議論され,以下のような特徴を有する理念的な権利として「出 自を知る権利」が定着しつつあるにもかかわらず,わが国におけるARTに関する法制度は 末だ整備されていない.
出自とは,個人と祖先とのつながりを明確にすることであり,個人の属性を示すととも に、つながりを確定させる、人格を構成する要素である.
出自を知ることは,自己の個性の理解と展開にとって重要な手がかりを与え,人格権 に内包される.つまり,出自を知る権利は,自己のアイデンティティと直結する権利で
ある.
子どもは完全なる人間であるので,当然に権利の主体であり、「出自を知る権利」とい う人格権を有する.
筆者は,このように規定できる「出自を知る権利」に関する観念を支持し,この人格権 が保持されていない状態を,第一義的にDI者固有の人権の侵害であると考えるものである.
本論で試みた先行研究調査の結果から筆者は,ヒトに対する生殖科学の50年の議論が,
DI者が「絶対的少数初であった時代において,医療者は秘密主義を奨励し,人工授精の 当 b:者からDI者を排除してきたととらえる.
そして,人Il生殖の歴史に関する第5期以降,はじめてDI者は,わが国のAIDを取り 巻く社会状況の中に登場し,「声」をあげた.それによってDI者がAIDの当事者であり,
様々なIll:悩を抱えていることが明らかになり, DI者のコミュニティを形成する権利の主体 であることが唱えられるようになり,秘密主義が奨励されていた時代には想像されなかっ た新たな複雑な問題が顕箸になったのである.そして,新たな複雑な問題群の中に,ART を取り巻く社会の,システム上の問題と医療上のリスクがあることも,看過してはならな い事実であるととらえた.
3.研究から得た結論
(1)DI者の苦悩とは何か
Dl者が自らの人権と主張する理念的な権利である「出自を知る権利」にかかる諸要素の 抽出から示唆を得て,筆者はDl者に対する人権侵害が社会システムとして構成されてきた と考える.すなわち,筆者が導いたDl者を取り巻く社会システムとは次のとおりである.
医療者は不妊カップルの求めに応じて,AIDを実施するにあたり,AIDの実施を「秘密」
にすることを「誓約」させ,他者にその事実が伝達されることを制限してきた.
その背景には「伝えないほうが幸せ」という子どもに対するパターナリズムと「嫁」
という格付けされた,女性の立場にみられる「強者一弱者」の関係が認められる.
AIDを取り巻く歴史と社会状況は,「医の三原則」により,医療者が構築したシステム を強化し,そのシステムが結果としての非難・排除・ネグレクトを生起させた.
AIDの実施は, Dl者への直接的行為というよりも,第一義的に不妊カップルをコントロ ールし,結果としてbAIDを選択した不妊カップル及びDl者が信頼関係を築けず,つな
がりを断たれ,自らを卑下することを助長するという結果を招いた.
ここまでの研究から導ける結論は,Dl者がおかれている状況の背後には「秘密主義とパ ターナリズムのIE当化が社会システムとしてなされてきた」ということである.
「DI者のt ?悩とは何か」という問いに対する本論の結論は,こうした社会システムのも とで,Dl者は自らの人権として主張している「出自を知る権利」などの理念的権利を侵害 されているということである.すなわち,次のようにDI者の求めと人権侵害の関係をまと めることができると考える.
第一にDl者は自身が「DI者」であることを知り, AIDの当事者となり,「真実」の中で 家族関係を営むという権利を獲得し,「真実」から疎外されているという状況からの解放を 求めている.(「出自を知る権利」の侵害)
第二にDl者は,真実の中で生活する者として,友人・知人等に「真実」を知ってもらい,
かつ,認められるという行為が伴う人間関係を,安心して獲得する権利を獲得し,社会的に 孤立するという状況からの解放を求めている.(「表現の自由」の侵害)
第三にDl者は「絶対的少数者」として,社会から無視される,あるいは放置されること なく,社会の一員として生きる権利を獲得し,法的に自らの存在が認知されていないという 状況から解放されることを求めている.(「社会的に認められ,参加する権利」の侵害)
第四にDl者は遺伝情報のレベルで、未来永劫、「つながりを確定させる」ことから侵害さ れている現状から解放されることを求めている.(「新しい人権一①未来世代への継承に関 する権利t②暴力に晒されない権利,③コミュニティ開発(共生)権」の侵害)
したがって,DI者が侵害されている人権には,①出自を知る権利,②表現の自由(権利),
③社会的に認められ,参加する権利,④未来世代への継承に関する権利,⑤暴力に晒されな い権利,⑥コミュニティ開発(共生)権が包含される.
そうであるならば,こうした人権侵害からDI者をいかに解放へと導き, DI者の We11−beingを実現するのかを,あらためて問うていく必要がある.それは,ソーシャルワー クの価値である「人間の尊厳と社会lll義の保持」に.一致するミッションの実現であり,DI者 の解放がDl者のWell−beingを実現するための理路であるからである.
本論でいうDI者の権利擁護とは, DI者をDI者が被っている人権侵害から解放すること であり,かつ,Dl者を取り巻く社会的環境を, DI者の人権を侵害しない社会へと変化させ ることである.その両立によって,ソーシャルワークが価値とする「人間の尊厳と社会正 義の保持」を実現させることが可能となるのである.
(2)DI者の解放のための理路
本論で得た,DI者のオルターナティブ・ストーリーは, WAIMHのワークショップなど で国際的に発信された内容であり,以下のようにまとめられる、これは,DI者によるDI 者のための人権宣言であると解釈できる.
【Dl者のオルターナティブ・ストーリー/Dl者の人権宣言】
秘密主義を医師たちが取り入れた理由は,AIDを利用したカップルが感じるだろう「恥辱」
という不名誉を夫婦が受けないようにするためである.
多くのDI offspringは事実を知りたがっている.長く事実を隠そうとすればするほど,
子どもはより傷ついていく.母の告知で,[不安と憤り]を覚えた.両親に騙されたと感じ た.今までの父親との関係の悪さを納得した。父親を失った.3年後,母を亡くしてから自 分の存在に不安を感じ,出自を隠されていたことに[怒り]を感じるようになった.
今の私にたどり着くのに,他の当事者との出会いは大きいものであった. 「もっと早く に告知して欲しかった」 「提供者を知りたい」という共通の思いを抱いていることを知っ て安心できた.AIDで生まれたことを隠すべきではない.もっと早くに知りたかったと思っ ている.
大人になって,結婚も出産も終えてしまってからの告知は遅すぎる.自分の土台となる ルーツが嘘であったことで,その上に積み重ねた自分が崩れてしまったような感覚.自分 を再構築しなければいけなくなった.
このようなことを背景として,私たちは①当事者の心からの正直な訴えに耳を傾けてくだ さい.②当事者の物語は[悲しみ・怒り・悲痛]にあふれている.しかし,③変化に向かった 前向きな希望にも満ち溢れている.そして,④私たちの尊厳や生まれながらの権利を,社会 は尊重してほしい.
また,①社会や国の理解が低いので,政府を頼るよりは,まず自分たち自身が子どもの ケアの仕組みを作らねばならない,そうした取り組みの中から②匿名のドナーから生まれ た子どものケアのための情報を共有し,より信頼できる親子関係を構築することをめざし,
③親からの積極的な告知を求め,④出自を知る権利を認める社会のルール作りや⑤不妊カ ップルと提供者と生まれた人,それぞれを支えるしくみを整えることが必要である.
つまり,ソーシャルワークは,Dl者の人権侵害からの解放のために,このような田者の 人権宣「亨が権利として擁護される社会システムの構築をめざさなければならない.
本論では,DI者を取り巻く人的環境に対する質的量的調査の手法を活用して,この目的 に到達するための考察を行い,その結果,得られた結論は次のとおりである.
DI者は,自らがDl者であることを知る以前と以後で,自らの物語を大きく変化させざる を得ず,時にアイデンティティの揺らぎに至ることもある.それは,出自を知ることの中