本論文は現代韓国語の動詞連体形のうち,하는(V-는),한(V-은/ㄴ),할(V-은/ㄹ)を対 象に,それぞれの連体形が成す連体修飾構造に見られる,語彙論的・文法的特徴を明らかに することを目的とし,大量のコーパスを用い,計量的調査及び分析を行った.各論は하는,
한,할それぞれの連体形の構造上の特性と하는,한,할が表す意味との関連性を詳細に分析 して論じた.とりわけこれまでの研究で相対的に周辺的な要素として扱われてきた被修飾名 詞に注目することで,既存の研究とは異なる観点から連体修飾構造のあり方を分析しようと 努めた.本章ではそれらの考察の結果を述べる.
まず 6.1では,第 2 から第 5 章までに明らかになったことをそれぞれ整理して示し,6.2 で本論文の意義と課題について述べる.
6.1. 要約
本論文は現代韓国語の動詞の連体修飾構造に見られる,語彙論的・文法的特徴を明らかに することを目的として,大量のコーパスを用い,計量的調査及び分析を行った.ここでは,
全体的な流れと各論の成果を中心に述べたい.
第 2 章では,動詞の連体修飾構造の全体像をつかむために,いかなる動詞が連体形をと りやすいのか,そしていかなる名詞が動詞連体形の被修飾名詞になりやすいのかについて調 査した.その結果,他動詞より自動詞の方が連体形をとる頻度が高く,自動詞の中でも,
「状態変化」,「関係」,「自然現象」を表す動詞が連体形をとる頻度が高いことを確認し た:
「状態変化」を表す動詞:
늙다(年をとる),마르다(やせる),병들다(病む)など
「関係」を表す動詞:
상응하다(つりあう),버금가다(次ぐ),관련되다(関連する)など
「自然現象」を表す動詞:
타오르다(燃えあがる),생동하다(いぶく),내리쬐다(照り付ける)など
上の動詞は<無意志動詞>である特徴がある.中でも「状態変化」を表す動詞は가장(も っとも)のような程度副詞の修飾をうける点で,形容詞に近いと言える.一般の動詞は多く の接続形をとり,動作の先行,理由,様態などを表すのに用いられるのに対し,上に示した 動詞は連体形や終止形をとることが多く,動作や状態の描写によく用いられる傾向が見られ る.
次に,被修飾名詞について言うと,시늉(ふり),예정(予定),방도(方途)のように,
事態や現象を直接・間接的に指示する名詞や,때(時),뒤(後)のように,時間的前後関 係を表す名詞が連体形をとりやすいことが明らかになった.動詞の連体形との共起頻度が高 い名詞は,修飾語なしに文の成分として用いられにくい特性を持ち,不完全名詞的な性格が 濃いものも見られる.
最後に,連体節と被修飾名詞の関係について考察した.本稿では寺村秀夫(1980)に倣い,
次のように分類した:
「内の関係」:被修飾名詞が連体節内部の一成分になるような構造(または,連体節 の述語動詞と被修飾名詞との間に何らかの格関係がある場合)
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「外の関係」:被修飾名詞が連体節内部の一成分にならないような構造(または,連 体節の述語動詞と被修飾名詞との間に格関係がない場合)
資料の分析を通して,名詞は一般に連体節との関係において偏りを見せることがわかった.
例えば,비(雨),행인(行人),주체(主体)は連体節で示される動作や現象に対し「主 体」として現われる傾向が強い.そして殆どの名詞が連体節で示される動作・状態に対し,
「主体」や「客体」を表すのに対し,뒤(後),한편(一方)のような名詞はそのような関 係にならないことも確認した.
「外の関係」はさらに,連体節が表す事柄と被修飾名詞が表す対象が同一の事柄を示す<
同一内容関係>と,連体節が表す事柄と被修飾名詞が表す対象が同一の事柄を示さず,被修 飾名詞が連体節の表す事柄の原因,方法などを表す<状況的内容関係>に分類した.
<同一内容関係>は,하는,한,할が被修飾名詞を修飾し,名詞が表す対象が具体的にい かなる動作や状態であるのかを表す.この構造の被修飾名詞には事態や現象を直接・間接的 に指示する名詞が来ることが多く,하는,한,할の中でも하는がこの構造を実現する傾向が もっとも強い.
<状況的内容関係>は連体節と被修飾名詞が表す意味によって分類される.そして<状況 的内容関係>の種類と連体形との間にも一定の関連性が認められる.例えば,連体節と被修 飾名詞 N が「…するだけの N」のように解釈される構造は할の構造的特徴である.<状況 的内容関係>の被修飾名詞には결과(結果),이유(理由)のような,いわゆる「相対性」
を持つ名詞や방법(方法),과정(過程)のような,行為や現象の状況を表す名詞が来る.
本稿では,主に名詞の語彙的意味及び動詞の連体形との共起様相に注目して,名詞分類を 行った.
まず,名詞を大きく,<実体>,<場所>,<時間>,<事柄>,<状態>,<抽象>に 分類した.これらの名詞のうち,<実体>,<場所>,<時間>,<抽象>は連体節と主に
「内の関係」で現われ,<事柄>と<状態>は連体節と主に「外の関係」として現われる特 徴が見られた.ただし,<実体>のうち,사진(写真),그림(絵),편지(手紙)のよう な名詞は「外の関係」としても現われる特徴があった.
殆どの名詞が連体節と「内の関係」として現れるのに対し,次のような名詞は「内の関係」
としては現れない:
뒤(後),후(後),한편(一方),반면(反面),도중(途中),대신(代わり),
끝(末),가운데(中),이후(以後),작정(つもり),직후(直後)など
連体節と「外の関係」で現われる名詞には,사건(事件),시늉(ふり)など,事態や現 象を直接・間接的に指示する特性を持つ名詞や뒤(後),한편(一方)など,「時間的・論 理的前後関係」を表す名詞が典型的に現われた.このような現象から,連体修飾構造の色々 な型は,被修飾名詞の語彙的特徴と緊密に結びついていることがわかる.
次に動詞について言うと,하는,한,할それぞれの連体形をとる動詞の様相が異なり,
하는をとる動詞には「一定時間継続する動作」を表す動詞が多く,한をとる動詞には「状態 変化」を表す動詞が多い.そして할をとる動詞には<意志動詞>が多い傾向が見られた.
本稿では,まず動詞をテンス・アスペクト的な特徴から次のように分類した:
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表8.本稿における動詞分類(表8の再引用)
大分類 下位分類
時間の中 での展開
性
継続性 限界性
한が
「現在」
を表す
語例
内的限界動詞
(telic verb)
結果継続動詞 ○ ○ ○ ○ 입다(着る)
状態変化動詞 ○ × ○ ○ 비다(空く)
非内的限界動詞
(atelic verb)
動作継続動詞 ○ ○ × × 놀다(遊ぶ)
内的認知動詞 ○ × × × 보이다(見える)
関係規定動詞 × × × × 해당되다
(該当する)
属性動詞 × × × ○ 생기다(生ずる)
あらゆる動詞が하는,한,할を均等にとるわけではなく,하는,한,할はそれぞれの意味 を表すのにもっとも適した動詞を好んでとるという現象があるわけである.そして하는,한,
할をとる動詞はそれぞれの連体形が表す意味とも緊密に結びついている.
第 3 章では,言語資料から하는をとりやすい動詞と被修飾名詞を抽出し,それらが하는 構造でいかに現われ,いかに하는の意味と関連しているのかについて考察した.その結果,
하는,한,할のうち,하는をとる頻度がもっとも高い動詞(=<하는志向動詞>)には,次 のような種類の動詞が見られた:
<動作継続動詞>:떨리다(震える),끓다(沸く)など
<内的認知動詞>:보이다(見える),마음에 들다(気に入る)など
<関係規定動詞>:달하다(達する),맞먹다(匹敵する)など
上に示した動詞は,動詞の語彙的意味の中に「運動が必然的に尽きる内的時間的限界」と いう意味特徴をとりだすことができない<非内的限界動詞>(atelic verb)であるという特徴 がある.このような하는をとる動詞に見られる偏りから,하는についてはテンスの観点から の規定のみならず,「不完了」「動作」といった規定が必要であることがわかる.
次に하는,한,할のうち하는との共起頻度がもっとも高い被修飾名詞(=<하는志向名詞
>)について調査した結果を述べる.하는が「継続的な動作や現象」,「習慣的・反復的な 動作や現象」,「一般的・恒常的な事柄」を表すため,被修飾名詞にもこのような하는の表 す意味と関連する名詞が特徴的に現われた.例えば,소리(音)は「行われつつある動作や 現象」と関連し,습관(習慣),경향(傾向)は「反復的に行われる動作や現象」と関連す る.そして개념(概念)は「一般的・恒常的な事柄」と関連し,방법(方法),구조(仕組 み),특성(特性),이치(道理)などは繰り返されることにより,一般化した事柄を表す.
하는「内の関係」(意味的格関係)では,「一定時間継続する動作」や「脱時間的な関係 概念」を表す<하는志向動詞>が典型的に現れた.被修飾名詞が하는に対して何を表すのか に注目すると,被修飾名詞が主体を表す場合がもっとも多いことを確認した.
하는「内の関係」における하는の意味に注目すると,하는をとる動詞が「心理」や「知覚」
を表す場合,하는は「現在」を表す傾向が強い.それに対し,動詞が<関係規定動詞>であ る場合,하는が「一般的・恒常的な事柄」を表す.なお,하는をとる頻度の低い<結果継続