本研究では, プレキャストPC床版を用いた鋼合成桁橋の技術的, 社会的要求に応え得 るチャンネル型フ。レキャストPC床版(CPC床版)の鋼合成桁橋への適用性を立証するため に, 結合部のずれ止め性能に着目した試験的, 解析的な検討を行った.
第1章では, 橋梁形式の中で近年注目されつつある合成桁橋に関する歴史的背景を述 べ, 新しい床版形式であるCPC床版を紹介し, 鋼合成桁橋に適用する場合の合成作用に おける優位性について言及した. また, 先に実証されているCPC床版の力学特性, およ び本研究と並行して設計,施工された実橋を紹介した. 加えて, 本研究の目的および本論 文の構成について述べた.
第2章では,床版下面形状の支圧効果によるずれ止めを設計に反映するために,2シリー ズの2面押抜きせん断試験を行い支圧効果の定量的な解明を図り, 同時にFEM解析への 適用を検討した.
シリーズAでは,実橋と同様のずれ止め機 構を有する試験体, またスタッドと支圧効果 によるそれぞれのずれ止め性能に着目した試験体により,支圧耐力はスタッド耐力とほぼ 同等のずれ止め性能を保有するとの定性的評価が得られた. また, FEM解析では結合部 のずれ性状, 支圧部のひずみ性状を精度良く再現できる解析法を提示し, FEM解析への 適用を可能とした. さらに, 結合部の応力状態, ひび割れ性状を明らかにし, その有用性 を実証した.
シリーズBでは, 支圧効果によるずれ止め性能に着目して,床版下面形状と支圧耐力お よび限界耐力の関係を定量的に評価した. その結果,試験値である最大耐力Qma弐と床版リ ブ高と問詰め部打設幅と問詰め部強度の積で評価する支圧耐力 Quの比はQma/Qu= 0.8 ,...,__
1.2の範囲にあり, 評価法の妥当性が検証された. また, ずれが急増する限界耐力は, リ
ブ角が小さい床版は最大耐力とほぼ同等であるが,床版リブ角が実橋相当(140 )よりも大 きい床版は最大耐力の約500/0であり破壊に対する安全率が大きく, 実橋相当のリブ角で
あればずれ止めとして安全に機能するなど, 設計上有用な種々の知見を得た.
第3章では, スタッドを群配置する本構造形式と床版貫入スタッドを多量配置する従来 構造,および結合部形状が合成効果に及ぼす影響に着目した静的曲げ試験を行い,同時に 合成桁のずれ性状を考慮、したFEM解析の適用を検討した.
その結果,合成桁の終局耐力および供用荷重下での曲げ応力,変形の算定には,実用上
完全合成断面として取り扱って十分であるが,終局にいたる弾塑性挙動の把握には接合面 のずれ性状をばね要素でモデル化し,ずれ挙動,問詰め部ひび割れ性状などを精度良く追 跡できるFEM解析法を提示した. さらに,道路橋示方書のスタッドのずれ止め設計に則 り, スタッドの かぶりを満足する問詰め部打設幅を確保すれば,設計荷重レベルでの両接 合面の許容ずれ止め耐力はほぼ同等となることがわかった. よって,スタッドの必要本数 は問詰め部ー鋼桁聞において, 現行の道路橋示方書のずれ止めの計算方式に準じて決定す
�'1ばよいことなどが明らかにされた.
第4章では,最大荷重および床版縦締めプレストレス構造をパーシャルプレストレスお よびRC構造と変化させた試験体により,設計荷重を最大荷重, 実橋の死荷重相当の荷重 を最小荷重(最大荷重の430/0)とした 200万固定点繰返し疲労試験を行し\疲労性状につ いて検証した. 加えて,同試験終了後に静的曲げ試験を行い, 200万四繰返し載荷を受け た合成桁の残存耐荷性能についての検討を行った.
その結果,設計荷重の1.3倍までの繰返し最大荷重, プレストレス量の影響はなく, 載 荷回数の増加にともなうたわみ, 床版-銅桁聞のずれ, およびひびわれなど顕著な変状は 見られず優れた疲労耐久性を有すること,またその後の静的曲げ試験においては,十分な 残存耐荷性能を有することを確認した.
第5章では, 前章までの成果を踏ま え, 支圧耐力に基づき床版と問詰め部聞のずれ止め
を設計した2主鋼合 成桁試験体に対して,実際の床版損傷メカニズムを再現可能な輪荷重 走行試験機を用いた疲労試験を行い,結合部の疲労性状を実証し,合理的なずれ止め設計
法について考察した.
その結果,輪荷重の走行回数の増加にともなうたわみ,ひずみ性状の顕著な変化は見ら れず, 床版と鋼桁聞のずれは試験終了時でも約0.02mm以下であり, 合成効果を消失し始 めるずれ量0.2mm の1/l0以下 のため, 実用上問題ないことがわかった. また, 問詰め部 モルタノレ強度の疲労低下 による支圧部へのひび割れを想定したが,床版ー問詰め部聞のず れ止めは床版下面形状による支圧効果に加えて, 実際には目地部と床版中央部の長尺ス タッドもずれ止めとして有効に機能しているため外観上のひび割れは発生しなかった.こ のことより,支圧耐力に基づいたずれ止め設計を行うことにより,合理的なずれ止め設計 が可能であることがわかり, 設計上有用な知見を得た. さらに, FEM解析により試験で は未解明である水平せん断力伝達による問詰め部の応力状態を明らかにした.
近年,輪荷重走行試験機の登場をはじめ3床版に対する様々な研究, 開発の積み重ねに より, 高耐久性で高品質性な床版が次々に開発 され, そのなかでもPC床版は半永久的な ものと誰もが認識するところである. そこで今後は, 床版そのものの特性ばかりでなく,
橋梁の全体的な挙動に対する配慮, また耐久性の解明, 施工性の向上が十分になされる必 要があると考えられる.すなわち,プレキャスト床版の床版聞の継目部や合成桁の結合部 などが挙げられる. CPC 床版鋼合成桁においても, 経済性の観点からフルプレストレス PC構造の床版間継目部をPRC構造とし,さらに施工性の観点から床版両端の突出部を片 側のみとするなど, 今後更なる検討が 必要でまだ解明途上の問題も多くある.
一方,建設コスト縮減の強い要求のなか,橋梁の寿命を定め生涯のメンテナンス費を最
小化するミニマムメンテナンス,また維持管理を考慮、したライフサイクルコストの評価な どの考慮、を目標にした取り組みが行われている. チャンネル型フ。レキャストPC床版を用 いた鋼合成桁橋は,そのような技術的,社会的要求に応え得る一手段と考えられ, また本 研究で得られた知見が, プレキャストPC床版を用いた鋼合成桁橋の設計に微力ながら役 に立てば幸いである.
本研究の実施および取りまとめにあたり,多くの方々からご指導ならびにご協力を頂き ました. ここに, 記して感謝の意を表します.
太田俊昭教授には,研究を進めるにあたって終始,細部にわたる懇切なご指導とご助言 を頂くとともに, 広く他分野におよんで、貴重なお話を賜りました. また, 博士課程入学の 際には快諾して頂き, さらに研究への取り組み方などを熱心にご教示頂きました
松下博通教授,崎野健治教授には,本論文の取りまとめに暖かいご指導とご教示を賜り ました.
日野伸一助教授には,研究室に配属されて以来, これまでの研究全般にわたり直接的な ご指導を賜るとともに, 終始, 細部にわたる懇切なるご指導とご教示を賜りました.
山口大学浜田純夫教授には,試験装置をご提供頂くとともに,道路橋床版についての基 礎的なことから研究の現状におよんで貴重なご意見, ご助言を頂きました
長崎大学崎山毅教授, 松田浩助教授, 森田千尋助教授, 古賀掲維助手には,学部・修士 課程時には研究全般にわたり直接的なご指導を賜るとともに,博士課程入学時にご推薦頂 き ,入学後は時宜を得た懇切かつ 貴重なご指導とご教示,さらに暖かいご激励を賜りまし た.
(株)富士ピー ・ エス藤本良雄氏, 江頭善博氏, 中島禎氏,堤忠彦氏,江嶋一成氏他に は,共同研究者として貴重なご意見を頂くばかりでなく,橋梁の設計に関する実務的な話 題をご教示頂きました. また, 多くの 試験体, 計測機器をご提供頂きました.
九州大学大学院環境デザイン工学講座の黒田一郎氏(現防衛大学校), 左東有次氏, 長 演貴志氏(現防衛庁), 馬場智君(現国土交通省), 木下広志君(現(株)東京鉄骨橋梁 ), 合田寛基君, 山崎隆司君,尾上佑介君, さらに研究室の皆様方には貴重かつ 多大なる
ご指導とご激励やご協力を賜りました.
最後に私事ではありますが,大学および大学院への進学を快諾し,これまで経済的な面 のみならず勉学に対して最高の環境を与えて頂いた両親,家族,また精神的にも大きな支 えとなって頂いた両祖母に心より感謝します.