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実験材料・手法

第 5 章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定 105

5.2 実験材料・手法

実験材料は,本論文の2章で記述したMEDプローブ上に培養したラット胎児大脳海馬領 域由来の培養神経回路網である.また,細胞外電位多点計測については2章に記述した手法 と同様であり,刺激電極の選定と電流刺激・誘発応答の計測は4章で記述した手法と同様で ある.細胞外電位多点計測は2 章で記述した通常の培養液(17.5 mMブドウ糖濃度)のまま 行い,実験によって10 mM,30 mMブドウ糖濃度を含む細胞外記録溶液を用いて行った.本 章で記述する実験において異なるのは,電流刺激スキーム及び解析手法であるので以下に記 述する.

5.2.1

誘発応答計測実験スキーム

選定した1つの刺激電極に対する電流刺激を60秒ごとに印加し,誘発応答を計測した.本 章に記述する実験では,刺激ごとの細胞外電位計測を1スウィープとし,合計50スウィープ の誘発応答を計測した.計測された細胞外電位から,3章で記述した手法により電流刺激印 加によるアーティファクトを除外した後,2章で記述した活動電位スパイクを検出した.続 いて,64個の各電極から検出されたスパイク数から64次元特徴ベクトルを作成した.検出 されたスパイク数から特徴ベクトルを作成する場合,特定の時間窓を設定し,その時間窓内 で検出されたスパイク数を要素として用いる必要がある.しかしながら,時間窓の範囲にお いて活動頻度が偏る等,時間窓の決定には恣意性が生じる可能性がある.一例を挙げると,

ある100ミリ秒の区間の内に同じ個数のスパイクが発生したとする.さらに,そのスパイク が前半の50ミリ秒にのみ集中して発生し,後半の50ミリ秒では発生しない場合,逆に前半 の50ミリ秒ではスパイクが発生せず,後半の50ミリ秒ではスパイクが多く発生する場合が あったとする.特徴ベクトルを作成する時間窓を50ミリ秒とするとこの2例は違うパターン として記述されるが,時間窓を100ミリ秒とすると,この2例は同様の活動パターンとして 認識される.このように,ある特定の時間窓におけるスパイク数の変遷を解析する場合,時 間窓の決定に伴う恣意性が生じることが考えられる(図5.1).

5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定

4 spikes 8 spikes

50 ms 50 ms

12 spikes

100 ms

9 spikes 3 spikes

異なる 入力

同じ 入力

5.1 64次元特徴ベクトルの作成方法概要.

スパイク状の活動を示す神経細胞の活動電位において,電位変動は発生から収束までが約 2ミリ秒であり,活動電位発生直後に約2-3ミリ秒の不応期が存在する.従って,5ミリ秒の 時間窓においては,精々1回の活動電位が発生する[87].そこで,本章で行う実験では100 ミリ秒毎にスパイクを検出した際の検出時刻を記録し,スパイク数を5ミリ秒毎に計数する ことで,5ミリ秒の幅を持つ時間窓で計数した活動電位スパイクをもとに特徴ベクトルを作 成した.特徴ベクトルの要素の値は01となり,スパイク発生の有無を表現することにな る(図5.2).

5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定

5 ms

0 1 1 0 0 0 1 0 0 1 1 0 1 1 1 0 0 1 1 0

5.2 解析時間窓5ミリ秒での特徴ベクトル作成の概要.

1つの電極近辺に複数の神経細胞が存在する場合,上記の仮定が崩れ,01以外の要素を 持つ特徴ベクトルが生成される.ただし,本実験では殆どの電極でこのような例は発生しな かった.このような,0,1以外の要素を持つ特徴ベクトルが生じる電極は解析から除外した.

本研究では,50分間の自発性神経活動と60秒に1回刺激電流を印加する試行を1スウィー プとし,合計50スウィープの誘発応答を計測した(図5.3).

5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定

Sweep1 (60 s)

Sweep2 (60 s)

Sweep49 (60 s)

Sweep50 (60 s)

Stim1 Stim2 Stim49 Stim50

・・・・・・

5.3 誘発応答計測の実験スキーム.

また,本論文3章で用いたブドウ糖濃度10 mM,または30 mMの細胞外記録溶液に溶液 置換し,細胞外ブドウ糖濃度がそれぞれ10 mM,30 mMの状態で60秒に1回刺激電流を印 加する試行を1スウィープとし,合計50スウィープの誘発応答も解析した(図5.4).

・・・ 静置 20 min

溶液置換 溶液置換

計測 50 min

静置 20 min

計測 50 min 10 mM ブドウ糖細胞外記録溶液 30 mM ブドウ糖細胞外記録溶液

5.4 細胞外記録溶液を用いた誘発応答計測の実験スキーム.

5.2.2

局所的神経活動パターンテンプレート

本研究では,64個それぞれの電極において5ミリ秒の時間窓でスパイクが検出された場合 を1,検出されなかった場合を0とした特徴ベクトルを作成した.さらに,電流刺激印加に よる誘発応答の特徴的な活動パターンを解析するため,神経活動パターンテンプレートを作 成した[86].テンプレートの作成方法を以下に記述する.初めに,各スウィープの平均スパ イク数を算出した.続いて,テンプレート作成の閾値として64電極全ての平均スパイク数を 算出し,各電極における平均スパイク数がこれを上回った場合に,この電極における活動を 1とし,下回った電極における活動を0として,各スウィープにおける空間領域が制限され た神経活動空間パターンのテンプレートを作成した.このテンプレートを時間軸集約活動パ ターンテンプレート(Time Overlaid Spatial Pattern template, TOSPテンプレート)と定義し た(5.5).

5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定

1 1

0 0 1 0 0

0 1

1 1

0 0 0 1 0

0 1

1 1

1 1 0 1 0

0 1

sum

(3+3+1+0

+1+1+2+

0+3)/9 1.5

1.5 > ch 0 1.5 < ch 1

template

1 1

0 0

1 0

0 1

difference 2

0 2

Time(ms)

0-5 ms 5-10 ms 10-15 ms

1sweep

0

3 3

1 1

2 0

0 3

1

5.5 TOSPの概要.

これにより得られたTOSP テンプレートと,各時間窓におけるスパイクの有無を表現し た特徴ベクトルとの差の絶対値を算出し,全スウィープに渡って時間窓毎に平均した.ス ウィープ番号をsw64 個の電極を8×8のアレイ状に配置した際の電極番号をi,時間窓 t における合計スパイク数をnswi,t とすると,計測時間tmとしたときの計測時間全域の合計 STisw は,

STisw =

tm

t=1

nswi,t (5.1)

また,スウィープswにおけるTOSPテンプレート作成の閾値T hsw を以下のように設定 した.

T hsw = 1 64×

64

i=1

STisw (5.2)

時間軸集約活動パターンであるT OSPi,jsw は,

T OSPsw =

{ 1,(STsw ≥T hsw)

0,(STsw < T hsw) (5.3) また,TOSPとの差分の絶対値の合計DTtsw は,

DTtsw =

64

i=1

|nswi,t −T OSPisw| (5.4)

5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定 これらより,全スウィープ数をswmとし,TOSPとの差分値の合計を全スウィープで平均 した値であるmDTt を算出した.

mDTt = 1 swm

swm

sw=1

(5.5)

mDTt は,各スウィープ,各電極における5ミリ秒ごとの空間パターンを,全計測時間に 渡って時間軸に沿って集約し,平均したテンプレートとの差分の各スウィープ間で平均した ものを示す.すなわち,mDTt は全計測時間において平均的な神経電気活動パターンとの差 異を示す(図5.6).

𝑚𝐷 T

𝑡

Time [ms]

TOSPテンプレート 𝑚𝐷T

𝑡

誘発応答

特徴的な活動パターン

平均的な活動パターン

5.6 mDTtの概要.赤矢印は刺激電流印加時刻を示す.

本実験では電気信号の伝搬を解析するために,注目した電極の周囲に限定した局所的な TOSPテンプレート(局所TOSPテンプレート)を作成し,各領域におけるmDTt の時間推 移を解析した.この場合,ある電極を中心として半径1電極分の範囲(3×3)の9電極から 局所的テンプレートを作成し,mDTt を計算した.注目電極を1つずつずらして解析し,8× 8電極の内36領域について解析した(図5.7).

5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定

・・・

TOSP36

TOSP1 TOSP2

5.7 空間領域を限定したTOSPの作成方法の概要.

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