第 2 章 培養神経回路網の生物学的特徴 13
2.3 実験結果
MEA上に培養された神経回路網の自発性神経活動は培養10日目(DIV10)前後から観察 されることが報告されている.
本研究で用いた培養系においてもDIV10前後で自発性神経活動が観察された(図2.11).
第2章 培養神経回路網の生物学的特徴
(a)
(b)
図2.11 細胞外電位多点計測システムで計測された自発性神経活動の一例(E18DIV28).
(a)全64電極から計測された自発性神経活動.スケールバーは100 µV×200 ms.(b)単 一電極(図2.11-aの赤枠)から計測された自発性神経活動の一例.スケールバーは100 µV
×50 ms.
自発性神経活動は外部からの入力が無い状態で発生する神経電気活動であり,脳情報処理 に積極的に関与している可能性が示唆されている[9, 44].
本研究では,多くの電極から一定の自発性神経活動が観察出来るDIV14から7日毎に300 秒間の自発性神経活動を計測した(図 2.12,2.13).計測された電位信号データから,SPC によって神経活動に相当するスパイクを検出した.通常の条件で培養した神経回路網におい
第2章 培養神経回路網の生物学的特徴 て,全 64電極から計測された 1秒間における平均自発性神経活動頻度はDIV14,DIV21, DIV28,DIV35,DIV42でそれぞれ,22.57±7.49,79.79±12.30,191.52±26.35,305.65
±26.49,528.75±16.04(それぞれ平均値 ± 標準誤差,N = 6)であった.培養神経回路網 の自発性神経活動は,培養日数の経過に伴ってその活動頻度を増加させることが確認された.
(a) DIV14 (b) DIV21
(c) DIV28 (d) DIV35
(e) DIV42
図2.12 培養日数に依存した自発性神経活動の変化.(a)DIV14,(b)DIV21,(c)DIV28,
(d)DIV35,(e)DIV42.スケールバーは100 µV×200 ms.
第2章 培養神経回路網の生物学的特徴
600
400
200
0
!"#$%&'()*+,-42 35
28 21
14 ./01
図2.13 培養日数に依存した自発性神経活動頻度の変化.エラーバーは標準誤差を示す
(E18DIV14-42,N = 6).
自発性神経活動の活動パターンは培養日数の経過に伴ってその活動パターンが複雑化する ことを本実験系においても確認した.これは,従来の知見と一致する結果である[6, 19, 20].
DIV35以降のように,自発性神経活動が充分活発に観察される場合,細胞外のブドウ糖を欠
乏させ,細胞外からのエネルギー供給が無い状態で自発性神経活動がどの程度維持可能か解 析した.神経回路網の細胞外液をブドウ糖濃度が0 mMの細胞外記録溶液に溶液置換し,1 時間ごとに10分間の自発性神経活動を計測した(図2.14,2.15,表2.1).本実験では,溶液 置換後20分静置した後の10分間の自発性神経活動頻度で,それ以降1時間ごとに計測した 10分間の自発性神経活動頻度で除して正規化した.本実験には,E18DIV37-DIV93の神経回 路網を用いた.
第2章 培養神経回路網の生物学的特徴
(a) t = 0 h (b) t = 3 h
(c) t = 6 h (d) t = 9 h
(e) t = 12 h (f) t = 15 h
図2.14 ブドウ糖濃度欠乏時の自発性神経活動の一例(E18DIV56).(a)溶液置換直後,
(b)溶液置換3時間後,(c)溶液置換6時間後,(d)溶液置換9時間後,(e)溶液置換12時 間後,(f)溶液置換15時間後.スケールバーは100 µV×200 ms.
第2章 培養神経回路網の生物学的特徴
1.0
0.8
0.6
0.4
!"#$%&'()*+, 0.2
15 8
1 -./01(234 5346
図2.15 細胞外ブドウ糖欠乏時の正規化された自発性神経活動頻度の変化.点線は溶液置 換直後の自発性神経活動頻度の50%,破線は溶液置換直後の自発性神経活動頻度の30%を 示す.エラーバーは標準誤差を示す(E18DIV37-93,N = 5).
第2章 培養神経回路網の生物学的特徴
表2.1 溶液置換後経過時間と自発性神経活動頻度の関係性
溶液置換後経過時間 正規化自発性神経活動頻度(平均値 ± 標準誤差,N = 5)
1時間後 0.85±0.05
2時間後 0.79±0.08
3時間後 0.70±0.10
4時間後 0.69±0.07
5時間後 0.65±0.09
6時間後 0.63±0.10
7時間後 0.55±0.05
8時間後 0.49±0.04
9時間後 0.46±0.04
10時間後 0.40±0.03
11時間後 0.38±0.03
12時間後 0.33±0.03
13時間後 0.32±0.03
14時間後 0.30±0.03
15時間後 0.30±0.04
正規化された自発性神経活動頻度は,ブドウ糖濃度0 mMの細胞外記録溶液に溶液置換し た直後の自発性神経活動頻度を1として,溶液置換後3時間で0.70±0.10,6時間後で0.63
±0.0.10,9時間後で0.46±0.04,12時間後で0.34±0.03,15時間後で0.30±0.04(それ ぞれ平均値 ± 標準誤差,N = 5)であった.本研究で使用した培養神経回路網の自発性神経活 動頻度は,ブドウ糖濃度0 mM条件下において緩やかに減少し,9時間後で約50%,15時間 後で30%程度に減少したことが明らかとなった.これらの結果は,神経回路網が15時間以 上の自発性神経活動を維持出来る程度のエネルギーが細胞に蓄積されていることを示唆する.