第 5 章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定 105
5.3 実験結果
第5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定
・・・
TOSP36
TOSP1 TOSP2
図5.7 空間領域を限定したTOSPの作成方法の概要.
第5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定
(a)
(b)
図5.8 自発性神経活動と誘発応答の一例(E18DIV42).(a)自発性神経活動,(b)誘発応 答.赤枠は刺激電極,赤線は誘発応答の例を示す.スケールバーは100 µV×100 ms.
自発性神経活動の計測にはE18DIV28-56の神経回路網を用いた.全64電極から計測され
第5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定 た合計自発性神経活動の1秒間における自発性神経活動頻度は548.44±36.78(平均値 ± 標 準誤差,N = 6)であった.
自律的に観察される自発性神経活動に対し,刺激電流を印加した際に発生する神経電気活 動を誘発応答という.本研究では,60秒ごとに特定の刺激電極に電流刺激を印加した際の誘 発応答を確認した(図5.8-b).誘発応答の計測にはE18DIV31 - 64の神経回路網を用いた.
刺激電流を印加した際,特に刺激電極付近で高頻度の神経電気活動が観察される.全64電極 から計測された合計誘発応答の1秒間における誘発応答神経活動頻度は386.84±90.46(平 均値 ± 標準誤差,N = 6)であった.
計測された自発性神経活動から作成した空間領域を制限したTOSPテンプレートと,各 電極の神経電気活動から作成した 5ミリ秒ごとの特徴ベクトルとの差分値平均の時間変動
mDTt を算出した(図 5.9).自発性神経活動から算出した局所的 TOSPテンプレートとの
mDTt は全計測時間においてほぼ一定の値で推移したことから,自発性神経活動は全計測時 間において安定して背景的に存在している神経電気活動であることが示唆された.
第5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定
(a)
(b)
図5.9 局所的TOSPテンプレートと,各電極周辺の自発性神経活動から算出された局所
mDTt.(a)計測された自発性神経活動の一例(E18DIV44).(b)計測された自発性神経活 動から算出したmDTt.赤枠は刺激電極を示す.スケールバーは3スパイク ×500 ms.
第5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定 続いて,誘発応答と自発性神経活動から算出した局所的TOSPテンプレートとのmDTt を 算出した(図5.10).刺激電極を中心にmDTt が刺激電流印加直後に増加した.興味深いこ とに,刺激による活動電位が伝播することにより発生すると考えられる2次的な活動は,刺 激電極より遠位で顕著であり,これは誘発された活動が刺激点より遠位になるほど拡散し,
分岐した信号が作用し合っていることを示す.
第5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定
(a)
(b)
図5.10 局所的TOSPテンプレートと,各電極周辺の誘発応答から算出された局所mDTt. (a)計測された誘発応答の一例(E18DIV44).(b)計測されて誘発応答から算出したmDTt. 赤枠は刺激電極を示す.スケールバーは3スパイク ×500 ms.
第5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定 刺激電流印加の影響,及び誘発応答の伝播をより詳細に解析するため,刺激電極,刺激電 極に隣接した3×3領域の8電極(中心の刺激電極を除く),および刺激電極から2電極離れ た周辺の5×5領域内の16電極の3つの領域について局所的なmDTt を平均して比較した
(図5.11,5.12,5.13).
刺激電極(単独)
500 µm(平均)
1000 µm(平均)
図5.11 刺激電極,刺激電極に隣接した領域,刺激電極から2電極離れた領域の概念図.
第5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定
(a) (b)
(c)
刺激電極 500 µm
1000 µm
図5.12 刺激電極周辺の誘発応答波形の一例(E18DIV44).(a)刺激電極,(b)500 µm遠 位,(c)1000 µm遠位.それぞれ,赤矢印の時点で電流刺激を印加した.スケールバーは50 µV×50 ms.
第5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定
1.5
1.0
0.5
0.0
500 400 300 200 100 0 1.5
1.0
0.5
0.0
500 400 300 200 100 0
1.5
1.0
0.5
0.0
500 400 300 200 100 0 1.5
1.0
0.5
0.0
500 400 300 200 100 0
(a) (b)
(c)
刺激電極 500 µm
1000 µm (d)
図5.13 刺激電極,刺激電極に隣接した500 µm以内,刺激電極から1000 µm以内の平 均mDTt.(a)刺激電極,(b)500 µm遠位,(c)1000 µm遠位.エラーバーは標準誤差を示す
(E18DIV28-56,(a) N =6,(b) N = 48,(c) N = 96).(d) (a)-(c)の平均値.
電流刺激電極を中心として作成した局所TOSPから算出した差分値mDTt は,刺激電流印 直後に上昇し,刺激電流印加後40ミリ秒以降は一定値で推移した.このことから,刺激電極 では電流刺激印加直後に誘発応答が発生し,40ミリ秒前後で収束することが示唆された.続 いて,刺激電極に隣接した500 µm以内の電極(8電極)の局所mDTtの平均値は刺激電流印 加から20ミリ秒後に増加し,約40ミリ秒後から低い値で安定した.また,刺激電極におけ るmDTt と比して高い値で推移した.このことから,刺激電極付近で発生した誘発応答が約 40ミリ秒で刺激電極を中心とした500 µmの範囲に少し遅れて伝播したことが示唆された.
続いて,刺激電極から1000 µmの位置にある電極(16電極)における局所mDTt を解析し た.局所mDTt は刺激電流印加から20ミリ秒後に増加した後,減衰に転じ約80ミリ秒後か ら安定した.また,刺激電極から500 µmの位置にある隣接電極から算出した局所mDTt の 平均と比して高い値で推移した.このことから,刺激電極付近で発生した誘発応答が約80ミ リ秒で刺激電極を中心とした1000 µm遠位の領域に遅れて伝播し,しかもその電位変動は遠 位になる程,ばらつきが大きいことが示唆された.
第5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定
5.3.2
細胞外ブドウ糖濃度と誘発応答の関係性
刺激の伝播過程に対する細胞外ブドウ糖濃度の影響を明らかにするために,電気生理学実 験で一般的に使用されている10 mMのブドウ糖濃度を含有した細胞外記録溶液と,30 mM のブドウ糖を含有した細胞が記録溶液を用いて同様の実験を行った(図5.14,5.15).誘発応 答の計測にはE18DIV26-34の神経回路網を用いた.10 mM,30 mMブドウ糖を含有した細 胞外記録溶液の場合,培養液下と比して概ね低い値となる傾向があった.特に,刺激後250 ミリ秒程度に発生する2次的なピークがほぼ観察されず,信号伝達効率が低下したことが考 えられる.
第5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定
(a)
(b)
図5.14 10 mMブドウ糖濃度下で局所的TOSPテンプレートと,各電極周辺の自発性神
経活動から算出された局所mDTt.(a)計測された誘発応答の一例(E18DIV29).(b)計測 された誘発応答から算出したmDTt.赤枠は刺激電極を示す.スケールバーは3スパイク
×500 ms.
第5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定
(a)
(b)
図5.15 30 mMブドウ糖濃度下で局所的TOSPテンプレートと,各電極周辺の自発性神
経活動から算出された局所mDTt.(a)計測された誘発応答の一例(E18DIV29).(b)計測 された誘発応答から算出したmDTt.赤枠は刺激電極を示す.スケールバーは3スパイク
×500 ms.
第5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定
10 mMブドウ糖条件下で刺激電極における局所的mDTt は,刺激電流印加直後は高値を示
したが,急速に減衰し,ほぼ一定値で推移した(図5.16,5.17).このことから,刺激の影響 はごく短時間で収束し,その後自発性神経活動が優位な平均的な電気活動と類似した神経電 気活動が発生したことが示唆された.
(a) (b)
(c)
刺激電極 500 µm
1000 µm
図 5.16 10 mM ブ ド ウ 糖 濃 度 条 件 下 に お け る 刺 激 電 極 周 辺 の 誘 発 応 答 波 形 の 一 例
(E18DIV29).(a)刺激電極,(b)500 µm 遠位,(c)1000 µm遠位.それぞれ赤矢印の時点 で電流刺激が印加された.スケールバーは50 µV×50 ms.
第5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定
0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0
500 400 300 200 100 0
0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0
500 400 300 200 100 0 0.5
0.4 0.3 0.2 0.1 0.0
500 400 300 200 100 0
(a) (b)
(c)
刺激電極 500 µm
1000 µm (d)
0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0
500 400 300 200 100 0
図5.17 10 mMブドウ糖濃度条件下における刺激電極,刺激電極に隣接した500 µm以
内,刺激電極から1000 µm以内の平均mDTt.(a)刺激電極,(b) 500 µm遠位,(c) 1000 µm 遠位.エラーバーは標準誤差を示す(E18DIV26-34,(a) N =4,(b) N = 32,(c) N = 64).
(d) (a)-(c)の平均値.
続いて,刺激電極に隣接した500 µm以内の領域における平均mDTtは,刺激電流印加時に 高い値を示した後,急速に減衰して約100ミリ秒後から低値で安定した.また,1000 µmの 位置にある領域の平均mDTt は刺激電流印加直後から急激に増加した後,減衰に転じ約100 ミリ秒後から安定し,その値は隣接500 µmにおける平均mDTt とほぼ同等の値で推移した.
30 mMブドウ糖条件下で刺激電極における局所mDTtは,刺激電流印加直後はやや高値を
示したが,すぐに減衰しほぼ一定値で推移した(図5.18,5.19).
第5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定
(a) (b)
(c)
刺激電極 500 µm
1000 µm
図5.18 30 mMブドウ糖濃度下における刺激電極周辺の誘発応答波形の一例(E18DIV29). (a)刺激電極,(b)500 µm遠位,(c)1000 µm遠位.それぞれ赤矢印の時点で電流刺激が印加 された.スケールバーは50 µV×50 ms.
第5章 活動パターンテンプレートを用いた誘発応答伝播の推定
0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0
500 400 300 200 100 0 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0
500 400 300 200 100 0 0.5
0.4 0.3 0.2 0.1 0.0
500 400 300 200 100 0
0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0
500 400 300 200 100 0
(a) (b)
(c)
刺激電極 500 µm
1000 µm (d)
図5.19 30 mMブドウ糖濃度条件下における刺激電極,刺激電極に隣接した500 µm以
内,刺激電極から1000 µm以内の平均mDTt.(a)刺激電極,(b) 500 µm遠位,(c) 1000 µm遠位.エラーバーは標準誤差を示す(E18DIV26-34,(a) N =4,(b) N = 32,(c) N = 64). (d) (a)-(c)の平均値.
このことから,刺激の直接的な影響は弱く,かつごく短時間で収束し,その後自発性神経 活動が優位な平均的な電気活動と類似した神経電気活動が発生したことが示唆された.続い て,刺激電極に隣接した500 µm以内の領域における平均mDTt は,刺激電流印加時に高い 値を示した後,急速に減衰して約100ミリ秒後から低値で安定した.また,1000 µmの位置 にある領域の平均mDTt は刺激電流印加直後から急激に増加した後,減衰に転じ約100ミリ 秒後から安定し,その値は隣接500 µmにおける平均mDTt とほぼ同等の値で推移した.
30 mMブドウ糖濃度下では自発性神経活動による揺らぎが少なく,局所mDTt,平均mDTt
は,10 mMブドウ糖濃度下での場合と比して概ね低い値で推移した.特に刺激電極,刺激電
極に隣接した500 µm以内の領域での mDTt は刺激直後のピークが小さく, 刺激電流による 影響が伝播しにくい状態であったことが観察された.