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6・1 結論

本研究は,高強度・高弾性率を有するPBO繊維のキンク損傷と紫外線劣化に 着目して,この複合損傷が引張強度にどのような影響を与えるかについて検討 を行った.実験では,PBO 繊維を軸方向に直接圧縮することのできる微小圧縮 試験機を用いて圧縮試験とその場観察を行い,キンク損傷の発生とそのときの 荷重-変位曲線の挙動を確認した.また,様々な条件でキンク損傷の導入,紫 外線の照射を行ったPBO繊維に対して単繊維引張試験を行った.また,キンク 損傷部の内部構造を確認するためTEM観察を行った.さらに,紫外線による自 動酸化とキンク損傷の関係を把握するため,PBO繊維の断面についてEPMAを 用いて元素分析を行った.

これらの実験結果から,PBO 繊維のキンク損傷の発生と圧縮荷重の関係,引 張強度へのキンク損傷の影響,キンク損傷と紫外線照射の複合損傷の影響につ いて調査を行った.また,PBO 繊維の紫外線劣化が自動酸化であると考えられ るため窒素雰囲気中で紫外線照射を行ったPBO繊維の引張強度の評価を行った.

本研究で得られた結論は以下の通りである.

(1) 一様な圧縮応力状態での圧縮試験の結果,PBO繊維のキンク損傷の発生 は,圧縮荷重-変位線図における非線形点同時である.PBO 繊維は,分 子鎖を繊維長さ方向に高配向させた繊維で高弾性率であるため,圧縮荷 重負荷後は線形的に増加していく.その後,ミクロボイドやミクロフィ ブリルの末端部などのPBO繊維内部のフィブリルの未結合部においてミ クロフィブリルの滑りを起こすため荷重の増加が線形から外れ,このミ クロフィブリルの滑りがキンク損傷の発生につながったと言える.また,

キンク損傷が繊維固定部から7 µm未満の位置で発生したデータは,繊維 固定の高応力領域の影響を受けているため,一様な圧縮荷重状態でのキ ンク損傷の発生を評価するためには,固定部から7 µm以上離れた位置で

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キンク損傷が発生したデータで評価する必要がある.また,TEM 観察の 結果,PBO繊維のミクロフィブリルを観察することができた.また,PBT 繊維のフィブリルの座屈と同様のフィブリルの折れ曲がりを観察できた ため,PBO 繊維のキンク損傷はミクロフィブリルの座屈によるものであ るといえる.

(2) キンク損傷を導入したPBO繊維は,キンク損傷を導入する際の繊維のル

ープ直径を小さくするに従いキンク損傷密度は増加の傾向を示した.ま た,キンク損傷密度のばらつきも増加する傾向を示した.キンク損傷を 導入したPBO繊維の引張強度は,繊維直径方向の寸法効果を考慮した存 存強度を定義した場合,キンク損傷密度の増加に従い残存強度比が小さ くなる傾向を示した.また,キンク損傷密度が最も多い密度が約13での 残存強度比は0.83であり,残存強度比の最低値は0.65であった.さらに,

PBO 繊維の曲げ変形によるキンク損傷の発生は,表面の圧縮ひずみが小 さい場合にはI型が多く発生し,圧縮ひずみが大きくなるに従い新しく発 生するキンク損傷はI型のように単独で発生する場合もあるものの,既に 発生しているI型のキンク損傷に接する形でV型やX型が多く出現する.

キンク損傷の形状は I 型よりも V 型,X型の方が残存強度比の低下に影 響を及ぼす形状であり, V型とX型を比較すると僅かながらX型の方が 影響の大きい形状である.

(3) キンク損傷を導入したPBO繊維の残存強度比に対してワイブル統計解析

を行った結果,キンク損傷を導入したPBO繊維の引張強度の低下は有効 体積の概念で説明することができ,強度低下はキンク損傷の個数に依存 すると説明できる.また,ループ直径が小さくなった場合は,キンク損 傷自体の強度はさほど変化せず,キンク損傷の数が増える.引張試験後 の破断面観察から,キンク損傷を生じさせていない繊維の破断面は繊維 長さ方向に裂けるように破壊が進み,裂けている繊維が長いのに対し,

キンク損傷を生じさせた繊維の破断面はキンク損傷に沿うように破壊が 進み,裂けている繊維が短くなっており,キンク損傷を生じさせていな い繊維とは異なった様相を呈した.

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(4) キンク損傷を導入し紫外線を照射した PBO 繊維の単繊維引張試験を行 った結果,キンク損傷密度が多くなるほど紫外線による強度低下が大き く,紫外線照射の影響を受けやすいと言える.また,窒素雰囲気中で紫 外線を照射した繊維では引張強度の低下率が紫外線未照射のものと変わ らず,紫外線による強度低下には酸素が影響していると言える.EPMA による元素分析結果より,紫外線を照射していないPBO繊維はキンク損 傷の有無に関わらず酸素の分布は均一である.一方,キンク損傷を導入 し紫外線を照射したPBO繊維は酸素の分布にばらつきが見られ,キンク 損傷部で酸素の検出量が多いように見受けらえた.

6 ・ 2 今後の課題

第2章では,キンク損傷の発生時の荷重-変位曲線の挙動からキンク損傷発生 時の荷重が比較的低いことが分かった.第 3 章では,発生したキンク損傷の数 と引張強度の低下率の関係を明らかにした.その結果,今回導入したキンク損 傷の条件での引張強度の低下率は最大でキンク損傷密度 13 の時残存強度比で

0.83,低下率17%程度であった.また,キンク損傷の形状は主に3種類に分類す

ることができ,それぞれの形状が引張強度の低下率に与える影響について明ら かにした.第4章では,キンク損傷を導入したPBO繊維の引張強度についてワ イブル解析を行うことで,キンク損傷が内部欠陥として働いていることを明ら かにした.破面観察からも,キンク損傷に沿うようなき裂進展が見られた.ま た,ワイブル解析から得られた尺度母数とキンク損傷密度の関係から,キンク 損傷密度 4 程度まではキンク損傷密度は引張強度の低下率にそれほど影響が見 られず低下率はほぼ同程度であるが,キンク損傷密度 4 以降ではキンク損傷密 度の増加に伴い強度の低下が見受けられた.第 5 章では,キンク損傷を導入し たPBO繊維に紫外線照射をし,引張試験を行うことで,キンク損傷が紫外線劣 化に及ぼす影響について明らかにした.その結果,キンク損傷の発生した PBO 繊維はキンク損傷密度が多いほど紫外線照射の影響を受けやすいことを明らか にした.また,EPMA による元素分析の結果,キンク損傷を導入し紫外線照射

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を行ったPBO繊維はキンク損傷部に酸素の偏析を確認し,紫外線照射による自 動酸化がキンク損傷を通り道とし優先的に進行していることを確認した.

以上のことから,PBO 繊維を使用する上では,製品のループ直径が非常に重 要であると言える.製品のループ直径から,PBO 繊維に発生するキンク損傷密 度を算出しそのときの強度の低下率を考慮して強度計算する必要がある.また,

紫外線下での使用においては,紫外線吸収材を用いることで強度低下を防ぐこ とができるが,時間の経過とともに紫外線吸収材の効果が低下することを考え ると紫外線による強度低下も考慮する必要がある.特にループ直径が 0.65 mm のときは,紫外線照射時間 1 時間でも 14%程度強度が低下するため,使用状況 に合わせて強度の低下率を考慮することが重要である.また,PBO 繊維は宇宙 船と探査機を連結しているスリングベルトのように宇宙空間での使用がされて いるが1),酸素のない環境下においては紫外線による強度低下は見られないため,

非常に有効な用途であると言える.また,本研究で得られた結果は,単繊維の 引張試験から得られた結果であるが,実際の使用を考えると,繰り返し荷重が 負荷することがほとんどである.本研究で得られた結果はキンク損傷を考慮し た引張強度の基礎的なデータであり,キンク損傷を考慮したPBO繊維の疲労強 度に関するデータを得ることでより強度設計に有益なデータが得られると考え られる.

参考文献

(1) 黒木忠雄,“PBO 繊維ザイロン®の新用途展開”,高分子,Vol. 52, No. 11, (2003) p 842

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謝辞

本研究を遂行するに当たり,終始懇切丁寧なご指導ご鞭撻を賜りました富山 県立大学・森 孝男教授,堀川 教世准教授に深く感謝の意を表します.

東洋紡績株式会社・寺本 喜彦氏,野村 幸弘氏,北河 享氏には研究を進める にあたり,PBO繊維の提供,多くのご指導を頂き厚く御礼申し上げます.

立命館大学・上野明教授,明石工業高等専門学校・境田 彰芳教授には,終始 懇切丁寧なご教示ご指導を賜り,深く感謝の意を表します.

富山県立大学・川越 誠教授,川上 崇教授には本論文をまとめるにあたり,

有益なご意見を頂きました.ここに深く感謝申し上げます.また,富山県立大 学・春山 義夫名誉教授,高野 博史准教授,宮島 敏郎講師には有益なご助言を 頂き心より感謝申し上げます.

また,PBO繊維のTEM観察,EPMA分析を行うにあたりご協力頂きました,

富山県工業技術センター 企画管理部・ものづくり研究開発センター 水野 渡氏,

富山県工業技術センター 中央研究所 評価技術課 主任研究員 氷見 清和博士,

富山県工業技術センター 企画管理部 産学官連携推進担当 主任研究員 坂井 雄一博士に深く感謝致します.

最後に,機械設計学研究室所属の諸兄に深く感謝致します.

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